事業売却時の税金について詳しく解説。株式譲渡と事業譲渡の違い、売り手・買い手双方の税負担、効果的な節税方法を紹介。M&Aを成功に導く税務戦略の知識を提供します。
目次:
事業売却とは、企業がその事業や経営資産を他の会社や個人に譲渡することを指します。一般的に「事業譲渡」という言葉で表現されますが、「株式譲渡」も含めて事業売却と呼ぶこともあります。
事業売却は、M&A(合併および買収)の一形態として位置付けられ、企業の経営戦略や事業承継の手段として活用されています。この取引には、様々な税金が関係しており、所得税、法人税、消費税などが発生する可能性があります。
事業売却を検討する際には、以下の点に注意が必要です:
1. 業界知識の必要性
2. 適切な市場価格の把握
3. 税務知識の重要性
これらの要素を適切に管理するために、M&A仲介会社や税理士、弁護士などの専門家のサポートを受けることが一般的です。専門家のアドバイスを得ることで、取引をより円滑に進めることができ、潜在的なリスクを最小限に抑えることができます。
事業売却の計画段階から、税金計算や節税対策を考慮することが重要です。これにより、取引全体の効率性を高め、最終的な経済的利益を最大化することができます。
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(事業譲渡)
事業売却には様々なメリットとデメリットがあります。企業の状況や目的によって、これらの影響は異なる場合がありますので、慎重に検討する必要があります。
メリット:
1. 事業規模の拡大と多角化:買収側企業にとっては、新たな事業領域への参入や既存事業の強化につながります。
2. 創業者利潤の確保:売却側の株主にとっては、株式売却益を得ることができます。
3. 従業員の雇用確保:適切な買い手を見つけることで、従業員の雇用を維持できる可能性があります。
4. 円滑な事業承継:後継者問題の解決策として機能します。
5. 経営資源の集中:一部事業の売却により、他の事業に経営資源を集中させ、企業競争力を向上させることができま
す。
デメリット:
1. 取引先との関係変化:事業売却後、既存の取引先との業務継続が保証されない場合があります。
2. 従業員や取引先への影響:組織の変更により、関係性に影響を与える可能性があります。
3. 高額な税金負担:適切な税金対策を行わない場合、予想以上の税金負担が生じる可能性があります。
事業売却を検討する際は、これらのメリットとデメリットを十分に吟味し、自社の状況に照らし合わせて判断することが重要です。また、専門家のアドバイスを受けることで、より適切な意思決定を行うことができます。
事業売却は対価を伴う取引であるため、必然的に課税対象となります。発生する税金の種類や金額は、売却の手法や適格要件などによって異なります。適切な税務戦略を立てることで、譲渡側は自らの財産をより多く保持し、譲受側は税金を削減して企業発展に資金を充てることができます。
売却側の税金負担は、株式譲渡と事業譲渡の場合で異なります。
1. 株式譲渡の場合:
a) 個人株主の場合:
譲渡所得に対して分離課税が適用されます。
税率は所得税15%、復興特別所得税0.315%、個人住民税5%の合計20.315%です。
b) 法人株主の場合:
株式譲渡益と本業の利益を合計した所得金額に法人税が課されます。
本業で損失が発生し、株式譲渡益と相殺される場合は税金が発生しない可能性があります。
2. 事業譲渡の場合:
事業売却損益を計算し、他の所得と合算して法人税が課されます。
事業売却益のみの場合、法人税実効税率約29.74%が適用されます。
法人税以外にも法人住民税等が課税され、税引前利益に対して約34%の課税がなされます。
買収側の税金負担も、株式譲渡と事業譲渡で異なります。
1. 株式譲渡の場合:
譲渡価格が不当に低い場合、贈与税や法人税が課される可能性があります。
贈与税は適正な時価と取得価額の差額に10~55%の税率が適用されます。
法人税も同様に、適正な時価と取得価額の差額に法人税の実効税率が適用されます。
2. 事業譲渡の場合:
課税対象資産(有形固定資産や営業権など)がある場合、消費税の支払い義務が発生します。
消費税額は課税対象の事業譲渡金額の10%です。
土地は課税対象外です。
事業売却を検討する際は、これらの税金について事前に十分な理解と試算を行い、適切な対策を講じることが重要です。専門家のアドバイスを受けることで、より効果的な税務戦略を立てることができます。
事業売却時の税金負担を軽減するためには、適切な節税戦略が不可欠です。効果的な節税対策を行うことで、売却後の手取り額を最大化し、事業の価値を高めることができます。
1. 株式譲渡の選択:
株式譲渡は事業譲渡と比較して、一般的に税率が低くなります。
個人の場合、譲渡所得への課税率は20.315%で、法人の事業譲渡時の税率(約31%)より低くなります。
中小企業の場合、経営者の個人資金と会社の資金を柔軟に活用できるメリットがあります。
2. 第三者割当増資の活用:
新株発行による第三者割当増資を行うことで、税金を発生させずに経営権を移転できます。
ただし、既存株主への現金分配は行われず、少数株主として残る点に注意が必要です。
3. 役員退職慰労金の活用:
M&A時の譲渡価額の一部を退職金として受け取ることで、一定額まで譲渡所得より低い税率が適用されます。
結果として、税引後の手取り額が増加する可能性があります。
4. 必要資産のみの売却:
譲受側が求める資産のみを売却することで、譲渡対価を下げ、支払う税金を抑えることができます。
事業譲渡や不要資産の事前処分などの手法が有効です。
5. 売却益と経費の相殺:
法人株主の場合、売却益を設備投資などの経費と相殺することで課税額を減らせます。
ただし、手元に残る現金は減少するため、資金計画との調整が必要です。
1. 個人株主の株式譲渡:
譲渡収入の5%は取得費として計上できます。
相続から3年10か月以内は特例が適用される場合があります。
譲渡企業の資産の70%以上が不動産関連の場合、不動産の短期譲渡所得として扱われる可能性があります。
2. 法人株主の株式譲渡:
譲渡益は他の利益と通算されたのち、実効税率に基づいて課税されます。
配当金の受け取りや自社株買いの場合、一定額が非課税となる可能性があります。
3. 中小企業事業再編投資損失準備金:
2021年8月に導入された制度で、一定の条件を満たす場合、株式購入対価の70%以下を準備金として積み立て、損金計上できます。
課税の先送り効果がありますが、5年後から5年間で益金計上が必要です。
4. 消費税の発生:
事業譲渡時には消費税が発生し、通常、譲受側が負担します。
資産譲渡額が高いほど消費税額も増加するため、事前の資金計画が重要です。
これらの節税戦略と留意点を踏まえ、専門家のアドバイスを受けながら、最適な事業売却スキームを構築することが重要です。税務面での適切な対応は、売却価値の最大化につながります。
事業売却に伴う税務処理は複雑で、専門的な知識が必要です。適切なタイミングで税務専門家に相談することで、会社の資産を効果的に保全し、より多くの現金を手元に残すことができます。
税務専門家への相談が特に重要な場面:
1. 事業売却の検討段階:
売却方法(株式譲渡、事業譲渡など)の選択
予想される税金の概算と節税の可能性の検討
2. 売却価格の交渉時:
税金を考慮した適正な売却価格の設定
税務上のリスクの洗い出しと対策
3. 契約締結前:
契約書の税務面でのチェック
特殊な条項がある場合の税務上の影響の確認
4. 売却後の税務申告時:
適切な税務申告の準備
可能な節税措置の最終確認
税務専門家への相談のメリット:
1. 法令遵守:最新の税法に基づいた適切な対応ができます。
2. 節税機会の最大化:専門家の知識により、見落としがちな節税の機会を活用できます。
3. リスク管理:潜在的な税務リスクを事前に把握し、対策を講じることができます。
4. 時間と労力の節約:複雑な税務計算や申告書類の作成を効率的に行えます。
5. 将来の税務調査への備え:適切な記録と対応により、将来の税務調査にも安心して対応できます。
個人が保有する不動産や土地の売買、譲渡の前にも税務相談を行うことが重要です。これにより、適用可能な非課税措置や優遇税率の活用など、適切な税金対策が可能となります。
事業売却やM&Aに関する税務対策は、企業の将来に大きな影響を与える可能性があります。専門家の知識と経験を活用することで、最適な意思決定を行い、企業価値の最大化につなげることができます。
事業売却に伴う税金問題は、売り手・買い手双方にとって重要な課題です。適切な税務戦略を立てることで、税負担を軽減し、より多くのメリットを享受できます。具体的には、株式譲渡の選択、第三者割当増資の活用、役員退職慰労金の活用などが効果的です。また、税務専門家への相談を通じて、複雑な税務処理を適切に行い、潜在的なリスクを回避することが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画