本記事では、企業経営者や事業継続を検討している方に向けて、M&Aアドバイザリー契約についての詳細情報を提供します。契約の種類や手続きの流れ、報酬の相場など、M&Aアドバイザリー契約を検討する際に知っておくべき基本的な情報を解説いたします。担当者の負担を軽減するための方法論についても言及しておりますので、ぜひ参考にしてください。
目次
▶目次ページ:M&Aの流れ(M&A会社との契約)
M&A仲介契約(アドバイザリー契約)とは、M&Aの依頼者(売主、買主)とM&A専門会社との間で締結される契約です。一部のM&A会社では提携仲介契約とも呼ばれます。M&A取引においては戦略立案、分析、交渉、クロージング、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)など多岐にわたるプロセスがあり、各段階で専門的な知識と高度な実務能力が求められます。。
仲介契約と他の契約との違いについて解説します。
業務委託契約とは、自社内で対応できない業務を外部の専門家に依頼するための契約です。M&A仲介契約は、業務委託契約の一種であり準委任契約に該当します。
M&Aコンサルティング契約とは、M&Aを通じて達成したいビジョンに向けて総合的なサポートを行う契約です。一方、M&A仲介契約では具体的な成約に焦点を当てます。両方の契約では業務内容が異なりますが、法的な定義が曖昧で線引きが難しいことがあります。
顧問契約とは、継続的な業務委託契約を指し、業務範囲内であれば、相談や手続き依頼などに関わらず、毎月一定額の費用で対応してもらえる制度です。M&A仲介契約との違いには、契約期間や報酬を支払うタイミング、成功報酬の有無などが挙げられます。
本章では、M&A仲介契約の契約形態について解説します。
専任契約とは、他のM&A業者への依頼が制限される媒介契約の一種です。専任契約により、情報が他社に漏れにくくなり、成約に向けて熱心にサポートが期待できます。
一方、非専任契約では、複数のM&A専門会社と同時に契約を結ぶことができます。この契約形態では担当者とのミスマッチのリスクを軽減できるメリットがありますが、情報漏洩のリスクが高まるデメリットも存在します。また、譲渡企業側でどの譲受候補にどの専門会社を選定するかなどの整理が必要で手間がかかることも注意が必要です。
本章では、M&A契約種類別の特徴と注意点について解説します。契約形態や交渉スタイルによって異なる特性やリスクに注意し、自社に適したM&Aアドバイザリー契約を選択することが重要です
仲介方式とは、同一のM&Aアドバイザーが、譲渡側と譲受側の両方を仲介する契約方式であり、中立的な立場で、双方の利益バランスを考慮してM&Aが実施されるという特徴があります。中小企業のM&Aにおいては、仲介会社を利用するケースが大半を占めています。その理由として、国内のM&Aが友好的に行われることが多く、仲介会社が両者の利益のバランスをとりながら進める仲介方式であれば、M&Aがまとまりやすくなるからです。
FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)方式とは、基本的に譲渡側と譲受側のどちらか一方と契約し、契約した会社の利益を最大化することを目指してサポートする契約方式です。この方式は、上場企業や大手企業同士のM&Aや、クロスボーダー(外国企業と日本企業など)のM&Aなどで多く活用されています。
M&A仲介契約の報酬は、対象となる企業の規模や案件の内容、仲介会社によって異なります。本節では、仲介契約における報酬体系の相場について説明いたします。
着手金は、M&A仲介契約を締結した段階で支払う必要があり、中小企業の場合は100万~300万円程度が相場であり、規模が大きな企業ではそれ以上の金額が発生することもあります。着手金は、M&Aアドバイザーが初期活動費用を捻出する目的で使用されるほか、依頼企業のM&Aに対する意思を確認する意味合いも含まれています。M&Aが成立しなかった場合でも、着手金は返還されないことが一般的です。近年では、着手金が不要なM&A会社が一般的です。
リテイナーフィーとは、月額報酬のことで、M&Aが成立するまで毎月支払う形が一般的です。月額30万~200万円程度が目安であり、しかしリテイナーフィーが不要な会社も存在します。
成功報酬とは、M&Aが成立した際に支払う報酬であり、成立しなければ支払う必要はありません。多くの場合、レーマン方式という方法によって金額が算定されます。
レーマン方式とは、基準額の金額帯ごとに異なる手数料率を設定し、金額帯ごとに計算した結果を合算して手数料を算出する方法です。成約金額に含める内容・金額帯や手数料率、最低報酬の有無などは、FAによって異なるため、契約時には事前に確認が必要となります。
【レーマン方式の一例】
成約金額(役員退職金支給などを含む) 手数料率
5億円以下の部分 5%
5億円超10億円以下の部分 4%
10億円超50億円以下の部分 3%
50億円超100億円以下の部分 2%
100億円超の部分 1%
M&A仲介契約書で定めるべき主な内容について説明いたします。
M&A仲介契約においては、業務内容や業務範囲を明確に規定しておくことが非常に重要です。具体的な業務として、以下の項目が契約内容に含まれているか確認しておきましょう。
• 相手先の選定・紹介
• 交渉・諸手続きに係るスケジューリング
• 価値評価・推進方法に係る助言
• 相手との交渉時の立会
• 法律事務所・会計事務所・等の専門家の紹介
• デューデリジェンスの調整
これらの業務が適切に契約内容に盛り込まれていれば、M&A実行までの過程がスムーズに進行するでしょう。
報酬に関する取り決めを契約書に記載します。報酬体系は仲介会社によって異なるため、事前に報酬の仕組みについて確認し、十分理解した上で契約を締結することが大切です。
M&Aの過程で発生する交通費や官報公告費用などの実費について、誰が負担するかを契約書で規定しておくことが重要です。詳細な規定を設けることで、後々のトラブルを回避することができます。
M&Aの過程で委託者から資料提供が必要となる場面が多くあります。資料の取り扱い方法についてもM&A仲介契約で規定しておくことで、取引がスムーズに進行することができます。
M&Aにおいては、譲渡側と譲受側、M&A会社が互いに情報を提供し合うため、秘密保持契約の重要性が高まります。適切な秘密保持条項を設けることで情報漏洩を防ぐことができます。
再委託の禁止とは、M&A仲介契約で定義された業務を受託者以外の第三者に委託しないように禁じる規定です。ただし、委託者の承諾があれば再委託が可能な場合もありますので、その点も確認が必要です。
解除の規定とは、どのような場合にM&A仲介契約を解除することができるかを規定する条項です。解除可能な条件や違約金の有無などを十分に確認しておくことが大切です。
M&A仲介契約の想定される有効期間を規定しておくことも重要です。有効期間満了時点で譲受先との交渉が続いているようなケースを想定し、期間延長についても契約書に記載しておくと良いでしょう。
契約書に記載されていない事項や当初想定できなかった事項については、協議によって決定する旨を契約書に記載します。これにより、未知の問題が発生した場合にも円滑に対処することができます。
ここでは、M&A仲介契約手続きの流れについて説明します。
M&A会社に問い合わせをし、個別面談を行います。この段階で、M&A会社や担当者の専門分野、実績、信頼性を確認しましょう。
契約内容を確認し納得したうえでM&A仲介契約書を締結します。前述した「仲介契約書で定めるべき主な内容」を参考にして、契約内容を確認することが重要です。
M&A戦略の策定が重要なポイントとなります。この段階では、M&Aにおける戦略や成約に向けたスケジュールの立案が進められます。このフェーズにおいては、対象企業への打診に必要となる資料の作成が、主にM&A会社によって行われます。
M&Aの実施においては、まず譲受候補先との秘密保持契約の締結や検討書類のやりとりが行われ、その後具体的な交渉が開始されます。FA方式を採用している場合には、譲渡側と譲受側双方がM&A会社のサポートを受けつつ、交渉を進めていくことになります。最後に譲渡契約が成立し、クロージング(成約)手続きが実施されます。
ここでは、M&A仲介契約を締結することのメリットについて詳しく述べます。
高い専門性や経験が要求されるM&Aにおいて、M&A会社に業務を委託することによって、適切な環境を整えることが可能となります。さらに、M&Aを進める中で生じる様々なトラブルを事前に回避し、円滑にプロセスを進めることも大きなメリットの一つです。
M&Aの各フェーズにおける業務は非常に複雑で専門的な知識が求められるため、業務負担が大きくなることは避けられません。M&A仲介契約を通じて、これらの業務を社外に委託することで、社内での負担を軽減することができるというメリットがあります。
自社だけで相手企業を探し出すと、限られた候補先しか見つけられないことが多いです。一方、M&A会社を利用することで、譲渡側と譲受側のニーズに適合する最良の交渉相手を探し出すことができる点も、大きなメリットです。
M&A仲介契約には以下のようなデメリットも存在します。
• 理想の交渉相手が見つかるとは限らない
• M&A会社に依頼しても、希望条件がうまく伝わらず、理想にほど遠い交渉相手が紹介されることがあります。また、
多くの仲介契約では、自社で直接交渉相手を探すことが禁じられています。
• 制約によるデメリット
• 仲介契約を結ぶと、相手企業と直接交渉できないなどの制約が課せられることがあります。このような制約のため、
交渉がスムーズに進まないケースもあるため注意が必要です。
本記事では、M&A仲介契約の概要や、契約内容や報酬の相場、手続きの流れなどについて解説しました。FA方式には、自社の利益を最大限に追求してM&Aを進めることができるメリットがありますが、同時に「成約しにくい」という最大のデメリットも存在します。
M&A会社に依頼するかどうかは、自社の事業規模を十分に考慮した上で、複数のM&A会社と比較検討を行い、慎重に選択することが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画