株式譲渡における取得費の重要性と計算方法を詳しく解説します。正確な税務申告のために必要な取得費の確認手順や、不明な場合の対処法も紹介。適切な取得費の把握で、スムーズな株式譲渡と税務リスクの回避を実現しましょう。
目次
株式譲渡を行う際、取得費の理解は非常に重要です。この項目では、株式譲渡の定義や特徴、そして取得費の意味について詳しく解説します。
株式譲渡とは、株主が保有する株式を対価と交換に譲渡し、経営権を移転する手法です。M&Aの手法の中でも最も一般的に利用されており、以下のような特徴があります。
・手続が比較的簡単で、短時間で完了できる
・中小企業の場合、株主数が少ないため迅速に行える
・事業に関連する許認可の再取得が不要
・従業員の再雇用が必要ない
・会社運営がスムーズに継続可能
これらの特徴により、株式譲渡は多くの企業で選択される手法となっています。
株式譲渡時の取得費とは、株式を取得する際に実際に支払った金額の総額を指します。
具体的には以下のような費用が含まれます。
・株式の購入代金
・手数料 ・消費税
・名義書換料
・その他、株式取得に関連する諸費用
ただし、M&A仲介会社への相談料や売り手企業のデューデリジェンス(買収監査・企業調査)の費用は、通常取得費に含まれません。この点には注意が必要です。
取得費は、後述する譲渡所得の計算において重要な役割を果たすため、正確に把握しておくことが重要です。
▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)
株式譲渡を行う際、取得費を正確に把握することは非常に重要です。
その理由は以下の通りです。
1. 譲渡所得の算出: 取得費は譲渡所得を計算する際の基礎となります。正確な取得費がわからなければ、適切な税額
を算出することができません。
2. 適正な税務申告: 取得費を正確に把握することで、適切な税務申告が可能になります。これは、不要なトラブルを
回避する第一歩となります。
3. 追加調査や修正申告のリスク回避: 取得費を正確に把握せずに確定申告を行うと、税務当局から追加調査や修正申
告を求められる可能性があります。これは時間と労力の無駄になるだけでな
く、場合によっては追徴課税のリスクも生じます。
4. 余計な負担やリスクの回避: 事前に正確な取得費を把握しておくことで、不必要な負担やリスクを回避することが
できます。
株式の取得方法は多様であり、購入や払込以外の方法で取得した場合、取得費の計算方法が異なることがあります。ここでは、特殊な取得方法における取得費の扱いについて解説します。
相続、遺贈、贈与によって株式を取得した場合、取得費の計算方法は以下のようになります。
・取得費:被相続人、遺贈者、または贈与者(元の所有者)が株式を取得した際の取得費を引き継ぎます。
・注意点:相続税や贈与税の計算上の価額とは異なる場合があるため、混同しないよう注意が必要です。
新株予約権などの権利行使によって株式を取得した場合、取得費の計算方法は以下のようになります。
1. 平成17年法律第87号による改正前の商法に規定する新株予約権
・取得費:その権利の行使の日における価額
2. 会社法第238条第2項の決議などに基づき発行された新株予約権
・取得費:その権利の行使の日における価額
3. 株式と引き換えに払い込むべき金額が有利な場合における、その株式を取得する権利
・取得費:その権利に基づく払込みまたは給付の期日(払込みまたは給付の期間の定めがある場合には、その払込みまた
は給付をした日)における価額
上記以外の特殊な方法で株式を取得した場合、取得費の計算は以下のようになります。
・取得費:「その取得の時におけるその株式等の取得のために通常要する価額」
株式譲渡時の取得費を正確に計算することは、適切な税務申告を行う上で非常に重要です。ここでは、基本的な計算式と、同一銘柄を複数回取得・譲渡した場合の計算方法について解説します。
取得費の計算には、「1株あたりの取得費」と「譲渡株式の取得価額(総額)」の2つの計算式があります。
1. 1株あたりの取得費の計算式
(取得単価 × 取得株数 + 委託手数料 + 消費税) ÷ 株数 = 1株あたりの取得費
2. 譲渡株式の取得価額(総額)の計算式
1株あたりの取得費 × 株式数 = 譲渡株式の取得価額
これらの計算式を用いることで、株式譲渡時の基本的な取得費を算出することができます。
同一銘柄の株式を2回以上取得し、その一部を譲渡する場合、取得費の計算には総平均法に準ずる方法を用います。以下がその計算式です。
前提条件:
A = 株式などを初めに購入したときの購入価額総額
B = 株式などを初めに購入した後から今回の譲渡時までの購入価額総額
C = Aにかかる株式などの総数
D = Bにかかる株式などの総数
1単位あたりの金額の計算式:
(A + B) ÷ (C + D) = 1単位あたりの金額
この計算方法を用いることで、複数回にわたって取得した株式の平均的な取得費を算出することができます。
株式譲渡時の取得費を正確に把握することは、適切な税務申告を行う上で非常に重要です。ここでは、取得費を確認するための4つの主要な方法について詳しく解説します。
取引報告書は、株式の取得費を確認する最も直接的な方法の一つです。
・特徴:各証券会社が発行する公式文書で、取得費が明確に記載されています。
・確認方法:郵送または電子交付された取引報告書を確認します。
・その他の有用な書類:
• 取引残高報告書
• 月次報告書
• 受渡計算書
これらの書類も取得費の確認に活用できます。
顧客勘定元帳は、証券会社が保管する取引履歴の詳細な記録です。
・特徴:過去の取引情報を網羅的に記録しています。
・確認方法:
1. 証券会社に問い合わせる
2. 過去10年以内の取引であれば、確実に情報を入手できます
・注意点:10年以上前の取引でも、証券会社によっては情報を保存している場合があるので、確認する価値があります。
自身で保管している記録も、取得費の確認に有用です。
・確認方法:
1. 株式取得時の控えを確認する
2. 預金通帳の記録を確認する
3. 日記帳やメモなどの個人的な記録を確認する
・特徴:最も直接的で確実な方法ですが、長期間保管されていない場合もあります。
名義書換日と当時の相場を利用して、おおよその取得費を算定する方法です。
・名義書換日の確認方法:
• 発行会社の株主名簿
• 株主名簿の複本
• 株式異動証明書
・算定手順:
1. 名義書換日を特定する
2. その日付の株価(相場)を調べる
3. 株価と取得株数から、おおよその取得費を算出する
・特徴:正確な記録がない場合の代替手段として有効ですが、実際の取得費と誤差が生じる可能性があります。
これらの方法を組み合わせることで、より正確な取得費の確認が可能になります。ただし、複雑な取引履歴がある場合や、長期間が経過している場合は、確認が困難になることもあります。
株式譲渡時の取得費を正確に把握することが困難な場合があります。そのような状況に対応するため、税法では「概算取得費」という方法が認められています。ここでは、概算取得費の概要と活用方法について解説します。
・簡便性:複雑な計算が不要で、容易に適用できます。
・安全性:実際の取得費が譲渡価額の5%未満であっても、5%を取得費として使用できます。
・公平性:取得時期や方法に関わらず、一律の基準で計算できます。
・長期保有株式で取得時の記録が残っていない場合
・相続や贈与で取得した株式で、元の取得費が不明な場合
・複数回の分割、併合を経た株式で、正確な取得費の算出が困難な場合
・実際の取得費が明らかに5%を超える場合は、可能な限り実際の取得費を使用することが望ましいです。
・概算取得費の使用は、確定申告書に「概算取得費」と明記する必要があります。
株式譲渡における取得費の理解と適切な処理は、正確な税務申告と潜在的なリスク回避のために極めて重要です。取得費の基本概念、計算方法、確認手順、そして不明な場合の対処法について理解を深めることで、適切な株式譲渡の実施が可能となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事