株式譲渡の取得費とは?計算方法・確認資料と5%ルール

株式譲渡の取得費は、譲渡益と手取り額を左右します。購入代金や手数料の範囲、複数回取得時の計算、相続・贈与・ストックオプションの扱い、資料がない場合の調査方法と5%ルールを整理。非上場会社のM&Aで、売却前に何を確認すべきかまで分かりやすく解説します。

目次

  1. 株式譲渡の取得費は取得経路から判定する
  2. 取得履歴を時系列でつないで計算する
  3. 購入以外で取得した株式の扱いを整理する
  4. 取得費の資料がないときは順番に復元する
  5. 概算取得費5%を使う前に実額と比べる
  6. M&Aの交渉前に取得費を確定する
  7. まとめ

株式譲渡での取得費の計算と確認手順で税務リスク回避方法を解説

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)

株式譲渡の取得費は取得経路から判定する

会社を高く売れても、その金額がそのまま経営者の手元に残るわけではありません。個人株主が株式を譲渡したときの税負担は、譲渡価額だけでなく、株式を取得するために負担した「取得費」によって変わります。

株式の譲渡所得は、原則として次の式で計算します。

 譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用


取得費が正しく分かれば、課税対象となる利益を適正に計算できます。反対に、取得費を少なく見積もれば税金を払い過ぎる可能性があり、多く見積もれば申告誤りにつながります。

M&A(合併・買収)による会社売却を検討するときは、会社の譲渡価格だけでなく、株主の取得費も早い段階で確認することが大切です。

取得費に含まれるのは取得に直接かかった支出

取得費の中心は、株式の払込代金や購入代金です。これに、購入時の委託手数料、その手数料にかかる消費税、名義書換料など、株式の取得に直接必要だった費用を加えます。

基本的な考え方は次のとおりです。

 取得費=株式の払込代金・購入代金+取得に直接要した費用


創業者の場合は、会社設立時に払い込んだ出資額が取得費の出発点です。その後に増資へ応じて追加の払込みをしていれば、その金額も取得費に加えます。

ただし、現在の資本金や会社の純資産額が、そのまま経営者個人の取得費になるわけではありません。実際に株式を取得するために、いくら負担したかを確認します。

取得費と譲渡費用は分けて考える

取得費は、株式を手に入れるために負担した費用です。一方、譲渡費用は、保有する株式を売るために直接かかった費用を指します。

会社売却時のアドバイザー報酬や弁護士への契約書作成・確認費用などは、株式の取得費には通常含まれません。ただし、株式の譲渡に直接必要だった範囲では、譲渡費用として差し引ける場合があります。

何という名目で支払ったかだけでなく、株式譲渡とどのような関係がある支出かで判断することが重要です。

個人株主と法人株主では計算方法が違う

本記事で説明する概算取得費の5%ルールは、主に個人株主の所得税計算に関する取扱いです。

資産管理会社などの法人が株式を保有している場合は、原則として法人の会計帳簿に記録された取得価額を基に譲渡損益を計算します。個人株主と法人株主が同じ会社の株式を分けて保有している場合は、株主ごとに取得費を確認してください。

取得履歴を時系列でつないで計算する

「昔の増資は覚えているが、何株をいくらで取得したか曖昧」というケースは珍しくありません。

最初から平均単価を計算しようとせず、設立時の取得、増資、株式の買取り、株式分割、一部譲渡などを日付順に並べることが先です。

1回だけ取得した株式の計算

同じ条件で一度だけ取得した株式なら、1株当たりの取得費は比較的簡単に計算できます。

 1株当たりの取得費=(購入代金+購入手数料+手数料にかかる消費税+その他の取得費用)÷取得株数

 譲渡する株式の取得費=1株当たりの取得費×譲渡株数


例えば、株式1,000株を500万円で取得し、取得時の手数料などが10万円だった場合、取得費の総額は510万円です。1株当たりの取得費は5,100円となります。

このうち600株を譲渡するなら、譲渡する株式の取得費は306万円です。

同じ株式を複数回取得した場合の計算

同じ会社の株式を2回以上に分けて取得し、その一部を譲渡するときは、原則として「総平均法に準ずる方法」で1株当たりの取得費を計算します。

これは、取得時期ごとの価格を別々に使うのではなく、それまでに取得した株式の金額と株数を合計して平均する考え方です。

 1株当たりの取得費=取得価額の合計÷取得株数の合計


例えば、最初に1,000株を500万円で取得し、その後500株を400万円で追加取得した場合、取得価額の合計は900万円、株数の合計は1,500株です。

1株当たりの取得費は、900万円÷1,500株=6,000円となります。

その後600株を譲渡した場合、取得費は6,000円×600株=360万円です。

一部譲渡後に追加取得した場合は残額を引き継ぐ

一部の株式を譲渡した後に同じ株式を追加取得した場合は、譲渡後に残った株式の取得価額と、新たに取得した株式の取得価額を合計して平均単価を計算し直します。

一度計算した平均単価を、その後も固定して使えるとは限りません。追加取得や一部譲渡のたびに、保有株数と取得価額の残額を更新する必要があります。

株式分割や組織再編がある場合は個別確認が必要

株式分割、株式併合、合併、株式交換、株式移転などを経ている場合は、単純に購入金額を現在の株数で割るだけでは計算できないことがあります。

株数の変化だけでなく、旧株式の取得価額が新しい株式へどのように引き継がれたかを確認します。過去の契約書、登記資料、株主名簿、税務申告書などを合わせて整理してください。

購入以外で取得した株式の扱いを整理する

取得費は、株式を受け取った時点の評価額になるとは限りません。相続や贈与、ストックオプションなどでは、取得の原因によって基準となる金額が異なります。

相続・贈与では前の所有者の取得費を引き継ぐ

相続、遺贈または贈与によって取得した株式は、原則として被相続人や贈与者の取得費を引き継ぎます。

相続税申告で使った非上場株式の評価額が、そのまま株式譲渡時の取得費になるわけではありません。先代が会社を設立したときの払込額や、第三者から株式を買い取ったときの金額まで遡って確認します。

ここは意外と多い落とし穴です。相続時の評価額と譲渡所得を計算する取得費を混同すると、税額が大きくずれる可能性があります。

一定期間内の譲渡では取得費加算の特例を確認する

相続税を負担した人が、相続または遺贈で取得した株式を一定期間内に譲渡した場合は、相続税額の一部を取得費に加算できることがあります。

期限は、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。一般に、相続開始から3年10か月以内が目安となります。

相続後に買い手探しを始めると、交渉中に期限を迎えることもあります。事業承継型M&Aを検討する場合は、売却スケジュールと合わせて早めに確認してください。

ストックオプションは適格・非適格で異なる

税制非適格ストックオプションを行使して取得した株式は、一般に権利行使日の株式価額が取得費になります。

権利行使時に、株式の時価と権利行使価額との差額が給与所得などとして課税されるため、株式譲渡時は権利行使日の価額を基に譲渡益を計算します。

一方、税制適格ストックオプションでは、通常は権利行使時に課税されず、実際に支払った権利行使価額が取得費の基礎になります。

付与契約書、権利行使時の資料、給与明細、源泉徴収票などを確認し、税制適格か税制非適格かを先に判定することが必要です。

その他の取得方法は契約内容まで確認する

譲渡制限付株式、新株予約権、株式交換や株式移転によって取得した株式などには、それぞれ取得価額の決め方があります。

取得時の価額を使う場合もあれば、以前保有していた株式の取得価額を引き継ぐ場合もあります。「無償でもらった」「交換で取得した」といった説明だけでは判断できません。

どの契約や制度によって株式を取得したのかまで確認します。

取得費の資料がないときは順番に復元する

資料が見当たらないからといって、直ちに5%ルールを使う必要はありません。

特に非上場会社の株式は、発行会社や顧問税理士、過去の株主などに資料が残っていることがあります。調査する順番を決め、取得の経緯を一つずつ復元します。

非上場株式は発行会社の資料から確認する

M&Aで譲渡する自社株では、証券会社の取引履歴がないことが一般的です。発行会社に残っている設立、増資、株主移動の資料を確認します。

設立・増資時の資料

設立時の払込みを確認する資料

定款、設立時の払込証明、銀行口座の入出金記録、設立登記の資料などを確認します。

登記簿から資本金の変動は確認できますが、各株主が実際に負担した金額まで登記簿だけで分かるとは限りません。払込証明や通帳と組み合わせて確認します。

増資時の払込みを確認する資料

増資時の株主総会議事録や取締役会議事録、募集株式の引受資料、払込証明、変更登記の資料などを探します。

増資額が会社の帳簿に記録されていても、どの株主が何株を取得したかは、株主名簿や引受資料との照合が必要です。

株式の買取り・承継時の資料

共同創業者や過去の株主から株式を買い取った場合は、株式譲渡契約書、代金の振込控え、株主名簿、株式異動の記録を確認します。

相続や贈与で取得した場合は、先代の取得資料、遺産分割協議書、相続税申告書、贈与契約書などが手掛かりです。

株主名簿で株式の移動時期を確認し、契約書や通帳で金額を裏付ける流れになります。

上場株式は証券会社の記録からたどる

上場株式は、取引報告書、取引残高報告書、受渡計算書などを確認します。

手元に残っていなければ、取引した証券会社へ顧客勘定元帳の開示を依頼します。過去10年以内の取引は記録が残っている可能性が高く、10年を超える取引でも証券会社が任意に保管していることがあります。

口座番号、取引した時期、銘柄名などを伝えると確認しやすくなります。

通帳や手控えを複数組み合わせる

当時の預金通帳、振込依頼書、日記、手帳、メール、メモ、過去の確定申告書や会計帳簿も取得費を確認する手掛かりになります。

1枚の資料だけでは金額を確定できなくても、取得日、株数、支払額が別々の資料からつながることがあります。

資料の種類より、数字のつながりと説明の一貫性が大切です。確認した資料名、保管場所、計算過程も残しておきます。

上場株式は名義書換日と当時の株価も手掛かりになる

取引報告書、顧客勘定元帳、本人の手控えでも確認できない上場株式は、株主名簿管理人から株式異動証明書を取り寄せる方法があります。

名義書換時期を確認し、その時期の終値などを基に合理的に取得価額を算定します。ただし、実際の購入日や購入価額と一致するとは限らないため、他の資料と合わせて判断してください。

非上場株式には公表された株価がないため、この方法をそのまま使うことは困難です。発行会社の資料と実際の支払記録を優先します。

概算取得費5%を使う前に実額と比べる

個人株主の取得費がどうしても分からない場合は、譲渡価額の5%を取得費とする取扱いがあります。概算取得費、いわゆる5%ルールです。

 概算取得費=譲渡価額×5%


例えば、株式を1億円で譲渡した場合、概算取得費は500万円となります。

5%ルールは便利だが手取りを減らすことがある

5%ルールを使い、譲渡費用を考慮しなければ、譲渡価額の95%が譲渡益になる計算です。

実際の取得費が譲渡価額の5%を上回るなら、資料を探して実額を使った方が税負担を抑えられます。会社売却の譲渡価額が大きいほど、取得費の差が税額に与える影響も大きくなります。

一方で、実際の取得費が譲渡価額の5%より少ない場合は、5%相当額を使った方が有利になることがあります。

「資料がないから5%」と機械的に決めず、調査できる範囲で実額を確認し、5%相当額と比較してください。

同じ銘柄の一部だけを単純に5%としない

同じ会社の株式について、取得費が分かる部分と分からない部分が混在する場合があります。

このとき、取得費が不明な株式だけを機械的に5%とし、分かる株式には実額を使えばよいとは限りません。取得履歴全体を整理し、総平均法に準ずる方法との関係を確認する必要があります。

相続した株式、自分で購入した株式、増資で取得した株式が混在する場合も同様です。成約後に検討を始めると、資料収集の時間が足りなくなりやすいため、売却前に整理します。

M&Aの交渉前に取得費を確定する

取得費は、会社の譲渡価格を決める数字ではありません。

買い手が提示する株式価額は、会社の収益力、資産と負債、将来性、事業上のリスクなどから検討されます。一方、取得費は、経営者の譲渡益と税引後の手取り額を計算するための数字です。

この2つを分けて考えなければ、譲渡価格には納得できても、実際の手取りが想定より少ないという事態が起こります。

株主別の手取り額を試算する

会社売却を考え始めたら、株主名簿を基に、株主ごとの保有株数、取得経緯、取得費、譲渡費用の見込みを整理します。

創業者、相続人、役員、従業員持株会、資産管理会社などが株式を分けて持つ会社では、同じ1株当たりの譲渡価額でも、株主ごとの税務計算は異なります。

誰が何株を持ち、どのように取得し、いくら手元に残るか。ここまで確認して初めて、会社売却の条件を具体的に判断できます。

役員退職金を組み合わせる場合は別に検討する

株式譲渡代金の一部を役員退職金として受け取る方法が検討されることもあります。

ただし、株式の取得費を増やす方法ではありません。退職金の適正額、退任の実態、会社側の損金算入、個人側の退職所得課税などを別に確認する必要があります。

株式譲渡代金を単に退職金へ付け替えることはできません。会社売却全体の手取り額を比較するための一つの検討事項として整理します。

確定申告に必要な資料まで保管する

株式譲渡契約書、取得費の根拠資料、譲渡費用の請求書や領収書、譲渡代金の入金記録は、成約後の確定申告で必要になります。

取得費の計算だけを残すのではなく、どの資料を基に計算したかまで分かるように保管してください。

支払調書が作成される取引でも、記載された譲渡代金と実際の入金額を自分で確認します。支払調書があるから取得費の資料が不要になるわけではありません。

取得費の確認は、成約直前に行う単なる確定申告の準備ではありません。会社売却の条件と税引後の手取りを比較するために必要な作業です。

資料が古くなるほど確認には時間がかかります。買い手との交渉が本格化する前から準備しておくと、価格や条件を落ち着いて判断できます。

まとめ

株式譲渡の取得費は、購入代金だけでなく、取得時の手数料や消費税、増資の払込額などを含めて計算します。相続・贈与やストックオプションでは基準が異なるため、取得経緯の確認が先です。資料がなくても発行会社、証券会社、通帳などを順に調べ、5%ルールは実額との比較後に判断します。M&Aでは譲渡価格だけでなく、株主別の税引後手取りまで事前に確認することが重要です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人