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第三者割当増資M&Aで資金調達と譲受企業との連携強化方法

第三者割当増資は、資金調達と資本提携を同時に叶えられる柔軟なM&A手法です。本記事では基本概念から具体的な実施手続、メリット・デメリット、株価評価や会計処理までわかりやすく解説し、事例も交え実務にすぐ役立つポイントを紹介します。

目次

  1. 第三者割当増資の基本概要と仕組み
  2. 第三者割当増資と株式譲渡の違いを理解する
  3. 第三者割当増資によるM&Aのメリット
  4. 第三者割当増資によるM&Aのデメリットと対策
  5. 第三者割当増資を用いたM&Aの実施手順
  6. 第三者割当増資における株式評価方法の概要
  7. 有利発行を避けるための法的留意点
  8. 第三者割当増資の会計処理
  9. 第三者割当増資以外の増資方法を比較する
  10. 第三者割当増資を活用したM&A事例に学ぶ
  11. まとめ

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(増資)

第三者割当増資の基本概要と仕組み

第三者割当増資は、株式会社が特定の相手に対して有償で新株を発行し、資本金を増やす方法です。譲渡企業に直接資金が入るため、借入金のような返済義務が生じず、財務体質を強化しながら資本提携を進められる点が特徴です。未上場会社では役員や親密な取引先が引受人になる例も多く、上場会社では取締役会決議のみで実行できる場合が多いため、機動性の高い資金調達策として用いられます。

増資とは企業が新株発行で資本金を増やす行為

増資は企業が発行済株式総数を増やして資本金を増やす行為をいい、大きく株主割当増資、公募増資、第三者割当増資の三類型に分かれます。株主割当は既存株主の持株比率を維持でき、公募は広く資金を集められる一方、手続やコストが重くなりがちです。第三者割当は対象を限定する代わりに、短期間で必要額を確保できるという利点があります。

第三者割当増資は特定の相手から資金を受け入れる方法

「第三者」という語感から外部の未知の投資家を想像しがちですが、実務では親会社、主要取引先、あるいは経営陣など、事業に精通した相手が引受人となることが少なくありません。譲渡企業はこうした相手と資本関係を築くことで、単なる資金調達にとどまらない長期的な協力関係を得ることができます。

第三者割当増資がM&A手法にも利用される理由

譲受企業が新株を引き受けると、議決権比率に応じて経営への影響力を持てるため、資本参加型のM&Aとして機能します。例えば50%超を取得すれば実質的な経営権を得られ、33%超で特別決議を阻止できるなど、柔軟に持分を設計できる点が特徴です。株式譲渡と比較して譲渡企業に資金が残るため、譲受資金が企業内部にとどき、成長投資に再投入できるメリットもあります。

第三者割当増資と株式譲渡の違いを理解する

第三者割当増資と株式譲渡はいずれも議決権を移転させる手段ですが、資金の受取先と既存株主の扱いが根本的に異なります。

資金の流れと受取主体が異なる

株式譲渡では対価が既存株主(譲渡企業の株主個人)に支払われ、譲渡企業自体に新たな資金流入はありません。一方、第三者割当増資では払込金が会社に入り、純資産が増えるため財務基盤が直接強化されます。

完全承継か部分承継かという支配権の差

株式譲渡は既存株式をすべて取得すれば完全子会社化が可能ですが、第三者割当増資では既存株主の持株が残るため100%化はできません。経営権を全面的に譲受したい場合は、TOBや追加の株式譲渡を併用する必要があります。

目的に応じた選択が重要

目的が「資金調達」であれば第三者割当増資、「経営の完全承継」であれば株式譲渡が適するケースが多いです。実務では両者を段階的に組み合わせ、資金調達後に議決権を追加取得していく二段階スキームも採用されています。

第三者割当増資によるM&Aのメリット

第三者割当増資は、譲渡企業、譲受企業の双方に多くの利点をもたらします。

迅速に資金調達できる

公募や銀行融資と比べ、特定の譲受企業と条件を合意すれば、取締役会決議後すぐに払込を受けられます。タイムリーな資金確保は新規設備投資や財務改善に直結し、ビジネスチャンスを逃しません。

企業信用力が高まる

払込金は純資産に組み入れられ、自己資本比率が向上します。さらに信用力のある譲受企業が資本に加わることで、金融機関や取引先からの信頼も増し、追加融資や大型取引の交渉が有利になります。

譲受企業との関係強化

株式を持ち合うことで長期的な協業体制を築けます。技術連携、共同開発、販路共有など、単なる資金提供を超えたシナジーが期待でき、結果として譲渡企業の企業価値向上につながります。

返済義務がなく財務が安定

借入と異なり元本返済や利息支払が不要で、有利子負債の増加を抑制できます。キャッシュフローの予見性が高まり、長期的な投資計画を立てやすくなります。

手続が比較的簡便

上場企業であっても、多くの場合は取締役会の決議のみで発行可能です。有利発行に該当する場合を除き、株主総会特別決議を要しないため、スピーディに実行できます。

税務上の利点がある

払込時点では課税が生じず、譲渡企業の損益計算書に利息負担を計上する必要もありません。結果として当期純利益の圧迫を避けつつ、成長投資に資金を振り向けられます。

第三者割当増資によるM&Aのデメリットと対策

利点が多い一方で、留意すべき課題も存在します。事前に理解し、対策を講じることでリスクを抑制できます。

完全子会社化が難しいので意思決定が複雑化する

既存株主が残存するため、重要事項の決議には株主間調整が不可欠です。議決権比率の設計や株主間契約により意思決定プロセスを明確化し、統治コストを抑えることがポイントです。

既存株主の希薄化による不満が生じる

新株発行により1株当たり利益が減少する可能性があります。発行価額の妥当性を第三者算定書で示し、既存株主との対話を通じて理解を得ることが不可欠です。

シナジー実現が不確実で投資回収が遅れる恐れ

譲受企業との協業が想定通りに進まない場合、出資対価を回収するまでに長期を要することがあります。段階的な資本投入とKPIに基づくモニタリングを行い、必要に応じて経営統合計画を修正しましょう。

第三者割当増資を用いたM&Aの実施手順

第三者割当増資は会社法で細かな期限と書式が定められているため、計画段階からスケジュールを逆算して進めることが成功の鍵になります。

取締役会で募集要項を決定し方針を固める

最初のステップは募集株式数・払込金額・払込期日などの募集事項を取締役会で決議することです。有利発行となる場合は株主総会の特別決議が必要となりますので、発行価額の根拠資料を準備しておきます。

株主への通知と公告で透明性を確保する

払込期日の二週間前までに株主に通知または公告を行い、既存株主に情報を提供します。上場会社は適時開示規則に従いTDnetで開示し、未上場会社も社内掲示や郵送で周知を図ります。

引受希望者に詳細を通知し申込書を受領する

譲受企業がどの程度引き受けるかを明記した申込書を提出し、それを受けた譲渡企業は割当株式数を最終決定します。ここで議決権比率が確定するため、M&A後の支配権構造が明瞭になります。

払込完了後に株式発行と登記を行う

払込が完了すると法的には新株発行が成立します。二週間以内に資本金額や発行済株式総数の変更登記を済ませ、株主名簿を更新することで増資手続は完了です。

第三者割当増資における株式評価方法の概要

発行価額が公正でなければ既存株主の利益を害し、将来のトラブルにつながります。そこで実務では複数の評価手法を併用し、市場水準や資産価値を総合的に検証します。

コストアプローチは純資産価額を下限値として確認

貸借対照表を時価修正し、簿外債務を加味したうえで1株当たり純資産を算定します。無形資産の価値は反映されにくいものの、客観的な最低ラインとして活用できます。

マーケットアプローチは類似企業の株価倍率で相対評価

PERやPBRなど上場同業他社の倍率を適用し、業界平均との比較から発行価額の妥当性を検証します。中小企業では完全に類似する企業が見つからない場合もあるため、倍率補整を行います。

インカムアプローチは将来キャッシュフローを現在価値に割り引く

DCF法を用い、5年程度の事業計画を基にフリーキャッシュフローを算定し、加重平均資本コストで割引きます。将来性を反映できる一方で、計画の妥当性や割引率の設定には専門的判断が必要です。

三手法を組み合わせてレンジを設定し発行価額を決定

最終的にはコストアプローチの結果を下限、インカムアプローチの結果を上限、マーケットアプローチを中間レンジとして総合し、時価の90%以上となるよう調整したうえで取締役会に諮ります。

有利発行を避けるための法的留意点

発行価額が時価の九割を下回る場合、有利発行と見なされ少数株主の利益を害すると判断される恐れがあります。

時価九割ルールを基本とし例外を慎重に説明する

日本証券業協会の指針では直前日の株価または過去六か月平均株価の九割未満は原則有利発行とされています。特別決議と発行価額の合理性説明が不可欠です。

取締役の善管注意義務と説明義務を徹底する

発行価額決定の根拠資料、第三者算定書、将来の事業シナジー等を議事録に残し、株主への説明資料として開示することで、株主代表訴訟リスクを低減できます。

情報開示のタイミングと内容で市場の信頼を守る

適時開示では発行価額、払込期日、割当先の選定理由、資金使途を具体的に公表し、恣意的な増資でないことを示すことが求められます。

以上の手続と価格設定のポイントを押さえることで、第三者割当増資を公正かつ透明に実施し、市場や既存株主からの信頼を確保できます。

第三者割当増資の会計処理

第三者割当増資を行うときの会計処理は、出資を行う譲受企業側と株式を発行する譲渡企業側で考え方が分かれます。両者とも企業結合や連結の判定に影響するため、手続の早い段階で専門家と相談しながら仕訳方針を固めると安心です。

譲受企業の処理は投資有価証券の計上が中心

譲受企業では取得した株式を投資有価証券として計上します。主な流れは次のとおりです。

  1. 取得日現在で「借方 投資有価証券/貸方 現金預金」を計上。
  2. 取得価額が被取得企業の時価純資産を上回る場合、その超過部分をのれんとして認識。
  3. 持分比率が20%以上なら持分法、50%超なら連結子会社として取り込みます。
  4. 決算期末に公正価値を見直し、必要があれば減損テストを実施。のれんは通常5~10年で均等償却するため、事業計画に織り込んで資本回収を管理します。

譲渡企業の処理は資本金と資本準備金の振分が鍵

譲渡企業では払込を受けた金額を「資本金」と「資本準備金」に配分します。会社法上は半額を資本金へ計上し、残額を資本準備金へ計上することが許容されており、税務上も損益に影響はありません。具体的な仕訳は以下のとおりです。

・払込期日に「借方 現金預金/貸方 資本金」「貸方 資本準備金」。

資本金等の増加は自己資本比率を改善し、信用力の向上に直結します。登記変更は払込完了後2週間以内に行う必要がある点に注意します。

開示と税務の留意点

上場会社は適時開示規則に基づきTDnetで増資の概要を公表し、有価証券届出書で詳細を開示します。増資が支配獲得を伴う場合は企業結合会計基準を適用し、連結範囲の変更を注記します。税務では払込金に対して課税はありませんが、のれんの償却期間や連結納税グループへの影響など、申告実務で追加対応が求められることがあります。

会計処理チェックリスト

  • 払込期日と決算日の関係を確認し仮払処理が必要か判断する。

  • のれん計上額と償却期間を経営計画に反映させる。
  • 連結範囲の変更があれば連結パッケージを更新する。
  • 払込完了後2週間以内に登記を申請する。
  • 株主への通知書類と法定開示書類の整合性を事前にチェックする。

このチェックリストを用いることで、ヒューマンエラーを最小限に抑えられます。

譲受企業で検討すべき追加ポイント

  • 取得原価の内訳を明示するため、株価算定書を添付して取締役会に報告します。
  • のれんの減価テストはM&A後の事業シナジーが実現しているかどうかを映す指標になるため、毎期KPIを設定して管理すると効果的です。
  • 分法適用会社となる場合、配当金の受領と投資勘定の相殺消去の取扱を正しく把握し、資本連結時のタイムラグを防ぎます。

譲渡企業で検討すべき追加ポイント

  • 払込金額をいったん「仮払金」で受け入れる場合、決算日に「借方 仮払金/貸方 資本金・資本準備金」へ振替えることを忘れないよう社内チェックリストを作成します。
  • 企業結合会計の適用が見込まれるときは、譲受企業と共同で事業結合日を決定し、連結貸借対照表の作成スケジュールを共有します。
  • 払込完了から登記提出までの書類(株主リスト、定款変更議事録など)は漏れが発生しやすいため、専門家が作成したフォーマットを活用するとミスを防げます。

第三者割当増資以外の増資方法を比較する

企業の資本政策では第三者割当増資だけでなく、目的に応じて次のような増資形態を選択できます。

株主割当増資は既存株主の持分維持が可能

株主割当増資は既存株主に新株を引き受ける権利を与え、持株比率を維持したまま資金を調達します。主な特徴は次のとおりです。

  • 既存株主の経済的利益を損なわない。
  • 株主平等の原則に合致するため、合意形成が容易。
  • 引受比率が計画未満の場合に資金不足が生じるリスクがある。

この方法は安定株主が多い企業で、関係強化と同時に資金を確保したい場面で有効です。

公募増資は広く資金を集められるがコストが高い

公募増資は証券会社を通じて不特定多数の投資家を対象に新株を発行します。

メリット

  • 大規模な資金調達が可能。
  • 株主構成が分散し、流動性が向上する。

デメリット

  • 引受手数料などの外部コストが高い。
  • 発行価額のディスカウントが株価に影響を与える。

上場準備企業や大型投資を控えた企業で採用されることが多い手法です。

自己株式処分は機動的だが保有が前提になる

自己株式を第三者に譲渡すれば発行済株式総数を増やさずに資本を調達できます。

  • 株式の希薄化を抑制しながら特定企業と資本提携できる。
  • 自己株式の時価評価と有利発行規制に配慮が必要。
  • 自己株式が手元にない場合は実行できない。

短期間で柔軟に提携関係を築きたいときに有効な選択肢です。

公募増資を実施する際の手続上の注意点

公募増資では目論見書の作成、有価証券届出書の提出、引受証券会社との契約締結など、第三者割当増資よりも書類と審査が大幅に増えます。スケジュールに余裕を持ち、証券会社と週次で進捗会議を行うことで手戻りを防げます。

自己株式処分で留意したい税務上の論点

自己株式を譲渡した差額は資本剰余金として計上されますが、譲渡価額が取得価額を下回ると欠損が発生します。将来の配当原資に影響するため、取締役会議事録に算定根拠を残し、株主総会での説明材料を整えておくと安心です。

増資方法の選択フローの例

  1. 資金需要の規模と緊急度を把握します。
  2. 株主構成や議決権比率の変動許容度を確認します。
  3. 調達コストと実行スピードを比較し、第三者割当増資、公募増資、株主割当増資、自己株式処分のいずれが最適かを選択します。
  4. 最終的な資本政策を取締役会で決議し、専門家と実行スケジュールを策定します。

取締役会で留意すべき議論ポイント

  • 割当先の選定理由を明確化し、取締役の善管注意義務を果たす。
  • 発行価額が時価の90%を下回らないか検証し、有利発行に該当する場合は株主総会特別決議を予定する。
  • 増資目的と資金使途を具体的な数字で示し、KPI達成時期を共有する。
  • 引受契約に解除条件や追加出資条項を設定し、シナジー未達時のリスクに備える。

こうした議論を重ねることで、手続の透明性と株主の納得感を高められます。

第三者割当増資を活用したM&A事例に学ぶ

実際の企業は第三者割当増資をどのように活用してきたのか、三つの公開事例から学びます。

ヤマダ電機による大塚家具の子会社化事例

実行日:2019年12月12日

スキーム:ヤマダ電機が第三者割当増資で新株と新株予約権を引受け子会社化。

目的:住空間のトータルコーディネート事業を強化し、家具販売と家電販売の相互送客を図る。

効果:ヤマダ電機の家具事業が拡大し、大塚家具はブランド価値を維持しながら経営再建資金を確保。

朝日放送グループによるDLEの連結子会社化事例

実行日:2019年5月10日

スキーム:朝日放送グループHDがDLEの発行済株式の51.97%を第三者割当で取得。

目的:デジタル領域のコンテンツ制作力強化とIPビジネス拡大。

効果:放送コンテンツとアニメ・CG制作を融合させ、グループ全体の収益源を多様化。

オープンクラウドとマイナビの資本業務提携事例

実行日:2022年5月22日

スキーム:オープンクラウドがマイナビへ第三者割当増資を実施、マイナビが14.17%を取得。

目的:飲食業界のDX推進と採用支援プラットフォームの連携。

効果:ApplyNowとマイナビバイトの連携により、店舗の採用・勤怠管理をワンストップで提供。

三つの公開事例から得られる共通教訓

  • 第三者割当増資は譲受企業の事業シナジーが具体的に描ける相手を選ぶことが成功の鍵となる。
  • 既存株主の希薄化に対して納得感を得るため、発行価額の根拠と資金使途を丁寧に説明している。
  • 子会社化を狙う場合は議決権比率が過半数を超えるタイミングで段階的に出資するケースが多く、追加出資条項を事前に盛り込むことで交渉コストを下げられる。

まとめ

第三者割当増資は、譲渡企業に資金流入をもたらしながら譲受企業との資本シナジーを即座に構築できる有効な手段です。既存株主の希薄化、会計処理の複雑化、有利発行規制などの課題をクリアするには、株価算定の公正性と透明な情報開示が不可欠です。専門家の伴走を得て適切に実行すれば、資金調達と事業承継を同時に達成し、企業価値向上へ大きく近づくことができます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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