後継者がいない会社や成長意欲の強い中小企業を中心に、「会社を売りたい」と考える経営者が増えています。本記事では、会社を譲渡するメリットやデメリット、M&Aの手法、譲渡価格の算定方法などを解説します。
目次
▶目次ページ:第三者承継とは(M&Aのメリット・デメリット)
赤字の会社でも、理由によっては問題なく譲渡可能です。多額の役員報酬や一時的な需要の落ち込みなど、M&A後に改善できる内容で赤字になっていれば、会社を譲渡できる可能性は十分にあります。
譲渡を選択する理由は、事業承継だけではありません。経営者がM&Aで会社を売りたいと考える理由を解説します。
上述したように、後継者を見つけるために会社を譲渡する経営者がいます。経営者の資質を持つ人を見つけられれば、後継者不足を解消可能です。従業員の雇用も守られ、事業が残るため取引先に迷惑をかけずに済みます。
会社や事業の規模によっては譲渡後に多額の現金を得られます。老後資金や子どもの教育費、住宅ローンの返済、新たな事業の資金など、譲渡益をさまざまな用途に使いましょう。
会社を譲渡して経営を退くと、重責から解放されるのも魅力です。高齢の経営者には、働き方に問題を抱えている人が多く見られます。特に会社が困難な状況であれば、強い負担を感じるかもしれません。次の世代に会社を任せられると、新しい生活に向け気持ちを切り替えられます。
個人保証がついたまま会社を清算すると、会社の借り入れを個人で弁済しなければいけません。しかし、資金を用意できない多くの人は、自己破産を選択することになります。一方、会社を譲渡すると個人保証が解除されるため、後継者が生活困窮するリスクがなくなります。
競業避止義務が含まれると、譲受側の会社と競合する事業を行えません。事業譲渡の場合は、競業避止義務の期間は会社法で20年間と定められています。ただし実務上は、数年間の競業避止義務になることが一般的です。
譲渡益は、全額もらえる訳ではありません。手元に残るお金からは、税金やM&A仲介会社に支払う報酬などが引かれています。なお、株式譲渡の税率は、譲渡益に対して20.315%です。税金はかかるものの、低税率であることには間違いありません。
キーマン条項とも呼ばれるロックアップは、譲渡後の一定期間、重要人物を会社に残すように定めた条項です。重要人物には、一般的に譲渡オーナーや事業責任者などが指定されます。早く退任したい、すぐにでも次の事業を展開したいと考える経営者にとって、ロックアップはデメリットとなります。
株式譲渡とは、株式を譲渡して会社の経営権や事業を承継させることです。株式譲渡は、登記の変更や役所への手続きがなく、事業譲渡や会社分割よりもスムーズに会社を譲渡できます。中小企業のM&Aでは、株式譲渡はもっとも一般的な手法です。
事業譲渡とは、会社の事業の一部を譲渡して、個別に承継させることです。事業譲渡の場合は、会社の経営権を維持できます。譲渡の対象は、資産・従業員・取引先・ノウハウ(物事の方法や手順に関する知識)・ブランドなどです。
会社分割とは、会社の権利義務を包括的に承継させることです。譲渡の対象は株式の一部で、資産・組織・事業・権利義務などが、それぞれの法人格に分割されて移されます。
M&Aで会社を譲渡する手順を、専門家への相談から譲渡契約の締結に至るまで解説します。
M&Aの専門家は、M&A仲介会社、金融機関、会計事務所などです。複数の相談先のなかから選び、仲介契約を締結しましょう。M&Aを円滑に進めるには、信頼できる相談先を選びましょう。
抽出された会社を順位づけして、譲渡主を絞り込みます。譲渡主の候補とは、必ず秘密保持契約を締結しましょう。秘密保持契約を交わさないと、秘密情報やM&Aを検討中という情報が外部に流出する恐れがあります。
譲渡主の候補に選んだ会社に対し、M&A仲介会社などの専門家は売買条件を交渉します。交渉が進むと、トップ面談、基本合意書の締結を経て、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)が実施されます。
デューデリジェンス(買収監査・企業調査)で問題がなければ、お互いの合意を証明する譲渡契約を締結します。問題があれば、譲渡条件や譲渡方法の変更もあり得ます。
会社譲渡価格は自分で算出できます。簡易的なものも含め主な算出方法を紹介します。
同族経営の中小企業間のM&Aでは、簡易的な算出法が用いられます。譲渡価格は「純資産額+純利益×年数(3~5年)」が相場ですが、相手との合意次第で一般とはかけ離れた額でも認められる場合もあります。
DCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法は、将来の収益を現在の価値に換算して譲渡価格を算出します。将来の収益は事業計画書をベースに見積もられるため、現時点で赤字でも高い譲渡価格を得られる場合もあります。
修正簿価純資産法では、貸借対照表の資産や負債などを現在の価値に換算して純資産とします。時価が分かりにくい無形の資産や利益は、修正簿価純資産法の評価には含まれません。
類似会社比準法では、M&Aの対象となる会社と事業内容が類似する上場企業を探します。そして、上場企業の株価を参考にして、譲渡価格を算出します。信頼性や客観性が高い点は類似会社比準法のメリットです。一方、比較する上場企業がなければ、類似会社比準法は使えません。
M&Aで会社を譲渡する際の必要書類を、入手先別に紹介します。税務署、法務局、市町村の窓口で書類を取得しましょう。
税務署で取得する書類は、以下のとおりです。
・土地・建物の固定資産評価証明書
・納税証明書(法人税・住民税・事業税・消費税)
法務局で取得する書類は、以下のとおりです。
・土地・建物の登記簿謄本
・会社商業登記簿謄本
・印鑑証明書(法人・代表者について各1通)
市町村の窓口で取得する書類は、以下のとおりです。
・経営者個人の住民票と印鑑証明書
・経営者個人の身分証明書の写し(顔写真つき)
多くの譲渡益を得られるように、M&Aで会社を高く譲渡するコツを紹介します。
会社の価値を高めるには、収益率を上げるように努めましょう。業務の属人性をなくす、会社の透明性を高めるなど、誰が経営者になっても実力を発揮できる会社にすると、会社の価値は高まります。
親族や従業員に分散している株式を、経営者に集約させてください。株式が分散していると意思決定が妨げられ、M&Aを円滑に進められない可能性があります。
M&Aで会社を譲渡する際は、情報管理を徹底し、資金の無駄使いを避けるように心がけましょう。
会社が譲渡されるという情報が外部に漏れると、株価・経営・従業員などに多大な影響が及びます。打ち合わせはもちろん雑談の際も、うかつにM&Aの話題を出さないように細心の注意が必要です。
節税のために必要以上の保険に加入する、固定資産を購入するなどの資金の無駄遣いはおすすめできません。無駄遣いと受け取られると、譲受側からの評価が下がる可能性があります。
M&Aで会社を譲渡すると、後継者不足の解決や事業の効率化など多くのメリットを得られます。M&Aを有利に進めるには、専門的な知識が必要です。M&A仲介会社などの専門家に相談し、自社に合う譲渡主を見つけましょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事