会社を売りたい経営者向け|メリット・注意点・手順とは

後継者がいない会社や成長意欲の強い中小企業を中心に、「会社を売りたい」と考える経営者が増えています。本記事では、会社を譲渡するメリットやデメリット、M&Aの手法、譲渡価格の算定方法などを解説します。 

目次

  1. M&Aで会社を売りたい経営者が増えている
  2. 赤字の会社もM&Aで売却できるのか
  3. M&Aで会社を売りたいと考える理由
  4. M&Aで会社を売却するメリット
  5. M&Aで会社を売却するデメリット
  6. M&Aで会社を売りたい場合に用いられる手法
  7. M&Aで会社を売却する手順
  8. 会社売却価額の算出方法
  9. M&Aで会社を売却する際の必要書類とは
  10. M&Aで会社を高く売却するコツ
  11. M&Aで会社を売却する際の注意点
  12. まとめ

M&Aで会社を売りたい経営者が増えている

事業承継・引継ぎ支援センターは、令和3年のM&A成約件数が1,500件を超えたと報告しました。事業承継に課題を抱える会社は多く、M&Aは年々増えています。


※参考:第三者承継支援|事業承継・引継ぎポータルサイト

赤字の会社もM&Aで売却できるのか

赤字の会社でも、理由によっては問題なく譲渡可能です。多額の役員報酬や一時的な需要の落ち込みなど、M&A後に改善できる内容で赤字になっていれば、会社を譲渡できる可能性は十分にあります。

M&Aで会社を売りたいと考える理由

譲渡を選択する理由は、事業承継だけではありません。経営者がM&Aで会社を売りたいと考える理由を解説します。

後継者不足で事業承継ができない

少子化の影響で、会社を継ぐ子どもや孫が見つからないケースが増えています。親子の関係でも、価値観が同じとは限りません。子どもや孫に会社を継ぐ意思がなく、ほかの親族や従業員にも後継者候補がいなければ、M&Aで第三者に会社を託す必要があります。

従業員の雇用を継続したい

従業員の雇用を継続するためにも、M&Aは有効です。会社の存続が難しい状況で廃業すると、従業員が失業してしまいます。M&Aの契約内容によっては、譲渡後も従業員の雇用を継続させられます。

事業の効率化を図りたい

経営戦略として、事業の選択と集中のために会社を譲渡する経営者もいます。不採算事業を譲渡すると譲渡益を得られるうえに、資源を必要な事業に集中できます。

会社を成長させたい

会社を成長させるために譲渡を検討する経営者もいます。自社での活動に限界を感じるときに事業を譲渡すると、資金面や異なる事業の組み合わせなどによる、シナジー(相乗効果)を得られる場合があります。譲受側の恩恵を受け、会社や事業の拡大・成長を目指しましょう。

将来のための資金を得たい

老後の生活費や、新たな事業を展開するための資金を得る目的で、会社を譲渡する経営者もいます。会社の業績がよく好条件で買い取ってもらえると、多額の資金を得られるのも利点です。

M&Aで会社を売却するメリット

M&Aで会社を譲渡するメリットを解説します。後継者不足の解決など、さまざまなメリットを見ていきましょう。 

後継者不足を解決できる

上述したように、後継者を見つけるために会社を譲渡する経営者がいます。経営者の資質を持つ人を見つけられれば、後継者不足を解消可能です。従業員の雇用も守られ、事業が残るため取引先に迷惑をかけずに済みます。

売却益が得られる

会社や事業の規模によっては譲渡後に多額の現金を得られます。老後資金や子どもの教育費、住宅ローンの返済、新たな事業の資金など、譲渡益をさまざまな用途に使いましょう。

重責から解放される

会社を譲渡して経営を退くと、重責から解放されるのも魅力です。高齢の経営者には、働き方に問題を抱えている人が多く見られます。特に会社が困難な状況であれば、強い負担を感じるかもしれません。次の世代に会社を任せられると、新しい生活に向け気持ちを切り替えられます。

生活困窮のリスクがなくなる

個人保証がついたまま会社を清算すると、会社の借り入れを個人で弁済しなければいけません。しかし、資金を用意できない多くの人は、自己破産を選択することになります。一方、会社を譲渡すると個人保証が解除されるため、後継者が生活困窮するリスクがなくなります。

M&Aで会社を売却するデメリット

メリットが多いM&Aですが、M&Aで会社を譲渡するデメリットも把握しておきましょう。

競業避止義務がある

競業避止義務が含まれると、譲受側の会社と競合する事業を行えません。事業譲渡の場合は、競業避止義務の期間は会社法で20年間と定められています。ただし実務上は、数年間の競業避止義務になることが一般的です。

利益が目減りする可能性がある

譲渡益は、全額もらえる訳ではありません。手元に残るお金からは、税金やM&A仲介会社に支払う報酬などが引かれています。なお、株式譲渡の税率は、譲渡益に対して20.315%です。税金はかかるものの、低税率であることには間違いありません。

ロックアップによる制限がある

キーマン条項とも呼ばれるロックアップは、譲渡後の一定期間、重要人物を会社に残すように定めた条項です。重要人物には、一般的に譲渡オーナーや事業責任者などが指定されます。早く退任したい、すぐにでも次の事業を展開したいと考える経営者にとって、ロックアップはデメリットとなります。

M&Aで会社を売りたい場合に用いられる手法

M&Aで会社を譲渡するときは、株式譲渡・事業譲渡・会社分割のいずれかを選択します。

株式譲渡

株式譲渡とは、株式を譲渡して会社の経営権や事業を承継させることです。株式譲渡は、登記の変更や役所への手続きがなく、事業譲渡や会社分割よりもスムーズに会社を譲渡できます。中小企業のM&Aでは、株式譲渡はもっとも一般的な手法です。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社の事業の一部を譲渡して、個別に承継させることです。事業譲渡の場合は、会社の経営権を維持できます。譲渡の対象は、資産・従業員・取引先・ノウハウ(物事の方法や手順に関する知識)・ブランドなどです。

会社分割

会社分割とは、会社の権利義務を包括的に承継させることです。譲渡の対象は株式の一部で、資産・組織・事業・権利義務などが、それぞれの法人格に分割されて移されます。

M&Aで会社を売却する手順

M&Aで会社を譲渡する手順を、専門家への相談から譲渡契約の締結に至るまで解説します。

専門家に相談する

M&Aの専門家は、M&A仲介会社、金融機関、会計事務所などです。複数の相談先のなかから選び、仲介契約を締結しましょう。M&Aを円滑に進めるには、信頼できる相談先を選びましょう。

売却先の会社を選ぶ

抽出された会社を順位づけして、譲渡主を絞り込みます。譲渡主の候補とは、必ず秘密保持契約を締結しましょう。秘密保持契約を交わさないと、秘密情報やM&Aを検討中という情報が外部に流出する恐れがあります。

選んだ会社と交渉をする

譲渡主の候補に選んだ会社に対し、M&A仲介会社などの専門家は売買条件を交渉します。交渉が進むと、トップ面談、基本合意書の締結を経て、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)が実施されます。

譲渡契約を締結する

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)で問題がなければ、お互いの合意を証明する譲渡契約を締結します。問題があれば、譲渡条件や譲渡方法の変更もあり得ます。

会社売却価額の算出方法

会社譲渡価格は自分で算出できます。簡易的なものも含め主な算出方法を紹介します。

簡易的な算出方法

同族経営の中小企業間のM&Aでは、簡易的な算出法が用いられます。譲渡価格は「純資産額+純利益×年数(3~5年)」が相場ですが、相手との合意次第で一般とはかけ離れた額でも認められる場合もあります。

DCF法

DCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法は、将来の収益を現在の価値に換算して譲渡価格を算出します。将来の収益は事業計画書をベースに見積もられるため、現時点で赤字でも高い譲渡価格を得られる場合もあります。

修正簿価純資産法

修正簿価純資産法では、貸借対照表の資産や負債などを現在の価値に換算して純資産とします。時価が分かりにくい無形の資産や利益は、修正簿価純資産法の評価には含まれません。

類似会社比準法

類似会社比準法では、M&Aの対象となる会社と事業内容が類似する上場企業を探します。そして、上場企業の株価を参考にして、譲渡価格を算出します。信頼性や客観性が高い点は類似会社比準法のメリットです。一方、比較する上場企業がなければ、類似会社比準法は使えません。

M&Aで会社を売却する際の必要書類とは

M&Aで会社を譲渡する際の必要書類を、入手先別に紹介します。税務署、法務局、市町村の窓口で書類を取得しましょう。

税務署で取得する書類

税務署で取得する書類は、以下のとおりです。

 ・土地・建物の固定資産評価証明書

 ・納税証明書(法人税・住民税・事業税・消費税)

法務局で取得する書類

法務局で取得する書類は、以下のとおりです。

 ・土地・建物の登記簿謄本

 ・会社商業登記簿謄本

 ・印鑑証明書(法人・代表者について各1通)

市町村の窓口で取得する書類

市町村の窓口で取得する書類は、以下のとおりです。

 ・経営者個人の住民票と印鑑証明書

 ・経営者個人の身分証明書の写し(顔写真つき)

M&Aで会社を高く売却するコツ

多くの譲渡益を得られるように、M&Aで会社を高く譲渡するコツを紹介します。

会社の価値を高める

会社の価値を高めるには、収益率を上げるように努めましょう。業務の属人性をなくす、会社の透明性を高めるなど、誰が経営者になっても実力を発揮できる会社にすると、会社の価値は高まります。

株式を集約させておく

親族や従業員に分散している株式を、経営者に集約させてください。株式が分散していると意思決定が妨げられ、M&Aを円滑に進められない可能性があります。

M&Aで会社を売却する際の注意点

M&Aで会社を譲渡する際は、情報管理を徹底し、資金の無駄使いを避けるように心がけましょう。

情報管理を徹底する

会社が譲渡されるという情報が外部に漏れると、株価・経営・従業員などに多大な影響が及びます。打ち合わせはもちろん雑談の際も、うかつにM&Aの話題を出さないように細心の注意が必要です。

資金の無駄遣いをしない

節税のために必要以上の保険に加入する、固定資産を購入するなどの資金の無駄遣いはおすすめできません。無駄遣いと受け取られると、譲受側からの評価が下がる可能性があります。

まとめ

M&Aで会社を譲渡すると、後継者不足の解決や事業の効率化など多くのメリットを得られます。M&Aを有利に進めるには、専門的な知識が必要です。M&A仲介会社などの専門家に相談し、自社に合う譲渡主を見つけましょう。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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