新株予約権とは?仕組み・活用方法・税務とM&Aの注意点
新株予約権とは、決められた価格で将来その会社の株式を取得できる権利です。資金調達、ストックオプション、CB、ライツ・オファリングの仕組みから、希薄化、会社法上の手続、税務、M&Aを見据えた発行条件まで分かりやすく解説します。
目次

▶目次ページ:第三者承継とは(M&Aのメリット・デメリット)
新株予約権は株式そのものではなく、一定の条件で発行会社の株式を取得できる権利です。「将来、決めた価格で株式を買える予約」と捉えると理解しやすくなります。
発行時には、取得できる株式数、1株当たりの行使価額、行使できる期間などを定めます。権利者が期間内に行使すると、会社は新株を発行するか、保有する自己株式を交付します。
株価が行使価額を上回れば、市場価格より低い価格で株式を取得し、その後の譲渡によって利益を得られる可能性があります。
権利者は、通常、権利を行使するときに行使価額を会社へ払い込みます。会社にとっては、その時点で自己資本を増やせる仕組です。
ただし、新株予約権を発行しただけで、予定した資金が必ず入るわけではありません。株価が行使価額を下回れば、権利が行使されず、資金調達額が想定を下回ることもあります。
新株予約権の行使は義務ではありません。株価が行使価額を下回っている場合などは、権利者が行使を見送れます。
有償で取得した権利を行使しないと、株式の取得代金は不要ですが、新株予約権の取得代金を失うことがあります。この選択権が、通常の株式取得との違いです。
新株予約権は、誰に、何のために発行するかで性格が変わります。資金調達だけでなく、人材の定着、取引先との関係強化、既存株主に配慮した増資にも活用されます。
区分 主な目的 発行例 特徴
社内向け 従業員・役員の報酬 税制適格ストックオプション、 税務優遇や人材定着効果が期待
(ストックオプション) 無償ストックオプション できる
社外向け 資金調達、業務提携、 株主割当、第三者割当、有償 発行条件により株主総会特別決
(資金調達・提携強化) 譲受防衛 発行 議が必要
無償割当 株主平等の確保 ライツ・オファリング 行使または売却の選択肢を株主
に付与
有利発行 特定者への優遇発行 行使価格を公正価格の9割以下 原則株主総会特別決議が必要
で設定
ストックオプションは、新株予約権を役員や従業員などへの報酬として利用する仕組です。会社の価値が上がるほど得られる利益も増えるため、企業価値向上への動機付けになります。
現金報酬を増やしにくい成長企業でも、将来の株価上昇に参加できる機会を示せます。在籍期間や業績目標を行使条件にすれば、人材の定着にもつながります。
ただし、株価が上がらなければ利益を得られないため、必ず報酬を受け取れる制度ではありません。付与対象者へ、行使条件や税負担を分かりやすく説明することが重要です。
転換社債型新株予約権付社債は、一般にCBと呼ばれ、社債と株式へ転換できる権利を組み合わせた有価証券です。
投資家は、利息や償還を受ける選択肢を持ちながら、株価が上昇した場合には株式への転換を検討できます。株式へ転換できる価値があるため、普通社債より利率を抑えられる場合があります。
一方、転換が進むと発行済株式数が増え、既存株主の持株比率が低下します。
ライツ・オファリングは、既存株主に持株数に応じて新株予約権を無償で割り当てる増資手法です。
権利者は新株予約権を行使して持株比率を維持するか、上場された権利であれば市場で売却するかを選べます。既存株主に増資へ参加する機会を与えやすい方法です。
ただし、未行使が多ければ予定した金額を調達できません。融資や普通株式による増資など、代替手段も用意しておく必要があります。
特定の投資家や事業会社に新株予約権を割り当て、資金調達と業務提携を同時に進める方法もあります。将来の株主候補を絞れるため、資本政策を段階的に進めやすい点が特徴です。
発行条件が特定の相手に特に有利であれば、株主総会の特別決議など、慎重な手続が必要になります。行使価額、行使期間、割当先を含め、発行の合理性を説明できる設計にすることが大切です。
新株予約権の効果は、発行条件によって変わります。発行会社と権利者の立場を分けて考えると、制度の目的が明確になります。
新株予約権の行使によって受け入れた資金には、融資のような元本返済や利息支払がありません。CBでは利率を抑えられる場合があり、第三者割当では提携先との関係を深めながら資本を増やせます。
ただし、発行費用や専門家報酬がかかり、権利行使による希薄化も生じます。「利息がないため、必ず低コストになる」とは限りません。
ストックオプションでは、会社の成長と役員・従業員の利益を結び付けられます。資金に余裕がない段階でも、将来の企業価値を報酬の一部として提示できるため、採用競争で有効な場合があります。
制度の内容が理解されなければ、十分な動機付けにはなりません。行使条件、退職時の扱い、株価下落の可能性、税負担まで説明します。
権利者は、株価が行使価額を下回るときに行使を見送れます。有償で取得した場合の損失は、一般に新株予約権の取得代金までに抑えられます。
反対に、株価が大きく上昇すれば、行使価額との差から大きな利益を得られる可能性があります。
新株予約権から期待する利益は、配当や利息のような継続収入ではなく、値上がりによるキャピタルゲインが中心です。
期待する利益の性質を混同しないことが、資金計画や税務判断の第一歩になります。
新株予約権は、発行した時点では問題が見えにくく、権利行使や会社売却の段階で影響が表面化しやすい制度です。将来の株主構成と1株価値まで確認しておく必要があります。
新株が発行されると、発行済株式数が増えます。既存株主が追加で株式を取得しなければ、議決権割合が下がり、1株当たり利益も小さくなる可能性があります。これが株式の希薄化です。
希薄化は、経営権、配当、会社売却時の受取額にも関係します。発行前に、すべての新株予約権が行使された場合の株式数と持株比率を計算します。
株価が行使価額に届かなければ、権利は行使されにくくなります。資金使途を先に決めていても、実際の入金が遅れたり、調達額が不足したりすることも。
こういうケースは珍しくありません。融資、普通株式による増資、社債など、代わりとなる資金調達手段も検討します。
特定の相手に特に有利な条件で新株予約権を発行する場合、原則として株主総会の特別決議が必要です。取締役は、その条件で発行する必要性を株主へ説明しなければなりません。
有利発行に該当するかは、一律の値引率だけで決まりません。新株予約権の公正価値、行使条件、割当先、発行目的を総合して判断します。
友好的な株主へ新株予約権を割り当て、敵対的な取得者の持株比率を薄める使い方もあります。
ただし、経営陣の地位を守ることだけが目的に見えると、株主との対立を深める可能性があります。発行の必要性と相当性、株主平等への配慮が欠かせません。
M&A実務では、買収防衛策の内容が買い手候補の評価や交渉姿勢に影響することもあります。
役員や従業員への報酬として付与したストックオプションは、会計上、付与日の公正価値を基礎として株式報酬費用を計上することがあります。
現金の支出がなくても会社の利益に影響するため、評価方法や計算の根拠を残しておくことが重要です。上場会社では、発行内容や費用について開示が必要になる場合もあります。
M&A(合併・買収)や第三者承継を考える会社では、新株予約権を「将来の株主になり得る権利」として管理します。買い手企業は、現在の株主名簿だけでなく、将来増える可能性がある株式も確認するためです。
未行使の新株予約権が多い会社では、現在の発行済株式数だけで1株価値を計算すると、経営者の想定と買い手企業の評価がずれることがあります。
買い手企業は、行使可能な新株予約権を含めた完全希薄化後の株式数で価格を検討するのが一般的です。
発行数、行使価額、行使期間、保有者、税制上の区分を一覧にし、すべて行使された後の持株比率と受取額を試算します。退職した役員や従業員が持つ権利の見落としは、意外と多い落とし穴です。
株式譲渡によって会社の株主が変わっても、新株予約権が自動的に消えるわけではありません。買い手企業が100%の支配を希望する場合、残存する新株予約権の処理が成約条件になることがあります。
合併や株式交換などの組織再編では、権利を承継するのか、代わりの権利を交付するのか、買取請求の対象になるのかを確認します。
発行要項に取得条項や組織再編時の取扱いを定めておけば、交渉終盤の混乱を減らせます。
買い手企業の株式報酬への切替え、現金による補償、継続勤務を条件とする報酬など、PMI(M&A後の統合プロセス)も見据えて対応を決めます。
一部の経営者や役職員だけを有利に扱うと、他の従業員との公平性や買収価格が問題になることがあります。契約、労務、税務への影響をまとめて判断することが大切です。
新株予約権を発行するときは、法務、税務、会計、人事を別々に考えず、1つの工程として管理します。
会社法上、新株予約権を発行する際は、権利の数、対象となる株式の種類と数、払込金額、行使価額、行使期間、取得条項などを決めます。
非公開会社か公開会社か、株主に特に有利な条件かによって、必要な決議や通知の内容が変わります。
・発行目的と資金使途
・割当先と付与対象者
・発行価額と行使価額
・行使期間と権利確定条件
・退職、死亡、組織再編時の取扱い
・譲渡制限と会社による取得条件
・すべて行使された後の株主構成と希薄化率
権利者は行使期間内に会社へ行使請求を行い、定められた金額を払い込みます。会社は条件を確認したうえで、新株または自己株式を交付します。
上場会社では、証券会社などを通じて手続を進めるのが一般的です。会社側は、新株予約権者名簿、行使残高、払込、株式交付、登記を一貫して管理し、期限前に権利者へ案内します。
新株予約権者は、いつでも会社へ買取を求められるわけではありません。ただし、合併、会社分割、株式交換、株式移転などで、権利内容に沿った承継がされない場合などには、会社法上の買取請求が認められることがあります。
会社は、組織再編の内容と発行要項を照らし合わせ、通知や公告の期限も確認します。
新株予約権付社債は、社債と新株予約権が一体となった商品です。組織再編や買取請求を検討する際は、新株予約権だけでなく、社債の償還、利息、担保などの条件も確認します。
専門家別の支援内容と相談タイミング
専門家 主な支援内容 相談のタイミング
弁護士 有利発行該当性の判断、株主総会資料作成、買収防衛策設計 発行スキーム検討初期
公認会計士・税理士 公正価値評価、費用計上、税制適格要件確認、行使シミュレーション 条件設計・開示準備
M&Aアドバイザー 敵対的譲受リスク分析、資本政策全体設計 買収防衛策検討時
証券会社 権利行使手続、投資家向け資料作成、市場動向分析 発行直前~行使期間
コンサルティング会社 人材インセンティブ制度設計、株価連動報酬の最適化 報酬政策立案時
同じ新株予約権でも、税制適格、税制非適格、有償型では課税の時期が異なります。制度名だけで判断せず、付与契約、行使条件、取得価額、株価評価を確認することが必要です。
ストックオプションの課税区分
区分 付与時課税 行使時課税 売却時課税 主な税率
有償ストックオプション 課税なし 給与所得 譲渡所得 給与:最大55% 譲渡:約20%
無償・税制適格 課税なし 課税なし 譲渡所得 約20%
無償・税制非適格 課税なし 給与所得 譲渡所得 給与:最大55% 譲渡:約20%
税制適格ストックオプションは、一定の要件を満たすことで、権利行使時の経済的利益に対する給与課税を、株式の譲渡時まで繰り延べる制度です。
株式を譲渡したときに、譲渡価額と行使価額などの差額が、株式等の譲渡所得として課税されます。
主な要件は、付与対象者、譲渡禁止、行使価額、行使期間、年間の権利行使価額、取得した株式の管理方法などです。
行使期間は原則として付与決議の日から2年を経過した日以後10年までですが、一定の設立5年未満の非上場会社では15年まで認められます。
年間の権利行使価額の上限は原則1,200万円です。ただし、2024年度税制改正により、一定の設立5年未満の会社では2,400万円、設立5年以上20年未満の非上場会社などでは3,600万円まで引き上げられています。
会社の設立年数や上場状況などで適用条件が変わるため、発行前に確認します。
無償または有利な条件で付与された税制非適格ストックオプションは、一般に、付与時ではなく行使時に生じた経済的利益が給与所得などとして課税されます。
その後に株式を譲渡したときは、行使時の株価を基礎に計算した譲渡益が課税対象になります。
株式をまだ譲渡していなくても納税資金が必要になることがあり、M&A直前の一斉行使では、源泉徴収や資金準備が課題になる場合があります。
権利者が新株予約権を適正な時価で取得した有償型では、一般に、取得時と行使時には課税されず、取得した株式を譲渡した時点で譲渡益を計算します。
ただし、発行価額が適正な時価であることが前提です。非上場会社では評価根拠が不十分だと、後から給与所得などとして課税されるおそれがあります。
権利を行使して株式を譲渡するのか、新株予約権のまま譲渡または買い取ってもらうのか、別の報酬で補償するのかによって、税務上の扱いは変わります。
税制適格性が維持されるか、誰にどの所得区分で課税されるか、会社に源泉徴収義務があるかを事前に確認します。
個人が株式等を譲渡した場合の譲渡益は、原則として申告分離課税の対象です。所得税、復興特別所得税、住民税を合わせた税率は20.315%ですが、行使時の給与課税は累進税率になるため、手取り額に大きな差が出る場合があります。
発行前から、弁護士、公認会計士・税理士、司法書士、証券会社などの役割を整理し、同じ前提条件で検討することが重要です。
新株予約権は、資金調達、人材の動機付け、既存株主への増資機会の提供に活用できます。一方、未行使による資金不足、株式の希薄化、複雑な税務や会社法上の手続も伴います。M&Aや第三者承継を検討する会社は、発行時から全行使後の株主構成、組織再編時の取扱い、権利者の手取りを試算し、専門家と条件を整えることが大切です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人