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新株予約権の活用術や発行形態と税務ポイントを解説

「新株予約権を活用して資金調達と従業員インセンティブを両立する方法は?」その答えを基礎から税務まで丁寧に解説します。

目次

  1. 新株予約権の基本概念と仕組み
  2. 新株予約権の分類と発行形態
  3. 新株予約権発行によるメリット
  4. 新株予約権発行に伴うデメリットと潜在的リスク
  5. 新株予約権の権利行使プロセス
  6. 新株予約権の買取請求制度
  7. 新株予約権に関する税務処理
  8. 新株予約権発行に関する専門家への相談
  9. まとめ

新株予約権の活用術や発行形態と税務ポイントを解説

新株予約権の基本概念と仕組み

新株予約権は、企業が発行する株式を将来取得できる「予約権」です。権利行使があるまで株式は発行されず、行使時に行使価格の払込と引換えで新株が交付されます。
この特徴により企業は次のような柔軟性を得られます。

  1. 発行時に資金流入を必要としない
    新株予約権の付与段階では現金収入も株式希薄化も発生しないため、直ちに資本構成を変えず将来の資金需要に備えられます。

  2. 権利行使時点で資金を獲得
    株価が行使価格を上回る局面で行使が行われると、企業は即時に払込金を得られます。融資とは異なり返済義務や金利負担がありません。

  3. 株主構成を戦略的にコントロール
    権利行使段階まで株式数が増えないため、経営陣は株主構成や希薄化のタイミングを自社戦略と整合させることが可能です。

  4. 従業員や役員へのインセンティブ
    ストックオプションとして発行すれば、株価上昇益を従業員が享受でき、企業価値向上へのコミットメントが強まります。

株式取得を予約できる柔軟な仕組が特徴

新株予約権の予約機能は、企業が将来の資金需要を踏まえて「いつ」「いくらで」「どのくらい」の株式を発行するかを事前に設計できる点にあります。たとえば成長ステージが不安定なスタートアップでは、当面の希薄化を抑えつつ将来の資本ニーズを満たす手段となります。また、既存株主にとっても行使価格が明示されているため予見可能性が確保され、権利行使の結果として発行済株式総数が増えるリスクを評価しやすくなります。

資金調達から動機付けまで幅広い目的に対応

新株予約権は単なる調達ツールではなく、組織戦略全体を支える多機能プラットフォームと言えます。

  • 資金調達:行使価額の払込により自己資本を厚くし、財務レバレッジを抑えます。

  • 従業員報酬:ストックオプションは株価上昇益と連動し、長期的な価値創出を促します。

  • 敵対的譲受への対応:買収者(譲受者)の保有比率を希薄化し、友好的株主を増やして経営の安定を図ります。

新株予約権の分類と発行形態

新株予約権は発行対象と条件により次のように整理できます。


区分           主な目的        発行例            特徴

社内向け          従業員・役員の報酬 税制適格ストックオプション、   税務優遇や人材定着効果が期待
(ストックオプション)               無償ストックオプション       できる


社外向け                          資金調達、業務提携、   株主割当、第三者割当、有償     発行条件により株主総会特別決
(資金調達・提携強化)      譲受防衛                      発行                                      議が必要


無償割当                          株主平等の確保        ライツ・オファリング             行使または売却の選択肢を株主  
                                                                                                                    に付与

有利発行                          特定者への優遇発行 行使価格を公正価格の9割以下     原則株主総会特別決議が必要
                                                                        で設定

社内向け発行は従業員報酬として機能

社内向け新株予約権は「付与」「権利行使」「売却」の3段階で従業員の報酬設計に活かされます。

  1. 付与段階:株価と同価額またはそれ以上の行使価格で権利を付与し、即時課税は発生しません。

  2. 権利行使段階:適格要件を満たす場合、行使時課税が繰り延べられ、キャッシュアウトなく株式を取得できます。

  3. 株式売却段階:株価が行使価格を上回れば株式譲渡益が生じ、約二〇%の譲渡所得課税のみで済みます。

社外向け発行は資金調達と提携強化が狙い

株主割当は既存株主の持分比率に応じて新株予約権を割当てる手法で、公平性が高く大規模な資金調達に適しています。一方、第三者割当は特定投資家や提携先に新株予約権を発行し、協業を深めたり安定株主を形成したりする目的があります。

無償割当は株主平等を保ちつつ希薄化を抑制

無償割当では既存株主が権利行使するか、行使せず売却するかを選べます。これにより株主は希薄化リスクと経済的利益を自律的に調整でき、企業は公正な条件で大規模な資本調達を達成できます。

有利発行は特別決議が必要な慎重手続

行使価格が市場価格より大幅に低い場合、既存株主の経済的利益を損なうおそれがあり、有利発行に該当します。会社法では株主総会特別決議(3分の2以上の賛成)が求められており、発行理由と発行条件の合理性を説明する責任が生じます。

新株予約権発行によるメリット

企業が新株予約権を採用する主なメリットを3つのカテゴリに整理します。

  1. 資金調達の柔軟性
    段階的調達:権利行使のタイミングは株主が選択するため、企業は資金流入を分散できます。
    低コスト:登録免許税や金利負担がなく、ディスカウントも計画的に設定できます。
    返済不要:自己資本が増加し、デット依存度が下がります。

  2. 敵対的譲受への防衛策
    比率希薄化:潜在的譲受者の議決権が低下し、影響力行使を難しくします。
    コスト上昇:必要株式数が増え、譲受コストが高騰します。
    時間確保:経営陣は対策立案や友好的譲受先の選定を進められます。

  3. 従業員インセンティブ
    株価連動型報酬:株式価値の向上が報酬となるため、経営目標との結び付きが強まります。
    長期コミットメント:行使期間を中長期に設定することで在籍を促し、優秀人材の流出を抑えます。
    キャッシュフロー維持:現金支出を伴わない報酬制度として、成長投資に資金を振り向けられます。

段階的かつ金利負担のない資金調達が可能

新株予約権は社債や融資と異なり、利息支払や元本償還が不要です。権利行使が少額ずつ行われれば、株式市場への供給圧力も緩やかで、株価への影響を抑制できます。

敵対的譲受を抑止し友好的株主を増やす

新株予約権を協力的第三者に割当てることで、経営陣と方針を共有する安定株主が増加します。結果として敵対的提案に対する拒否権が強化され、企業価値保護につながります。

株価上昇と連動した従業員インセンティブを実現

ストックオプションの効果は「報酬としての株価レバレッジ」です。行使価格を超えて株価が上昇すれば、従業員は差額益を得られます。その期待が日々の業務改善や新規事業提案を促す原動力となります。

新株予約権の基本的な4つの機能を再確認

新株予約権には四つの核となる機能があります。

  1. 株式取得の予約
    株価と取得条件が事前に固定されるため、新株予約権者はリスクとリターンを計画的に把握できます。

  2. 柔軟な資金調達
    株価が行使価格を上回る好機を待ったうえで行使が行われるため、企業は好況期に自己資本を確保できます。

  3. インセンティブツール
    行使価格≧付与時株価とする設計により、株価上昇を促す動機付けが働きます。

  4. 譲受防衛策
    未行使の新株予約権が大量に存在すると、潜在的譲受者は行使に伴う希薄化を織り込まざるを得ず、敵対的行動を思いとどまる効果が期待されます。

権利行使までのタイムラインを把握しよう

新株予約権の行使には次のプロセスがあります。

(1) 株主確定日の設定

(2) 割当通知書の発送

(3) 行使申込と払込(Webや書面で実施)

(4) 証券会社による審査

(5) 新株交付で権利行使完了

この流れをあらかじめ明示することで、新株予約権者の手続負担を軽減しスムーズな資金流入を実現できます。

税制適格ストックオプション要件の概要

ストックオプションに税制適格性を持たせるには、以下の主要要件を満たす必要があります。

  • 対象者限定:従業員(取締役含む)に限る。

  • 行使価格条件:付与時株価以上で設定する。

  • 行使期間条件:付与日後2年以上10年以内。

  • 年間行使価額制限:1暦年に1,200万円以下。
    適格要件を満たすことで行使時課税が繰り延べられ、従業員は株式売却まで税負担を先送りできます。企業側も税務リスクを抑制できるため、制度設計時には必ずチェックしましょう。

このように新株予約権は法務・税務・人事と多岐にわたる論点を包含しており、制度設計の段階から各専門家と協働することが成功の前提条件となります。なお、実務では慎重な検討が必須です。

新株予約権発行に伴うデメリットと潜在的リスク

新株予約権は多彩なメリットをもたらす一方で、慎重に管理しなければ企業価値を損なう結果になりかねません。まず理解しておきたいのは、資金調達額の不確実性です。株価が行使価格を下回り続ければ権利は行使されず、期待していたキャッシュインが実現しません。さらに、権利行使が一時期に集中すると短期間に新株が大量に発行され、市場での需給バランスが崩れて株価が急落する恐れもあります。株価下落が起きれば従業員のモチベーション低下や追加調達コストの上昇など、二次的な影響も無視できません。

次に留意すべきは希薄化リスクです。権利行使により発行済株式数が増えると、一株当たりの利益や議決権比率が薄まり、既存株主の経済的利益が減少します。特に大規模な買収防衛策として新株予約権を発行する場合、希薄化の程度が大きくなりがちなため、株主説明を丁寧に行い、規模を適切に設計することが重要です。

会計・税務処理の複雑さもデメリットの一つです。発行条件に応じて新株予約権は“資本性”と“負債性”の要素を併せ持ち、会計基準上の測定方法や開示義務が変化します。税務上も、譲渡課税や給与課税など複数の課税タイミングが存在し、企業と権利保有者の双方に適切な処理が求められます。誤った処理は追徴課税や会計修正リスクに直結するため、専門家の関与が不可欠です。

資金調達額が読めないリスクに備える

資金調達の不確実性に対しては、権利行使価格を複数段階に設定したり、行使期間を幅広く設けたりすることで柔軟性を高められます。また、行使されなかった場合に備え、融資枠や社債発行など代替調達手段を準備しておくとなお安心です。

希薄化対策と投資家コミュニケーション

希薄化への不安を和らげるには、自社株買いの実施余地を確保する、あるいは段階行使制を導入し市場供給量を平準化する方法が有効です。加えて株主総会や適時開示を通じて発行目的・効果・発行規模の合理性を示すことで、投資家の理解を得られます。

新株予約権の権利行使プロセス

権利行使は「割当通知の受領」から「新株交付」まで複数の段階を経ます。まず、会社は株主名簿確定日に基づき新株予約権者を確定し、行使期間・行使価格・払込方法などを記載した行使請求書を送付します。権利行使を希望する者は、期間内に証券会社または発行会社へ行使請求を行い、同時に行使価格を払込みます。その後、証券会社は資金受領と書類不備の有無を審査し、承認後に株式振替機構へ発行指図を行います。最終的に新株が権利者の口座へ振替入庫され、権利行使が完了します。

手続が滞りなく進むよう、会社側は早期にFAQを整備し、問い合わせ窓口を周知することが望ましいです。

行使期間の管理がスムーズな調達を左右する

行使期間を過ぎると権利は失効します。権利者保護のため、会社は行使締切日の数週間前にリマインド通知を送り、複数チャネル(郵送・メール・ポータルサイト)で情報提供を重ねると効果的です。

新株予約権の買取請求制度

会社法は、新株予約権者が不測の不利益を被る事態に備え、「譲渡制限株式化」「全部取得条項付種類株式化」「組織再編」など特定のケースで買取請求を認めています。買取請求が可能になると、新株予約権者は会社に対して適正価格で権利を買い取るよう請求できます。

会社は、吸収合併の効力発生日20日前までに買取請求権の発生事由と行使期限を通知または公告しなければなりません。これを怠ると、情報提供義務違反として損害賠償責任を問われる場合があります。

新株予約権付社債は一体で扱う

新株予約権付社債は社債部分と切り離せず譲渡も一体的に行われるため、買取請求も社債全体を対象とします。例外として、発行時に「新株予約権のみの買取請求を認める」旨を定めていれば、その定めが優先されます。

新株予約権に関する税務処理

特にストックオプションの税務は、付与形態により大きく分かれます。


区分                           付与時課税   行使時課税   売却時課税           主な税率

有償ストックオプション 課税なし     給与所得         譲渡所得         給与:最大55% 譲渡:約20%

無償・税制適格               課税なし         課税なし         譲渡所得         約20% 

無償・税制非適格          課税なし         給与所得      譲渡所得         給与:最大55% 譲渡:約20%


税制適格に設計できれば、従業員は株式売却時まで課税を繰延でき、企業側も社会保険料負担を回避できます。ただし、年間権利行使価額1,200万円以下など複数の厳格要件を満たす必要があり、要件逸脱は重加算税や延滞税のリスクを伴います。

発行企業は会計基準に基づき「株式報酬費用」を発生させる必要がある点にも注意が必要です。公正価値評価モデル(ブラック‐ショールズや二項モデル)を用いて付与日の公正価値を測定し、権利確定期間にわたって費用配分します。

税務上の誤りは多額の追徴リスクに直結

税務調査では、行使価格設定の妥当性や権利行使後の株価評価に誤りが指摘されやすい傾向があります。シミュレーション段階から税理士と連携し、行使シナリオごとの納税額を試算しておくことが、後々の資金繰りトラブルを防ぐ鍵です。

新株予約権発行に関する専門家への相談

新株予約権の導入プロセスは、会社法・金融商品取引法・税務・会計・労務と多領域にわたります。そこで、下記専門家と早期に協働し、役割分担を明確にするとスムーズです。


専門家                   主な支援内容                                                                                     相談のタイミング

弁護士                   有利発行該当性の判断、株主総会資料作成、買収防衛策設計       発行スキーム検討初期

公認会計士・税理士   公正価値評価、費用計上、税制適格要件確認、行使シミュレーション 条件設計・開示準備

M&Aアドバイザー   敵対的譲受リスク分析、資本政策全体設計                                 買収防衛策検討時

証券会社                 権利行使手続、投資家向け資料作成、市場動向分析           発行直前~行使期間

コンサルティング会社   人材インセンティブ制度設計、株価連動報酬の最適化                  報酬政策立案時

社内プロジェクト体制を整え、情報共有を徹底

専門家からの助言を有効活用するには、経営企画・財務・人事・法務といった社内部門がプロジェクトチームを組成し、タイムリーに情報共有できる体制を敷く必要があります。特に行使価格や付与対象範囲の変更は、法務・税務両面へ波及するため、部門横断的な検証が欠かせません。

まとめ

新株予約権は柔軟な資金調達と従業員インセンティブを同時に実現できますが、希薄化や税務処理の複雑さといったリスクも伴います。発行規模・行使条件・税制適格性を慎重に設計し、専門家と連携することで企業価値を最大限高めましょう。

著者|竹川 満  マネージャー/M&Aアドバイザー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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