新株予約権の基本概念から発行形態、メリット・デメリット、権利行使の手続、税務処理まで詳しく解説します。企業の資金調達や従業員のインセンティブ付与に活用できる新株予約権について、専門家への相談ポイントも紹介します。
目次
▶目次ページ:第三者承継とは(M&Aのメリット・デメリット)
新株予約権は、企業が発行する株式を将来的に取得できる権利のことを指します。この権利を保有する者(新株予約権者)は、あらかじめ定められた期間内に権利を行使することで、特定の価格で株式を取得することができます。
新株予約権とは、企業が発行する株式を、将来的に一定の条件で取得する権利のことです。この権利を持つ人(新株予約権者)は、あらかじめ決められた期間内に権利を行使することで、事前に定められた価格で株式を取得できます。
新株予約権の基本的な機能は以下の通りです。
1. 株式取得の予約:新株予約権は、将来の株式取得を「予約」するような性質を持っています。
2. 柔軟な資金調達:企業は新株予約権を活用することで、柔軟な資金調達が可能になります。
3. インセンティブツール:従業員や役員に対するモチベーション向上策として利用できます。
4. 買収防衛策:敵対的買収に対する防衛手段としても活用されます。
新株予約権は、通常の新株発行とは異なり、権利行使によって初めて株式が発行される点が特徴です。このため、企業は将来の資金需要に応じて柔軟に株式を発行することができます。
新株予約権は、発行対象によって大きく分けて社内向けと社外向けの2種類があります。それぞれの特徴や発行形態について詳しく見ていきましょう。
ストックオプションは、企業が役員や従業員に対して発行する新株予約権のことです。主な特徴は以下の通りです。
1. 目的:従業員や役員のモチベーション向上や、優秀な人材の確保・定着を図ることが主な目的です。
2. 権利行使の条件:一定期間の勤務や業績目標の達成などが条件として設定されることが多いです。
3. 価格設定:通常、権利付与時の株価を基準に設定されます。
4. 税制上の取り扱い:税制適格ストックオプションの場合、権利行使時の課税が繰り延べられるなどの優遇措置があ
ります。
ストックオプションを付与された従業員は、自社の株価上昇によって利益を得る機会が与えられるため、企業価値向上への意識が高まることが期待されます。
社外向けの新株予約権発行には、主に以下の2つの形態があります。
1. 株主割当:既存の株主に対して、その持株比率に応じて新株予約権を割り当てる方法です。
2. 第三者割当:特定の第三者に対して新株予約権を割り当てる方法です。
これらの発行形態は、主に資金調達や業務提携の強化、買収防衛策などの目的で利用されます。
無償割当は、既存株主に対して無償で新株予約権を割り当てる方法です。主な特徴は以下の通りです。
1. 公平性:全ての既存株主に平等に権利が付与されます。
2. 株主の選択肢:株主は権利を行使して株式を取得するか、権利を売却して現金化するか選択できます。
3. 希薄化への対応:既存株主の持分の希薄化を最小限に抑えることができます。
特に上場企業で実施される無償割当は「ライツ・オファリング」と呼ばれ、大規模な資金調達の手段として注目されています。
有利発行とは、特定の株主や第三者に対して、公正な価格よりも有利な条件で新株予約権を発行することを指します。
主な特徴と手続は以下の通りです。
1. 定義:通常の価格に対して10%以上安い金額で発行することを指します。
2. 株主総会の承認:有利発行を行う場合、原則として株主総会の特別決議による承認が必要です。
3. 既存株主への影響:既存株主の持株比率の低下や株式価値の希薄化につながる可能性があります。
4. 例外:無償のストックオプションは、一般的に有利発行には該当しないと考えられています。
有利発行は、既存株主の利益を損なう可能性があるため、慎重な検討と適切な手続が求められます。
新株予約権を発行することで、企業は様々なメリットを得ることができます。主なメリットについて詳しく見ていきましょう。
新株予約権の発行は、企業にとって効果的な資金調達手段の一つです。主なメリットは以下の通りです。
1. 段階的な資金調達:新株予約権の権利行使のタイミングに応じて、段階的に資金を調達できます。
2. 柔軟性:市場の状況や企業の資金需要に応じて、柔軟に資金調達の規模や時期を調整できます。
3. 低コスト:新株発行と比較して、初期コストを抑えることができます。
4. 返済義務なし:融資と異なり、調達した資金に返済義務がありません。
5. 金利負担なし:社債発行と比較して、金利負担がありません。
これらの特徴により、特に業績が不安定な企業や成長段階にある企業にとって、新株予約権は魅力的な資金調達手段となります。
新株予約権は、敵対的買収に対する防衛策としても活用されます。主な防衛効果は以下の通りです。
1. 株式保有比率の希薄化:買収者の株式保有比率を相対的に低下させることができます。
2. 買収コストの増加:買収者が必要とする株式数が増えるため、買収コストが上昇します。
3. 時間の確保:買収防衛策として新株予約権を発行することで、経営陣が対応を検討する時間を確保できます。
4. 友好的な株主の増加:協力関係にある第三者に新株予約権を発行することで、安定株主を増やすことができます。
ただし、過度な買収防衛策は株主利益を損なう可能性があるため、適切なバランスを取ることが重要です。
ストックオプションとして新株予約権を発行することで、従業員のモチベーション向上が期待できます。主なメリットは以下の通りです。
1. 企業価値向上への意識:自社の株価上昇が自身の利益につながるため、従業員の企業価値向上への意識が高まりま
す。
2. 長期的なコミットメント:権利行使までに一定期間を設けることで、従業員の長期的な定着を促進できます。
3. 優秀な人材の確保:ストックオプションは、優秀な人材を惹きつける魅力的な報酬制度となります。
4. キャッシュアウトの抑制:現金報酬の代替として機能し、企業のキャッシュアウトを抑制できます。
ただし、株価が下落した場合にはインセンティブ効果が薄れる可能性があるため、他の報酬制度と組み合わせて活用することが一般的です。
新株予約権の発行には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットやリスクも存在します。これらを適切に理解し、対策を講じることが重要です。
新株予約権を用いた資金調達には、以下のような不確実性やリスクが伴います。
1. 権利行使の不確実性:新株予約権者が権利を行使するかどうかは、主に株価の動向に左右されます。株価が行使価
格を下回る場合、権利が行使されない可能性があります。
2. 調達額の変動:権利行使の時期や規模によって、実際の調達額が当初の想定と異なる可能性があります。
3. 失効リスク:権利行使期間内に株価が十分に上昇しない場合、新株予約権が失効し、予定していた資金調達ができ
ない可能性があります。
4. タイミングのズレ:企業の資金需要のタイミングと、新株予約権の権利行使のタイミングがずれる可能性がありま
す。
これらのリスクを軽減するためには、適切な行使価格の設定や、段階的な権利行使期間の設定などの工夫が必要です。また、新株予約権による資金調達を補完する他の資金調達手段も検討することが重要です。
新株予約権の発行は、株価に以下のような影響を与える可能性があります。
1. 希薄化効果:新株予約権が行使されると発行済株式数が増加し、1株当たりの価値が希薄化する可能性があります。
これにより株価が下落するリスクがあります。
2. 需給バランスの変化:大量の新株予約権が行使されると、市場に多くの新株が供給されるため、株価が下落する可
能性があります。
3. 投資家心理への影響:新株予約権の発行は、投資家に対して将来的な株式価値の希薄化を予想させ、株価に悪影響
を与える可能性があります。
4. 短期的な売り圧力:ストックオプションの場合、権利行使後に従業員が株式を売却することで、短期的に株価が下
落する可能性があります。
これらのリスクを最小限に抑えるためには、以下のような対策が考えられます。
1. 適切な発行規模の設定:発行済株式数に対して過度に大きな規模の新株予約権発行を避ける。
2. 段階的な権利行使期間の設定:一度に大量の新株が市場に出回ることを防ぐ。
3. 投資家への丁寧な説明:新株予約権発行の目的や効果について、投資家に対して十分な説明を行う。
4. 自社株買いの検討:必要に応じて自社株買いを実施し、希薄化効果を相殺する。
新株予約権の発行に際しては、これらのデメリットやリスクを十分に考慮し、適切な対策を講じることが重要です。
新株予約権の権利行使は、一定の手続に従って行われます。このプロセスを正確に理解することは、新株予約権者にとっても発行企業にとっても重要です。
新株予約権の権利行使は、通常、以下のような手順で行われます。
1. 株主確定日の設定:
o 発行企業が株主確定日を設定します。
o この日時点の株主名簿に登録されている株主に新株予約権が割り当てられます。
2. 新株予約権の割当:
o 株主確定日時点の株主に対して、新株予約権が割り当てられます。
o 割当比率は企業によって事前に決定されます。
3. 権利行使に必要な書類の送付:
o 発行企業は、新株予約権を割り当てられた株主に対して、権利行使に必要な請求権を送付します。
o この書類には通常、権利行使の期間や価格などの重要な情報が記載されています。
4. 権利行使の申し込み:
o 新株予約権者は、権利を行使する場合、指定された方法(Web、電話、書類など)で申し込みを行います。
o 申し込み時には通常、権利行使価格の支払いも同時に行います。
5. 証券会社による手続と審査:
o 申し込みを受けた証券会社は、必要な手続と審査を行います。
o この過程で、申し込みの内容や支払いの確認などが行われます。
6. 新株の受け取り:
o 審査が通過すると、新株予約権者は新株を受け取ることができます。
o 新株は通常、証券口座に入金されます。
7. 権利行使の完了:
o 新株の発行をもって、権利行使のプロセスが完了します。
このプロセスは証券会社によって若干異なる場合があるため、具体的な手続については各証券会社に確認することが重要です。また、権利行使期間には注意が必要で、この期間を過ぎると権利行使ができなくなります。
新株予約権者は、株価の動向や自身の投資戦略を考慮しながら、適切なタイミングで権利行使を行うことが重要です。一方、発行企業は、スムーズな権利行使プロセスを確保するために、十分な情報提供と適切な体制整備を行う必要があります。
新株予約権の買取請求制度は、特定の状況下で新株予約権者を保護するために設けられた制度です。この制度の詳細について見ていきましょう。
新株予約権の買取請求は、原則として認められません。しかし、以下のような特定の状況下では例外的に認められます。
1. 既存株式の譲渡制限株式化:
o 会社が既存の株式を譲渡制限株式に変更する場合。
o これにより、新株予約権者が将来取得する株式の流動性が制限されるため。
2. 全部取得条項付種類株式への変更:
o 既存の株式を全部取得条項付種類株式に変更する場合。
o この変更により、新株予約権者が将来取得する株式が強制的に取得される可能性が生じるため。
3. 組織再編行為:
o 会社分割、株式交換・移転、吸収合併などの組織再編が行われる場合。
o 特に、新株予約権の内容として完全親会社や新設会社の新株予約権の交付を受ける旨の定めがあるにもかかわら
ず、その条件に合致する新株予約権の承継がされない場合。
4. 譲渡制限株式化:
o 会社が発行している全ての株式について譲渡制限を設ける場合。
o これにより、新株予約権者が将来取得する株式の売却が制限されるため。
これらの状況下では、新株予約権者の権利が著しく制限されたり、不利益を被る可能性があるため、買取請求が認められています。
買取請求を行うことができる権利者は、以下の通りです。
1. 新株予約権者:
o 上記の状況下で不利益を被る可能性のある新株予約権の保有者。
2. 社債権者(新株予約権付社債の場合):
o 新株予約権付社債の場合、社債部分と新株予約権部分は一体として扱われるため、社債権者も買取請求権を有しま
す。
ただし、吸収合併存続会社が交付する新株予約権の内容が、もともとの新株予約権の発行時に定めた「組織再編行為の際の新株予約権の取扱い」の定め(会社法236条1項8号)に合致する場合は、買取請求権は発生しません。
買取請求権が発生する状況下では、会社は新株予約権者に対して適切な情報提供を行う義務があります。
1. 通知義務:
o 吸収合併消滅会社は、効力発生日の20日前までに全ての新株予約権者に対して、吸収合併をする旨と吸収合併存続
会社の商号及び住所を通知する必要があります(会社法787条3項1号)。
2. 公告による代替:
o 上記の通知は、公告をもって代えることが可能です(会社法787条4項)。
3. 情報提供の内容:
o 組織再編の内容
o 買取請求権の行使期間
o 買取価格の算定方法
o その他、新株予約権者が判断するために必要な情報
適切な情報提供は、新株予約権者の権利を保護し、公正な判断を可能にするために重要です。
新株予約権付社債の場合、以下の点に注意が必要です。
1. 一体的取扱い:
o 新株予約権付社債は、新株予約権と社債を分離して譲渡することができません。
o 新株予約権と社債は一体的に取り扱われます。
2. 買取請求の対象:
o 新株予約権付社債に付された新株予約権のみを買取請求することはできません。
o 新株予約権付社債全体の買取請求をする必要があります(会社法787条2項)。
3. 例外規定:
o 新株予約権付社債の内容として、新株予約権のみの買取請求を認める旨の定めがある場合は、その定めに従いま
す。
新株予約権付社債の保有者は、これらの特別な取り扱いを理解したうえで、買取請求権の行使を検討する必要があります。
新株予約権、特にストックオプションの税務処理は複雑であり、正確な理解が重要です。ここでは、主にストックオプションの税務上の取り扱いについて解説します。
ストックオプションの税務上の取り扱いは、主に以下の2つに分類されます。
1. 有償ストックオプション:
o 付与時に適正な対価を支払って取得するストックオプション。
o 付与時には課税関係は生じません。
o 権利行使時に給与所得として課税され、株式売却時にはキャピタルゲイン課税の対象となります。
2. 無償ストックオプション:
o 対価を支払わずに付与されるストックオプション。
o さらに「税制適格ストックオプション」と「税制非適格ストックオプション」に分類されます。
税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションでは、課税のタイミングと税率が異なります。
1. 税制適格ストックオプション:
o 権利行使時には課税されません。
o 株式売却時に譲渡所得として約20%の税率で課税されます。
o 課税のタイミングは1回のみです。
2. 税制非適格ストックオプション:
o 権利行使時に、ストックオプションの行使価額と株式の時価との差額に対して給与所得として課税されます
(最大約55%)。
o 株式売却時に譲渡所得として約20%の税率で課税されます。
o 課税のタイミングは2回あります。
• 付与対象者が従業員であること
• 権利行使価格が付与時の株価以上であること
• 権利行使期間が付与日から2年を経過した日から10年を経過する日までの間に設定されていること
• 年間の権利行使価額の合計が1,200万円を超えないこと など、租税特別措置法の定める要件を満たす必要がありま
す。
これらの税務上の取り扱いの違いは、ストックオプション制度を設計する際や、権利を行使する際の重要な考慮事項となります。企業側は、従業員にとって魅力的でかつ税務上も効率的なストックオプション制度を設計することが求められます。一方、ストックオプションを付与された従業員は、自身の財務状況や将来の株価の見通しを考慮しつつ、税務上最も有利なタイミングで権利を行使することが重要です。
新株予約権の発行は複雑な法的・財務的側面を持つため、専門家への相談が重要です。以下、相談先や相談内容について説明します。
1. M&Aアドバイザー:
o 新株予約権を敵対的買収の防衛策として利用する場合など、M&Aに関連する戦略的アドバイスを提供します。
o 企業価値評価や最適な発行条件の設定などについてもアドバイスが可能です。
2. 弁護士:
o 新株予約権の発行に関する法的側面をサポートします。
o 会社法上の手続や、有利発行に該当するかどうかの判断など、法的リスクの管理を支援します。
3. 公認会計士・税理士:
o 新株予約権の会計処理や税務上の取り扱いについてアドバイスを提供します。
o 特にストックオプションの場合、税制適格要件の確認や従業員への税務アドバイスも重要です。
4. 証券会社:
o 新株予約権の発行実務や権利行使の手続についてサポートします。
o 市場動向や投資家の反応など、実務的な観点からのアドバイスも得られます。
5. コンサルティング会社:
o 新株予約権を含む資本政策全般について、戦略的なアドバイスを提供します。
o 業界動向や競合他社の動きなども踏まえた総合的な判断をサポートします。
専門家への相談は、新株予約権発行の検討初期段階から行うことが望ましいです。これにより、法的リスクの回避や最適な発行条件の設定、税務上の問題の事前対策などが可能となり、スムーズな発行プロセスの実現につながります。
新株予約権は、企業の資金調達や従業員のインセンティブ付与、買収防衛策など、多様な目的で活用される重要な金融商品です。その発行や権利行使には複雑な法的・財務的側面があり、メリットとリスクを十分に理解したうえで、慎重に検討する必要があります。適切に活用すれば、企業価値の向上につながる有効なツールとなりますが、不適切な利用は株主価値の毀損につながる可能性もあります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事