株主割当増資とは?メリット・手続とM&Aでの使い分け
株主割当増資の仕組み、株主が引き受ける場合と見送る場合の影響、会社側のメリット・デメリット、第三者割当増資や公募増資との違いを解説します。失権による持株比率の低下、発行価額、登記、税務、M&Aや事業承継での使い分けまで、経営者が判断すべき要点を分かりやすく整理します。
目次

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「持株比率に応じて新株を割り当てれば、増資後も株主構成は変わらない」と思われがちです。実際に持株比率が維持されるのは、原則として全株主が割り当てられた株式を同じ割合で引き受けた場合に限られます。
株主割当増資とは、会社が既存株主に対し、現在の持株数に応じて新株の割当てを受ける権利を与える資金調達方法です。
例えば、株主Aが60株、株主Bが40株を保有し、新たに100株を募集する場合、Aには60株、Bには40株を申し込める権利を与えます。両者が全て引き受ければ、増資後も持株比率は60%と40%のままです。
一方、Aだけが60株を引き受け、Bが申し込まなければ、増資後はAが120株、Bが40株となり、持株比率は75%と25%に変わります。株主割当増資は株主構成を守りやすい方法ですが、実際の結果は各株主の判断に左右されます。
通常の株主割当増資で株主に与えられるのは、募集株式の割当てを受ける権利です。常に新株予約権が発行されるわけではありません。上場会社が行うライツ・オファリングは、新株予約権を株主に割り当てる別の仕組みとして区別する必要があります。
株主割当増資は、既存株主が会社の成長や再建に必要な資金を負担でき、外部の株主を増やしたくない場面に向いています。
設備投資や運転資金の確保、債務超過の解消、自己資本比率の改善などが代表例です。金融機関へ財務改善を説明する目的で実施することもあります。
ただし、既存株主に資金余力がない場合や、新たな取引先・スポンサーを株主として迎えたい場合には、別の方法が適しています。増資方法は「誰から、いくら集め、株主構成をどうしたいか」から逆算して決めることが大切です。
株主割当増資の通知を受けた株主は、会社の将来性だけでなく、追加出資額や持株比率への影響を見て判断します。
親族株主が多い中小企業では、説明不足のまま期限を迎え、後から「経営への影響力を薄められた」と不満が出ることも。珍しい話ではありません。
株主は申込期日までに所定の申込みを行い、払込期日または払込期間内に代金を払い込みます。割当分を全て引き受ければ、他の株主も同じ割合で引き受ける限り、持株比率を維持できます。
発行価額が時価より低く設定されることもありますが、株主割当増資だから必ず割安になるわけではありません。
特に非上場会社では、株式の市場価格が示されていないため、決算内容、収益力、純資産などを基に発行価額を検討します。安易に低い価格を設定すると、税務上の問題が生じることがあります。
新株の引受けは義務ではありません。申込期日までに手続をしなければ、割当てを受ける権利は失われます。
また、申込みをしても、期限内に出資を履行しなければ新株の株主となる権利を失います。
他の株主が新株を引き受けると、何もしなかった株主の持株比率は相対的に下がります。議決権、配当を受ける割合、将来の会社売却時に受け取る対価への影響も確認が必要です。
株式数が増えるため、業績が変わらなければ1株当たり利益や1株当たり価値が薄まる場合もあります。
通常の株主割当増資における割当ての権利は、自由に市場で売買できるとは限りません。
上場型のライツ・オファリングなど、譲渡可能な新株予約権が取引所に上場される仕組みであれば、権利を行使せず市場で売却して現金化できる場合があります。
株主が選べる対応は制度によって異なります。通知書に記載された権利の種類、申込期日、払込期日、売却の可否を確認し、通常の株主割当増資とライツ・オファリングを混同しないことが重要です。
資金が必要だからといって、株主割当増資が常に安全な選択とは限りません。経営者が見るべきなのは、調達額だけでなく、株主間の公平感と増資後の意思決定です。
増資による資金は借入金と異なり、原則として返済期限や利息がありません。
自己資本が増えることで、債務超過の解消や自己資本比率の改善につながり、金融機関や取引先からの信用を補う効果も期待できます。
全株主が持株比率どおりに引き受ければ、経営権のバランスを大きく変えずに資金を調達できます。外部株主の参加を避けたいオーナー企業にとっては、重要な利点です。
第三者割当増資では、取引先や投資会社などの新たな株主が加わります。出資割合によっては、重要な経営判断に新株主の意向が強く反映されることもあります。
株主割当増資では、原則として既存株主だけが対象です。全員が予定どおり引き受ければ、従来の株主構成を維持しながら資金を調達できます。
株主割当増資では、割当先が既存株主に限られます。会社が必要とする金額と、株主が実際に負担できる金額が一致しなければ、予定額を集められません。
株主が多数に分散している会社では、事前説明、申込書の回収、入金確認にも時間がかかります。公募増資や第三者割当増資と比べ、会社が出資を求められる範囲が狭いことも弱点です。
また、一部の株主だけが引き受けると持株比率が変動します。経営陣にその意図がなくても、結果として特定株主の影響力が強まることもあります。
増資前に、全株主の引受意向と資金余力を個別に確認しておく必要があります。
増資方法の名称だけを比べても、自社に合う手法は決まりません。
「会社へ資金を入れたいのか」「新しい株主を迎えたいのか」「経営者個人が株式を換金したいのか」によって、選ぶべき方法は変わります。
公募増資は、不特定多数の投資家に新株の取得を募る方法です。
上場会社では大規模な資金調達に使われますが、募集や情報開示に相応のコストがかかります。また、既存株主の持株比率や1株当たり価値が低下する可能性があります。
非上場の中小企業が日常的に選ぶ方法ではありません。
第三者割当増資は、取引先、金融機関、役員、投資会社、買い手企業など、特定の相手に新株を割り当てる方法です。
資本業務提携や子会社化を進めたい場合に使いやすく、M&A(合併・買収)の手法として利用されることもあります。
一方、既存株主の持株比率は低下します。買い手企業の出資割合によっては、経営権が実質的に移ることもあるため注意が必要です。
発行価額が低すぎる場合には、会社法上の手続や税務上の利益移転も問題になります。
株式譲渡では、経営者などの既存株主が保有株式を買い手へ売却します。
代金は会社ではなく、株式を売った株主が受け取ります。そのため、会社の資金調達を目的とする増資とは性質が異なります。
後継者不在を解決したい、経営から退きたい、創業者として株式の譲渡対価を受け取りたい場合には、株主割当増資より株式譲渡が検討対象になります。
なお、借入れは株主構成を変えずに資金を調達できますが、元本の返済と利息の負担が生じます。調達後の資金繰りまで含めて比較することが欠かせません。
株主間では合意できていたのに、定款や登記の確認が遅れ、払込日を延期するケースがあります。
株主割当増資では、経営上の判断と会社法上の手続を同時に設計しなければなりません。
会社は、募集株式の数、払込金額またはその算定方法、現物出資の有無、払込期日または払込期間、増加する資本金・資本準備金などを決めます。
誰が募集事項を決定するかは、公開会社か非公開会社か、取締役会を設置しているか、定款にどのような定めがあるかによって異なります。
非公開会社では、原則として株主総会の特別決議が必要です。ただし、定款の定めなどにより、取締役や取締役会に決定を委任できる場合があります。
過去に使った議事録のひな型をそのまま利用せず、自社の機関設計と定款を先に確認することが重要です。
会社は、原則として申込期日の2週間前までに、対象となる株主へ募集事項、割当てを受けられる株式数、申込期日を通知します。
株主は申込期日までに申込みを行い、払込期日または払込期間内に出資を履行します。会社の承諾を得れば、書面に代えて電磁的方法を使える場合もあります。
通知の期限を誤ると、増資のスケジュール全体を見直すことになりかねません。株主総会や取締役会の日程から逆算して進めます。
定款に定めた発行可能株式総数を超えて、新株を発行することはできません。
増資後の発行済株式総数が上限を超える場合は、先に株主総会で定款を変更し、発行可能株式総数を増やします。定款変更に伴う登記も必要です。
特例有限会社では、発行可能株式総数と発行済株式総数が同数となっていることが多いため、通常は増資前に定款変更が必要になります。
払込みによって資本金の額や発行済株式総数が変わったときは、原則として変更から2週間以内に登記します。
資本金増加の登録免許税は、増加した資本金の額の0.7%です。計算した税額が3万円未満の場合は、3万円となります。
株主全員に同じ条件で権利を与えても、発行価額が低く、一部の株主が申込みや払込みをしなければ、引き受けた株主へ経済的な価値が移ることがあります。
特に同族会社で親族間の持株比率が変わる場合には、贈与税などの課税関係が問題になる可能性があります。
意外と多い落とし穴です。
増資前後の1株当たり価値、各株主の持株比率、株主間の親族関係を数値で確認し、発行価額を決めた根拠を残しておくことが重要です。
増資によって資本金が1億円を超えると、法人税の軽減税率や交際費等の特例など、中小法人向けの税務上の取扱いが変わる場合があります。
ただし、資本金が1億円以下であっても、大法人との資本関係や所得金額などにより、特例を利用できないことがあります。資本金の金額だけで判断することはできません。
払込額の全てを資本金とせず、法律上認められる範囲で一部を資本準備金とする設計も考えられます。
ただし、登記、法人事業税、金融機関からの見え方などにも影響します。増資額を決める段階で、税負担を事前に試算しておく必要があります。
株主割当増資は、それ自体が会社売却となる手法ではありません。
それでも、M&Aや第三者承継の前後に財務や株主構成を整える場面では、重要な選択肢になります。
既存株主の支援で財務を立て直したい場合は株主割当増資、新しいスポンサーから会社へ資金を入れたい場合は第三者割当増資、経営者が株式を売却して会社を承継したい場合は株式譲渡が基本的な比較軸です。
例えば、従業員を後継者にしたくても、その従業員がまだ株主でなければ、株主割当増資だけで株式を取得させることはできません。
先に株式譲渡を行うのか、第三者割当増資によって新たな株主にするのか、資金調達と事業承継を分けて考える必要があります。
買い手企業によるデューデリジェンスでは、定款、株主総会・取締役会の議事録、株主への通知、申込書、払込証明書、変更登記、株主名簿などが確認されます。
手続の不足や発行価額の根拠が曖昧であると、株主関係や税務上のリスクとして、譲渡条件の交渉に影響する可能性があります。
増資の目的、資金使途、株主ごとの引受状況を一つの資料に整理しておくと、買い手企業への説明がしやすくなります。
資金を入れた事実だけでなく、その資金が業績や財務内容の改善につながったかどうかも重要です。
自己株式の取得・消却・処分は、株主への資金還元、株式数の調整、役員や従業員への株式交付などに使われる別の資本政策です。
会社が個人株主から自己株式を取得する場面では、株主側にみなし配当が生じることもあります。
株主割当増資と自己株式の取引では、会社へ資金が入るか、発行済株式総数が増減するか、株主に課税が生じるかが異なります。
M&Aや事業承継の前に複数の取引を組み合わせる場合は、それぞれの手続の目的を明確にします。
株主割当増資は、既存株主から返済不要の資金を集め、全員が同じ割合で引き受ければ株主構成を維持しやすい方法です。ただし、一部株主が引き受けない場合の持株比率低下、発行価額による利益移転、資本金増加に伴う税務、定款・登記の確認が欠かせません。M&Aや事業承継も見据え、資金調達の目的と望ましい株主構成を整理し、他の手法と比べて判断することが重要です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人