M&A買手企業の業種選択|同業・異業種・ファンドの特徴を解説

M&A買手の業種選択は重要です。同業種、異業種、投資ファンドそれぞれのメリットとデメリットを解説。適切な譲渡先選びのポイントを紹介し、成功するM&Aへの道筋を示します。

目次

  1. M&Aにおける買手企業の業種分類
  2. 買手企業の業種別メリットとデメリット
  3. まとめ

M&Aにおける買手企業の業種分類

M&A(合併・買収)において、買手企業の業種は重要な要素です。売り手企業にとって、どの業種の企業に譲渡するかによって、M&A後の事業展開や企業文化に大きな影響を与える可能性があります。ここでは、M&Aにおける買手企業の業種分類について詳しく見ていきましょう。

買手企業の3つの分類

M&Aにおける買手企業は、主に以下の3つに分類されます:

1. 同業種企業

2. 異業種企業

3. 投資ファンド

それぞれの買手には、固有の特徴やアプローチがあり、売り手企業にとっては譲渡先を選ぶ際の重要な判断材料となります。

実際の買手企業の業種傾向

実際のM&A案件では、買手企業と売り手企業の業種関連性にどのような傾向があるのでしょうか。調査結果によると、以下のような傾向が見られます:

買手として意向のある企業では、「同業種」を希望する割合が54.2%と最も高く、次いで「異業種・業種関連あ
   り」が37.6%となっています。

一方、売り手として意向のある企業では、「異業種・業種関連なし」を希望する割合が30.7%と、買手企業と比較
   して高くなっています。

これらの数字から、買手企業は自社と関連のある業種を希望する傾向が強いのに対し、売り手企業はより幅広い業種の企業を検討している様子がうかがえます。

M&Aを検討する際は、これらの傾向を踏まえつつ、自社の状況や目的に最も適した買手企業を選定することが重要です。

    M&A実施意向別、希望する相手先企業の業種

買手企業の業種別メリットとデメリット

M&Aにおいて、買手企業の業種によってさまざまなメリットとデメリットがあります。ここでは、同業種企業、異業種企業、投資ファンドのそれぞれについて、詳しく見ていきましょう。

同業種企業が買手となる場合

同業種企業が買手となる場合、以下のようなメリットとデメリットがあります。

メリット:

1. スケールメリットの獲得

2. 業界や事業への深い理解

3. M&A後の引継ぎや後任管理者の派遣がスムーズ

4. 事業シナジーの発揮しやすさ

デメリット:

1. 経営方針や社風、営業手法が買手企業のスタイルに変更される可能性

2. M&A後に合併される可能性が高い

3. 売り手企業の経営陣が残留する可能性が低い

4. 特徴や強みが不足している場合、評価が低くなる可能性

同業種企業への譲渡は、特に調剤薬局、医療機器卸、食品卸、食品小売、運送業など、スケールメリットが効果的な業種で多く見られます。これらの業種では、大手企業による業界再編が加速しており、M&Aの動機が後継者問題よりも、大手との提携や統合による効率化、スケールメリットの獲得である場合も多いです。

異業種企業が買手となる場合

異業種企業が買手となる場合、以下のようなメリットとデメリットがあります。

メリット:

1. 売り手企業の経営理念、社風、営業手法などが継続されやすい

2. 同業とは異なるシナジー効果(クロスセルなど)が期待できる

3. 既存事業との競合(カニバリゼーション)が少ない

デメリット:

1. 後継管理者の人選が難航する可能性

2. スケールメリットが期待しにくい

3. 経営続投の場合、買手企業から任せきりにされる可能性

異業種企業への譲渡の大きなメリットは、売り手企業の自主性が尊重されやすい点です。買手企業は売り手事業の経営経験がないため、売り手の経営理念や商売スタンスなどが継続されるケースが多いです。

ただし、非同業のM&Aでは、後任経営者(業界経験、経営経験のある人材)を派遣してもらえない可能性もあります。売り手企業の社内に後継経営者として適切な人材がおらず、後継社長を買手企業から派遣してもらいたい場合は、その旨をしっかり伝え、買手企業と認識のズレがないようにする必要があります。

投資ファンドが買手となる場合

投資ファンドが買手となる場合、以下のようなメリットとデメリットがあります。

メリット:

1. 資金調達が可能

2. 適正な譲渡価格で評価されやすい

3. 売り手企業の経営理念、社風、営業手法などが継続されやすい

4. 経営に継続して携わることができるケースが多い

デメリット:

1. 資本面以外でのシナジー効果が薄いケースが多い

2. 経営者が不在になるリスクがある

3. 経営が不安定になる可能性

4. 従業員の賛同を得られないケースがある

投資ファンドは、投資先などによって複数の種類に分かれます。主な種類には以下があります:

1. ベンチャーキャピタル:成長性の高いベンチャー企業に投資

2. バイアウトファンド:成熟企業の株式に投資し、経営に関与

3. MBOファンド:経営陣による企業買収(MBO)を支援

4. 企業再生ファンド:経営不振企業に投資し、再生を支援

投資ファンドへの譲渡は、資金調達や経営の継続性という点でメリットがありますが、従業員の理解を得ることが難しいケースもあります。

まとめ

M&Aにおける買手企業の業種選択は、売り手企業の将来的な発展に大きく影響します。同業種、異業種、投資ファンドのそれぞれに特徴があり、メリット・デメリットを十分に理解した上で選択することが重要です。また、買手企業のビジョンやM&Aの目的について十分な説明を受け、慎重に検討することが必要です。M&A仲介会社や買手企業とよく相談し、幅広い選択肢の中から最適な譲渡先を見つけることが、成功するM&Aへの近道となります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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