中小企業・中堅企業の法的定義と特徴を詳しく解説します。資本金や従業員数による分類、中小企業基本法の役割、直面する課題まで、幅広く情報を提供します。
目次:
中小企業は、日本経済の重要な担い手として位置づけられており、その定義は中小企業基本法によって明確に規定されています。この定義は、企業の規模を「資本金または出資総額」と「常時使用する従業員数」の2つの観点から判断します。
中小企業基本法における中小企業(中小企業者)の定義は以下の通りです:
1. 製造業その他の業種
• 資本金3億円以下 または 従業員300人以下
2. 卸売業
• 資本金1億円以下 または 従業員100人以下
3. 小売業
• 資本金5,000万円以下 または 従業員50人以下
4. サービス業
• 資本金5,000万円以下 または 従業員100人以下
この定義に基づくと、上記の条件のいずれかを満たす企業が中小企業として分類されます。つまり、資本金が基準を超えていても、従業員数が基準内であれば中小企業とみなされる場合があります。
中小企業の特徴としては、以下のような点が挙げられます:
1. 機動性:比較的小規模であるため、市場の変化に柔軟に対応できる
2. 地域密着性:地域経済の活性化に大きく貢献している
3. 雇用創出:日本の雇用の大部分を担っている
4. 多様性:さまざまな業種や事業形態が存在する
中小企業の定義を理解することは、国の各種支援策を有効活用する上で非常に重要です。この定義に基づいて、中小企業向けの補助金、融資、税制優遇などの施策が設計されているため、自社がどのカテゴリーに属するかを正確に把握しておくことが求められます。
▶目次ページ:事業承継とは(事業承継の問題・課題)
小規模企業者は、中小企業の中でもさらに規模の小さい事業者を指します。中小企業基本法では、小規模企業者を以下のように定義しています:
小規模企業者の特徴として、以下の点が挙げられます:
小規模企業者は、日本の企業数の大半を占めており、地域経済や雇用に大きな役割を果たしています。しかし、経営資源の制約や後継者問題など、さまざまな課題に直面していることも事実です。
中堅企業は、中小企業と大企業の間に位置する企業群を指します。政府や経済産業省は、中堅企業を以下のように定義しています
出所:中堅企業等の成長促進に関するワーキンググループ「中堅企業成長促進パッケージ」
・常時使用する従業員数が2,000人以下の会社等(中小企業者を除く)
中堅企業の特徴と役割には、以下のようなものがあります:
しかし、日本では中堅企業から大企業へと成長する企業の数が、米国や中国と比較して少ないという課題があります。この課題に対応するため、政府は2024年を「中堅企業元年」として位置づけ、「中堅企業成長促進パッケージ」を発表しました。
大企業について、明確な法的定義は存在しませんが、一般的には中小企業や中堅企業以外の規模の大きい企業を指します。具体的には、以下の条件を満たす企業が大企業とされます:
大企業の特徴としては、以下のような点が挙げられます:
日本の企業構造を見ると、大企業の数は全体の中でごくわずかです。具体的な内訳は以下の通りです:
このように、数の上では中小企業が圧倒的多数を占めていますが、大企業は経済規模や雇用、技術革新などの面で大きな影響力を持っています。
中小企業基本法による中小企業者の定義は、国の様々な中小企業政策の基準となります。しかし、この定義を適用する際には、いくつかの重要な留意点があります。
1. 業種による基準の違い
• 製造業、卸売業、小売業、サービス業で、資本金と従業員数の基準が異なります
• 自社の主たる事業が何に分類されるかを正確に把握する必要があります
2. 資本金と従業員数の関係
• どちらか一方の基準を満たせば中小企業と判断されます
• 例えば、資本金が基準を超えていても、従業員数が基準内であれば中小企業とみなされます
3. グループ企業の取り扱い
• 大企業の子会社や関連会社の場合、中小企業とみなされない場合があります
• 出資比率や役員の兼任状況などを確認する必要があります
4. 時期による判断の変化
• 成長や事業拡大により、中小企業の基準を超える可能性があります
• 定期的に自社の状況を確認し、適切な判断を行うことが重要です
これらの点に注意しながら、自社が中小企業に該当するかどうかを正確に判断することが、各種支援策を有効活用する上で非常に重要となります。
中小企業基本法による中小企業者の定義は、あくまで原則的なものです。実際には、法律や制度によって「中小企業」の範囲が異なる場合があります。以下に具体例を示します:
1. 法人税法における中小企業者(中小法人)の定義
• 資本金の額等が1億円以下であるもの
• 資本等を有しない法人
• ただし、資本金の額等が5億円以上である法人等との間に完全支配関係がある法人は除外されます
この定義に該当する中小法人は、以下のような優遇措置を受けることができます:
• 軽減税率の適用:所得800万円以下の部分について、税率19%(さらに時限的に税率15%)
• 貸倒引当金:一定の限度額の範囲内で損金算入可能
• 欠損金関係:欠損金繰越控除について、所得金額の100%まで損金算入可能。また、欠損金繰戻還付(1年間)
が可能
2. 中小企業等経営強化法における中小企業者の定義
• 中小企業基本法の定義に加え、一部の業種で従業員数の基準が拡大されています
3. 小規模企業共済法における小規模企業者の定義
• 従業員数のみで判断され、業種によって基準が異なります
このように、中小企業向けの各制度や施策を活用する際には、それぞれの対象となる中小企業者の定義を確認することが重要です。自社がどの定義に該当するかを正確に把握し、適切な支援を受けられるよう注意を払う必要があります。
中小企業基本法は、日本の中小企業政策の根幹をなす重要な法律です。この法律の主な役割と内容は以下の通りです:
1. 中小企業政策の基本理念の提示
• 中小企業の自主的な努力を支援し、独立した中小企業の発展を促進する
• 経済の健全な発展と国民生活の向上に寄与することを目指す
2. 中小企業者の定義の明確化
• 業種別に資本金または従業員数による基準を設定
• 中小企業施策の対象を明確にする
3. 基本的施策の方向性の提示
• 中小企業の経営の革新および創業の促進
• 中小企業の経営基盤の強化
• 経済的社会的環境の変化への適応の円滑化
4. 国、地方公共団体、中小企業者の責務の明確化
• 各主体の役割と責任を明確にし、協力体制を構築する
中小企業基本法は、1963年に制定され、1999年に大幅な改正が行われました。この改正により、中小企業政策の基本的な考え方が「格差の是正」から「多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展」へと転換されました。
中小企業基本法では、中小企業政策の基本方針として以下の3つの柱を掲げています:
1. 経営の革新及び創業の促進並びに創造的な事業活動の促進
• 新製品・サービスの開発や新たな生産方式の導入を支援
• 起業家精神の涵養と新規創業の促進
• イノベーションの推進と新たな事業分野への進出支援
2. 経営資源の確保の円滑化及び取引の適正化による経営基盤の強化
• 資金調達、人材確保、技術力向上などの支援
• 下請取引の適正化や取引条件の改善
• 事業承継の円滑化支援
3. 経済的社会的環境の変化への適応の円滑化
• グローバル化や技術革新への対応支援
• 災害対策や事業継続計画(BCP)の策定支援
• 地域経済の活性化への貢献
これらの基本方針に加えて、「資金の供給の円滑化及び自己資本の充実」も重要な施策として位置づけられています。これらの方針に基づいて、具体的な予算措置や支援施策が実施されています。
中小企業基本法に基づき、国は多様な中小企業向け支援施策を実施しています。主な支援施策には以下のようなものがあります:
1. 補助金・助成金
• ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
• IT導入補助金
• 事業承継・引継ぎ補助金
2. 融資・保証
• 日本政策金融公庫による低利融資
• 信用保証協会による債務保証
• セーフティネット貸付
3. 税制優遇
• 中小企業投資促進税制
• 事業承継税制
• 研究開発税制
4. 経営支援
• よろず支援拠点による無料経営相談
• 事業承継・引継ぎ支援センターによる支援
• 認定経営革新等支援機関による経営改善計画策定支援
5. 人材育成・確保支援
• 中小企業大学校による研修
• ジョブカードを活用した人材育成
• 外国人材の活用支援
これらの支援施策は、中小企業の経営課題や発展段階に応じて選択し、活用することができます。例えば、新たな事業展開を図る場合には補助金や融資を、技術力向上を目指す場合には研究開発税制や人材育成支援を利用するなど、自社のニーズに合わせた支援を受けることが可能です。
中小企業は日本経済の重要な担い手ですが、同時にさまざまな課題に直面しています。主な課題には以下のようなものがあります:
1. 人材確保・育成
• 少子高齢化による労働力不足
• 大企業との人材獲得競争
• 専門的スキルを持つ人材の不足
2. 資金調達
• 信用力の不足による融資の困難さ
• 担保や保証人の確保の難しさ
• 資金繰りの悪化リスク
3. 技術革新への対応
• デジタル化・IT化の遅れ
• 新技術導入のための投資資金の不足
• 技術者の確保・育成の困難さ
4. 国際化への対応
• 海外市場開拓の難しさ
• 為替リスクへの対応
• 国際的な競争の激化
5. 事業承継
• 後継者不足
• 事業承継に伴う税負担
• 経営ノウハウの継承の難しさ
これらの課題に対応するため、中小企業は自助努力と共に、政府の支援施策を積極的に活用することが求められます。
働き方改革関連法の施行により、中小企業も労働環境の改善に取り組む必要性が高まっています。主な対応ポイントは以下の通りです:
1. 長時間労働の是正
• 時間外労働の上限規制への対応
• 勤務間インターバル制度の導入検討
2. 年次有給休暇の取得促進
• 年5日以上の年次有給休暇の確実な取得
3. 同一労働同一賃金への対応
• 正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の解消
4. 柔軟な働き方の促進
• テレワークの導入検討
• フレックスタイム制の活用
5. 労働生産性の向上
• 業務効率化のためのIT導入
• 多能工化や業務の標準化の推進
これらの対応は、従業員の満足度向上や人材確保にもつながる一方で、中小企業にとっては負担増加の要因にもなり得ます。政府の支援策を活用しながら、自社の状況に応じた適切な対応を検討することが重要です。
新型コロナウイルス感染症の流行は、多くの中小企業に深刻な影響を与えました。主な影響と対策は以下の通りです:
1. 売上減少への対応
• 新規顧客開拓や新商品開発
• オンライン販売の強化
• コスト削減の徹底
2. 資金繰り対策
• 政府系金融機関による実質無利子・無担保融資の活用
• 民間金融機関による既存借入の返済猶予の相談
• 各種補助金・助成金の活用
3. 事業モデルの見直し
• テレワークの導入
• デジタル化の推進
• 新規事業への進出検討
4. 感染防止対策
• 従業員の健康管理の徹底
• 顧客向け感染防止策の実施
• BCPの策定・見直し
コロナ禍で導入された「ゼロゼロ融資」の返済が始まっており、多くの企業が返済や借り換えに直面しています。今後は、単なる延命策ではなく、事業再構築や生産性向上といった根本的な経営改善が求められます。
事業承継は多くの中小企業にとって喫緊の課題となっています。後継者不在率は改善傾向にあるものの、依然として高い水準にあります。円滑な事業承継を実現するための主な取り組みは以下の通りです:
1. 早期の計画策定
• 5年から10年程度の長期的な視点での事業承継計画の作成
• 後継者の選定と育成計画の立案
2. 後継者の育成
• 経営者としての知識・スキルの習得支援
• 徐々に経営権を委譲し、実践的な経験を積ませる
3. 財務・税務対策
• 自社株式の評価・集約
• 事業承継税制の活用検討
• 個人保証の解除や見直し
4. 従業員・取引先への対応
• 後継者の紹介と信頼関係の構築
• 承継後の事業方針の明確化と共有
5. M&Aの検討
• 親族内承継が困難な場合の選択肢として
• 第三者承継や従業員承継の可能性の検討
6. 外部専門家の活用
• 事業承継・引継ぎ支援センターの利用
• 税理士や弁護士など専門家へのコンサルティング依頼
政府も事業承継問題の重要性を認識し、「事業承継・引継ぎ補助金」をはじめとする様々な支援策を実施しています。これらの支援策を有効活用しながら、計画的に事業承継を進めることが重要です。
中小企業は日本経済の基盤として重要な役割を果たしていますが、同時に多くの課題にも直面しています。中小企業基本法に基づく様々な支援施策を活用しつつ、働き方改革への対応、新型コロナウイルスの影響への対策、円滑な事業承継の実現など、時代の変化に適応していくことが求められます。経営者は自社の強みを活かしながら、これらの課題に戦略的に取り組むことで、持続的な成長と発展を実現することができるでしょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事