PMIとは? M&A後の統合手順と失敗を防ぐポイントを解説

M&A後にはPMIによる経営統合が欠かせません。PMIとは、譲受後の組織やシステム、人事などを融合し、シナジー(相乗効果)を最大限に引き出すための取り組みです。本記事ではPMIの意味や必要性、失敗しないための手順や事前準備のポイントなどを解説します。

目次

1.PMIとは
2.なぜPMIが重要か
3.PMIが難しい理由と統合の全体像
4.PMIの基本的な流れ
5.PMIで失敗しないためのポイント
6.具体的なPMI事例
7.PMIを進める際の課題
8.PMIを成功させるポイント
9.M&Aの検討とPMIの始めどき
10.まとめ

▶目次ページ:企業買収(経営統合)

PMIとは

PMIは「Post Merger Integration」の略称で、M&A後の経営統合プロセスを意味します。M&Aで譲受企業と譲渡企業が一つの組織として活動していくためには、経営方針やITシステム、人事制度、企業文化などを融合させる必要があります。これら多岐にわたる「統合」の作業全般がPMIと呼ばれるものです。

M&Aにおいては、企業同士が単純に組み合わさるだけでは、本来得られるはずのシナジー(相乗効果)を発揮できない可能性が高いです。そこでPMIを計画し、譲受企業・譲渡企業のリソースを最大限に活かすことで、経営戦略の具体化や企業価値の向上が期待できます。たとえば、両社のIT環境を統合したり、互いの事業や組織体制を分析して新たな方向性を設定したりすることで、M&Aを成功に導く可能性が大きく高まります。

また、M&A後には従業員が新しい環境に戸惑ったり、不満を抱いたりするケースも少なくありません。PMIは、こうした従業員の意見や不安を汲み取りながら、新たな組織運営のゴールや役割分担などを明確にしていくための指針でもあります。単なる事業施策ではなく、企業文化や社員の働き方まで含めた「総合的な統合プロセス」と捉えることが大切です。

なぜPMIが重要か

M&Aの目的は単に会社を譲受することではなく、統合後に得られるシナジー(相乗効果)による経営の強化や新規事業の開拓です。しかし、クロージング(成約)が完了して「はい、これから一緒に頑張りましょう」と合流しただけでは、思ったほどの成果が得られないことが多くあります。そこで重要になるのが、次のようなPMIの機能です。


シナジーを早期に実現する

M&Aを進める背景には、両社の強みを掛け合わせてコスト削減や売上拡大を図るなどの目的があります。PMIをしっかり計画・実行することで、具体的な中長期プランを設定し、シナジーを早期に得られる可能性が高まります。


従業員の不満を解消し、モチベーションを維持する

M&Aによって別々だった組織がひとつになるため、従業員の間では戸惑いや不安が発生しやすくなります。PMIでは、そうした従業員の声を反映させ、待遇や業務スタイルを必要に応じて調整することで、モチベーション低下を防ぐことができます。


リスクを減らし、譲受後の業務を円滑化する

PMIの準備が不十分だと、異なる業務システムのまま走り出して混乱したり、企業文化の違いによる衝突が大きくなったりする恐れがあります。M&Aによる成果を最大化するためには、PMIのプロセスを通じたリスク管理が不可欠です。


M&Aで得られる成果を「計画段階の想定」から「現実のもの」にするためには、早い時期からPMIを意識し、譲受企業と譲渡企業の両方で準備を進める必要があるといえます。

PMIが難しい理由と統合の全体像

M&AにおいてPMIが重要な一方で、「PMIは難しい」とよくいわれます。これは、PMIの作業範囲が経営・人事・システム・企業文化などにわたって広く、さらにそれぞれの部署で責任者や担当者が変わる可能性があるためです。特に中小企業のM&Aでは、譲受企業と譲渡企業それぞれにPMIを主導できる人材が少なく、現場レベルで混乱が生じがちです。


そこでPMIの全体像として、以下の領域をバランスよく統合・検討することが必要となります。


企業文化や経営理念・経営方針

どちらか一方の文化を押し付けるのではなく、双方の良い部分をどう取り入れていくか検討することが大事です。


経営体制(会議体や業績指標など)

役員構成や経営陣がどのように意思決定を進めるか、会議の頻度や業績評価を行う指標をどう設定するかを含めて、全社的な運営ルールを再設計します。


人事や労務(役員人事、制度統一、待遇の統一など)

役員人事の変更をはじめ、派遣される従業員を受け入れる体制、人事制度の違い、就業規則や給与規則の再設定など、多面的な調整が必要です。


組織制度(決裁権限や社内規程など)

中小企業の場合、オーナー1名が決裁権を集中していたケースなどが多いので、買収(譲受)後の組織ルールを新しく構築し直すこともあります。


経理・財務(月次決算のやり方、遊休資産の取り扱いなど)

月次決算を導入するのか、あるいは四半期決算をどのように開示するのかなど、すり合わせが必要です。


社内システム(ITインフラ、決算システムなど)

どちらかが使っているITシステムに合わせるか、あるいは全く新しいシステムを導入するかを検討します。特に上場会社が譲受企業にいる場合は連結決算のタイミングも重視されます。


事業内容(製品やサービスの統廃合、取引先の見直しなど)

重複している取引先・製品群の調整や、新体制に適した取引先選定を行う必要があります。


これらすべての統合領域について、事前のデューデリジェンスで得られた情報を踏まえながら、M&A後の姿を具体的に描いていくのがPMIの第一歩です。

PMIの基本的な流れ

PMIを円滑に進めるには、最初に全体像を把握したうえで、段階的に統合計画を立てることが大切です。代表的な進め方としては、以下のステップが挙げられます。


M&A後の経営統合方針を策定する

最初に、M&Aによってどの程度まで統合を進めるかを方針として決定します。企業文化や経営理念を大幅に変えるのか、あるいは必要最小限の統合にとどめるのかなど、譲受企業と譲渡企業の経営陣が意思疎通を図ってゴールを明確化します。これによって、PMIにおける優先度をどこに置くべきかが見えてきます。


シナジー(相乗効果)の事前評価を行う

シナジーを具体的に数値化し、M&A後に得られる効果を計画段階でイメージしておくことが重要です。その効果を裏づけるためにKPI(重要業績評価指標)を設定し、実際にPMIが進んだ段階でどのように測定するかも検討します。


ランディング・プラン・100日プランを作成する

クロージング(M&A成約)後3〜6か月以内に優先的に取り組む項目をまとめるのがランディング・プランです。また、より短期的・集中的に重要施策を実施する「100日プラン」を策定することで、経営統合の最初の数か月間で確実に成果を出すことを目指します。プロジェクトチームを編成し、誰がいつまでに何を行うかを明確にすることがポイントです。


具体的な統合作業の実行とモニタリング

設定したプランに基づいて、実際に業務システムの切り替えや部署の統合、人事制度の再設計などを進めます。特にM&A後の前半は想定外の問題が多発しやすい時期なので、PMI担当者や管理部門がしっかり連携し、進捗を常に把握する必要があります。経営陣のリーダーシップと迅速な意思決定が成功のカギです。


効果測定と継続的な改善

一通りの統合作業が進んだら、予定どおりにシナジーを得られているかどうかを検証します。設定していたKPIをもとに評価し、結果に応じてプランを修正しながらPDCAサイクルを回します。M&Aはゴールではなく、その後の経営統合が長期的に続くプロセスです。焦りすぎず、しかし確実に統合を進めることが大切です。

PMIで失敗しないためのポイント

PMIを成功させるためには、以下のような事前準備や姿勢が欠かせません。


 業務システムの統合計画を立案する

M&A後のシステム統合は複雑になりがちで、事前に計画を立案しないと無駄なコストや作業遅延が発生する恐れがあります。たとえば既存のIT環境をそのまま使うのか、新しいシステムを一から導入するのかによっても大きく話が変わるため、方針を決める段階でしっかり検討しておく必要があります。


事業内容の見直しを行う

M&Aによって組織体制やリソース配分に変化が起こる場合は、既存事業と新しい事業をどう整理するかも大切です。両社が似たような製品やサービスを提供している場合には、重複領域の一本化を検討することで、より効率的な事業運営ができるかもしれません。


取引先を再選定する

事業内容が変化することで、最優先とすべき取引先や業務パートナーが変わることもあります。重複している取引先や供給元があれば統合を進めるなど、M&A後の新体制に最適化した形へ再編を行いましょう。


デューデリジェンスの徹底

PMI段階で「こんなリスクがあるとは知らなかった」と後悔しないためにも、M&A実行前のデューデリジェンスは徹底して行う必要があります。特に管理部門や人事制度、労務面の情報は漏れがちなため、専門家による調査を含めて丁寧に進めることが大事です。


従業員の不安を払拭し、コミュニケーションを重視する

PMIの過程で、従業員が新しい働き方に馴染めず退職してしまうというケースもあります。それを防ぐには、M&A後の社内コミュニケーションや情報共有を意識的に増やし、新しい組織でどんな役割を担うのか、またどんな将来展望があるのかを誠実に説明することが欠かせません。

具体的なPMI事例

PMIを理解するうえで、実際の成功事例を参考にするとイメージが掴みやすいです。以下に代表的なものをいくつか紹介します。


サントリーがビーム社を譲受した事例

サントリーは2014年1月にビーム社を譲受し、ウイスキー事業を世界規模で拡大しました。両社の技術やブランド力を掛け合わせることで国際市場への販路を広げ、経営トップ同士が密にコミュニケーションを図ることでシナジーを早期に実現させました。互いの現場レベルで連携を強化し、従業員の意識統合にも注力した点が大きな成功要因です。


日本電産の積極的なPMI戦略

日本電産は数十件におよぶM&Aを実施し、「高値で買わず、PMIと経営に深く関与し、シナジー効果を追求する」という方針を掲げました。特にM&A後の統合に力を注ぎ、速やかに管理体制や事業運営手法を整備することで、譲受企業をグループ全体の成長エンジンに組み込むことに成功しています。


楽天による事業拡大のPMI

楽天は2000年代から積極的にM&Aを行い、現在の楽天トラベルや楽天証券を手に入れました。元々持っていたインターネット基盤を活かし、買収企業とのシステム連携や顧客基盤の共有に成功。各事業を既存のサービスと紐づけることで売上拡大やコスト削減の相乗効果を得られた事例です。

PMIを進める際の課題

PMIは多岐にわたる統合作業が必要であるため、多くの企業が以下のような課題に直面します。


経営層同士のビジョンのすり合わせ

M&Aによってひとつの企業になるとしても、元々の経営陣が描いていた将来像や価値観が異なるケースは珍しくありません。ビジョンや優先事項の相違があると、具体的な経営施策の段階でコンフリクトが生じやすくなります。


企業文化の統合と従業員への配慮

社内慣行や働き方、コミュニケーション手法などの違いに配慮しないまま無理に統合を進めると、従業員のストレスが増し、モチベーション低下や退職へつながる恐れがあります。PMIのスピード調整や、定期的なヒアリングによる従業員ケアが不可欠です。


想定外のトラブルへの柔軟対応

デューデリジェンス段階では見つからなかった問題や、システム統合に伴う意図しない障害が発生する可能性があります。リスクヘッジの意識と、トラブル発生時に素早く対処できる仕組みを用意しておくことが大切です。


管理部門やPMI担当者のリソース不足

特に中小企業のM&Aでは、PMIを担当する専属チームが不足している場合が多いです。各部署が本来の業務に加えてPMI作業を担うことになるため、業務負荷が過度に高まってしまい、対応が後手に回るケースがあります。早い段階で担当部署やプロジェクトチームを整え、外部の専門家にも支援を仰ぐなどの対策が望まれます。

PMIを成功させるポイント

M&AにおいてPMIを確実に進めることで、企業価値の向上や経営安定化を図れます。成功のために、以下のようなポイントを押さえておくと良いでしょう。


早期にPMIの検討を開始する

M&Aの検討と同時にPMIの課題や方針を洗い出し、クロージング後すぐに動き出せるように備えることが重要です。実際、早期からPMI計画を始めた企業ほどM&Aの成果が出やすい傾向があります。


PMI担当者とプロジェクトチームを明確にする

統合業務は経営、人事、ITなど多岐にわたります。そこで社内の各領域に精通したメンバーをそろえ、責任者を置くことで意思決定を迅速に進められます。さらに譲受企業と譲渡企業両方のスタッフが混在するチームを作ると、互いの現場感を考慮した計画立案が可能になります。


従業員とのコミュニケーションを大切にする

経営陣同士が合意に達しても、現場の従業員は不安や疑問を抱えることが少なくありません。従業員説明会の開催や個別面談などの機会を設け、今後の方針や役割分担について丁寧に情報共有することで協力体制を築きやすくなります。


自社の基準を無理に押し付けすぎない

買い手側が優位に立ち、被買収企業に対して一方的にシステムや管理手法を合わせるよう強要すると、組織の結束が乱れがちです。被買収企業側にも良い部分があるため、両社が歩み寄る形で新しい方針を模索する姿勢が大切です。


適宜専門家を活用する

PMIには法務、会計、労務、ITなど幅広い専門知識が必要となります。自社内だけで十分に対応できない場合には、M&Aコンサルタントや税理士法人、ITベンダーなど外部の専門家に依頼し、サポート体制を強化しましょう。事前にかけたコストが、後々のトラブル防止やスムーズな統合につながり、結果的に総コストを削減できる可能性があります。

M&Aの検討とPMIの始めどき

PMIは、実は「M&Aの検討を始める時期」に同時並行で考えるのが理想的だといわれます。なぜなら、M&Aの成果は「譲受後の経営統合」がうまくいくかどうかで決まることが多いためです。

デューデリジェンスで得た情報を踏まえ、「この企業と統合した場合、どこにシナジーがあり、どんなリスクが潜んでいるか」を早い段階から検証しておくと、クロージング後にすぐPMIを開始できます。逆に、成約後に「さて、PMIはどうする?」とゼロから考え始めると、統合が遅れて混乱が増大し、結果的にシナジーが十分に発揮されないまま時間と労力だけが消費されてしまいます。

また、M&A後に社員のモチベーションを維持するためにも、「会社同士がひとつになるメリット」や「将来的な展望」をあらかじめ示すことで、不安を和らげる効果もあります。経営者同士がPMIの基本方針を共有しておけば、現場への周知も早い段階から行いやすくなります。

まとめ

M&Aは、契約がまとまったら終わりではなく、その先のPMIによってシナジー効果を得られるかどうかが勝負になります。経営方針や業務システム、人事制度や組織体制などの統合を計画的に進めることで、譲受企業と譲渡企業双方の強みを最大限に引き出せるでしょう。PMIに対する事前の準備を怠ると、想定外のトラブルや従業員の離職などで効果が出ないこともあるため、慎重かつ柔軟に対応していくことが大切です。両社の企業文化を尊重しながら、従業員のケアと経営層のリーダーシップを両立させることで、M&A後の組織が大きく発展する可能性が開けます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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