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PMIとは、「Post Merger Integration」(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略称で、M&Aによって譲受した後の、「経営統合」に関する作業・プロセスを指します。新しい経営体制を考案・構築したり、それぞれのIT環境を統合したりと、さまざまな作業がPMIに含まれます。ただ2つの組織を組み合わせるだけの経営統合では、M&Aによるシナジー(相乗効果)を引き出すことは難しく、PMIによって中長期的な計画を立て、実践していく準備が重要です。
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なぜM&AにおいてPMIが重要なのでしょうか。以下では、PMIが重要視されている理由を詳しく解説します。
M&Aの目的の1つに、企業同士の特徴を合わせて、シナジー(相乗効果)を生み出すことが挙げられます。PMIはシナジー(相乗効果)を早期に実現するための施策として、有効な方法とされています。逆にいえばPMIを計画・具体化できないと、想定していたシナジー(相乗効果)を引き出せない可能性が高くなります。
M&Aによって企業が1つになると、新しい環境に不満を持つ従業員も出てくることが想定されます。PMIは従業員の不満を解消するための施策を考え、実行するためにも役立つプロセスです。従業員が納得のいく形で経営統合ができるように、具体的な方法を設定しておくことがポイントです。
本記事では、M&AにおけるPMIの重要性、基本的概要、手順やポイントについて解説しました。M&Aを計画している方は、PMIについても理解を深め、効果的な経営統合を実現できるように準備を進めてください。
M&A取引が完了した後、譲渡された企業に適した事業体制を構築することが不可欠です。PMIにおいて、内部統制の構築方法や方針を事前に決定することで、速やかに環境整備を実現できます。内部統制が整っていない場合、業務の停滞等のリスクが発生し、シナジー(相乗効果)を最大化できなかったり、損失を被る可能性があります。
以下に紹介する基本的な流れに従い、PMIの計画と実行を確実に進めましょう。
PMIを計画するためには、最初にM&Aにおける経営統合の方針を定める必要があります。相手企業の情報を収集し、必要な環境や設備の整備を行います。その後、具体的な経営統合の進行方法や中長期的な目標を設定して初期段階を進めます。
M&Aにより得られるシナジー(相乗効果)を事前に評価し、効果測定を実施します。この評価結果を基に、M&A後の目標設定を行い、現実的な効果を見込むことができます。経営統合後には、PMIが計画通りに進んでいるかを確認するために、KPI(重要業績評価指標)の設定や定期的なモニタリングを行い、PDCAサイクルを回します。
ランディング・プラン(統合作業の計画)とは、クロージング(成約)後の3~6か月間で優先すべき事項を決定し、スケジュールを立てる方法です。PMI設定時には、通常、譲受側と譲渡側が連携してランディング・プランを策定します。さらに、中長期的に発生すると予想される課題解決に関する計画を立てる際には、「100日プラン」という、クロージング後の最初の100日間の課題解決を考慮する計画も設定します。
PMI成功に向けて、必要な準備と考慮すべきポイントを把握することが重要です。以下では、PMIの成功に欠かせない準備とポイントを説明します。
業務システムの統合計画を策定し、早期に事業を始められるように準備をすることが、PMI成功の重要なポイントです。状況に応じて、新しい業務システムを導入する等の大規模なアクションが必要とされる場合もあります。計画性が不足することで無駄なコストが発生するリスクがあるため、じっくりとPMIに向けた計画立案に時間をかけましょう。
M&Aが実施されるにあたり、従来の事業内容を見直すことが一つの重要な準備です。事業の優先度に応じて、リソースの割り当てを変更し、異なる業務に集中させることが必要です。経営統合においては、柔軟な考え方を持ち、さまざまなシナリオを検討しておくことが重要です。
事業内容がM&Aを受けて変化することにより、重要な取引先も変わる可能性があります。そのため、取引先の再選定を行い、新しい体制に対応できるようにすることが重要です。M&A後の事業内容を明確にし、重要な取引先を厳選するプロセスが求められます。また、統合によって取引している製品やサービスが重複した場合には、取引先を1つに絞るなどの対応が必要です。
PMIを計画する際には、具体的な事例を参考にすることが役立ちます。以下では、PMIの事例をいくつか紹介します。
サントリーは2014年1月に、ビーム社を買収しました。両社のブランド力と技術交流を活用して、ウイスキーの販路を世界中に広げることに成功しました。両社のトップが現場目線で密接にコミュニケーションを取ることで、シナジー効果を実現した事例です。
日本電産は2019年11月までに、66件ものM&Aを実施している企業です。彼らのM&A戦略は、「高値つかみをしない」「PMIと経営に関与」「シナジー効果の追求」という点に重きを置いています。買収時には価格を抑え、リスクを最小限にし、PMIにおいては積極的に関与し、シナジー効果を早期に実現させることを目指しています。
楽天は2000年代からM&Aを実施し、現在の楽天トラベルや楽天証券になる会社を買収しました。もともとのインターネット基盤を活用して、売上やコスト面でシナジー効果を生み出し、成功を収めました。各事業を既存の業務と結びつけて、業務範囲を拡大した事例です。
PMIを進める際には、いくつかの注意点があります。以下のポイントを参考にし、PMIの進行時における注意点を把握しておきましょう。
• 経営層同士のコミュニケーションが重要です。互いのビジョンや価値観を理解し、共有することが成功の鍵となり
ます。
• 企業文化や働き方の違いを受け入れ、適切な統合を行うことが必要です。過度に自社の方法を押し付けず、お互い
の良い点を取り入れましょう。
• シナジー効果を最大限に発揮するためには、早期段階で具体的な計画を立て、実行に移すことが求められます。
• 従業員の不安やストレスを軽減するために、透明性のある情報共有とコミュニケーションを意識しましょう。
PMIが従業員のニーズを無視して猛スピードで進行すると、ストレスが溜まり、モチベーション低下や退職の原因となることがあります。そのため、従業員とのペースを同調させ、無理のないスケジュールでPMIを推進することが大切です。また、定期的に従業員に対してヒアリングを行い、彼らの意見やPMIに関する感想を収集することも重要なポイントです。
M&A後には、予想外のトラブルが発生することがあります。PMIのプロセスが原因となって起こる問題に対しても、事前に解決策を練っておくことが必要です。単にシナジー(相乗効果)を追求するだけでなく、リスクヘッジ(リスクを予測・対応すること)にも意識を向けることが大切です。
M&Aを実行するにあたっては、成約後の経営統合を具体的に計画するPMIの設定が重要です。PMIに対する適切な取り組みが、M&A成約の鍵を握ることもあります。M&Aを考慮する場合は、PMIの基本を押さえ、準備を行ってください。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画