垂直統合と水平統合による事業強化!M&Aの成功事例と注意点を解説

垂直統合と水平統合は、事業のシナジーを生み出す代表的なM&A形態です。本記事では両者の特徴や目的、メリット・デメリット、具体的な事例を丁寧に解説し、それぞれの戦略をより深く理解する一助となる情報を提供します。企業の成長や市場競争力の向上を目指す際にぜひご活用ください。きっと自社に適したM&Aの可能性を見出すうえで役立つでしょう。

目次

  1. 垂直統合(垂直型M&A)と水平統合(水平型M&A)の概要
  2. 垂直統合(垂直型M&A)と水平統合(水平型M&A)の目的
  3. 垂直統合(垂直型M&A)と水平統合(水平型M&A)のメリット・デメリット
  4. 垂直統合(垂直型M&A)と水平統合(水平型M&A)の事例
  5. 垂直統合・水平統合を行う際のポイント
  6. まとめ

垂直統合(垂直型M&A)と水平統合(水平型M&A)の概要

垂直統合と水平統合は、それぞれ異なる形態のM&A戦略として多くの企業が採用しています。垂直統合(垂直型M&A)は、自社が直接関わっていない工程やチャネルを持つ企業との統合を指し、川上から川下まで一貫して対応できる体制を築く点が特徴です。具体的には、製造を担う会社や販売チャネルを有する企業を取り込むことでコスト削減や安定した供給体制の構築が期待できます。一方の水平統合(水平型M&A)は、同業他社と統合してシェア拡大や既存事業の強化を目指すものです。互いのノウハウを掛け合わせ、さらなる売上アップや市場競争力の向上につなげられます。

両者はいずれも、自社の成長戦略や経営基盤を強化するために有効ですが、方向性や目的が大きく異なります。垂直統合はバリューチェーンの強化やサプライチェーンの効率化を重視し、水平統合は同業者間のシナジーを活かして競争優位に立とうとする点が大きな違いです。

垂直統合(垂直型M&A)とは

垂直統合(垂直型M&A)は、原材料の供給から製造、物流、販売など、製品やサービスを提供する一連の工程を自社のグループ内で完結させる手法です。たとえば、自社がこれまで取引していた仕入先を取り込む「川上統合」や、販売先を取り込む「川下統合」があります。

川上から川下までを自社内で担えるようになると、取引コストの削減や品質管理の一貫性向上が期待できます。製品の安定供給やブランド強化にも寄与しやすくなりますが、その一方で多額の投資がかかり、外注に比べコストがむしろ高騰してしまうケースもあるため注意が必要です。また、新たな工程を取り込むことで本来の専門性が薄れてしまう点もリスクといえます。

水平統合(水平型M&A)とは

水平統合(水平型M&A)は、自社と同じ業種や業態を持つ企業間で行われます。たとえば製造業同士や小売業同士など、似た領域で統合を行うことでシェア拡大や売上向上を図るのが大きな狙いです。互いが持つノウハウや技術を組み合わせることで競争力を強化し、海外進出や新規市場の獲得にもつなげられます。

しかし、水平統合は統合後の人員整理が必要となる場合もあり、組織再編による社員の動揺や優秀な人材の流出リスクが高まる懸念もあります。また、市場規模が大きくなりすぎると独占禁止法などの規制を受ける可能性もあるため、企業規模や業界動向を見極めながら進めることが重要です。

垂直統合(垂直型M&A)と水平統合(水平型M&A)の目的

垂直統合や水平統合を行う場合は、自社がどのような経営戦略を描いているかによって目的が変わります。以下では、垂直統合(垂直型M&A)と水平統合(水平型M&A)の主な目的について解説します。

垂直統合(垂直型M&A)の目的

垂直統合(垂直型M&A)は、工程を一貫して自社内に収めることでバリューチェーンを強化し、利益率の向上や供給安定化を図る手法です。主な目的として、以下の点が挙げられます。


・バリューチェーンの強化

原材料の調達から販売までをグループ内で担うことで、取引コストを削減し、品質向上に取り組みやすくなります。


・コストの削減

外部委託していた業務を社内で完結させることにより、仲介手数料などのコストを減らす狙いがあります。ただし、統合により新たな施設や人材が必要になる場合は初期投資が増えるため、費用対効果を慎重に検討することが重要です。


・事業の多角化

自社になかった工程やサービスを取り込むことで、ビジネスの幅を広げられます。市場変化への柔軟な対応やリスク分散を目指すケースもあります。


・新市場への参入

川上・川下を問わず、自社が持たない顧客層や販路を獲得するために、異なる分野の企業を取り込むケースがあります。これにより、新市場へ参入するスピードを早めることが可能です。


・優秀な人材や技術力の獲得

特定技術を持った企業との統合により、人材・ノウハウをスピーディに取り込み、研究開発や製品・サービスの質を高める狙いも大きいです。

水平統合(水平型M&A)の目的

水平統合(水平型M&A)は、同業他社と統合することでシェア拡大や既存事業の強化を図る戦略です。代表的な目的は以下のとおりです。


・既存事業の強化

同じ領域の企業同士が手を組むため、それぞれの強みやノウハウを掛け合わせ、商品開発力やサービス水準を向上させやすくなります。


・売上アップ

類似した事業分野をまとめることで、売上規模の拡大や市場での競合優位を狙えます。大手家電量販店やコンビニなど、水平統合によって規模拡大に成功した事例は多いです。


・新規市場の獲得や市場規模の拡大

統合先企業が持つ地域や顧客基盤を取り込むことで、従来は進出しづらかった市場への参入が容易になります。海外展開の足がかりにするケースもあります。


・コストの削減や合理化

事業が重なる分、重複部分の効率化や生産・流通のスケールメリットを得やすくなります。大量発注によるコスト削減や在庫管理の効率化が進む点は水平統合の大きなメリットです。

垂直統合(垂直型M&A)と水平統合(水平型M&A)のメリット・デメリット

垂直統合(垂直型M&A)や水平統合(水平型M&A)を行うと、大きなシナジー(相乗効果)を期待できる一方で、統合コストや管理の難しさなどのデメリットも発生します。ここでは、それぞれのメリット・デメリットを整理して解説します。

垂直統合(垂直型M&A)のメリット

1.新規事業への参入がしやすい

自社にない工程や領域を取り込み、新たな事業分野にチャレンジできます。川上から川下までの流れを押さえることで製品・サービス開発の幅が広がります。

2.コスト削減・利益率の向上

外部への委託料や仲介手数料を削減できるため、利益率の向上が見込めます。また、安定した供給体制を築けるため、流通コストの圧縮や在庫リスクの軽減にもつながります。

3.ブランド力・市場支配力の強化

製造から販売までを自社でコントロールできるため、品質管理やブランド戦略を一貫して進めやすくなり、市場支配力を高めやすいという特長があります。

垂直統合(垂直型M&A)のデメリット

1.統合コストが大きい

新設備の導入や生産プロセスへの投資、技術習得のための費用などが発生します。思わぬ出費が重なると、予想以上に資金負担がかさむリスクもあります。

2.市場変化への対応が難しくなる

すべてを自社内で抱えるため、急激なトレンド転換があった場合には、外部発注なら比較的容易な方向転換も大きなコストや時間を要する可能性があります。

3.専門性の低下リスク

自社が本来持つ強みが分散されることもあるため、経営資源を広い範囲で管理しなくてはならず、結果的に専門性が弱まるおそれがあります。

水平統合(水平型M&A)のメリット

1.既存事業の強化・市場シェアの拡大

同業他社同士がノウハウを融合させることで競争力を高められます。店舗や営業網を増やすことで、売上拡大や顧客層の拡充にもつなげられます。

2.海外進出・新規市場獲得の促進

統合先企業が海外展開を進めている場合など、すでに構築された海外販路や顧客ネットワークを活用することで、市場規模を一気に広げやすくなります。

3.コスト削減・合理化の推進

規模の拡大により、仕入れ価格の引き下げや重複部門の統合などでコストを削減できます。効率的な生産や流通を実現して利益率を高められる点もメリットです。

水平統合(水平型M&A)のデメリット

1.優秀な人材の流出リスク

組織体制が大きく変わることに対して従業員が不安を抱き、退職につながる可能性があります。加えて、社風の違いや待遇条件の変更も人材流出を招きやすい要因です。

2.期待したシナジーが得られない可能性

統合前に想定していたスケールメリットが、実際には十分発揮されないケースがあります。商品ラインナップの重複による混乱やブランド共通化の難しさなど、細かな調整が必要です。

3.独占禁止法や競争法への抵触リスク

同業者同士の統合は、市場シェアが過度に高まってしまうリスクがあります。公正な競争を促す法律の規制対象となる可能性があるため、事前の確認が必須です。

垂直統合(垂直型M&A)と水平統合(水平型M&A)の事例

垂直統合や水平統合による企業の具体的な取り組みは、多様な成功例や注意すべきポイントを示しています。ここでは、まず「垂直統合(垂直型M&A)」の事例を紹介し、その後に「水平統合(水平型M&A)」の事例を紹介します。

垂直統合(垂直型M&A)の事例

・Apple社

iPhoneやiPadなど革新的な製品で世界的に有名な企業です。2013年には3Dモーションセンサーを扱うPrimeSense社を譲受し、2014年にはストリーミングミュージックサービスのBeats Music社やヘッドフォンを製造するBeats Electronics社も譲受しています。工程から技術まで取り込むことで、新製品の開発や品質向上に生かしている点が注目されます。


・Zホールディングス(ZHD)とLINE

ZホールディングスはYahoo! JAPANを傘下に置く企業で、2021年にLINEと統合を完了しました。それぞれの強みを組み合わせ、ユーザー向けのサービスの幅を拡充し、シナジー効果を発揮しています。さらに2023年にはZホールディングス、ヤフー、LINEが合併を実施し、さらなる事業強化を進めています。


・神戸物産

「業務用スーパーマーケット」を運営する神戸物産は、海外でレストラン経営を手掛けるWIZ JOINT PTEを垂直統合しています。海外の外食産業を社内に取り込むことで、海外レストラン事業の強化と新たな市場拡大に取り組んでいます。

その他の垂直統合の事例

・ユニクロ

企画から製造、販売まで一貫して自社で行うことで大幅なコスト削減と品質管理の徹底を実現し、急成長を遂げています。

・トヨタ

研究開発から部品製造、販売までグループ内で行い、かんばん方式など独自の生産システムを活用することで高品質と低コストを両立させています。

・Amazon

倉庫管理や配送業務などを自社で一貫して行うEコマースの巨大企業です。物流全体を統合して効率化し、顧客満足度を高めています。

・Netflix

オリジナル映像コンテンツの企画・制作からストリーミング配信までを自社管理することで、ユーザーの視聴データを分析し、次々と新たなコンテンツを生み出しています。

水平統合(水平型M&A)の事例

・ファミリーマート

2016年9月、サークルKサンクスを運営していたユニーグループ・ホールディングスを水平統合しました。関東圏を中心とした店舗網と売上拡大に加え、大量発注によるコスト削減も実現しています。

・ビックカメラ

同業他社のコジマを統合し、販路拡大と同時に不採算店舗の閉鎖や業務効率化によって利益の向上を図りました。大手家電量販店同士の競争力強化に成功した事例として知られています。

・文化シャッター

2015年に同業である西山鉄工製作所を水平統合し、建材分野における事業領域を拡大しました。顧客基盤の強化やコスト削減、収益モデルの多様化など、多方面でシナジー(相乗効果)を得ています。

このように、水平統合によって既存事業を強化し、市場規模の拡大を目指す企業は多いです。とはいえ、独占禁止法への配慮や人材流出リスクなどにも留意する必要があります。

垂直統合・水平統合を行う際のポイント

垂直統合や水平統合は、企業規模を拡大し、市場での優位性を高めるための有力な戦略ですが、成功させるにはいくつかの重要なポイントがあります。

目的を明確にして戦略を立てる

統合の目的が曖昧だと、期待する成果を得られないまま大きなコストやリソースを費やしてしまう恐れがあります。まずは自社の現状を客観的に分析し、強みや弱みを把握しましょう。そのうえで統合による具体的なメリットを描き、どの分野でシナジーを発揮したいのかを明確化して計画を立てることが重要です。

コストを慎重に見極める

垂直統合では新設備や技術取得に要する投資が必要になる場合があり、水平統合でも組織再編に伴う費用がかかることがあります。また、統合後の運営資金や予想外の負担も考慮し、費用対効果を事前に算出しながら慎重に判断することが大切です。

企業間で密なコミュニケーションを取る

特に水平統合で企業文化や経営方針が大きく異なる場合、従業員の戸惑いや対立が生じやすくなります。垂直統合においても、新たに取り込んだ工程との連携を円滑に進めるには、部署やグループ企業間で十分な情報共有を行いましょう。定期的にミーティングを設けるなど、密なコミュニケーションを図ることがポイントです。

M&A後の統合を徹底する

形式的に統合が完了しても、組織改編や業務フローの一本化など、実際の運営が噛み合わなければ思うようなシナジー効果は得られません。各部門の役割や責任分担を早期に明確化し、教育や研修を通じて新たな体制づくりを徹底することが重要です。

M&Aの専門家に相談・依頼する

垂直統合や水平統合を実施するには、多方面の専門知識や煩雑な手続が絡みます。社内だけで対応しきれないケースも多いため、実績と知見を持つ専門家に早期から相談することが賢明です。M&Aの手続をスムーズに進め、トラブルを回避し、成功率を高めるためのサポートを得られます。

まとめ

垂直統合と水平統合は、それぞれ異なる視点から企業を成長させる手法です。垂直統合ではバリューチェーン全体を自社で握る強みを得られ、水平統合では既存事業の強化や市場シェアの拡大が狙えます。自社の課題や経営戦略をしっかりと見極め、明確な目的と入念な計画を持って進めることが成功への鍵です。投資コストや組織融合のリスクを理解し、専門家の力も借りながら、最適なM&A戦略を検討してみてはいかがでしょうか。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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