失敗しない個人M&Aのポイント|失敗要因・回避方法・事例を解説

個人向けの小規模なM&A取引は、成功すれば大幅なメリットが期待できますが、会社の事業を引き継ぐためには専門的な知識が必要で、個人にとっては難しさが伴う場合があります。そのため、個人M&Aを進める上で不安を覚えている方も少なくないことでしょう。本記事では、個人M&Aで失敗を避けるための方法やポイントを詳細にお伝えいたします。

目次

  1. 個人M&Aとは?
  2. 個人M&Aの市場動向
  3. 個人M&Aの増加傾向
  4. 個人M&Aが失敗する主な要因
  5. 個人M&Aで失敗を避ける方法
  6. 個人M&Aの成功事例
  7. 個人M&Aにおける失敗まとめ

個人M&Aとは

個人M&Aとは、小規模なM&A取引の中で、買い手が個人であるものを指します。買い手は、売却対象となる事業や資産を買収することで、自らの事業拡大や事業の継承などを目指しています。特に、中小企業や個人事業主の間でよく実施される手法であり、事業継承や事業の合理化を目的として行われることが多いです。

個人M&Aの市場動向

近年、個人M&Aへの関心が高まっており、多くの方々がその取り組みを始めています。以下に、個人M&Aの現状について説明いたします。

個人M&Aの増加傾向

近年、中小企業や個人事業主の間で個人M&Aへの注目度が高まり、取引件数も増加傾向にあるとされています。これは、新型コロナウイルスの影響による業績の悪化や事業承継の問題、さらにはグローバル化による競争力の強化が背景としてあります。 

ただし、個人M&Aの実現には専門的な知識や経験が求められますし、買い手が少ないという課題も依然として存在しています。そのため、適切な知識や対応力を身に着けてM&Aに取り組むことが重要となります。

個人向けの小規模なM&Aサイトの増加

M&A市場の拡大に伴い、個人向けの小規模なM&Aを取り扱うウェブサイトも増加しています。これらのサイトは、個人M&A案件のマッチングや事業譲受・事業買収の方法、事例の提供に特化しているため、利用者にとっては難易度が低くなる要素があるわけです。

かつては大企業を中心とした大規模なM&Aが主流でしたが、現代のM&A市場では年商1,000万円未満の企業や事業も対象とされており、これらのウェブサイトはそうしたニーズに応える形でサービスを展開しています。

サーチファンドの概要

サーチファンドとは、企業の経営者を目指す個人が、資金調達を行うために設立されたファンドのことを指します。このファンドは、将来的に企業の売上や価値を高めることができる優れた人材がその能力を十分に発揮できる環境を提供することを目的としています。そのため、この枠組みは現在の事業を引き継ぎ、改善して企業価値を向上させることを目指しています。

日本ではまだサーチファンドは新しい概念として認識されていますが、このファンドの実績は少しずつ増えつつあります。主にアメリカで実践されている手法ですが、今後日本でも普及する可能性が高いとされています。

個人M&Aが失敗する主な要因

個人M&Aは近年様々なメディアで話題に取り上げられていますが、現状では成功するケースが少ないとされています。ここでは、個人M&Aが困難になる主な要因を紹介します。

従業員の協力が得られない

M&A後の経営者が事業に介入し始めると、従業員から反発が生じることがあります。その結果、新しい経営者に対する不信感が生じ、退職や業績低下などのリスクが発生してしまうことがあります。

従業員との信頼関係を築くためには、適切なコミュニケーションを行い、福利厚生の改善などを含む関係性の構築が重要です。

M&Aに関する知識不足

買い手がM&Aに関する知識が不十分な場合、取引がスムーズに進まず、トラブルの原因になることがあります。契約内容や手続の理解不足から、実施後に問題が発生するケースがあります。

リスクマネジメントを事前に行い、買い手が十分なM&Aに関する知識を身につけることが重要です。

売り手の理解不足

M&Aでは、相手企業のビジネスモデルや市場動向、財務状況を十分に理解する必要があります。しかし、個人M&Aでは、そうした調査が不十分なまま取引が進んでしまい、後に予想外の問題が発生することがあります。

その結果、両者の期待にズレが生じ、M&Aが失敗に終わることがあります。個人M&Aを行う場合は、売り手に対する適切なリサーチと評価が必要です。

ノウハウがスムーズに引き継がれない

M&Aの手続は非常に複雑であり、個人にとっても十分な知識や経験が求められます。特に、引き継ぎ期間が短い場合やM&Aによって事業内容が大きく変わる場合には、ノウハウの引き継ぎが難しいことがあります。

さらに、引き継ぎ期間中に適切な行動や対応を行い、既存の顧客や従業員に対して丁寧な対応が必要です。

簿外債務が後から判明する

簿外債務とは、貸借対照表に記載されていない債務のことで、M&A後に負担を強いられる可能性があります。簿外債務が発覚すると、買収価格の調整や契約解除が必要になることもあります。

このようなリスクを回避するためには、デューデリジェンス(買収審査・企業調査)を徹底的に行うことが求められます。

個人M&Aで失敗を避ける方法

ここまで、個人のM&Aで失敗する理由について説明してきました。では、具体的な対策を取ることで失敗を回避する方法について紹介しましょう。

財務状況をきちんと把握する

M&Aにおいては、相手企業の財務状況を正確に把握することが非常に重要です。具体的には、貸借対照表や損益計算書などを確認し、財務状況を事前に精査しておくことが大切です。また、売り手は準備不足に陥らないように、一定数以上の株主の同意を得ておくことや、自社の強みをアピールすることも重要です。

買い手は、成約支援実績を持つ事業承継・M&Aプラットフォームを活用し、財務状況のチェックに加え、取得価格の妥当性について専門家を活用しながら検討することが望ましいです。

信頼関係の構築

売り手・買い手双方の信頼関係を構築することが必要です。信頼関係を築くためには、事前の把握不足や情報開示不足、買収後の人材マネジメント不足などを改善することが不可欠です。

売り手は、準備不足を避けるために株主の同意を得た上で目的を固め、余裕のあるスケジュールを立てることが重要です。また、双方が円滑にコミュニケーションを取り合い、情報開示を行うことで、信頼関係を構築しやすくなるでしょう。

事前に将来の計画を立てておく

将来的な計画を事前に立て、どのような目標を追求するかを考慮しておくことが非常に重要です。個人M&Aでもこの点は変わらず、経営者としての将来のビジョンを明確に持っておくことが望ましいです。具体的には、将来の計画を前もって考えておき、成功に必要な経営資源をうまく活用することが不可欠です。

さらに、将来の計画を立てることで、事業成長のための準備がスムーズに進むことが期待できます。また、これからの経営方針を従業員と共有することができれば、適切な経営方向に進むことが可能になります。

専門家への相談

失敗のないM&Aを実現するためには、事前の情報収集や準備が非常に重要です。しかし、「どのような準備をすべきか」ということが分からない場合もあるでしょう。そんな時は、専門家に相談することがお勧めです。

専門家に相談することで、M&Aの不確定要素やリスクを最小限に抑えるためのアドバイスを得ることができ、成功の可能性が高まります。

個人M&Aの成功事例

最後に、個人M&Aの成功事例を紹介します。

廃業寸前の洋菓子店を救った事例

T様は、コンサルティング会社で働いていた経験を活かし、M&Aに挑戦しました。M&A関連のウェブサイトを調べているうちに、「いつか自分の菓子店を開きたい」という夢を持ち、「地元で愛される手作りフランス菓子店」への興味から、M&Aを通じて出資可能な金額で菓子店を引き継ぐことを決断しました。

M&Aのプロセスで、前オーナーがアドバイザーとして引き続きサポートしてくれることとなり、一定期間の閉店もせず、営業を続けながら引き継ぎを進めることができました。また、コンサルティング会社での経験を生かし、洋菓子店の商品開発、販売チャネル拡大、業務改善に取り組み、売上げも引き継ぎ時点より向上させることができました。

キックボクシングジム経営を始めた事例

サラリーマンの仕事を続けながら、個人でビジネスを展開したいという考えがあったM様は、M&Aという方法を知り、2年間の検討を経てキックボクシングジムの案件を見つけました。選んだ理由は、自分の条件にマッチしているだけでなく、前オーナーが新たな事業に挑戦するため前向きに譲渡すること、そして価格が相場よりもお得であることが魅力でした。

最初はメインのトレーナーが辞意を表明し、交渉が一時中断するものの、その経験を活かして譲渡後の新スタッフに十分な教育を施すことができました。さらに予約システムの見直しを行い、稼働率や会員数が順調に増加している状況です。現在では、近隣にもう1つの店舗を開設し、ドミナント戦略を検討するほどにまで成長しています。

大学生のI様がM&Aを行った事例

大学生のI様は、特にビジネスに興味があるわけでもなく、起業を考えているわけでもないのですが「理想の自習室が欲しい」という動機から、M&Aを行いレンタルスペースを入手することに成功しました。自分で物件を探したり、設備を購入するよりも、M&Aを行って手に入れた方がコストを抑えられることが大きな魅力でした。

レンタルスペース予約サイト内で上位に表示されることが奏功し、広告出稿を行わなくても2ヶ月目には売り手から共有された過去の売り上げを上回り、黒字化を達成しました。大学卒業までの期間限定でこのビジネスを行っているものの、2~3年の内に初期投資を回収できることを目指しています。

個人M&Aにおける失敗まとめ

本記事では、個人M&A経験者の事例を紹介しながらどのように失敗を防ぐか解説しました。適切な対策や準備を整えることで、個人M&Aでの失敗の可能性を低減できるでしょう。ここで紹介した事例をぜひ参考にして、自分に適したM&Aを見つけてください。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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