分割型分割と分社型分割の比較と税務会計のポイントを解説
分割型分割と分社型分割、どちらを選ぶべきか迷っていませんか? 本記事では対価の流れ、適格分割要件、会計仕訳までを丁寧に整理し、最適な会社分割の選択を後押しします。
目次
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(会社分割)
会社分割にはさまざまな形がありますが、対価を誰が受け取るかという視点で見ると「分社型分割」と「分割型分割」の二つに大別できます。両者を区別する最も大きなポイントは、対価として交付される承継会社株式が「分割会社」に帰属するのか、それとも「分割会社の株主」に帰属するのかという点です。どちらを採用しても事業を切り分けること自体は可能ですが、税務・会計・組織再編後のガバナンス体制に与える影響が大きく異なるため、まずは基本概念を正しく理解しましょう。
分社型分割(物的分割)は、承継会社が発行する株式を分割会社自身が受け取ります。たとえば、A社が新設会社B社へ製造部門を分割する場合、B社は対価として自社株式をA社に交付し、結果としてA社はB社の親会社となります。
分割会社が承継会社株式を保有し続けるため、グループ全体の支配権を維持したまま部門ごとの経営管理が可能です。
分割会社の株主には直接的な影響が生じないため、株主総会決議や配当手続を経る必要がなく、比較的短期間で実行で きます。
事業部門を子会社化して責任区分を明確にしつつ、グループとしてシナジーを保ちたい場合に有効です。
分割型分割(人的分割)は、承継会社株式を最終的に分割会社の株主が直接受け取る点が大きな特徴です。A社がB社に事業を移転し、B社株式をA社に受け入れた後、A社はその株式を株主へ現物配当します。
分割会社と承継会社の間に資本関係が残らないため、双方が独立した経営体として再スタートできます。
株主は新会社の株主として権利を取得するため、特定事業を独立企業化したい場面で有効に機能します。
コア事業から切り離したい部門を完全に分社し、持株構造をシンプルにしたい場合に選択されます。
両分割に共通する実行の流れ
ここまでで対価の流れを整理できれば、次は税制上の優遇措置「適格分割」の要件を確認する準備が整います。
会社分割が「適格分割」に該当すれば、移転資産や株主配当について課税が繰延べられる、あるいは発生しないという大きなメリットがあります。適格性は二段階で判定され、まず分割会社(または株主)と承継会社の支配関係を3つに分類します。
完全支配関係では要件が最小限に、非支配関係では要件が最も多くなります。
対価は承継会社株式に限定され、現金や社債等を交付しないこと。
分割会社または株主が取得した承継会社株式を継続保有する見込みであること。
この2要件は完全支配関係・支配関係・非支配関係のいずれでも求められる「共通基本要件」です。
主要資産等引継要件、事業継続要件、従業員80%以上引継要件が加わります。
事業関連性や事業規模の同等性、経営参画要件など、グループ外部での事業連続性を担保する追加条件が求められます。
分社型分割と分割型分割で変わる按分型要件の有無
分割型分割には「按分型要件(株主の持株数に比例)」が課される一方、分社型分割には存在しません。したがって、分社型分割は比較的ハードルが低く、適格要件を満たしやすいという利点があります。
会計処理は「誰が株式を受け取るか」「適格か非適格か」で大きく分かれます。ここではまず適格分社型分割の処理を概観し、次に適格分割型分割の流れを整理します。
諸負債(簿価) / 諸資産(簿価)
分割承継会社株式 (差額)
移転資産・負債の簿価をそのまま消滅させ、差額を取得株式の簿価とします。
諸資産(簿価引継ぎ) / 諸負債(簿価引継ぎ)
/ 資本金等(簿価引継ぎ)
分割会社から引き継いだ資産と負債を簿価で受け入れ、差額を資本金等に計上します。
諸負債(簿価) / 諸資産(簿価)
資本金等(移転割合相当)
利益積立金(差額)
まず資産負債を消滅させ、資本金等と利益積立金を分割移転割合に応じて減額します。
諸資産(簿価引継ぎ) / 諸負債(簿価引継ぎ)
/ 資本金等(簿価引継ぎ)
/ 利益積立金(簿価引継ぎ)
移転割合に応じて資本金等と利益積立金を受け入れます。
分割承継会社株式 / 分割会社株式(簿価移転割合相当)
株主は保有株式簿価を分割し、新会社株式へ付け替えます。
適格・非適格いずれの場合でも、分割型分割では株主に会計処理が及ぶ点が分社型分割との大きな違いです。この違いは後述する「メリット・デメリット」の検討にも直結します。
適格要件を満たさない場合、分社型分割と分割型分割では課税対象と負担者が大きく変わります。ここでは主な税金の発生タイミングと影響範囲を整理します。
分社型分割が非適格となった場合、移転資産・負債は時価評価され、差額が譲渡損益として分割会社に計上されます。その結果、法人税が分割会社に発生するものの、株主にはみなし配当課税が及びません。
時価評価差額を「譲渡損益」として仕訳し、当期の課税所得となります。
対価は分割会社が受領し、株主は関与しないため所得税は発生しません。
税額を納付するための資金確保が必要であり、資金繰りの計画が重要です。
一方、分割型分割が非適格になると、分割会社だけでなく株主にも税負担が発生します。
分割会社は移転資産・負債を時価評価し、差額を譲渡損益として計上します。
分割会社が受け取った承継会社株式を現物配当する際、株主は配当所得として所得税が課税される可能性があります。状況によっては最高税率近くまで負担が増えるケースもあるため注意が必要です。
法人税と所得税の二重負担が発生しやすく、非適格判定による影響が大きい点が特徴です。
適格判定は事前シミュレーションが必須
両分割とも適格・非適格で税額差が劇的に異なるため、実行前に専門家と試算を行い、要件充足をチェックすることが不可欠です。
ここでは制度上・実務上の違いを表形式ではなく要点で比較します。
分割会社へ承継会社株式が帰属し、親子関係が残る。
株主へ承継会社株式が帰属し、資本関係が遮断される。
分割会社と承継会社が処理主体。株主は処理不要。
分割会社・承継会社に加え、株主も簿価振替が必要。
債権者保護手続不要の場合があり、スピード実行が可能。
債権者保護手続が必須。情報公開リスクが高まる。
非適格時は分割会社のみ課税。
非適格時は分割会社・株主双方課税。
戦略的活用ポイント
グループ内再編で支配権を維持したいなら分社型分割、事業を完全に切り離して独立させたいなら分割型分割が適しています。
按分型要件が不要なため、比較的容易に適格分割を実現可能。
株主に仕訳負担が及ばず、手続がシンプル。
非適格でも分割会社のみ課税で株主課税なし。
債権者保護手続を省略できるケースがあり、同業他社に情報が漏れにくい。
完全な独立を図りたい場合は不向き。
親子関係維持により、連結納税や連結決算の手間が続く。
非適格時の課税が分割会社に集中し、キャッシュが流出するリスク。
支配株主が存在しない場合でも事業を切り離し、新会社を外部資金調達しやすい形で独立させられる。
分割会社と承継会社の資本関係が断たれ、双方が中核事業へ専念しやすい。
迅速・柔軟な意思決定が可能となり、従業員のモチベーション向上が期待できる。
公示期間が必要なため、実行までに時間を要し、情報漏えいリスクが高まる。
株主側で株式簿価の付替えが必要となり、事務コストが増大。
分割会社と株主の双方に課税が及び、総合的な税負担が大きくなる。
選択判断の着眼点
株主構成や将来の資本政策、事業の成長戦略を踏まえ、税負担と手続コストのバランスを比較検討することが重要です。
分社型分割と分割型分割は、対価の帰属先が異なるだけでなく、適格要件、課税関係、会計処理、手続スピードなど多方面にわたり相違点があります。グループ支配を維持しつつ迅速に再編したい場合は分社型分割、事業を完全独立させて株主価値を直接還元したい場合は分割型分割が適します。実行前には適格要件を詳細に確認し、非適格判定による課税リスクを回避するためにも、必ず専門家とシミュレーションを行い、自社の経営戦略に最適な分割方法を選択しましょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画