吸収合併時の退職金処理:会社が知っておくべき重要ポイント

会社の吸収合併時における退職金の扱いについて詳しく解説します。従業員と役員それぞれの退職金処理の違い、勤続年数の取り扱い、支給のタイミングなど、重要なポイントをわかりやすく説明します。

目次

  1.  吸収合併の定義と特徴
  2.  吸収合併が退職金額に与える影響
  3.  吸収合併における勤続年数の取り扱い
  4.  吸収合併時の退職金支給のタイミング
  5.  まとめ

吸収合併の定義と特徴

吸収合併とは、複数の会社が合併する際に、一つの会社(存続会社)が他の会社(消滅会社)の権利義務をすべて承継する手法です。この方法では、消滅会社の株主に対して存続会社の株式が割り当てられます。

吸収合併の主な特徴は以下の通りです

1. 新たな法人格が不要:新設合併とは異なり、新しい会社を設立する必要がありません。

2. 早期のシナジー効果:一つの企業に統合されるため、相乗効果を早く得られる可能性があります。

3. 一般的な選択肢:実際のビジネスシーンでは、吸収合併が最も多く選ばれています。

吸収合併の主な手続きには、以下のようなものがあります

合併契約書の作成

合併契約の締結

株主・債権者への通知・公告

株主総会での合併承認決議

合併の効力発生

合併の登記申請

これらの手続きを適切に行うことで、円滑な吸収合併が可能となります。

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(合併)

吸収合併が退職金額に与える影響

吸収合併が行われる際、多くの従業員が気にかけるのが退職金の取り扱いです。退職金制度を設けている企業では、合併時に退職金が満額支給されるかどうかが重要な問題となります。

退職金が満額支給される場合

消滅会社の権利義務が包括承継され、合併会社にそのまま引き継がれます。

合併後も雇用契約が継続し、退職金は契約通りに満額支給されます。

退職金が満額支給されない場合

消滅会社と合併会社の間で、労働条件や雇用契約が合併前に減額方向に統一されることがあります。

この場合、合併前に消滅会社は従業員に対して労働条件変更を説明し、個別に同意の証として書類への署名押印を得る必要があります。

特に注意が必要なのは、労働条件が不利益に統一される「不利益変更」の場合です。存続会社は慎重な対応が求められ、従業員への十分な説明と理解が不可欠です。説明不足や理解不足があると、実際の退職金支払い時にトラブルが発生する可能性があるため、十分な配慮が必要です。

吸収合併における勤続年数の取り扱い

吸収合併において、退職金計算上の勤続年数がどのように扱われるかは、多くの従業員にとって関心事です。

吸収合併の場合、以下のような特徴があります

1. 勤続年数の継続:吸収合併では、労働契約が包括的に承継されるため、勤続年数もそのまま引き継がれます。

2. 年数のリセットなし:合併に伴って勤続年数が巻き戻されることはありません。

3. 従業員のメリット:これまで積み上げてきた年数が無駄にならないため、従業員の理解を得やすくなります。

勤続年数は、有給休暇の日数や退職金の計算に関わる重要な要素です。吸収合併によって勤続年数が継続されることは、従業員にとって大きなメリットとなります。

事業譲渡の場合は状況が異なります

労働者は一度退職した上で譲渡先の企業に再就職することが一般的です。

このような場合、勤続年数がリセットされ、全員が1年目からのカウントとなってしまいます。

吸収合併における勤続年数の継続は、従業員の権利を守り、スムーズな組織統合を促進する重要な要素といえます。

吸収合併時の退職金支給のタイミング

吸収合併が行われる際の退職金の支給タイミングは、従業員と役員で異なります。それぞれの立場によって、以下のような取り扱いがなされます。

従業員の退職金支給について

従業員の退職金支給に関しては、以下の2つの選択肢があります:

1. 労働条件の承継: 

o 現在の労働条件をそのまま引き継ぐ場合、退職金の支給は通常の退職時まで延期されます。

o この場合、勤続年数も継続されるため、従業員にとってはメリットがあります。

2. 一度の退職手続きと清算: 

o 合併に伴い一度退職手続きを行い、その時点で退職金を清算する方法もあります。

o この場合、新たな条件で再雇用されることになります。

重要なポイント:

どちらの方法を選択するかは、従業員との協議が必要です。

退職金規程が不利益変更に該当する場合は、労働者の個別合意を取得する必要があります。

従業員の理解と納得を得ることが、スムーズな合併と良好な労使関係の維持につながります。


役員の退職金支給について

役員の退職金支給には、以下のような特徴があります:

1. 株主総会での承認: 

o 合併を決定する株主総会(消滅会社側)で、役員への退職金支給についての承認を得る必要があります。

o この手続きは、会社法上の要請に基づいています。

2. 合併後の役員就任と退職金支給: 

o 役員退職金は、合併後に存続会社の役員に就任する場合でも支給が可能です。

o これにより、長年の貢献に対する適切な評価と報酬が可能となります。

3. 個別の協議: 

o 役員の退職金は、通常、個別に協議して決定されます。

o 会社の業績や役員の貢献度などを考慮して、適切な金額が設定されます。

注意点:

役員退職金の支給には、透明性と適切性が求められます。

株主や従業員の理解を得られるよう、合理的な基準に基づいて決定することが重要です。

吸収合併時の退職金支給は、従業員と役員それぞれの立場や状況に応じて、適切に対応することが求められます。法令遵守と公平性を保ちつつ、円滑な組織統合を実現するためには、慎重かつ丁寧な対応が不可欠です。

まとめ

吸収合併時の退職金処理は、従業員の権利と企業の円滑な統合を両立させる重要な課題です。勤続年数の継続や退職金の適切な支給は、従業員の不安を軽減し、新体制への移行をスムーズにします。一方で、役員の退職金については、透明性と適切性を確保しつつ、個別に対応することが求められます。適切な説明と合意形成を通じて、全ての関係者が納得できる形で吸収合併を進めることが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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