事業承継費用の全体像を解説 専門家への報酬や補助金活用法

事業承継では、相続税や贈与税、専門家への報酬など多様な費用が発生します。本記事では、事業承継にかかる税金の種類や承継先による費用の違い、補助金・融資制度の活用まで詳しく解説します。

  1. 目次
  2. 事業承継にかかる費用の全体像
  3. 事業承継に関連する主な税金と計算のポイント
  4. 承継先別にみる費用の特徴
  5. 専門家へ依頼する際の費用
  6. 事業承継で使える補助金・融資制度
  7. 事業承継で押さえておきたい重要ポイント

ここからは、「事業承継にかかる費用」について、より詳しく解説していきます。事業承継と一口にいっても、親族に承継する場合、従業員や役員に承継する場合、あるいはM&Aによる第三者承継を行う場合など、それぞれで必要となる支出が大きく異なります。さらに、事業承継には相続税や贈与税など多様な税金が関わり、専門家報酬や各種の手続にかかる費用も発生します。加えて、公的な補助金や融資制度を活用できる可能性があるため、うまく取り入れることで費用面を軽減できる場合もあるでしょう。ここでは、できるだけ分かりやすくポイントを整理します。

事業承継にかかる費用の全体像

事業承継で生じる費用は、大きく分けると「税金関連」と「専門家報酬」を中心としたその他の費用に分類されます。具体的には以下のようなものです。

相続税・贈与税

親族内で承継するときに特に発生しやすい

法人税・所得税・消費税など

承継形態によって課税の有無や計算が変わる

登録免許税や不動産取得税

不動産や会社の登記にまつわる税金

専門家への報酬

税理士・会計士・弁護士・M&A仲介会社などへの依頼費用

その他の手数料

必要書類作成や公的手続、印紙代などの諸費用

また、事業承継後の経営改善や新たな施策に取り組む場合、申請要件を満たせば「事業承継・引継ぎ補助金」などの公的制度を利用できることがあります。こうした制度を活用することで実質的な負担が軽減されるため、費用全体を俯瞰して検討することが大切です。

事業承継に関連する主な税金と計算のポイント

事業承継で大きな負担になりやすいのが、相続税や贈与税などの税金です。ただし、承継方法や承継時期、利用できる特例制度によって支払うべき金額は変わってきます。ここでは、主な税金のポイントを確認してみましょう。

相続税

オーナー経営者が亡くなり、その親族が後継者となる場合には相続税が課税されます。相続税は累進課税方式が採用されており、相続する財産額が大きいほど税率も高くなる仕組みです。

基礎控除

「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、遺産総額がこの控除額未満の場合、相続税はかかりません。

配偶者控除

配偶者が相続する財産には、1億6,000万円か法定相続分相当額のいずれか高いほうまでが非課税となる大きな特例があります。

申告期限

相続開始から10カ月以内に申告・納付が必要です。必要に応じて延納や物納という方法もとれますが、要件が厳しいので注意が必要です。

事業承継の場合、株式など大きな金額となる財産が含まれるため、相続税をどう抑えるかが大きな課題です。適正な株価評価や特例制度の活用などを含め、税理士のサポートがあると安心できます。

贈与税

生前に後継者へ株式や資産を譲る場合には贈与税がかかります。贈与税は相続税と同じく累進課税制度を取り入れており、贈与財産の金額が大きいほど税率も上昇します。

基礎控除110万円

1年間に110万円までの贈与は非課税です。

特例税率

直系尊属(両親や祖父母)からの贈与には特例税率が適用される場合があり、一般税率よりも低い場合があります。

相続時精算課税制度

贈与税を一定額まで非課税にした上で、最終的には相続の際にまとめて課税をする仕組みです。最大2,500万円までの贈与が非課税になる反面、一度選択すると暦年課税に戻せないなどの注意点があります。

親族内承継を生前に進めるときには、贈与税の負担をどうコントロールするかが欠かせません。

法人税・所得税

一般的に、親族内承継や従業員承継のように株式を後継者へ移転しても、法人そのものには利益が計上されないため法人税は発生しません。また、個人で株式を売却して利益を得るケースでは、個人に所得税・住民税が課される可能性がありますが、実際の承継形態や取引条件によって変わります。

M&A時の譲渡益

株式を売却する場合、売却益(譲渡益)に対して所得税や住民税がかかります。株価が高い場合は大きな額の納税になることがあるため、事前に把握しておく必要があります。

事業譲渡

会社の事業そのものを売却した場合には、譲渡側の法人に譲渡益が発生し、法人税が課税されることがあるため要注意です。

消費税

株式譲渡に関しては消費税はかかりませんが、事業譲渡を行う場合には売却する資産内容によって課税対象となる場合があります。例えば、在庫や設備などの「資産移転」があった場合に消費税が課されることがあるので、事業譲渡を検討しているときは必ず事前に確認しましょう。

登録免許税・不動産取得税

登録免許税

土地や会社の登記などに課せられる税金で、固定資産評価額や登記形態に応じて税率が決まります。事業承継税制を適用できる場合は軽減措置が受けられる可能性があります。

不動産取得税

不動産を生前贈与で取得する際に課税され、相続による取得の場合は非課税となります。これらの違いは、いつどのように資産を承継させるかを検討する際に重要です。

(※後述の「事業承継税制」を活用すれば、相続や贈与にかかる相続税・贈与税が猶予される場合があります。ただし期限が設けられており、要件も細かいので、専門家と相談の上で進めるのが賢明です。)

承継先別にみる費用の特徴

事業承継では、親族に引き継ぐか、社内の役員・従業員へ引き継ぐか、あるいは第三者へ譲渡(M&A)するかによって、必要な支出項目や総額に違いが出ます。特に、最終的に発生する税金や専門家報酬の負担が大きく異なるため、それぞれの特徴を把握することが大切です。

親族内承継の費用

親族内で後継者を見つけるケースは、承継にかかるコストを比較的低めに抑えられる場合が多いと言われます。ただし、相続税や贈与税をどう軽減するかが重要です。

相続税・贈与税の影響

オーナー経営者が亡くなった時点での承継であれば相続税、生前に株式や資産を渡す場合は贈与税が中心となります。いずれも累進課税であるため、株式評価額が高いと税率も上がり、納税負担は大きくなります。

専門家への依頼費用

親族内承継は、第三者承継ほどの複雑な交渉やデューデリジェンスが生じないため、仲介会社やM&Aアドバイザーへの成功報酬などは不要です。ただし、株価評価や税務申告のために税理士・会計士へ支払う費用が発生します。また、相続に際して遺産分割協議など法的手続に弁護士の助力を求める場合は、その依頼費用も必要です。

承継後の経営体制構築

承継後も同族経営を続けるため、従来と大きく体制を変えずに済むケースもあります。ただし、後継者が新たに運転資金や設備資金を調達する場面では、金融機関との交渉や各種補助金・融資制度を活用できる可能性があります。

従業員(社員)承継の費用

親族以外の役員や従業員が後継者となる方法では、株式を買い取るための資金が大きなハードルになりがちです。一般的に、従業員が自己資金だけで株式を取得することは困難な場合が多いからです。

株式取得資金の問題

従業員が大きな資金を用意できない場合は、融資を受ける、もしくは譲渡企業(売り手)側と支払条件を柔軟に設定するなどの工夫が必要です。その際、専門家のサポートを受ければ、適正な株価算定や金融機関との折衝に役立ちますが、当然ながら依頼費用が発生します。

税金の負担

親族内承継ほど相続税や贈与税は問題にならない半面、株式譲渡による所得税などが譲渡企業のオーナー側に課税されるケースがあります。また、譲受企業(買い手側)が資金を借り入れて株式を取得する場合は、その後の返済計画を慎重に立てる必要があるでしょう。

その他の費用

後継者教育や経営ノウハウの継承に時間をかけるため、その過程でコンサルティング費用などが発生するかもしれません。また、株式譲渡の手続に必要な書類作成や各種登記費用も発生します。

第三者承継(M&A)の費用

従業員でもなく親族でもない外部企業や投資家とマッチングする方法がM&Aです。近年は後継者不在の中小企業を中心に、この第三者承継が注目される一方、最も費用がかかる方法といえます。

仲介会社やアドバイザーへの報酬

M&Aを成功させるには、専門的な知識と広いネットワークが不可欠です。仲介会社やアドバイザーに依頼する際には、相談料、着手金、中間金、成功報酬などがかかります。取引金額の1~5%程度を成功報酬として支払うことが一般的で、1億円単位の譲渡になると数百万円以上の費用が発生します。

税金負担

売却側の株主(オーナー経営者など)に譲渡益が生じれば所得税や住民税がかかります。また、会社が事業譲渡を行う場合は法人税が課税されることもあるため、税理士と連携して全体の納税をシミュレーションすることが必要です。

デューデリジェンス・各種調査費用

M&Aプロセスでは法務・財務・税務などの詳細な調査(デューデリジェンス)が行われます。買い手・売り手双方が専門家チームを動員することが多く、それに伴う報酬や実費も考慮する必要があります。

成功報酬制と完全成功報酬制

仲介会社によっては、着手金や中間金を設定せず、完全成功報酬制で対応しているところもあります。初期コストを抑えたい場合は魅力的ですが、最終的な報酬額が高くなる可能性があるため、契約内容をよく確認し、自社に合う形態を選ぶことが大切です。

専門家へ依頼する際の費用

事業承継では、税理士・会計士・弁護士・M&A仲介会社などの専門家に協力を仰ぐ機会が多々あります。ここからはそれぞれの専門家の費用イメージや、依頼時の留意点を整理していきましょう。

税理士・会計士への報酬

税理士や公認会計士は、相続税・贈与税などの税務分野や株価算定、組織再編のプランニングなど、数字まわりの業務を広範に担当します。具体的な報酬形態や金額は業務内容や規模によって異なります。

業務内容と費用目安

  • 事業承継計画の策定や自社株評価:数十万円から数百万円
  • 税務申告書類の作成:法人税・相続税・贈与税などの申告書を含めるとさらに上乗せされる
  • 事業承継税制の適用支援:各種書類作成・提出が必要で、追加費用が発生する場合も

顧問契約の有無

すでに顧問税理士がいる場合は、顧問契約内での対応範囲を確認しましょう。事業承継の相談に特化した業務は顧問料とは別に見積もりが必要なケースも多いです。

専門分野の実績

税理士や会計士であっても、事業承継に精通していなければ十分なアドバイスが受けられない場合があります。事前に実績や得意分野を確認しておくと安心です。

弁護士への費用

弁護士は、遺産分割の争いを回避するための遺言書作成支援や、株主間契約・各種契約書のレビュー・作成など、法的リスクを管理する役割で関わります。

相談料・着手金・報酬金

初回相談料は1時間で5,000円~2万円程度が一般的です。具体的な業務に取りかかる段階で、事案の複雑さに応じた着手金(50万円~100万円程度)を請求されることがあります。

成功報酬金は、法律トラブルの解決や契約締結の成果に対して支払う費用で、獲得利益の一定割合(10%前後)を設定している場合もあります。

事業承継の専門性

弁護士全員が事業承継案件を得意としているわけではありません。特に中小企業の事業承継に熟達しているかどうかは、最初の打ち合わせ時に確認しておきましょう。

M&A仲介会社への費用

第三者承継(M&A)を進める際に欠かせない存在がM&A仲介会社です。買い手探しや企業価値評価、交渉サポートなどを一括して行いますが、報酬体系は多種多様です。

相談料・着手金・中間金・成功報酬

  • 相談料:初期相談として1時間あたり数万円
  • 着手金:数十万円~数百万円
  • 中間金:案件の進捗度合いに応じて発生
  • 成功報酬:取引金額の1~5%程度が相場(レーマン方式などが採用される)

完全成功報酬制

着手金や中間金が不要となる代わり、成約後に高額な成功報酬が発生する可能性があります。一般的には、取引金額が大きいほど報酬総額も上がる仕組みです。

仲介会社の比較

M&A仲介を依頼する際は、複数の会社から提案を受け、費用だけでなく実績やサポート体制、ネットワーク範囲などを比較検討しましょう。

事業承継で使える補助金・融資制度

事業承継は多くの費用を伴うため、国や自治体が設けている補助金・融資制度の利用を検討することも大切です。要件を満たせば大幅な費用軽減につながるケースも少なくありません。

事業承継・引継ぎ補助金

中小企業や個人事業主が事業承継をきっかけに、経営革新や事業再編など新しい取り組みを行う場合に申請できる補助金です。

補助率・支給額

対象経費の3分の2を補助し、最大600万円まで支給する場合があります。

要件

事業承継に伴い経営の強化や事業転換を実施すること。申請にあたっては、具体的な計画書や経営方針を明確に示す必要があります。

注意点

申請には膨大な書類や事前準備が求められるため、専門家に相談しながら早めに準備を進めるとスムーズです。

日本政策金融公庫の融資

低金利で利用できる日本政策金融公庫の融資制度も、事業承継の資金調達として考えられます。

主な融資

中小企業向けの事業資金や、事業再生貸付など。

メリット

他の金融機関より金利が低めの設定で、承継前後の資金需要をサポートしてくれます。

留意点

事業計画や今後の収支見込みがしっかりしていないと融資が下りない場合もあるため、計画書の精緻化が大切です。

事業承継で押さえておきたい重要ポイント

事業承継の費用を検討するだけでなく、将来に向けた対策や制度活用を早めに計画しておくのが賢明です。以下のポイントを踏まえ、実際の準備を進めてみましょう。

相続時精算課税制度の活用

制度概要

生前贈与を行う場合、60歳以上の親などから18歳以上の子・孫への贈与に適用できる制度です。最大2,500万円まで非課税となり、2,500万円を超えた部分は一律20%課税されますが、のちに相続が発生したときに精算します。

メリット

多額の生前贈与を可能にするため、早期に株式や資産を移転できる点。相続税対策の一環として活用されるケースが多いでしょう。

注意点

一度選択すると暦年贈与に戻せない、贈与者が亡くなった際には相続財産と合算して課税されるなど、制度特有のしくみを把握する必要があります。

事業承継税制の期限と猶予メリット

事業承継税制とは

中小企業が事業承継をする際、自社株式にかかる相続税や贈与税の納税を猶予・免除できる特例制度です。株式を承継しても、現金一括で納税しなくて済むため、資金繰りの面で大きな助けになります。

特例措置の有効期限

全額猶予を受けられる特例は2027年12月31日までですが、これを利用するためには2026年3月31日までに特例承継計画を都道府県庁へ提出しておく必要があります。期限の見落としに要注意です。

活用上の注意

特例の要件は多岐にわたり、5年間の経営継続や雇用維持など、満たすべき条件があります。また、猶予を受けた株式を途中で手放したり要件を満たさなくなると、猶予分を一括で納税するリスクがあるため、導入前のシミュレーションが重要です。

こうした制度を理解し、早期に承継対策を始めることで、想定外の税金負担や資金難を回避しやすくなります。特に、時間をかけて事業承継計画を策定し、必要に応じて親族や従業員への教育体制も整えることで、後継者へのバトンタッチをスムーズに進めることができるでしょう。

ここまで、「承継先別にみる費用の違い」や「事業承継の税金」「専門家への支払」「補助金・融資制度」などを詳しく見てきました。費用面の不安を解消するためには、実際にどの程度の金額がかかるのか、必要な資金をいつどのように調達するのかなど、事前に一連の計画を立てることが肝心です。また、相続時精算課税制度や事業承継税制、補助金・融資制度といった公的支援策も積極的に活用しながら、総額を抑える工夫をしていきましょう。

まとめ

事業承継では、後継者の選定に応じて専門家報酬や税金など多額の費用がかかります。相続や贈与を伴う場合は相続税・贈与税、M&Aでは仲介会社への報酬が大きなウェイトを占める点が特徴です。事前に事業承継税制や補助金・融資制度を確認し、早い段階から専門家に相談しておくことが、費用リスクを抑えスムーズに承継を完了させるカギとなるでしょう。

著者|土屋 賢治  マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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