事業承継費用の全体像を解説専門家への報酬や補助金活用法

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事業承継の費用はいくら?中小企業の税金・報酬・資金対策

事業承継にかかる総費用は、親族内承継・従業員承継・M&Aの選択、株価、税金、専門家への依頼範囲で大きく変わります。費用項目の整理から相続税・贈与税、株式譲渡の税金、専門家報酬、補助金・融資、手取りと必要資金の試算方法まで、中小企業経営者向けに解説します。

目次:

  1. 事業承継費用は3つの財布で整理する
  2. 費用総額を左右する承継前の条件
  3. 承継方法ごとに負担者と資金需要を確認する
  4. 税金は譲渡価格ではなく課税対象額で考える
  5. 専門家報酬は依頼範囲と料金体系で変わる
  6. 補助金・融資・税制で資金負担を軽くする
  7. 費用シミュレーションを作る手順
  8. まとめ

事業承継費用の全体像を解説専門家への報酬や補助金活用法

事業承継費用は3つの財布で整理する

「事業承継にはいくら必要か」と尋ねても、1つの相場だけで答えることはできません。会社を誰に引き継ぐか、株式を贈与するか売却するか、専門家へどこまで依頼するかで、総額が数十万円から数千万円まで動くためです。税金まで含めれば、さらに差が広がります。

費用を把握するときは、会社、現経営者、後継者という3つの財布に分けると整理しやすくなります。誰の口座から、いつ、何のために現金が出るのかを見る方法です。

会社が負担する費用

会社側では、事業承継計画の作成、組織再編、登記、許認可の変更、契約書の整備などに費用が生じます。M&A(合併・買収)で事業譲渡を選ぶ場合は、会社に譲渡益が生じ、法人税等が発生することもあります。設備や在庫など課税資産の移転には、消費税も関係します。

承継後に基幹システムを入れ替える、店舗を改装する、PMI(M&A後の統合プロセス)を進めるといった支出も、広い意味では事業承継費用です。成約までの費用だけを見ていると、承継後の資金が足りなくなることがあります。

現経営者が負担する費用

現経営者には、株式譲渡に伴う所得税・住民税、M&A支援の成功報酬、契約書の確認費用などが生じます。会社売却では、譲渡価格がそのまま手元に残るわけではありません。税金と専門家報酬を差し引いた後の手取り額で判断する必要があります。

また、個人保証の解除に向けた金融機関対応や、役員退職金の支給を検討する場合もあります。退職金は手取りや株価に影響しますが、金額の妥当性、会社の資金繰り、税務上の扱いを同時に確認しなければなりません。

後継者が負担する費用

親族内承継では相続税・贈与税、従業員承継では株式の買取資金が主な負担になりやすいです。後継者に経営能力があっても、納税資金や取得資金を用意できず、承継が止まることがあります。意外と多い落とし穴です。

費用の相談先は、税金だけでなく、資金調達、株主構成、個人保証、承継後の経営まで見渡せるかで選ぶ必要があります。

費用総額を左右する承継前の条件

同じ年商の会社でも、事業承継費用が同じになるとは限りません。総額を左右するのは、売上規模よりも、株価、保有資産、株主構成、承継方法、準備期間です。

自社株の評価額

親族へ株式を贈与・相続する場合、自社株の評価額が相続税・贈与税の土台になります。従業員や第三者へ売却する場合も、株価は取得資金や譲渡条件を決める出発点です。

税務上の株価と、M&Aで買い手が評価する企業価値は同じではありません。税務上は財産評価のルールを使い、M&Aでは将来の収益力、純資産、業界動向、買い手との相乗効果などを踏まえて価格を交渉します。この違いを混同すると、必要資金や手取りの見込みがずれます。

不動産・許認可・簿外債務の有無

会社が不動産を多く持つ場合、株価や譲渡スキームへの影響が大きくなります。株式譲渡では通常、会社名義の不動産はそのまま会社に残りますが、事業譲渡で不動産を個別に移すと、登録免許税や不動産取得税、司法書士報酬などが発生する可能性があります。

許認可が引き継げない業種では、新規申請や変更手続も必要です。未払残業代、訴訟、保証債務などの簿外債務が見つかれば、追加調査や条件交渉の費用も増えます。

株主数と家族関係

株式が親族に分散している会社では、承継前に株式を集約する費用や税金が生じることがあります。名義株、所在不明株主、相続未了の株式があると、手続はさらに複雑です。

家族内で方針が一致していない場合は、遺言、遺産分割、遺留分への対応も必要になります。外部への支払額が小さく見える親族内承継でも、調整に時間と費用がかかるケースは珍しくありません。

準備期間と専門家への依頼範囲

準備期間が短いほど、選べる対策は減ります。株価対策、後継者教育、金融機関との調整、税制の認定手続には時間が必要です。急いで複数の論点を同時に処理すると、専門家費用も高くなりやすいです。

一方、すべてを専門家へ任せればよいわけでもありません。社内で集められる資料を整理し、依頼内容を明確にすれば、調査時間と報酬を抑えやすくなります。

承継方法ごとに負担者と資金需要を確認する

事業承継の方法は、親族内承継、従業員承継、M&Aによる第三者承継の3つが中心です。費用の多い・少ないだけでなく、誰が負担するかを比べることが重要です。

親族内承継は税金と納税資金が中心

親族内承継では、仲介手数料や買い手探しの費用は通常かかりません。外部費用は、登記や書類作成、株価評価、税務申告などで、数万円から数百万円が1つの目安です。ただし、相続税・贈与税は別枠であり、自社株の評価額によって大きく変わります。

生前贈与なら贈与税、相続による承継なら相続税が中心です。税額だけでなく、後継者が期限までに現金で納付できるかも確認します。会社の株式は換金しにくいため、財産はあるのに納税資金がない状態になりやすいからです。

従業員承継は株式取得資金が最大の壁

役員や従業員が株式を買い取る場合、経営者へ支払う譲渡代金を用意しなければなりません。専門家費用だけを見れば数十万円から数百万円に収まることがありますが、株式取得資金は数千万円以上になることもあります。

自己資金で足りないときは、金融機関からの借入、持株会社を使うMBO、分割払いなどを検討します。借入金利、保証料、契約書作成費用も総費用に含める必要があります。無理な返済計画を組むと、承継後の設備投資や採用に資金を回せません。

M&Aは報酬が大きい一方で売却代金を得られる

第三者承継では、買い手候補の探索、企業価値評価、資料作成、交渉、契約支援などの費用が生じます。総額は数十万円から数千万円まで幅があり、会社規模と料金体系で変わります。

成功報酬の計算基準

成功報酬を譲渡価格の1〜5%程度と説明する例もありますが、実務では取引金額の段階ごとに料率を下げるレーマン方式が多く、単純な一律率ではありません。最低報酬を200万〜500万円程度に設定する支援会社も見られるため、小規模案件では料率より最低報酬が総額を左右します。

最低報酬と支払時期

相談料、着手金、中間金、成功報酬のどこまで発生するかも確認が必要です。完全成功報酬型でも、最低報酬、実費、契約解除時の費用、対象金額の定義によって負担は変わります。

ただし、M&Aは費用を支払うだけの方法ではありません。経営者が株式の売却代金を受け取り、従業員の雇用や取引を買い手へ引き継げる可能性があります。親族内承継や従業員承継と比べるときは、支出額ではなく、手取り、承継後の会社の安定、個人保証の扱いまで含めて判断します。

税金は譲渡価格ではなく課税対象額で考える

「株式を1億円で売ったら、約2,000万円の税金」と単純に考えるのは正確ではありません。株式譲渡の税金は、譲渡価格ではなく、取得費や譲渡費用を差し引いた譲渡益にかかります。親族内承継も、株式評価額や控除、他の相続財産によって税額が変わります。

株式譲渡では譲渡益に約20.315%

個人株主が非上場株式を売却した場合、原則として譲渡益に所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた約20.315%が課税されます。譲渡益は、譲渡価格から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。

取得費と譲渡費用

取得費が分からない古い会社では、計算方法によって税額が変わることがあります。仲介手数料などが譲渡費用に当たるかも含め、契約前に税理士へ確認しておくと手取りを読みやすくなります。

事業譲渡では会社と株主の2段階を確認する

事業譲渡では、譲渡益が会社の利益となり、法人税等が課されます。課税資産の移転には消費税も生じます。その後、会社に残った資金を株主が配当や清算で受け取ると、株主側にも課税が生じる可能性があります。

株式譲渡と事業譲渡は、税負担の場所と手取りが異なります。買い手の希望だけで決めず、会社と株主を合わせた税引後の金額で比較することが大切です。

相続税・贈与税は最高55%でも一律ではない

相続税と贈与税は累進税率で、最高税率は55%です。ただし、承継株式の評価額すべてに55%がかかるわけではありません。

相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除があります。贈与税の暦年課税には年110万円の基礎控除があります。相続時精算課税には年110万円の基礎控除と累計2,500万円の特別控除がある一方、一度選ぶと、その贈与者について暦年課税へ戻せません。

税率だけで判断せず、家族全体の財産、株価、承継時期、将来の相続まで試算する必要があります。

早期の株価対策は事業上の合理性とセットで考える

役員退職金の支給、配当方針の見直し、不要資産の整理、組織再編などにより、自社株評価が変わることがあります。ただし、「株価を下げるため」だけに行うのは危険です。

退職金を支払えば会社の現預金が減り、買い手から見た企業価値にも影響します。配当を抑えれば少数株主との関係が悪化することもあります。税金が下がっても、会社の資金繰りやM&A価格が悪化すれば本末転倒です。複数の承継案を比較してから実行します。

専門家報酬は依頼範囲と料金体系で変わる

専門家費用には公定価格がなく、会社規模、資料の整備状況、依頼範囲、争いの有無で変わります。相場だけで選ばず、見積書に含まれる業務と追加費用の条件を確認してください。

公認会計士・税理士

公認会計士・税理士は、自社株評価、相続税・贈与税の試算、事業承継税制、組織再編、株式譲渡後の確定申告などを支援します。通常の顧問料は月額数万円から数十万円、事業承継のスポット業務は30万〜150万円程度が目安として示されることがあります。

ただし、株主数が多い、不動産や海外資産がある、複数スキームを比較する場合は、さらに費用が増えます。顧問契約に含まれる範囲と、別料金になる業務を最初に分けて確認します。

弁護士

弁護士は、遺言・遺産分割、株主間の紛争、基本合意書や最終契約書の確認、個人保証や表明保証の検討を担います。時間制では1時間2万〜5万円程度、契約書作成やレビューは10万円から数十万円程度が1つの目安です。

紛争性が高い案件、交渉回数が多い案件では、着手金や成功報酬が加わります。見積もり時に、修正回数、交渉同席、契約後の対応が含まれるかを確認してください。

司法書士・行政書士

司法書士は役員変更、商号変更、組織再編、不動産移転などの登記を担当します。行政書士は許認可や行政手続を支援します。軽い変更なら数万円、複数の手続や許認可が絡むと5万〜30万円程度、さらに高くなることもあります。

登録免許税、証明書取得費、交通費などの実費が報酬と別かどうかも確認が必要です。

M&A支援会社・アドバイザー

M&A支援では、買い手探し、企業概要書の作成、条件交渉、全体進行に対して報酬を支払います。着手金0〜100万円程度、成功報酬は取引金額等を基礎にしたレーマン方式という料金設計がよく見られます。

料金が安くても、税務や契約の確認が別料金であれば、総額は増えます。反対に、報酬が高く見えても、株価算定、資料作成、交渉、専門家連携まで含まれることがあります。最低報酬、対象金額、支払時期、直接交渉の制限、契約期間を比較することが重要です。

補助金・融資・税制で資金負担を軽くする

費用を抑える方法は、安い専門家を探すことだけではありません。無料相談、補助金、融資、納税猶予を組み合わせると、支払時期と資金繰りを整えやすくなります。

事業承継・引継ぎ支援センターで初期相談を行う

各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターでは、事業承継や第三者承継について公的な相談支援を受けられます。初期段階で承継方法が決まっていない場合、無料相談を使って論点を整理してから、必要な専門家へ依頼すると無駄な費用を減らせます。

ただし、税務申告、契約書作成、登記、M&A実行などの個別業務は、別途専門家への依頼が必要になることがあります。

事業承継・M&A補助金を確認する

事業承継・M&A補助金では、公募枠や要件に応じて、設備投資、専門家活用、廃業、PMIなどの費用が補助対象になることがあります。補助額は公募回や申請類型で異なり、数百万円規模から、枠の組合せによっては千万円単位になる場合もあります。

契約前に対象経費を確認する

補助金は後払いが基本で、採択前・交付決定前の契約や支払が対象外になることがあります。M&Aの専門家費用は、登録された支援機関への支払に限られるなどの条件もあるため、契約前に最新の公募要領を確認してください。

補助制度は名称、対象経費、公募期間が変わります。過去制度や関連施策を確認する場合も、現在の公募状況と照合することが必要です。

融資で取得資金と承継後資金を確保する

従業員承継の株式取得資金や、承継後の設備・運転資金には、日本政策金融公庫や民間金融機関の融資を検討できます。日本政策金融公庫には、事業承継やM&Aに取り組む事業者向けの融資制度があります。

融資は費用を減らす制度ではありませんが、支払を分散し、承継後の資金不足を避ける手段です。金利、返済期間、保証、据置期間を含めて、承継後の利益で返済できるかを試算します。

事業承継税制は納税の猶予制度

法人版事業承継税制の特例措置では、一定要件を満たす非上場株式の贈与税・相続税について、納税が100%猶予され、後継者の死亡など一定の場合に免除されます。税金が自動的にゼロになる制度ではありません。

特例承継計画は2027年9月30日までに都道府県へ提出し、対象となる贈与・相続は2027年12月31日までに行う必要があります。適用後も年次報告や継続届出があり、株式の譲渡などで要件を外れると納税が必要になることがあります。

制度を使うかどうかは、親族内承継を続ける可能性、将来のM&A、後継者の経営意欲まで踏まえて判断します。

費用シミュレーションを作る手順

費用の見積もりは、承継方法を1つに決めてから作るものではありません。親族、従業員、第三者の複数案を並べ、支出、手取り、必要資金、実行可能性を比べます。

承継候補と希望時期を整理する

引き継ぎ先が親族、従業員、外部のどれか、まだ未定なのかを整理します。希望時期も重要です。1年以内なのか、3〜5年かけられるのかで、使える税制や株価対策、後継者育成の選択肢が変わります。

会社規模と株価の概算を出す

直近3期分の決算書、申告書、固定資産台帳、借入一覧、株主名簿を用意し、税務上の株価とM&A上の企業価値を概算します。年商だけでは費用は決まりません。純資産、利益、借入、不動産、退職金見込みも確認します。

税金と専門家費用を負担者別に置く

会社、現経営者、後継者の欄を分け、税金、報酬、登記、許認可、融資費用を置きます。M&Aでは成功報酬と譲渡所得税、従業員承継では買取資金と返済、親族内承継では納税資金を重点的に見ます。

専門家から見積もりを取るときは、同じ依頼範囲で比較します。株価算定だけか、計画策定、申告、契約、実行支援まで含むかで金額が違うためです。

税引後手取りと承継後の資金繰りを比べる

最終判断では、経営者の手取りだけでなく、会社に残る現金と後継者の返済余力を確認します。税負担が小さい案でも、会社の資金を使い過ぎれば承継後の経営が不安定になります。

3つの承継案を同じ前提で試算すると、「一番安い方法」ではなく、「実行でき、会社が続く方法」が見えてきます。M&A実務では、費用額より資金の出る時期を見落として判断が止まることがあります。早い段階で概算を作り、状況が変わるたびに更新してください。

まとめ

事業承継の費用は、親族・従業員・第三者の誰に引き継ぐかで、負担者、税金、必要資金が変わります。相場だけで決めず、株価、専門家報酬、納税資金、補助金・融資、承継後の資金繰りまで同じ条件で比較することが大切です。候補が未定でも、複数案の費用と手取りを早めに試算すれば、現実的な承継方法と準備の優先順位を判断しやすくなります。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人