事業承継には様々な費用が発生し、承継方法によってその費用は異なります。この記事では、事業承継を検討しているオーナー経営者に向け、事業承継において必要となる税金や費用について詳しく解説していきます。
目次
事業承継の方法は、誰に引き継ぐかにより、必要な費用が異なります。以下に、事業承継の種類とそれぞれにかかる費用について詳しく説明します。
オーナー経営者の子供やその他の親族が事業を引き継ぐケースです。親族外での事業承継やM&Aと比較して、費用が抑えられるという特徴があります。ただし、親族内で事業承継を行う場合には、相続税・贈与税の支払いが必要となることも重要なポイントです。税金の計算は非常に複雑なため、適切な納税のために税理士や会計士などの専門家に依頼することが推奨されます。
親族以外の役員・従業員や、外部の個人が後継者となって事業を引き継ぐケースです。後継者が会社の資産や株式の対価を支払うことになりますが、一般的な従業員などの個人資産だけではまず賄えないことがほとんどです。資金問題を解決するために、融資や譲渡金額の設定等について専門家のサポートが必要となります。
• 費用管理のポイント:親族外で事業承継を行う場合は、親族内での事業承継に比べて依頼料などの費用がかかることを注意しておきましょう。
第三者企業とのM&Aにより事業承継を行うケースです。この方法では、譲渡先の選定から実際の取引まで、専門家によるサポートが不可欠となります。事業承継の3つのパターンの中で、最も多くの費用がかかることが一般的です。
• 費用対効果を考慮して:M&Aの仲介業者は成功報酬制が一般的であり、報酬額は成果に応じて変動します。だからこそ、効率的なM&Aに取り組むことが重要です。
▶目次ページ:事業承継とは(事業承継の相談先・費用)
事業承継においては、さまざまな税金が課せられます。以下に、それぞれの事業承継方法に関連する税金について詳しく解説します。
贈与税は、生前に資産を贈与する際に課される税金です。累進課税制度が採用されており、贈与した金額が多いほど、税金も高くなります。そのため、贈与を行う前に税金の確認が必要となります。
一般的に、事業承継に伴う法人税の課税はありませんし、M&Aの際にも課税されません。ただし、事業譲渡の場合、譲渡益に対して法人税が課税されますので注意が必要です。
事業承継において、消費税は法人税と同様に課税されません。また、株式譲渡の場合も非課税です。しかし、事業譲渡の場合には消費税が課せられるので注意が必要です。
登録免許税は、土地や会社の登記、資格登録などが対象となる税金で、固定資産評価額の2%が税率です。事業承継税制を利用し、条件を満たすことで軽減が可能です。一方、不動産取得税はオーナー経営者の死亡による相続の場合は課税されませんが、生前贈与の場合には課税対象となります。また、不動産取得税に対しても事業承継税制の軽減措置が存在します。
事業承継には、税金以外にもさまざまな費用が必要です。ここでは、事業承継で発生する主要な費用を説明します。
• 税理士・会計士の報酬:いずれの方法の事業承継においても、税金の算出や業務に税理士・会計士への依頼が必要です。現状分析から事業承継までトータルで支援を受けることもできます。
• 弁護士による費用:弁護士と顧問契約を結んでいない場合、事業承継の相談に費用がかかります。着手金や報酬、手数料などが必要になることがあります。また、月額制で顧問契約を結ぶこともできます。
• M&Aアドバイザーへの支払:第三者承継(M&A)を活用した事業承継の際には、専門家の支援が必要となります。月額報酬制や成功報酬制を採用している場合もあるので、事前に報酬の確認が必要です。
事業承継での補助金や融資制度の利用は、費用の軽減や資金調達面での問題解決に役立ちます。以下では、事業承継に関する補助金や融資制度について詳しく述べます。
事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継を活用し、新たな取り組みを行う中小企業や個人事業主を支援するための制度です。事業承継が経営革新や事業転換を伴う場合に、経費の一部が補助されることが特徴です。補助金額は、対象となる経費の3分の2を上限に、要件を満たす場合、最大で600万円が支給されます。
しかし、書類や事前準備において、経営に関する実績や知識が求められるため、取得が困難であると感じる方も少なくないでしょう。
参考:事業承継・引継ぎ補助金
日本政策金融公庫では、低利で利用できる融資制度が提供されており、事業承継を検討している中小企業向けの融資や、再建資金としての企業再生貸付など、さまざまな支援が行われています。これらの融資を活用することで、事業承継に伴う資金調達の問題を解決することが期待できます。
すぐに事業承継を行わなくても、将来に備えて考慮すべきポイントについて説明します。
相続時精算課税制度とは、最大2,500万円までの贈与税が控除される制度のことを指します。子や孫が事業を相続する予定の場合、オーナー経営者が現役のうちに贈与を行うことができます。これは、いわば生前贈与のような制度と言えます。ただし、贈与者が60歳以上であり、贈与を受ける者が18歳以上であることが求められるため、注意が必要です。
期間限定で利用可能な事業承継税制も活用できます。これは、中小企業の事業承継を支援するための特別な税制で、要件を満たすことで、相続・贈与された自社株式にかかる相続税や贈与税が猶予されるというメリットがあります。制度の適用を受けることで、現金での負担が実質的にゼロに近づくことが期待できます。
事業承継税制を適用するためには、2024年3月31日までに特例承継計画を提出する必要があります。期間限定の特例であるため、早めに専門家に相談し、準備を進めることが望ましいです。
参考:事業承継税制特集|国税庁
事業承継には、親族内での承継、親族外での承継、M&Aを活用した承継の3つの方法が存在します。承継方法によって必要な費用が異なるため、相続税や贈与税に加えて、専門家への依頼料も考慮して事前準備を行うことが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画