会社の廃業費用|登記・公告から資産処分・原状回復・専門家報酬まで

廃業には様々な手続と費用が伴います。本記事では、廃業にかかる費用の内訳や手続の流れ、有限会社や個人事業主の留意点、さらに休眠会社化やM&Aなどの代替案についても詳しく解説します。

目次:

  1. 「廃業」と「解散・倒産・破産」の違い
  2. 廃業・解散に伴う費用の内訳 
  3. 廃業・清算の手順
  4. 有限会社と個人事業主の廃業時の注意点 
  5. 休眠会社化という選択肢 
  6. M&Aによる廃業の回避
  7. まとめ

「廃業」と「解散・倒産・破産」の違い

廃業とは、会社や個人事業主が自らの意思で事業を終了させることを指します。事業を終えるだけでなく、会社の解散手続や清算に伴う一定の費用が発生します。廃業の概念を正しく理解するためには、関連する用語との違いを把握することが重要です。

以下に、廃業と関連する概念の違いを説明します:

1. 解散:

  解散とは、事業を終了させ、会社を消滅させる手続の開始点です。個人事業主の場合は、いくつかの届出を提出する
    だけで完了しますが、会社の場合は株主総会決議等の解散手続が必要となります。解散だけでは会社の事業が終了し
    たことを意味するだけで、廃業には所有資産の整理や債務の整理などさらなる手続が必要です。

2. 倒産:

  倒産とは、業績悪化により債務が返済できず、事業の継続が不可能になった状態を指します。廃業が自主的な決定で
  あるのに対し、倒産は経営破綻による非自発的な事業終了を意味します。

3. 破産:

  破産は、倒産状態になった際に行う清算を目的とした債務整理手続のことです。破産すると、会社の資産と債務が清算
  され、会社は消滅します。倒産した会社が必ずしも破産手続を選択するわけではなく、民事再生手続を選択するケース
  もあります。

これらの概念を理解することで、廃業の位置づけがより明確になります。廃業は経営者の意思決定に基づく計画的な事業終了であり、関連する法的手続や清算作業を伴う複雑なプロセスであることがわかります。

廃業・解散に伴う費用の内訳

廃業・解散には様々な費用が伴います。中小企業庁の「2019年版中小企業白書」によると、廃業費用の総額が100万円以上だったと回答した会社は36.2%に上り、中には1,000万円以上かかったケースもあります。ここでは、主な費用項目について詳しく説明します。

必要な登記費用

会社の廃業には、3つの重要な登記が必要です。それぞれの費用は以下の通りです:

 1. 解散登記:30,000円

 2. 清算人の選任にかかる登記:9,000円

 3. 清算結了にかかる登記:2,000円

これらの登記は廃業手続の完了に不可欠です。経営者本人で対応することも可能ですが、漏れなく適法に手続を完了するためには、司法書士や弁護士などの専門家に依頼することをおすすめします。

官報公告にかかる費用

会社は解散後、速やかに官報で解散の事実や債権申出に関する情報を公告する必要があります(会社法499条)。債権保護の観点から、2か月以上の公告期間が必要です。

官報による公告の費用は、1行あたり3,263円(税抜)です。解散公告は一般的に約10行必要とされるため、3〜4万円程度の費用が発生します。

在庫・設備の処分費用

事業運営のために所有していた在庫や設備は、廃業に伴い処分する必要があります。

 1. 在庫の処分 

   在庫は、セール販売や買取業者への売却で現金化することが一般的です。現金化できない在庫は、破棄するか廃棄
   業者を利用して処分することになります。この処分には費用が発生する可能性があります。

 2. 設備の処分 

   新しい設備や中古取引が活発な設備は、買取業者に売却できる可能性があります。しかし、古い設備や人気のない
   設備は、専門の廃棄業者に依頼して処分することになります。廃棄処分にかかる費用は、トラック1台分あたり数
   万円からとされていますが、設備の仕様や引き取り時の工事の必要性など、状況により費用が変動する点に注意が
   必要です。

賃貸物件の原状回復費用

貸しビルや貸し工場など賃貸物件で事業を運営していた場合、ほとんどのケースで賃貸借契約書に原状回復義務が定められています。そのため、原状回復費用が発生します。

敷金や保証金の範囲内で相殺されるケースもありますが、物件の状況によっては、それ以上の費用がかかる場合もあるので注意が必要です。

専門家への報酬

廃業手続は経営者本人でも実施できますが、手間を省きたい場合や漏れなく確実に手続を完了するために、税理士や司法書士などの専門家に依頼することも可能です。

専門家への依頼費用は、登記費用や公告費用などとは別に数十万円程度の報酬が発生するのが一般的です。依頼できる内容や費用体系は専門家により大きく異なるため、複数の専門家から見積もりを取り、比較検討することをおすすめします。

有限会社の廃業費用の特徴

有限会社の廃業費用は、基本的に株式会社の廃業費用とほぼ同じです。登記費用、清算費用、公告費用、専門家への依頼費用など、一定の費用が発生します。

一般的に有限会社の方が株式会社よりも売上高や従業員数が小規模な傾向にあるため、清算に係る費用や専門家への依頼費用を抑えられる可能性があります。ただし、有限会社でも株式会社と遜色ない規模で運営している場合もあるため、一概には言えません。

廃業に係る費用は、法人の形態よりも事業内容および事業や所有資産の規模によって変動すると認識しておくことが重要です。

個人事業主の廃業費用の特徴

個人事業主の廃業は、登記手続が不要で、国や都道府県、管轄の税務署に届出を提出するのみで完了するため、法人の廃業と比べて費用が安く済む傾向にあります。

個人事業主の場合も、在庫や設備の処分、賃貸物件の原状回復、専門家への依頼などの清算事務は発生します。しかし、自宅を仕事場にしていたり、在庫や設備が少ない傾向にあることから、事業内容や事業形態によっては、廃業に係る費用がほとんどかからないケースも多くあります。

廃業・清算の手順

廃業・清算の手続は複雑で時間がかかるプロセスです。以下に、主要なステップを解説します。


解散・清算の事前準備

 1. 取引先や仕入れ先への説明 

    自社の廃業は取引先や仕入れ先の事業運営にも大きな影響を及ぼす可能性があります。事前に丁寧な説明を行い、
        理解を得ることが重要です。

 2. 各種契約の整理と解約 

        不要な契約や役目の終わった契約を整理し、必要に応じて解約手続を進めます。

 3. 株主総会による解散決議と清算人登記 

        会社の解散には株主総会での承認と清算人の選任が必要です。清算人については選任後、登記も必要となります。

 4. 社会保険や税金関連の届出 

        税務署、都道府県税事務所、日本年金機構、労働基準監督署など、各所へ解散に関する届出を提出します。これら
        の届出を怠ると、廃業後に思わぬ税金や費用が発生する可能性があります。

清算手続の具体的な流れ

 1. 債権の回収と現務の完了及び弁済

    売掛金や未収入金などの債権回収、未完了の業務や役務の遂行、継続中の契約の履行を行います。

 2. 官報による解散の公告 

    解散後速やかに、官報で解散事実と債権申出に関する公告を行います。債権者に対しては個別で債権申出の催告を
    行うことをおすすめします。

 3. 財産の調査と財産目録・貸借対照表の作成 

      清算人は会社財産の現状を調査し、解散日の財産目録と貸借対照表を作成します。これらは株主総会の承認を得る
    必要があります。

 4. 解散・清算事業年度の確定申告 

    解散事業年度(事業年度開始日から解散の日まで)の確定申告を、解散日の翌日から2か月以内に行います。また、
    清算事業年度(解散日の翌日から1年毎)の申告も必要です。

 5. 資産の現金化、債務弁済、残余財産の分配 

    資産を現金化し負債を弁済した後、残った財産(残余財産)を株主間で分配します。

清算終了後の必要手続

 1. 残余財産確定事業年度の確定申告 

    残余財産が確定した日から1か月以内に確定申告を行います。この申告には期限延長がないので注意が必要です。

 2. 清算人による決算書の作成・承認 

    清算人は決算書を作成し、株主総会で承認を得ます。これにより法人格が消滅します。

 3. 清算結了の登記 

    株主総会での決算書承認後、2週間以内に清算結了登記を行います。これにより、会社の法人格が正式に消滅した
      ことが登記されます。

有限会社と個人事業主の廃業時の注意点

有限会社と個人事業主の廃業手続は、株式会社の廃業とは若干異なる点があります。それぞれの特徴と注意点を解説します。

有限会社廃業時の特有の留意事項

 1. 株主総会での承認決議議決権数 

    有限会社の場合、総株主の半数以上の出席が必要で、総株主の議決権の4分の3以上の賛成で承認されます。
        株式会社(議決権を行使できる株主の議決権の過半数以上の出席、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)とは異
        なるので注意が必要です。

 2. 清算人会の設置 

        有限会社では、株式会社のような清算手続を実施する会(清算人会)を設置することができません。

 3. 代表清算人の登記 

        有限会社の場合、清算人が1人の場合では「代表清算人」としての登記ができません。株式会社では清算人が1人で
        も「代表清算人」として登記が可能な点と異なります。

  これらの相違点に注意しながら、有限会社の廃業手続を進める必要があります。

個人事業主廃業時の特有の留意事項

個人事業主の廃業は、法人の廃業と比較して手続が簡略化されています。主な注意点は以下の通りです:

 1. 管轄の税務署への届出 

  ●廃業後1か月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出
  ●青色申告の場合、廃業する年の翌年3月15日までに「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出
  ●消費税の課税事業者の場合、「事業廃止届出書」を提出
  ●従業員に給与支払いがある場合、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書」を提出

 2. 管轄の都道府県税事務所への届出 

  ●事業の廃止の日から10日以内に「事業開始(廃止)等申告書」を提出

これらの届出を期限内に確実に提出することが重要です。提出を忘れると、廃業後にかかった費用が経費として認められなかったり、事業を廃止したことを税務署が認識できず、不要な課税が発生したりする可能性があります。

個人事業主の廃業は、登記手続が不要なため比較的シンプルですが、必要な届出を漏れなく行うことが重要です。

休眠会社化という選択肢

事業運営を完全に終了させる廃業とは異なり、休眠会社という選択肢もあります。休眠会社とは、事業運営を一時的に停止しているものの、会社を存続させている状態を指します。

休眠会社のメリット:

 1. 事業運営を一時的に停止できる

 2. 管轄の税務署や都道府県民税・市区町村税事務所への届出提出のみで完了するため、手間や費用が少ない

 3. 事業再開時も届出提出のみでスピーディーに再開可能

 4. 事業運営上必要な許認可等を再取得する必要がない

 5. 法人設立期間が継続されるため、新規設立より信用を得やすい

休眠会社のデメリット:

 1. 確定申告や役員重任登記など、最低限の手続は継続して必要

 2. 会社所有の不動産がある場合、固定資産税は発生し続ける

 3. 賃貸やリース物件がある場合、一定の固定費が発生し続ける

現時点で事業運営の継続が難しくても、将来的に再開を検討している場合は、休眠会社化も一つの選択肢として検討する価値があります。

M&Aによる廃業の回避

事業運営を終了させる選択肢として廃業・解散を検討する前に、M&A(合併・買収)についても検討することをおすすめします。M&Aは中小企業や個人事業主でも活用可能で、廃業に伴うデメリットを回避する有効な対策となる可能性があります。

M&Aのメリット:

 1. 技術力の継承が可能

 2. 取引先との取引継続が可能

 3. 従業員の雇用継続が可能

 4. M&Aによる売却益でオーナーが先行者利潤を獲得できる可能性がある

M&Aは、廃業に伴う手間や費用、取引先や従業員への影響を最小限に抑えつつ、事業価値を次の経営者に引き継ぐことができる選択肢です。事業を終了させる方法として廃業を検討する際は、M&Aの可能性についても専門家に相談してみることをおすすめします。

まとめ

廃業には様々な手続と費用が伴います。特に法人の場合、登記や清算、資産処分など複雑な過程を経る必要があります。個人事業主の廃業は比較的簡便ですが、必要な届出を確実に行うことが重要です。また、休眠会社化やM&Aなど、廃業以外の選択肢も検討する価値があります。事業終了を考える際は、これらの選択肢を慎重に比較検討し、最適な方法を選択することが大切です。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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