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廃業にかかる費用の内訳と抑える方法を解説

廃業費用はいくらかかるのか?結論から言うと、法人では数十万~数百万円、個人事業主なら0円も可能です。本記事では内訳と手続をわかりやすく解説します。

目次:

  1. 廃業と解散・倒産・破産の違いを理解する
  2. 廃業費用の主な内訳と相場
  3. 廃業・清算手続の流れとポイント
  4. 有限会社と個人事業主の廃業費用の違い
  5. 休眠会社化という選択肢を検討する
  6. M&Aで廃業費用と損失を最小化する
  7. 廃業費用を抑えるための具体的チェックリスト
  8. 廃業後の確定申告と必要経費の特例
  9. 専門家に相談するタイミングと選び方
  10. まとめ

廃業と解散・倒産・破産の違いを理解する

廃業とは経営者の意思で事業そのものを終了させ、資産や負債を整理したうえで法人格を消滅させる一連のプロセスです。似た言葉として解散・倒産・破産がありますが、意味や手続は大きく異なります。誤解を避けるため、まずは用語の位置付けを押さえましょう。

廃業は自主的に事業を終える選択肢

廃業は、業績悪化だけでなく後継者不在や経営者の高齢化など、経営戦略上の判断で決断されるケースが増えています。計画的に進めることで、取引先や従業員への影響を抑え、税務上のリスクも最小限にできます。ただし、登記や税務申告、資産処分など多面的な手続が求められるため、早期準備が不可欠です。

解散は会社消滅へのスタート地点

解散決議は株主総会で過半数出席・3分の2以上賛成(株式会社の場合)という厳格な手続が必要です。個人事業主なら所定の届出のみで済みますが、法人は解散登記後も債務弁済や残余財産分配が残っています。つまり解散はゴールではなく清算作業の入り口にすぎません。

倒産は返済不能による非自発的終了

倒産は資金繰り行き詰まりで債務支払が不能になった状態を指します。市場環境や取引先の倒産が引き金となり、経営者の意思と無関係に事業継続が困難になります。廃業が「選ぶ」終了なら、倒産は「追い込まれる」終了と言えます。

破産は倒産後に選択される法的清算

破産手続では裁判所が関与し、清算人(破産管財人)が資産を換価して債権者に配当します。倒産したすべての会社が破産を選ぶわけではなく、民事再生を目指す企業もあります。用語を正しく区別することで、自社に最適な道筋を判断しやすくなります。

廃業費用の主な内訳と相場

中小企業庁「2019年版中小企業白書」によれば、廃業費用が100万円以上に達した企業は36.2%、なかには1,000万円超の例も報告されています。費用を見積もる際は、固定費だけでなく潜在コストも含めた総額を把握することが重要です。

登記費用は最低4万円程度が必須

法人が廃業するときは、

  1. 解散登記(30,000円)
  2. 清算人選任登記(9,000円)
  3. 清算結了登記(2,000円)

の登録免許税がかかります。自社対応も可能ですが、申請漏れは法的リスクとなるため、司法書士へ相談する企業も少なくありません。

官報公告費用は3〜4万円前後

会社法499条により、解散後は官報で債権者に周知する義務があります。官報掲載料金は1行3,263円(税抜)で、解散公告は目安10行。費用総額は約4万円です。公告期間は2か月以上と決められているため、スケジュールに余裕を持って準備しましょう。

在庫や設備の処分コストは規模で変動

在庫はセール販売や買取業者への売却で現金化を試みます。現金化できない在庫は廃棄費用が発生します。設備は市場価値が高ければ売却益を得られますが、老朽化した機器は専門業者の回収費が必要で、トラック1台あたり数万円が目安です。処分費は「量×単価+作業費+解体工事費」で膨らむこともあるため、事前に複数社へ見積を依頼すると安心です。

賃貸物件の原状回復費用も忘れずに

貸し事務所や工場では、解約時に原状回復義務が契約で定められています。敷金や保証金で賄えない不足分は追加支払いが必要です。特に飲食店や製造業の物件は設備撤去・配線工事費が高額になりがちなので、内装業者と早めに打ち合わせましょう。

専門家報酬はケースにより数十万円

登記や公告は自社対応可能ですが、経営者自身で行うには時間と手間がかかります。税理士・司法書士へ一括依頼すれば数十万円の報酬が追加で発生しますが、手続漏れリスクを減らし本業の整理に集中できます。複数の専門家から見積を取り、報酬体系やサポート範囲を比較検討することが大切です。

最低でも約8万円かかる「必須コスト」を確認

登記と官報公告だけでも合計約80,000円が必要です。「資金不足で廃業できない」という事態を避けるため、必須コストは早めに確保しておきましょう。なお、個人事業主はこれらの費用が不要なため、手続コストを大幅に抑えられます。

施設の処分・原状復帰が大きな負担に

店舗や工場を閉じる場合、設備撤去や内装解体、残置物の廃棄が必要です。規模が大きいほど工事費・運搬費が増え、廃業費用全体を押し上げる要因となります。

在庫処分で予想外の費用が発生することも

商品の陳腐化や保管環境の問題で売却が難しい在庫は、廃棄費用だけでなく保管料も加算されます。「黒字廃業」でも在庫処分で損失が膨らむケースがあるため、早期に処分方針を検討すると安全です。

黒字廃業の確定申告タイミングに注意

黒字のまま廃業する場合、法人は清算人選任後に確定申告を行います。個人事業主は翌年2月16日〜3月15日の通常期限で申告します。赤字廃業でも税務上黒字なら申告が必要になる点は見落としがちです。

廃業後も計上できる「必要経費の特例」

個人事業主は廃業後に支払った費用でも、廃業した年または前年の経費として計上可能です。ただし、事業継続中と同程度の範囲に限られるため、領収書・契約書を保管しておきましょう。

廃業・清算手続の流れとポイント

廃業は「解散→清算→法人格消滅」という三段階で進みます。各段階ごとの手続を把握することで、スムーズなスケジュール設計が可能になります。

事前準備で関係者への説明と契約整理

まず取引先・仕入先に廃業方針を説明し、理解を得ます。並行して不要契約を整理し、違約金の有無を確認します。株主総会では解散決議と清算人選任を行い、議事録を作成します。

社会保険・税務関係の届出を忘れない

税務署、都道府県税事務所、日本年金機構、労働基準監督署などへ解散届を提出します。届出を怠ると、廃業後に追徴課税や追加保険料が課される可能性があります。

解散登記後は官報公告と債権回収を実行

法務局への解散登記を終えたら、官報公告で債権者に通知します。同時に売掛金の回収、進行中契約の履行、雇用調整を進めます。公告期間中に申し出のない未知債権への対応も、清算人の重要な役割です。

財産目録・貸借対照表の作成と確定申告

清算人は解散日現在の財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を得ます。解散事業年度の法人税確定申告は解散日の翌日から2か月以内、さらに清算事業年度ごとに申告が必要です。

資産換価と債務弁済後に残余財産を分配

資産を現金化して負債を支払い、残余財産があれば株主へ分配します。株主間でトラブルを防ぐため、分配基準や時期を事前に定款・合意書で確認すると良いでしょう。

清算結了登記で法人格が消滅

決算報告書が株主承認を得たら2週間以内に清算結了登記を行い、法人格は正式に消滅します。残余財産確定年度の確定申告は確定日から1か月以内で延長はできません。ここまで終えて初めて廃業プロセスは完了です。

有限会社と個人事業主の廃業費用の違い

法人形態によって必要コストや手続難易度は変わります。ここでは有限会社と個人事業主に焦点を当て、特徴を比較します。

有限会社は規模が小さければ費用を抑えやすい

有限会社も株式会社と同じく登記や公告が必須です。解散登記30,000円、清算人登記9,000円、官報公告約40,000円、清算結了登記2,000円と費用構成は共通します。ただし、設立時資本金300万円以下・従業員50人以下のケースが多く、在庫や設備規模が小さい分、処分費や専門家報酬を抑えやすい傾向があります。

議決権要件や清算人会の有無に留意

有限会社では総株主の半数以上出席・4分の3以上賛成で解散が決議されます。また清算人会を設置できず、清算人が1名でも「代表清算人」としての登記ができません。このため、株式会社の手続フローとは細部が異なる点に注意が必要です。

個人事業主の廃業は手続コストが最小限

個人事業主は登記不要で、廃業届や青色申告取りやめ届など書類提出のみで完了します。設備や在庫が少なく、自宅兼事務所なら原状復帰費も発生しにくいことから、「廃業費用ゼロ円」で済むケースも珍しくありません。

届出を怠ると税務トラブルの可能性

廃業後1か月以内の「個人事業の開業・廃業等届出書」をはじめ、消費税や給与支払い関係の届出を忘れると、必要経費が否認されたり不要な課税を受けたりするリスクがあります。届出の期限は短いため、スケジュール表を作成して管理しましょう。

本節では廃業費用の基礎と手続の全体像を整理しました。後半では休眠会社化やM&Aといった代替策を取り上げ、廃業以外の選択肢を具体的に検討します。ぜひ最後までご覧ください。

休眠会社化という選択肢を検討する

休眠会社とは実際の事業活動を一時停止しつつ、法人格だけを存続させておく状態を指します。登記上は存続しているため、将来事業を再開する際の手続や許認可の再取得が不要になる利点があります。廃業まで踏み切れない場合の“猶予策”として有効ですが、最低限の維持費と事務負担が続く点を理解しておきましょう。

休眠会社のメリットは費用と信用の維持

  1. 休眠開始の届出だけで完了するため、登記費用や公告費用が不要
  2. 事業再開時は届出だけで即時復活でき、設立し直すより時間もコストも削減
  3. 設立年月日が変わらないため、金融機関や取引先からの信用が保たれやすい

休眠会社のデメリットは固定費と手続の継続

  1. 年1回の確定申告、役員重任登記など最低限の手続が残る
  2. 不動産やリース契約がある場合は固定資産税やリース料が継続
  3. 放置すると休眠期間満了でみなし解散となり、強制的に閉鎖登記されるリスク

休眠届出の具体的手順

休眠会社化は、所轄税務署への「休業届出書」と都道府県税事務所への「休業届」を提出するだけで完了します。提出期限は休業日から1か月以内が目安です。また、休眠中も法人県民税・市民税の均等割(地域により年間2万円前後)は発生するため、まったくのゼロコストではない点を忘れないでください。

休眠期間満了によるみなし解散に注意

会社法の規定で、最終登記から12年経過した株式会社はみなし解散となり、法務局から職権で解散登記されます。継続を望む場合は期間満了前に役員重任登記や定時株主総会の議事録提出が必要です。

M&Aで廃業費用と損失を最小化する

廃業では資産処分や原状回復、従業員解雇など経済的・社会的損失が避けられません。一方M&Aによる事業承継なら、買い手企業が資産と従業員を引き受けるため、コスト削減どころか売却益を得られる可能性があります。中小企業白書でも「黒字廃業」の解決策として事業承継型M&Aが注目されています。

M&Aの主なメリット

  • 技術やノウハウが次世代に継承され、取引先・従業員の不安を抑えられる
  • オーナーは株式譲渡益や事業譲渡対価を獲得でき、老後資金に充当可能
  • 取引先との契約が継続し、従業員の雇用が守られることで地域経済の損失も回避

M&A成功のポイントは早期相談と情報開示

買い手が付くかどうかは財務内容だけでなく、業界の将来性や顧客基盤、経営者の引継ぎ意欲で左右されます。決算書3期分・主要顧客リスト・許認可の有無などを早めに整理し、実績豊富なアドバイザーに相談することが成否を分けます。

M&Aの代表的なスキーム

  • 株式譲渡:オーナー保有株を買い手へ譲渡し、経営権を移転
  • 事業譲渡:店舗・設備・従業員など事業単位で譲渡し、法人格は残る
  • 会社分割:事業部門を分社化して譲渡し、負債や雇用を切り分ける

アドバイザー報酬体系の目安

譲渡対価の3〜5%を成功報酬とするレーマン方式が一般的です。着手金や月額報酬が設定される場合もあるため、総額と支払時期を契約書で確認しましょう。

M&Aの標準的なタイムライン

  1. 初期相談・企業価値簡易査定(1か月)
  2. ティーザー資料作成と買い手探索(1〜3か月)
  3. ノンネーム情報開示とNDA締結(2週間)
  4. 詳細資料開示・デューデリジェンス(1〜2か月)
  5. 基本合意契約締結と条件交渉(1か月)
  6. 最終契約・クロージング(1か月)

廃業費用を抑えるための具体的チェックリスト

設備・在庫の処分は相見積が基本

  • 同業他社への売却も視野に入れ、複数業者から査定を取る
  • 廃棄を前提にせず、ネットオークションやリースバックも検討

原状回復工事は減額交渉が有効

  • テナント側で代替入居者を見つけると、オーナーが復旧費を減免するケースもある
  • 見積に「諸経費」「雑費」が含まれる場合は詳細内訳を確認し削減

専門家報酬は業務範囲を細分化して依頼

  • 登記と公告だけ司法書士に任せ、債権回収や在庫処分は社内で行う
  • 成果報酬型か定額型かを比較し、自社に合う料金体系を選択


チェック項目                     実施状況                完了予定日

登記費用の資金確保                              2025-07-15

官報公告の原稿作成                              2025-07-20

在庫処分先3社へ見積                           2025-07-30

原状回復工事の相見積                           2025-08-05

清算人候補者の選任                 ✅                2025-07-10

解散公告掲載日決定                              2025-08-10

廃業費用シミュレーション事例

売上3億円・従業員20名の製造業

  • 登記・公告費:約10万円
  • 在庫処分益:▲100万円
  • 設備処分費:80万円
  • 原状回復費:150万円
  • 専門家報酬:70万円
  • 合計実負担:210万円


同規模企業がM&Aを選択

  • 売却益:1,200万円
  • 専門家報酬:120万円
  • 法人税等:310万円
  • 純手取り:約770万円

廃業後の確定申告と必要経費の特例

法人・個人とも黒字であれば廃業後も申告義務があります。個人事業主は廃業年の翌年2月16日〜3月15日、法人は清算人選任日の翌日から2か月以内に解散事業年度の申告が必要です。

特に個人事業主は廃業後に発生した費用でも、事業関連性があれば「必要経費の特例」で廃業年または前年の経費計上が可能です。領収書を保管し、税務署へ内容を説明できるようにしておきましょう。

赤字廃業でも税務上黒字なら申告必要

会計上赤字でも、税務調整後に所得がプラスなら確定申告義務が生じます。申告漏れは加算税・延滞税の対象となるため注意してください。

専門家に相談するタイミングと選び方

相談は廃業を意識した瞬間がベスト

  • 資金が尽きる前に試算を行い、清算コストを把握
  • 黒字廃業ならM&Aの打診まで最短6か月以上は必要

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まとめ

廃業費用は最低でも登記と公告で約8万円、規模や資産状況によっては数百万円に達します。休眠会社化やM&Aを活用すればコスト削減や売却益獲得も視野に入ります。早期準備と専門家の力を借りて、最適な選択肢を見極めましょう。

著者|竹川 満  マネージャー/M&Aアドバイザー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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