中小企業のM&Aとは何か?基礎知識と重要ポイントを解説
M&Aとは何か?と疑問に思った経営者の皆様へ。中小企業の事業承継や売却方法、費用や成功のポイントをわかりやすく解説します。
目次
▶目次ページ:第三者承継(M&Aの意味)
M&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略語で、会社の経営権を他社に譲り渡すことを指します。中小企業においては、特に後継者不在の問題を解決する手段として近年注目されています。
中小企業基本法では、中小企業は業種により定義されており、例えば製造業では資本金3億円以下または従業員300人以下などと定義されています。このような企業が後継者不在により廃業のリスクを抱えており、M&Aはその打開策として活用されているのです。
高齢化や都市集中の影響を受け、中小企業の経営者の年齢も上昇しています。帝国データバンクの調査によると、2022年の休廃業件数は全国で53,000件超に達し、半数以上が黒字での休業という結果でした。これは、企業としての体力はあっても、後継者が見つからずに廃業せざるを得ないという現実を表しています。
さらに、中小企業基盤整備機構の報告によれば、M&Aに関する相談件数や成約件数は年々増加しており、2022年度には過去最多を記録しました。これらの動向からも、中小企業にとってM&Aが一般的な承継方法として認知されつつあることがわかります。
M&Aを通じて第三者に事業を承継することで、経営者が安心して引退できる体制を整えられます。特に親族や社員の中に後継者がいない場合、大手企業などに会社を譲ることで、事業の継続が可能になります。
M&Aによって会社の存続が実現すれば、従業員の雇用が守られます。譲受企業の経営基盤が強固であれば、雇用の安定化や福利厚生の充実も期待できます。
会社の価値が高い場合、株式譲渡などのM&Aによって大きな譲渡益を得ることができます。引退後の生活資金や新たな挑戦の資金として活用できるため、経営者にとって大きな経済的メリットがあります。
中小企業の経営者は金融機関からの借入に個人保証をつけていることが多く、これが事業承継のハードルになっています。M&Aでは、この連帯保証の解除も条件として交渉できるため、リスク軽減につながります。
M&Aは事業再編やノンコア事業の整理にも役立ちます。また、異業種との連携を通じて新規市場への進出も可能となり、企業成長のチャンスを広げる戦略的手段ともなります。
M&Aはメリットが多い一方で、注意点もあります。
売却価格は交渉によって決まるため、希望額に届かないこともあります。適正な価値評価と複数の買い手候補による競争環境が必要です。
M&A後に買い手企業から新たな人材が派遣されると、従業員との摩擦が起こることがあります。そのため、前経営者が一定期間残るなど、スムーズな橋渡しが求められます。
長年の取引先との信頼関係が、M&Aによる経営体制の変化で揺らぐ可能性があります。事前に取引先との契約内容を確認し、丁寧な引継ぎと説明を行うことが重要です。
中小企業がM&Aを進める場合、以下のような手順を踏みます。
この一連のプロセスには半年から1年程度かかることが多く、スムーズに進めるためには専門家の支援が不可欠です。
M&Aにはさまざまな実行手法がありますが、中小企業でよく使われるのは以下の2つです。
最も一般的な方法です。経営者が保有する会社の株式を、買い手企業に譲渡します。会社の資産・負債・契約関係などすべてをそのまま引き継ぐことができ、従業員や取引先との関係にも影響が少ないのが特長です。
会社の一部または全部の事業を譲り渡す手法です。引き継ぐ資産や負債、契約などを個別に選定できる一方で、契約の再締結が必要になるなど、手続に手間がかかる場合もあります。
M&Aでは、企業価値を適正に評価することが欠かせません。中小企業では以下の3つの評価アプローチが主に使われます。
会社の資産・負債を時価で評価し、純資産を基準に企業価値を算出する方法です。中小企業で最もよく使われており、特に資産が明確な業種に適しています。
将来の収益力をもとに価値を計算する方法です。DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法が代表的で、将来のキャッシュフローに割引率をかけて現在価値を算出します。
類似企業や過去の類似M&A事例をもとに企業価値を推定します。中小企業では上場企業のような市場価格がないため、類似会社比較法や類似取引比較法が使われます。
M&Aにはさまざまな費用や税金がかかります。特に注意すべき代表的なものを解説します。
M&Aを仲介する支援会社への報酬です。着手金、中間金、成功報酬などの体系があります。完全成功報酬型を採用する会社もありますが、内容や金額は事前によく確認することが大切です。
譲渡の方法や株主の属性によって、税金の内容と税率が変わります。
個人株主の株式譲渡
所得税・住民税・復興税を合わせて約20.315%
法人株主の譲渡
法人税等約30%
事業譲渡
法人税、消費税、不動産取得税などが関係する場合も
税制は複雑なため、M&Aに強い税理士に相談することをおすすめします。
中小企業がM&Aを成功させるために、次の3つの視点が重要です。
まず、なぜM&Aを実施するのかをはっきりさせましょう。後継者問題の解決か、企業の成長か、創業者利益の確保か。目的が明確であれば、相手選びや条件交渉もスムーズになります。
従業員や取引先など、多くの関係者に影響を与えるM&Aでは、事前に丁寧な説明や根回しが欠かせません。関係性の維持と信頼構築が、M&A後の安定に直結します。
中小企業ではM&Aの知識や経験が社内に不足していることが多いため、M&A専門の税理士やアドバイザーを活用しましょう。法務、会計、税務の観点からも強力な支援が得られます。
中小企業のM&Aを支援する機関にはさまざまな種類があります。それぞれの特徴を知り、自社に合った支援機関を選びましょう。
中立的な立場からアドバイスが受けられ、費用も抑えられますが、実績やスピード感では民間に劣る場合もあります。
銀行や信用金庫は取引関係がある企業に対して手厚いサポートが可能です。ただし、マッチング先が限定される傾向があります。
商工会や税理士などの士業は、身近な存在として相談しやすい一方で、M&Aに特化した支援力は事務所により差があります。
中小企業M&Aの主流となっているのが、専門の仲介会社です。実績やネットワークが豊富で、最適な譲受企業とのマッチングや交渉支援が期待できます。
実際にM&Aを通じて成功した中小企業の事例をいくつかご紹介します。
高齢化により廃業を決意した豆腐店が、地元企業へM&Aで事業承継。クラウドファンディングを活用し、リニューアル後も地元に根差した経営を継続。
1955年創業の老舗餃子屋が、同じ地域の不動産会社に譲渡。買い手の情熱に共感し、味を守りながら新たな販売チャネルを開拓。売上は2.5倍に。
後継者不在の設計会社が、火力プラント設計企業とM&Aを実施。両社の得意分野を活かし、シナジー効果で新たな案件獲得に成功。
地方の包装資材卸会社が、首都圏に顧客を持つ印刷会社をM&A。異業種ながらも共通する取引先が多く、拠点強化に成功。
設備試験会社が受託事業を持つ企業をM&Aで譲受。サービスラインの拡大と業績向上を実現。従業員同士の切磋琢磨により人材育成効果も得られました。
M&Aの知識を深めたい方におすすめの書籍を紹介します。
『M&Aで創業の志をつなぐ』
実際のオーナー経営者の事例が豊富に掲載されています。
『事業承継のツボとコツがゼッタイにわかる本』
税務や法務の実務ポイントをわかりやすく解説。
『ストーリーでわかる初めてのM&A』
物語形式で、M&Aの全体像を学べる入門書です。
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中小企業のM&Aは後継者問題の解決策として有効であり、成功には目的の明確化と専門家の支援が不可欠です。信頼できる支援機関と共に、納得のいくM&Aを目指しましょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画