M&Aにおける表明保証の意義や範囲と責任を具体的事例で解説


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表明保証とは?M&A契約で売主が負う責任と実務対策を解説

表明保証は、M&A契約で売主が会社の事実を正確と示し、違反時の責任を決める重要条項です。株式、財務、労務、許認可などの対象項目、違反時の損害補償、知得条項や責任上限などの実務対策を、経営者向けに分かりやすく解説します。

目次

  1. 表明保証は売却後の責任を決める条項
  2. 表明保証で確認される主な項目
  3. 表明保証違反が見つかった場合の影響
  4. 売主が責任を広げ過ぎないための実務対策
  5. 買主が表明保証を活かすための確認事項
  6. 保険や価格調整で残るリスクを抑える
  7. まとめ

M&Aにおける表明保証の意義や範囲と責任を具体的事例で解説

表明保証は売却後の責任を決める条項

表明保証とは、M&A(合併・買収)の契約で、売主や買主が相手方に対して、一定の時点における事実が真実かつ正確であると示し、その内容を保証する条項です。英語ではRepresentations and Warrantiesといい、実務では「レプワラ」と呼ばれることもあります。

会社売却では、株式譲渡契約や事業譲渡契約の中で使われることが一般的です。融資契約や不動産売買契約でも使われますが、中小企業M&Aでは、売主が対象会社の財務、税務、労務、契約、許認可などについて保証する場面が特に重要になります。

買主は、限られた時間で会社を調査します。とはいえ、すべての資料を完全に確認することはできません。そこで、表明保証によって「開示された情報は正しい」「隠れた重大リスクはない」と契約上確認し、後から問題が見つかった場合の責任分担を決めます。

特定時点の事実を保証する

表明保証で大切なのは、いつの時点の事実を保証するかです。一般には、契約締結日とクロージング日の両方を基準にします。クロージングとは、代金支払いや株式移転などを実行し、取引を完了させることです。

たとえば、契約締結時には訴訟がなかったとしても、クロージング前に重大な訴訟を起こされた場合、買主は当初の条件で実行してよいのか判断に迷います。そのため、契約締結日だけでなく、取引実行日にも表明保証が正しいことを条件にするのが実務上よく使われます。

3つの機能でM&Aの不安を減らす

表明保証には、大きく3つの機能があります。


1つ目は、リスク分配機能です。簿外債務、未払残業代、許認可違反など、後から見つかる可能性があるリスクについて、売主と買主のどちらが責任を負うかをあらかじめ決めます。

2つ目は、デューデリジェンスを補う機能です。デューデリジェンスとは、買主が対象会社を調査する手続です。ただし、時間や費用には限界があります。調査し切れない部分を、売主の保証で補う役割があります。

3つ目は、情報開示を促す機能です。売主は、後で表明保証違反を問われないよう、不利な情報も含めて早めに開示する必要があります。ここで隠すより、最初から例外事項として伝えた方が、結果的に交渉が進みやすいことも少なくありません。

表明保証で確認される主な項目

表明保証の項目は、契約書の本文や別紙に細かく記載されます。中小企業M&Aでは、対象会社の規模、業種、許認可の有無、従業員数、株主構成などによって内容が変わります。ひな形をそのまま使うと、自社には重すぎる責任を負うことがあるため注意が必要です。

売主と買主の双方が保証する事項

売主と買主の双方が保証する基本事項として、契約を締結する能力や権限があります。会社として必要な決裁を取っているか、契約締結が定款や法令に反しないか、破産手続などの開始原因がないかといった内容です。

また、反社会的勢力との関係がないことも重要です。これは単なる形式条項ではありません。金融機関、主要取引先、従業員の信頼にも関わるため、M&A契約ではほぼ必ず確認されます。

売主が対象会社について保証する事項

売主が追加で保証する項目は、対象会社そのものに関する内容です。代表的には、売主が対象株式を適法に所有していること、株式に担保や第三者の権利が付いていないこと、株主名簿や議決権関係に問題がないことなどが挙げられます。

財務・会計面では、決算書が一般に認められる会計処理に沿って作成されていること、重要な簿外債務や偶発債務がないことを保証します。簿外債務とは、決算書に表れていない債務のことです。たとえば、未払残業代、未払社会保険料、保証債務、将来発生する可能性が高い損害賠償などが問題になります。

労務・税務・許認可は見落としやすい

中小企業M&Aで意外と多い落とし穴が、労務と許認可です。勤怠管理が不十分な会社では、過去の未払残業代が後から問題になることがあります。社会保険の加入漏れや保険料未納も、買主にとっては大きなリスクです。

許認可が必要な事業では、名義、更新期限、事業譲渡時の承継可否を確認します。株式譲渡なら会社自体は残りますが、株主変更や役員変更に伴って届出が必要になる業種もあります。事業譲渡では、許認可をそのまま引き継げない場合があるため、表明保証だけでなく、クロージング条件や事前手続も合わせて設計します。

契約・訴訟・知的財産も対象になる

重要な取引契約に解除事由がないこと、M&Aによって主要取引先との契約が終了しないことも確認対象です。取引先との契約に、株主変更や経営権変更を理由に解除できる条項が入っている場合、買主は事業継続リスクを負います。

訴訟、行政処分、クレーム、知的財産権の侵害も表明保証の対象になります。製造業では製品不具合、IT業ではソフトウェアの権利関係、建設業では許認可と労務安全が問題になりやすいです。業種ごとのリスクを条項に反映することが欠かせません。

表明保証違反が見つかった場合の影響

表明保証に違反すると、契約で定めた救済手段が問題になります。違反があったからといって、直ちにすべての契約が取り消されるわけではありません。実務では、違反の重大性、損害の有無、契約条項、発見時期を見ながら対応します。

クロージング前なら実行拒否につながる

クロージング前に重大な違反が判明した場合、買主は取引を実行しない判断をすることがあります。契約上、表明保証が真実であることをクロージングの前提条件にしている場合、買主は代金支払いや株式譲受を拒否できる余地があります。

ただし、軽微な違反であれば、補正、追加開示、価格調整、特別補償の追加などで取引を続けることもあります。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。解除するのか、条件を修正して進めるのか、関係者全員の利害を整理する必要があります。

クロージング後は損害補償が中心になる

クロージング後に違反が見つかった場合は、損害賠償や補償請求が中心になります。たとえば、簿外債務がないと保証していたにもかかわらず、後から多額の未払残業代が判明した場合、買主は契約で定めた範囲で売主に補償を求めます。

表明保証は、契約上は無過失責任に近い形で設計されることが多く、売主が知らなかったとしても責任を負う場合があります。ただし、実際の責任範囲は契約書の文言で大きく変わります。「知る限り」「重大な点において」などの限定があるか、補償上限や請求期間があるかを必ず確認する必要があります。

重大な違反では解除が問題になる

違反が重大で、契約の目的を達成できない場合には、契約解除が問題になります。たとえば、事業に不可欠な許認可が存在しなかった、主要な資産に第三者の権利が付いていた、売主が重要な債務を意図的に隠していたといったケースです。

もっとも、クロージング後の解除は関係者への影響が大きく、実務上は簡単ではありません。すでに経営権が移り、従業員や取引先も新体制に移行しているためです。そのため、契約書では、解除、補償、価格調整、紛争解決方法を分けて定めることが重要です。

売主が責任を広げ過ぎないための実務対策

売主にとって表明保証は、会社売却後の責任を左右する重要な交渉項目です。「買主に求められたからそのまま受け入れる」という対応は危険です。誠実な情報開示を前提にしながら、責任範囲を合理的に絞ることが大切です。

知得条項で知らないリスクを限定する

知得条項とは、「売主が知る限り」といった文言で、売主の知識に基づく範囲に保証を限定する条項です。英語ではTo the best of Seller's knowledgeと表現されます。

すべての事実を完璧に把握することは、中小企業の経営者でも難しいものです。特に、過去の担当者が処理した契約、古い労務記録、現場で発生している小さなクレームまでは、経営者が把握していないこともあります。知得条項を使えば、過失なく知らなかった事項について、売主の責任を一定程度抑えられます。

ただし、売主が実際に知っていた事実を隠した場合には、知得条項で守られない可能性があります。社内調査を行い、分かっている例外事項を契約書の別紙などで開示することが前提です。

重要性基準で軽微な誤りを除く

重要性基準とは、「重大な点において真実かつ正確である」といった形で、軽微な誤りを表明保証違反の対象から外す考え方です。英語ではIn all material respectsと表現されます。

たとえば、少額の備品台帳の不一致まで補償対象にすると、売主の負担が重くなり過ぎます。一方で、買主から見れば、譲渡価格や事業継続に影響する事項は保証してほしいはずです。そこで、金額基準や事業への影響度を使い、どこからを重大と見るかを決めます。

補償上限と請求期間を決める

売主の責任を管理するうえで、補償上限額と請求期間は非常に重要です。補償上限額とは、表明保証違反があった場合に売主が負う金銭責任の上限です。請求期間とは、買主が補償を請求できる期限をいいます。

一般には、すべての表明保証を同じ期間にするのではなく、項目ごとに分けます。財務や一般的な契約事項は短め、税務や労務など発見まで時間がかかる項目は長めにすることがあります。譲渡価格、会社規模、リスクの性質を踏まえて、現実的な範囲に調整することが大切です。

買主が表明保証を活かすための確認事項

買主にとって表明保証は、単に契約書に長い条文を入れることではありません。デューデリジェンスで見つけたリスクを契約に反映し、調査で分からなかった部分を補完するための仕組みです。

デューデリジェンスと表明保証をつなげる

買主は、財務、税務、法務、労務、ビジネスの各調査で見つけた論点を、表明保証、補償条項、クロージング条件に落とし込む必要があります。調査報告書で問題を見つけても、契約に反映しなければ、後から十分な保護を受けられないことがあります。

たとえば、未払残業代の可能性があるなら、労務関連の表明保証を強めるだけでなく、特別補償、価格調整、クロージング後の資料提出義務を組み合わせることが考えられます。リスクごとに、どの条項で守るのかを整理することが重要です。

サンドバッキング条項の扱いに注意する

サンドバッキング条項とは、買主がデューデリジェンスで表明保証違反の可能性を知っていた場合でも、契約後に補償請求できるとする条項です。買主から見ると、問題を把握しつつ取引を進めるための安全策になります。

一方、売主から見ると、買主が知っていた問題について後から請求されるリスクがあります。そのため、売主は「買主が開示資料で認識した事項は補償対象外にする」といった反対の条項を求めることがあります。どちらを採用するかは、交渉力、開示の十分性、価格への織り込み状況によって変わります。

コベナンツとの違いを分けて考える

表明保証は、過去または現在の事実を保証する条項です。これに対し、コベナンツは、契約締結後に一定の行為をする、またはしないことを約束する条項です。たとえば、クロージングまで通常の事業運営を続ける、重要資産を処分しない、一定金額以上の契約を結ばないといった内容です。

両者を混同すると、違反時の責任や請求期間があいまいになります。契約書では、表明保証、補償、コベナンツ、解除事由を分けて整理することが実務上のポイントです。

保険や価格調整で残るリスクを抑える

表明保証を丁寧に設計しても、リスクをゼロにすることはできません。そこで、表明保証保険、エスクロー、アーンアウト、特別補償などを組み合わせて、売主と買主の不安を減らします。

表明保証保険を使う場面

表明保証保険とは、表明保証違反によって損害が生じた場合に、その損害を保険でカバーする仕組みです。売主は売却後の補償リスクを減らしやすくなり、買主は売主の資力に頼らず補償を受けられる可能性があります。

ただし、保険には審査があります。既に判明している違反、悪意ある隠ぺい、一定の環境リスクや年金債務などは、保険の対象外になることがあります。保険料や免責範囲もあるため、取引規模やリスク内容に照らして検討する必要があります。

エスクローや価格調整で補完する

エスクローとは、譲渡代金の一部を一定期間、第三者の口座などに預けておき、表明保証違反などが起きた場合の補償原資にする仕組みです。買主は回収可能性を高められますが、売主にとっては資金がすぐに使えない負担があります。

アーンアウトは、買収後の業績に応じて追加代金を支払う仕組みです。将来の業績見通しについて売主と買主の見方が分かれる場合に使われます。ただし、表明保証違反の補償とは目的が異なるため、条項の設計を分ける必要があります。

特別補償で既知のリスクを切り出す

デューデリジェンスで既に見つかったリスクは、通常の表明保証だけではなく、特別補償で扱うことがあります。特別補償とは、特定のリスクについて、売主が個別に補償責任を負う条項です。

たとえば、過去の税務処理に不安がある、係争になりそうな取引先トラブルがある、未払残業代の見積りが残っているといった場合です。既知のリスクをあいまいにせず、補償対象、上限額、請求期間、証拠資料、支払方法を明確にします。ここまで決めておくと、クロージング後の感情的な対立を避けやすくなります。

まとめ

表明保証は、M&A契約で会社の事実を確認し、売主と買主の責任範囲を決める重要な条項です。売主は正確な開示、知得条項、重要性基準、補償上限で過度な責任を防ぎ、買主はデューデリジェンス結果を契約に反映する必要があります。保険や価格調整も活用し、売却後の紛争を起こしにくい契約設計を目指しましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

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