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社長が譲渡で叶える事業承継M&Aと第二の人生へと歩む方法

「M&Aで会社を譲渡したいが従業員や家族が心配」――そんな社長の悩みを解消するため、本記事では譲渡前後の流れと費用、そして事業承継後の第二の人生の実例までやさしく整理します。

目次

  1. 後継者不在が生む中小企業の課題とM&Aの役割
  2. 事業承継を成功に導く5つの準備ステップ
  3. M&Aの進行フローを押さえてスムーズに譲渡する
  4. M&A後に変わる社長と従業員の処遇を理解する
  5. M&Aにかかる費用を理解して計画的に進める
  6. 株式譲渡にかかる税金と計算方法
  7. PMIを成功させ従業員の幸福を守る
  8. M&A後の社長が選ぶ第二の人生の選択肢
  9. 譲渡企業が費用と税金を最適化するポイント
  10. M&Aで社長譲渡を考える読者へのアドバイス

後継者不在が生む中小企業の課題とM&Aの役割

日本では多くの中小企業が社長の高齢化と後継者不足に直面しています。帝国データバンクの調査によれば、回答企業の6割超が「後継者が決まっていない」と答えました。従業員の雇用や取引先との関係を守るためには、第三者に事業を承継するM&Aが有力な解決策となります。M&Aを選択すれば、創業者が退任後も会社が存続し、地元経済や雇用を維持できる点が大きなメリットです。

事業承継をM&Aで行う3つの選択肢を整理する

事業承継には「親族承継」「従業員承継」「第三者承継(M&A)」の三つがあります。親族や社内に適任者がいない場合、第三者承継は最も現実的です。特に譲渡益を資産として確保できる点は、引退後の生活設計にも直結します。

事業承継を成功に導く5つの準備ステップ

中小企業庁の事業承継ガイドラインは、承継準備を五つのステップで整理しています。

ステップ1 早期に準備の必要性を認識する

経営権の引継には5〜10年を要するといわれます。60歳前後で承継を意識し、余裕を持って動き始めるとスムーズです。

ステップ2 経営状況と課題を可視化する

財務諸表だけでなく、知的財産や従業員スキルなど無形資産も一覧化し、会社の強みと弱みを把握します。数字と言葉で現状を整理すれば、後継者や譲受企業が評価しやすくなります。

ステップ3 経営改善で企業価値を磨き上げる

承継は会社を進化させる好機です。売上アップやコスト削減、ブランド強化に取り組むほど、譲受企業から高い評価を得られます。結果として譲渡価格が上がる可能性も高まります。

ステップ4 事業承継計画を策定しマッチングへ進む

親族承継でもM&Aでも、計画書を作成して自社の未来像を明文化します。M&Aの場合は仲介会社が譲受企業候補を探し、条件が合えば打診へ進みます。

ステップ5 計画に基づき事業承継を実行する

社会情勢が変化しても、関係者と協議しながら柔軟に計画を調整することが重要です。

M&Aの進行フローを押さえてスムーズに譲渡する

M&Aには大きく「事前準備」「条件交渉」「契約締結」「クロージング」の流れがあります。

事前準備 目的を明確にし相談先を選ぶ

まずは「従業員の雇用継続」「譲渡益の確保」など自らの目的を整理し、仲介会社やFA(フィナンシャルアドバイザー)など支援者を選定します。

条件交渉 仲介契約とマッチングを進める

仲介会社と秘密保持契約(NDA)を交わし、希望条件を提示します。譲受企業とトップ面談を行い、理念や社風が合致するかを確認します。

契約締結 DDを経て最終契約へ

譲受企業はデューデリジェンスで財務・法務リスクを確認します。結果を踏まえて価格や条項を調整し、最終契約を締結。株券や代表印の引渡しと対価決済が完了するとクロージングです。

M&A後に変わる社長と従業員の処遇を理解する

会社譲渡後、前社長は相談役や顧問として一定期間残るケースが多く見られます。これは取引先への紹介や社内文化の橋渡しを円滑に進めるためです。一方、従業員の給与や役職は当面据置きとなり、新体制が落ち着いた後に段階的に新しい制度へ移行することが一般的です。個人保証や担保は譲渡時に解除されるのが標準的で、家族の生活リスクも大幅に減ります。

会社名は継続できるか

取引先の信頼維持が重視される場合、旧社名を残すことが多いですが、グループ企業の方針次第で変更する可能性もあります。交渉段階で希望を伝えておくと安心です。

M&Aにかかる費用を理解して計画的に進める

M&Aでは仲介会社や専門家へ支払う報酬が発生します。費用構造を把握せず進めると、譲渡益を思ったより手元に残せない恐れがあります。そこで、着手金から成功報酬までを時系列で確認し、資金繰りに無理がないか確かめることが大切です。

仲介手数料と報酬の内訳を押さえる

仲介会社へ支払う主な費用は、着手金・月額報酬・中間報酬・成功報酬の四つです。近年は着手金ゼロの会社もありますが、月額報酬が発生する場合があります。中間報酬は基本合意締結時点で成功報酬の10〜30%が請求されるのが一般的です。

成功報酬のレーマン方式を理解する

最終契約が締結すると、取引金額に応じた成功報酬がレーマン方式で計算されます。たとえば譲渡金額5億円なら料率5%で2,500万円、10億円なら前段階5%+超過分4%となり合計4,500万円といった仕組みです。報酬が段階的に上がるため、最終譲渡金額と支払額のバランスを事前に試算すると安心です。

デューデリジェンス費用と専門家報酬

譲受企業側が実施する財務・税務・法務・労務などのデューデリジェンス費用も忘れてはいけません。依頼内容によりますが数百万円規模になることもあります。さらに契約書作成で弁護士、税務ストラクチャーで税理士の報酬が発生します。見積段階で明細を受け取り、資金計画に反映しましょう。

株式譲渡にかかる税金と計算方法

譲渡企業の株主が株式を売却し譲渡所得が生じると、所得税・住民税が合計20.315%課税されます。税額を正しく見積もることで、引退後の資金計画を精緻に立てられます。

譲渡所得の算出プロセスを確認する

株式譲渡の譲渡所得は「総収入金額 - 必要経費」で求めます。必要経費は取得費と仲介手数料等です。取得費が不明な場合は譲渡価額の5%を概算取得費として計上できます。

具体例で税額試算をイメージする

譲渡価額1億円、概算取得費500万円、仲介手数料200万円の場合、譲渡所得は9,480万円です。その20.315%は約1,925万円となります。税額が大きくなるほど納税資金の準備が重要になるため、計算結果を仲介会社や税理士と共有し、決済スケジュールを調整しましょう。

PMIを成功させ従業員の幸福を守る

M&A成立後に行う経営統合プロセスがPMIです。M&A自体がゴールではなく、PMIの成否こそが譲渡企業と従業員の未来を左右します。

PMIが事業承継の成否を決める理由

社風や業務フローが異なる二社を統合するには、ミッション共有と組織風土の橋渡しが欠かせません。統合が不調に終われば離職や業績悪化を招き、せっかくのM&Aが失敗に終わる可能性もあります。

オーナー同士の協力で引継ぎを円滑に

譲渡企業と譲受企業のオーナーが一定期間並走し、従業員や取引先へ段階的に新体制を浸透させるとPMIは成功しやすくなります。前社長が顧問として残り、社内外の信頼を守りながら新経営陣へバトンを渡す形が理想です。

M&A後の社長が選ぶ第二の人生の選択肢

クロージング後、社長は譲渡益をもとに多様な人生を設計できます。ここでは三つの実例を紹介します。

教育事業に残り理想を追求するケース

英会話教室を譲渡したAさんは、譲受企業の資本力を得て理想の教育を拡大する道を選択しました。譲渡企業の従業員も雇用を維持でき、Aさん自身は現場で子どもたちの成長を見守り続けています。

世界旅行で家族との時間を満喫するケース

町工場を譲渡したBさんは、譲渡益を活用して奥様と世界一周旅行へ。長年会社を支え合った夫婦が、新たな思い出を重ねる第二の人生です。

家族ファーストで日常を取り戻すケース

人材紹介会社を譲渡したCさんは、家族への感謝を形にする時間を確保しました。週一回の奥様とのデート、子どもとの野球観戦が何よりの楽しみです。M&Aは経営者の人生だけでなく家族の幸福にも直結します。

譲渡企業が費用と税金を最適化するポイント

費用や税額を抑える最善策は、専門家へ早く相談し複数社を比較することです。着手金ゼロでも月額報酬が高い場合があり、費用全体で判断することが重要です。また、譲渡価額の調整や取得費の証憑整備で課税額を抑えられる可能性もあるため、税理士と連携しながら進めると安心です。

M&Aで社長譲渡を考える読者へのアドバイス

後継者が不在でも、M&Aを活用すれば従業員や取引先を守りつつ社長は第二の人生へ踏み出せます。準備には時間がかかるため、60歳を迎える前に専門家へ相談し、事業の磨き上げを始めることが成功への近道です。

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まとめ

M&Aは後継者不在の課題を解決し、譲渡企業と従業員双方の未来を守る有効な手段です。費用・税金・PMIを正しく理解し、専門家と連携しながら計画的に進めれば、社長は安心して第二の人生へ踏み出せます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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