繰越欠損金とM&Aの関係を徹底解説。基本概念から節税戦略、会計処理まで幅広くカバー。企業の税務戦略に役立つ情報が満載です。M&Aでの活用方法も具体的に紹介しています。
目次
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(債務超過)
繰越欠損金は、企業の財務戦略において重要な役割を果たす税務上の概念です。これは、前期以前に発生した赤字(欠損金)を将来の事業年度に繰り越し、黒字(所得)と相殺することができる制度を指します。
多くの企業がこの制度を活用して節税を行っています。例えば、ある年度に1億円の欠損金を計上し、翌年度に1億円の当期利益を上げた場合、繰越欠損金を全額相殺することで法人税の課税を避けることができます。
ただし、実際のビジネスシーンでは、1年間で繰越欠損金を完全に解消することは珍しく、通常は複数年かけて徐々に解消されていきます。
繰越欠損金の使用には、一定のルールがあります。複数の事業年度で繰越欠損金が発生している場合、最も古い事業年度に発生した欠損金から順に使用していきます。これは「先入先出法」と呼ばれる方式です。
この方式により、企業は最も期限切れのリスクが高い古い欠損金から優先的に活用することができます。
なお、無償減資によって利益剰余金のマイナスを解消させることがありますが、この場合、会計上の累積赤字は解消されても、税務上の繰越欠損金は残ることに注意が必要です。
繰越欠損金を利用するためには、まず青色申告の承認を受けている必要があります。その上で、以下の期間にわたって繰越欠損金を繰り越すことができます。
この期間制限は、企業が長期にわたって赤字を続けることを防ぎ、健全な経営を促進する目的があります。
繰越欠損金の控除には、企業の規模によって異なる制限が設けられています。
中小法人等の場合 資本金1億円以下の「中小法人等」は、黒字(所得)全額との相殺が認められています。
「中小法人等」の範囲は以下の通りです。
特例対象法人の場合 以下の条件を満たす法人も、所得の全額まで繰越欠損金を利用できます。
大法人の場合 上記の「中小法人等」や特例対象法人以外の大法人の場合、繰越欠損金と相殺できる黒字(所得)は制限されています。2018年4月1日以降に開始する事業年度からは、その50%までとされています。
これらの制限は、企業の規模や状況に応じて公平な税負担を実現するために設けられています。特に、新設法人や再建中の法人に対する特例は、そのような企業の財務状況や経営再建への影響を最小限に抑える目的があります。
M&A(合併・買収)の場面では、繰越欠損金を活用した節税戦略が重要な検討事項となります。適切に活用することで、大きな節税効果を得られる可能性があります。ここでは、具体的な活用方法をいくつか紹介します。
赤字企業を買収し、その企業の事業を継続する場合、原則として繰越欠損金を利用することができます。この方法では、以下のような流れで節税効果を得ることができます。
この方法により、大幅な節税効果が期待できます。ただし、法人税法が定める一定の要件を満たす必要があるため、専門家のアドバイスを受けることが重要です。
買収後に被買収企業を清算する場合でも、繰越欠損金を活用できる可能性があります。具体的には以下のような方法があります。
ただし、5年以内に清算すると引継制限がかかるため注意が必要です。この方法は、長期的な視点での税務戦略が求められます。
繰越欠損金がある子会社を合併する場合、その繰越欠損金を引き継げることがあります。これにより、親会社の黒字と相殺して節税効果を得ることができます。
ただし、繰越欠損金の不正利用を防止するため、以下のような一定の要件が定められています。
これらの要件を満たさない場合、繰越欠損金の引継ぎが制限されることがあるため、慎重な検討が必要です。
繰越欠損金に関する会計処理は、税効果会計を中心に行われます。これは、会計上の利益と税務上の課税所得の差異を調整し、適切な期間損益計算を行うための手続です。
欠損金発生時(1,500,000円の欠損金)
繰越欠損金解消時(初年度、1,000,000円の黒字)
繰越欠損金解消時(次年度、残り500,000円)
これらの会計処理を適切に行うことで、企業の財務諸表に繰越欠損金の影響を正確に反映させることができます。
繰越欠損金は、企業の税務戦略において重要な役割を果たす制度です。特に創業間もない企業や一時的に赤字に陥った企業にとって、有効な税務上の措置となります。ただし、その活用には適切な会計処理と法令遵守が不可欠です。M&Aの場面では、繰越欠損金を活用した節税戦略が大きな効果を生む可能性があるため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に検討することが重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事