M&A会計とは|仕訳・のれん・PPAを経営者向けに解説
M&A会計を個別会計・連結会計・税務会計の3つに分け、株式譲渡、事業譲渡、吸収合併の仕訳とのれんの違いを解説します。日本基準とIFRS・米国基準、PPA、取得関連費用、売却前に整える決算書まで、経営者が判断すべきポイントを分かりやすく整理します。
目次

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(のれん、法務)
M&A(合併・買収)の会計処理は、同じ取引でも、どの決算書を見るかによって違って見えます。株式譲渡で買い手の個別決算にのれんが載っていなくても、買収後の負担がないわけではありません。
M&A会計は、個別会計、連結会計、税務会計の3つに分けると理解しやすくなります。それぞれ目的が異なるため、会計上の利益と実際の税負担を分けて確認することが大切です。
個別会計は、買い手や対象会社を1社ずつ見た会計です。中小企業の経営者が日常的に確認する決算書も、通常は個別会計を基礎に作られています。
株式譲渡の場合、買い手の個別決算では、支払った金額を原則として「子会社株式」などの資産に計上します。対象会社の資産や負債を一つずつ取り込むわけではなく、個別決算にのれんは計上されません。
一方、事業譲渡や、取得に該当する吸収合併では、買い手が事業の資産・負債を受け入れます。そのため、買い手の個別決算にのれんが直接計上されることがあります。
連結会計は、親会社と子会社を一つの企業グループとして表示する会計です。株式譲渡で対象会社を子会社化した場合、買い手の連結決算では、子会社株式と対象会社の資本を相殺します。
そのうえで、対象会社の資産・負債を時価を基礎に取り込みます。買収価格が、識別できる資産と負債の時価純資産額を上回ると、その差額がのれんです。
非上場の中小企業では、連結決算を作っていないことも珍しくありません。ただし、グループ会社がある会社を売却する場面では、買い手から簡易的な連結資料やグループ内取引の一覧を求められることがあります。単体の決算書だけでは、事業全体の収益力を判断しにくいためです。
税務会計は、法人税などの課税所得を計算するための考え方です。決算書上の利益と税務上の所得は必ずしも一致せず、交際費、引当金、減価償却、繰越欠損金などについて申告調整が行われます。
合併や会社分割などの組織再編では、税法上の適格要件を満たすかどうかも重要です。適格組織再編では、一般に資産・負債を帳簿価額で引き継ぎ、課税を繰り延べます。
非適格となる場合は、原則として資産・負債を時価で移転したものとして譲渡損益を認識します。同じ合併でも、条件によって税負担が変わることも。スキームを決める前に確認が必要です。
「会社を売る」という言葉は同じでも、株式を売るのか、事業を売るのか、会社を合併させるのかによって会計処理は変わります。
譲渡価格だけで決めると、税引後の手取り額や買収後の利益で想定外が生じます。売り手と買い手の双方から処理を確認しましょう。
株式譲渡は、株主が保有株式を買い手に譲渡し、経営権を移す方法です。対象会社が自社の資産を売る取引ではないため、対象会社の個別会計では、原則として株式売買の仕訳は発生しません。
売り手が個人株主であれば、譲渡代金から株式の取得費や譲渡費用を差し引いて譲渡所得を計算します。売り手が法人株主であれば、株式の譲渡対価と帳簿価額などとの差額を譲渡損益として計上します。
株式譲渡では、対象会社の法人格、契約、従業員との雇用関係は原則としてそのまま残ります。一方、過去の税務リスクや簿外債務も会社内に残るため、買い手は財務・税務デューデリジェンスを重視します。
買い手の個別決算では、現金預金の減少と子会社株式の増加が基本です。
基本的な仕訳は、次の形になります。
借方 子会社株式
貸方 現金預金
対象会社を連結する場合は、投資と資本を相殺し、識別可能な資産・負債を時価評価します。その後に残る差額を、のれんまたは負ののれん発生益として処理します。
事業譲渡は、工場、在庫、取引契約など、対象となる資産・負債・権利義務を選んで移す方法です。一部事業の売却や、不採算部門の切り離しなどに使われます。
売り手企業は、受け取る譲渡対価と、移転する資産・負債の帳簿価額との差額を事業譲渡損益として計上します。
事業譲渡の対価は会社に入るため、株主が直接代金を受け取る株式譲渡とは、納税主体や経営者の手取りまでの流れが異なります。
消費税は資産ごとに確認する
事業譲渡の対価のうち、棚卸資産、設備、営業権などの課税資産に対応する部分は、原則として消費税の対象です。土地など、消費税が課されない資産もあります。
そのため、譲渡対価を資産ごとに合理的に配分する必要があります。契約書に総額しか記載されていないと、後から処理に迷うことがあるため注意が必要です。
買い手は、譲り受けた資産と負債を時価を基礎に計上します。支払対価が時価純資産額を上回る部分は、個別決算でのれんとして認識されます。
基本的な仕訳の形は次のとおりです。
借方 取得した資産・のれん
貸方 引き受けた負債・現金預金
日本基準では、計上したのれんをその後の事業年度で償却します。そのため、買収後の利益計画にも影響します。
吸収合併では、存続会社が消滅会社の権利義務を包括的に承継します。ただし、すべての吸収合併で資産・負債を時価評価し、のれんを計上するわけではありません。
外部企業を取得する合併で、会計上の「取得」に該当する場合は、取得法により識別可能な資産・負債を時価評価します。対価との差額は、のれんなどとして処理します。
一方、親子会社間や同一企業グループ内の合併は、共通支配下の取引として帳簿価額を基礎に処理することがあります。株式交換、株式移転、会社分割についても、手法名だけで会計処理は決まりません。取引の前後で誰が会社を支配するのかを確認する必要があります。
| 手法 | のれん計上主体 | 連結修正の有無 | 資本構成変動 | 現金流出 | ポイント |
|---|---|---|---|---|---|
| 株式交換 | 買い手のみ | あり | 新株発行または自己株式処分 | なし | 希薄化影響 |
| 株式移転 | 新設親会社 | あり | 資本金増 | なし | PPAの早期完了 |
| 合併 | 買い手 | なし(消滅側なし) | 純資産増 | ケースによる | 時価評価範囲 |
| 会社分割 | 買い手・売り手 | あり | 持分変動 | ケースによる | 持分法判定 |
| 第三者割当増資 | 買い手(引受先) | 出資比率次第 | 資本金増 | あり | 資本金按分 |
*株式交換、株式移転、合併、会社分割について、取得・共通支配下の取引・逆取得などの判定によりのれんの計上主体や連結修正の有無が変わる
買収価格を決めるとき、経営者は売上や利益に目を向けがちです。しかし、買い手の決算では、のれんの金額と処理方法が買収後の利益や減損リスクを左右します。
のれんは、買収対価から、時価評価した識別可能な資産と負債の差額を控除した残りです。ブランド、人材、取引先との関係、技術、組織力などが背景にあります。
ただし、顧客関係、商標権、特許など、一定の要件を満たして個別に評価できるものは、PPAによって無形資産として切り分けます。のれんは、すべての無形の価値をまとめた金額ではありません。
買収対価が時価純資産額を下回ると、負ののれんが生じることがあります。
日本基準では、取得した資産・負債の認識や測定、買収対価などを再確認します。それでも差額が残る場合は、原則として負ののれん発生益として、発生した事業年度の特別利益に計上します。
単に安く買えたとは限りません。将来の損失、事業縮小、簿外債務などのリスクが価格に反映されている場合もあるため、慎重な調査が必要です。
日本基準では、のれんを資産に計上し、原則として20年以内の効果が及ぶ期間にわたり、定額法などの合理的な方法で規則的に償却します。
のれん償却費は、通常、営業費用として利益を押し下げます。現金の支出を伴わない費用ですが、業績目標や金融機関との契約条件に影響することがあります。
業績が悪化すれば減損も検討する
日本基準では、規則的な償却に加えて、対象事業の収益力が大きく低下した場合などに減損の検討が必要です。
買収後に計画どおりの利益が出なければ、残っているのれんについて多額の減損損失が発生する可能性があります。買収価格を高く設定するほど、このリスクも大きくなりやすいといえます。
IFRS(国際財務報告基準)と米国会計基準では、のれんを原則として定期償却しません。その代わり、少なくとも毎年の減損テストなどにより、のれんを回収できるか確認します。
償却費がないため、買収後の利益は日本基準より高く見えることがあります。一方、業績が悪化したときには、多額の減損損失が一度に生じることもあります。
日本基準について、のれんを非償却にする案や、償却と非償却の選択制を導入する案が検討されています。
ただし、2026年7月時点で制度変更は確定していません。現在の日本基準では、引き続き20年以内の規則的な償却が必要です。将来の改正案と、現在適用するルールを混同しないようにしましょう。
買収成立後になって、顧客関係や商標の評価資料がそろわず、決算作業が止まることがあります。PPAは、経理部門だけが行う事後処理ではありません。買収価格の根拠を明確にする重要な工程です。
PPAとは、Purchase Price Allocationの略で、日本語では取得原価の配分と呼ばれます。
買収対価を、取得した資産と引き受けた負債へ時価を基礎に配分します。帳簿に載っていなかった顧客関係、商標権、特許、技術なども、一定の要件を満たせば無形資産として識別します。
主な流れは次のとおりです。
無形資産として切り分ける金額が増えると、のれんは小さくなります。ただし、切り分けた無形資産について償却費が生じることもあるため、買収後の利益への影響も確認します。
日本基準では、取得原価を企業結合日から1年以内に識別可能な資産・負債へ配分します。
決算までに評価が完了しない場合は、入手できる合理的な情報に基づいて暫定的に処理し、その後に確定させます。
評価には、事業計画、顧客データ、契約内容、技術資料などが必要です。PMI(M&A後の統合プロセス)と並行して資料を集めないと、決算日程へ影響することがあります。
株式取得に直接要した専門家報酬などの付随費用は、買い手の個別決算では、原則として子会社株式の取得価額に含めます。
一方、連結決算では、取得関連費用を原則として発生した事業年度の費用として処理します。そのため、個別決算と連結決算の間で調整が必要です。
ただし、事業譲渡や合併などでは、取引内容によって処理が変わることがあります。財務調査、法務調査、助言報酬、資金調達費用など、支出の目的ごとに確認することが大切です。
財務デューデリジェンスでは、正常な収益力、簿外債務、会計方針、設備の価値、引当不足などを確認します。
ここで得た情報は、価格交渉だけでなく、PPAの時価評価や将来の減損判断にも使われます。
調査と買収後の会計処理を別々の担当者が進めると、重要な情報が引き継がれないことがあります。意外と多い落とし穴です。買収前から、各担当者が同じ前提と資料を共有する必要があります。
会社売却では、税務申告に使用している決算書が、そのまま買い手の評価に使えるとは限りません。
買い手が上場会社やその子会社であれば、会計基準の違いを理由に、利益や純資産の修正を求められることがあります。
中小企業では、税法に沿った処理を中心に決算書を作っていることも珍しくありません。
M&A実務では、次のような項目について、買い手の会計方針に合わせた修正が検討されます。
・貸倒引当金
・退職給付に関する債務
・固定資産の減損
・資産除去債務
・リース取引
・保険積立金などの金融資産
修正後の利益が下がれば、譲渡価格の算定や金融機関の審査に影響することがあります。交渉が始まってから初めて修正額を知るより、早い段階で概算しておく方が安全です。
親族会社への売上、経営者個人との賃貸借、役員への貸付金、グループ内の資金移動が多い会社では、単体の決算書だけで事業の実力を把握しにくくなります。
買い手は、これらの特殊な取引を調整し、第三者との通常の取引を前提とした利益を確認します。
売却前には、グループ会社一覧、取引条件、債権債務残高、保証関係を整理します。不要な取引を隠すのではなく、発生理由と今後の解消方法を説明できる状態にすることが大切です。
会計処理は、契約や会社法上の手続と切り離せません。
株式譲渡では株主構成や株式の譲渡制限、事業譲渡では契約移転や許認可、合併では債権者保護手続などを確認します。会計や税務の面で有利でも、必要な同意を得られなければ、その手法を選べないことがあります。
検討初期に、想定する手法、概算税額、のれん、PPA、会社法上の手続を一つの工程表にまとめると、価格交渉と決算対応がぶれにくくなります。
M&A会計は、個別・連結・税務の3つを分け、株式譲渡や事業譲渡などの手法ごとに確認することが基本です。のれんの償却、PPA、税務上の適格性は、買収後の利益や売却後の手取り額に影響します。検討初期から会計・税務・法務を一体で整理し、自社に合う手法と価格条件を判断することが大切です。数字の見え方だけでなく、実際の資金負担まで確認しましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人