投資判断をするうえで欠かせないIRR計算方法を、Excelを活用した具体的な手順やNPVとの比較も含めて徹底解説します。早期に得られる利益と長期的な収益性をバランス良く評価できる知識を得て、より正確な投資判断を行いましょう。
目次
1.IRR(内部収益率)とは何か
2.IRR(内部収益率)とNPV(正味現在価値)の基本的な違い
3.IRRの計算式とExcelでの具体的な算出方法
4.IRRを使うメリットとデメリット
5.NPVの概要とIRRとの関係
6.短期投資と長期投資の評価における注意点
7.IRRとNPVを使い分ける投資判断のポイント
▶目次ページ:企業価値評価(DCF法)
IRR(Internal Rate of Return)とは、投資によって生まれる将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いた合計と、初期投資額の現在価値が等しくなる割引率のことです。日本語では「内部収益率」と呼ばれます。NPV(正味現在価値)がゼロになる利率とも言えます。
投資の世界では、将来受け取るお金よりも「今手元にあるお金のほうが価値が高い」と考えます。これをお金の時間的価値と呼びます。IRRは、この時間的価値を考慮しつつ、投資がどれくらいの収益率で資金を回収できるかを示してくれる指標です。
また、不動産投資などのように毎年のキャッシュフローが一定ではないケースでも計算ができるため、長期かつ複雑な収支構造を持つプロジェクトを評価する際に重宝されます。投資期間が異なる複数の案件を比較する場合にも、有効な基準を提供してくれるでしょう。
IIRRとよく比較されるのがNPV(Net Present Value)です。NPVは、将来に得られるキャッシュフローをあらかじめ設定した割引率(ハードルレートなど)で割り引き、それらの合計から初期投資額を差し引いた金額を示します。NPVがプラスなら投資案件として魅力があり、マイナスであれば利益を生まないと判断できます。
一方で、IRRは「投資案件それ自体の収益率」を一つの数値として示すのが大きな特徴です。NPVは割引率を設定する段階で投資家や企業の資本コスト、あるいは要求収益率が入るため、同じ案件でも割引率次第でNPVが上下します。しかしIRRは「その案件に内在している割引率」を計算するため、一意に定まりやすく、資金回収力の比較指標として使いやすい側面があります。
NPVの長所
NPVの短所
IRRの長所
IRRの短所
IRRの計算IRRを算出する基本式は以下のようになります。
C₀ +
C₁ / (1 + r) +
C₂ / (1 + r)² +
... +
Cn / (1 + r)ⁿ = 0
この式を手計算で解くのは非常に複雑です。そのため、実務ではExcelの関数や専用ソフトを使って計算するのが一般的です。
Excelには「=IRR(範囲)」という関数があります。初期投資額から最終期までのキャッシュフローを一列にまとめて入力し、その範囲を指定すると、瞬時にIRRを算出できます。
手順の例
キャッシュフローの合計額は同じでも、どのタイミングで大きなキャッシュが得られるかによってIRRは変化します。早い段階で大きなキャッシュが入る投資案件ほどIRRは高くなる傾向があります。
Excelの「ゴールシーク」を利用してIRRを求める方法もあります。
すると、IRRと同じ利率が算出されます。IRR関数が使えない場合や、NPVとの関係性を明確に示したい場合に役立ちます。
収益率が一意に把握できる
IRRは、投資によってどの程度の収益率が見込めるかを端的に示します。投資期間やキャッシュフローのタイミングが違う案件でも、「何%で回収できるか」の視点で比較しやすいです。
お金の時間的価値を反映
早期にキャッシュを獲得できる案件ほどIRRが高くなり、時間をかけて回収する案件ほど低くなるため、時間に伴うお金の価値減少を踏まえた評価ができます。
複雑なキャッシュフローにも対応
不動産投資のように空室率や維持コスト、あるいは賃料の増減などで毎年のキャッシュフローが変わる場合でも、同様にIRRを計算できるため、有用性が高いです。
投資規模を考慮しない
小規模だが収益率が高い案件はIRRが高く、大規模だが総利益が大きい案件はIRRが低いというケースがあります。この場合、IRRだけを見ると後者の大きな利益を見落としてしまうかもしれません。
複数のIRRが存在する可能性
キャッシュフローの符号がマイナスとプラスを複数回にわたって繰り返す場合(例:追加投資や大規模修繕などが発生する)には、数学的に複数のIRRが解として出てくることがあり、解釈が難しくなります。
長期投資を過小評価するおそれ
早期に大きなキャッシュフローが期待できる案件はIRRが高く見えがちですが、長期間にわたり安定収益を得るような案件が過小評価されるリスクがあります。
再投資率の仮定
IRRは、中間で得たキャッシュフローを同じIRRで再投資できるという暗黙の仮定があります。実際に同じ利率で再投資できるとは限らないため、より現実的な分析をする場合は、NPVなど別の指標と併用することが必要です。
NPVは、将来のキャッシュフローをある一定の割引率で現在価値に換算し、その合計から初期投資を差し引いたものです。投資を行うか否かを判断する際は、NPVがプラスかどうかが目安になります。NPVがプラスであれば「投資すべき」、マイナスであれば「投資は控えるべき」という基準が立てやすいです。
割引率は投資家が期待するハードルレートや企業の資本コストなどを基に設定するため、案件により異なります。NPV計算に用いる割引率が一定の場合、そのNPVをゼロにする利率がIRRです。つまり、IRRとNPVは密接に関連しています。
IRRがハードルレートより高い → 投資すべきと判断されるケースが多い
IRRがハードルレートより低い → 投資すべきではないと判断されやすい
一方で、投資規模や絶対的な利益額を見たい場合はNPVが有用です。
NIRRやNPVはいずれも、投資期間中に得られるキャッシュフローを割引率で現在価値に変換して考える点では共通しています。そのため、概して短期間に大きなキャッシュが得られる投資ほど有利に見えがちです。
長期にわたって大きな収益が生まれるケースであっても、途中で大きなプラスがないとIRRは低くなりやすいです。また、NPVも割引率が高いほど長期的なキャッシュフローの価値が減少してしまうため、長期投資が過小評価されがちになります。
投資先が長期的プランか短期的プランかで評価が変わる点を理解し、どの程度のリスクや期間を想定するかを踏まえたうえでIRRやNPVを見極めることが大切です。
NP投資規模を重視するならNPV
「どの程度の絶対額が得られるか」を明示的に知りたい場合、NPVが適しています。大型案件と小型案件の比較では、NPVが大きいほうが最終的な利益が高いとみなせます。
予算制約や資金効率を優先するならIRR
投下資本に対してどれくらいの率でリターンが見込めるのかを重視する場合はIRRが有効です。限られた資金の中で複数の案件に投資する場合、IRRの高い案件を優先することで資金効率を上げられる可能性があります。
両方を併用するのが望ましい
投資判断は単一の指標ですべてを評価できるわけではありません。例えば、最初にNPVで「どれだけの価値を創出する投資なのか」を確認し、次にIRRで「どれほど早く効率的に資金を回収できるか」を見る、という使い分けがよく行われます。
ハードルレートとの比較
IRRを算出したら、必ず自身が設定するハードルレートと比べることが重要です。IRRが高くても、その値がハードルレートを下回れば投資効率は十分ではないかもしれません。
複数IRRや解が存在しない事例への対処
途中で追加投資や大きな費用が発生する場合など、キャッシュフローの符号が複数回変わるケースでは、IRRが複数出たり計算不能となることがあります。そのような投資案件はNPVのほうが判断材料として適切な場合があります。
不動産投資への活用例
不動産投資では毎年の家賃収入や空室率、維持コスト、また売却益などによりキャッシュフローが一定とは限りません。こうしたバラつきのある収益構造に対し、IRRを計算するとどの時点でどのくらい回収できるかが分かりやすくなります。さらに、ハードルレートを設定してNPVを計算し「実際にいくらの価値をもたらすのか」も確認すると、投資判断の精度が高まります。
IIRR(内部収益率)は、投資の収益率を分かりやすく示し、Excelを使うことで複雑な計算を効率的に行える便利な指標です。しかし、投資金額の大きさや長期的な収益などを判断するにはNPVも重要となります。双方の特性を正しく理解し、ハードルレートや投資の目的に合わせて使い分けることで、より的確な投資判断が可能となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事