親の会社を継ぐかどうかは、人生を左右する大きな選択です。相続税や経営権の引継、会社の売却も含め、多角的に検討する必要があります。本記事では、親の会社を継ぐメリット・デメリットや必要な能力、相続時の具体的手続などをやさしく解説します。
目次
▶目次ページ:親族内承継(親族内承継とは)
親が経営する会社を継ぐとは、先代が持っていた「株式」を受け継ぐことです。会社の財産そのものは法人の所有物なので相続の対象には含まれません。あくまでも、親が保有していた株式を後継者が取得し、さらに株主総会などの手続を経て代表取締役としての地位を得ることが「会社を継ぐ」行為となります。
ただし、親が個人事業主として事業を営んでいた場合は事情が異なり、事業用の資産は親個人の所有物です。そのため、資産のすべてが相続の対象になります。会社(法人)か個人事業主かによって手続や相続の範囲は大きく変わります。
また、親の会社を継いだものの、自分が経営にまったく興味を持てないケースや、後継者に十分な知識・スキルがないために会社を維持できないケースもあります。そうした場合は、会社をM&Aで譲受企業に売却する選択肢も考えられます。
親族内で会社を継ぐと、家族間でスムーズに事業を引き継ぎやすい半面、責任の重さや資金負担など、注意すべき点も多く存在します。ここでは、主に3つずつのメリットとデメリットを取り上げます。
働き方の自由度を高めやすい
自分のペースで仕事を組み立てたり、経営方針に自分のアイデアを反映させたりしやすいです。スケジュール管理を自分で行えるため、自由度が高い働き方が期待できます。
定年退職・リストラの不安が減る
一般的な雇用形態ではないため、「何歳で退職しなければならない」という制限が薄れます。自身の経営判断で長く働くことができる一方、リストラなどのリスクとも無縁になります。
給与水準や退職金、創業者利潤を得やすい可能性
事業が安定・拡大すれば、自身の報酬をある程度コントロールできるため、他の勤務形態と比べて高収入につながる可能性があります。退職時の退職金や将来的な会社売却でまとまった利益を得ることも考えられます。
経営責任が重く、簡単には辞めづらい
従業員の雇用を守る必要や、会社を存続させなければならない責任があり、途中で投げ出すと多大な影響を及ぼします。荷が重く感じる人も少なくありません。
借金や個人保証の引継ぎリスク
親の会社に融資があれば、後継者はその借入金や保証人を引き継ぐ可能性があります。返済計画をしっかり立てないと、個人財産を失うリスクにつながります。
株価が高い場合の資金調達リスク
会社の株式を引き継ぐにも費用がかかり、株価が高額だと多大な資金が必要になります。金融機関からの借入を検討せざるを得ないケースも出てくるでしょう。
親の会社を継いだあとの経営をうまく行うには、「経営力」「実務能力」「リーダーシップ力」の3つがとても重要です。これらの能力が欠けていると、事業を安定して成長させることが難しくなる場合があります。
ビジョンや目標設定
会社の将来像を明確にし、具体的な数値目標を掲げる力が必要です。
戦略立案と実行
市場分析をもとに自社の強みを活かす方法を考え、それを着実に実行する力が求められます。
財務や法務の基礎知識
会社を動かすには、資金繰りや契約の知識が欠かせません。誤った判断は、会社の経営を大きく揺るがす恐れがあります。
現場を理解する力
従業員の働き方や顧客の要望を肌で感じ、自社の課題を正確につかむ必要があります。
多岐にわたる知識の習得
財務、マーケティング、人事、法務など、多方面の基本を習得し、必要に応じて専門家と連携できる力も大切です。
コミュニケーション
社内外の関係者と円滑にやりとりし、ビジョンを共有する力が必要です。
倫理観・コンプライアンス
経営者は会社の看板でもあるため、公正で誠実な姿勢が問われます。
決断力
経営判断が求められる場面では、自ら責任を持って方向性を示すことが欠かせません。
親が築いてきた会社をスムーズに引き継ぐには、あらかじめ綿密な準備をしておくことが大切です。たとえば、会社の財務内容を把握して弱点を補強する、相続税対策を講じる、必要な資金を確保するなど、幅広い視点で取り組む必要があります。
経営状況の分析と改善
財務諸表などを用い、会社が抱える課題を洗い出してから承継に臨むと、引き継ぎ後のスタートが滑らかになります。
事業計画の策定
競合の動向や今後の市場ニーズを踏まえて、会社の強みをどう生かすのかをまとめておくと良いでしょう。
株式移転の検討
生前贈与や相続、売買など、株式を後継者が取得する方法は複数あります。どれが最適か、税理士や弁護士などの専門家に早めに相談するのが賢明です。
親の会社を相続する場合、まずは被相続人が保有していた株式を受け継ぐことになります。親が法人経営者の場合、会社そのものや会社財産は相続対象ではなく、相続の対象となるのは会社の「株式」です。以下では、株式を相続する一連の流れと、そのときに注意したい相続税対策についてまとめます。
「会社を継ぐ」という決断をせず、相続によって引き継いだ株式を売却する選択肢も存在します。特に、後継者自身が他分野で仕事をしており、自社を継ぐ意欲や余裕がない場合に検討されることが多いです。
会社を引き継ぐタイミングを活かして、設備投資や新規事業へ挑戦し、事業の再構築を図る場合に活用できるのが「事業承継・引継ぎ補助金」です。
一定の要件をクリアすると補助金を受けられるため、相続を機に新規プロジェクトを立ち上げたいときや、会社をリニューアルしたいときに検討する価値があります。申請手続は詳細な書類作成が求められる場合が多く、専門家に助言をもらいながら進めるとスムーズです。
親の会社を継ぐかどうかは、人生設計や事業の将来に大きく関わる重大な判断です。相続税や経営体制の整備、株式の譲渡制限など、押さえるべき事柄は多岐にわたります。会社をそのまま引き継ぐか、売却を検討するか、どちらを選ぶにせよ、専門家と連携しながら早期に準備を進めることで、より良い選択ができるでしょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事