経営戦略とM&A|中小企業のM&A戦略、目的・手順・注意点などを解説

自社の企業活動だけでは解決できない問題を、M&Aを利用して解決を図る企業は決して珍しくありません。本記事では、経営戦略としてM&Aを実施するメリットや、その実施に至る流れについて詳しく説明し、M&Aを含む経営戦略の事例も紹介致します。

目次

  1. 経営戦略とは
  2. M&Aを行う目的
  3. 経営戦略の策定における3つのレベル
  4. M&Aの手順
  5. M&Aに必要な準備
  6. M&Aを行う際の注意点
  7. 経営戦略としてM&Aを利用した事例

経営戦略とは

企業経営において、「経営戦略」という言葉は一体どのような意味を持ち、何を目的としているのでしょうか。以下では、経営戦略の基本的な概要とその重要性についてご説明していきます。

経営戦略とは

経営戦略とは、企業が日々の競争環境の中で、経営目的や経営目標を達成するために策定する方針や計画全般を指します。また、企業活動において基軸となる指針や、目標達成に向けた指標なども含まれています。企業としての方向性を明確にすることは、従業員が事業環境に対する理解度を向上させるためにも重要です。

経営戦略の重要性

現在の経営環境では、グローバル化に伴い企業間の競争がますます激しくなり、経営環境が変化しやすくなっています。このような状況下で、明確な成長シナリオを描くことが重要視されています。経営者は、自社の強みや特性を十分に把握した上で、事業の方向性を迅速に決定しなければならないのです。

経営戦略の手段としてのM&A

M&Aは経営戦略の達成を目指す手段の1つとして用いられます。自社の企業活動だけでは克服できない問題に対し、M&Aを通じて得られた資源や知識を利用し、問題解決に取り組むことが可能です。

M&Aを行う目的

経営戦略としてM&Aを実施することで、企業は様々な利点を享受できます。以下では、その主なメリットについて詳しく説明していきます。

新事業領域への参入

新規事業を立ち上げる際は、M&Aが非常に有効です。対象となる企業が既に参入している事業や、市場参入に必要なリソースを有している場合、M&Aを実施することにより迅速かつ円滑に事業を立ち上げることができます。新規事業のノウハウや経験だけではなく、既存の企業や事業におけるリソース、信用力、ブランド力も活用できるため、成功に繋がりやすいと言えます。

経営リソースの獲得

企業が抱える経営課題も、内部で解決できない場合があります。このような課題に対しても、M&Aを通じて人材やノウハウを獲得することで、解決の道を開くことができます。具体的には、人材不足や後継者問題などが典型的な例です。

スピーディーな事業展開

経営戦略の実行に際しては、人材の育成やノウハウの獲得など、多くの時間が必要になることがあります。しかし、M&Aを実行することで、関連するスキルを持つ人材や業務知識を迅速に取得することができます。これにより、目標達成までの期間を大幅に短縮することが可能となります。

買収先とのシナジー効果

M&Aの利点の1つは、相対的な競争力を持つ事業を強化し、企業全体の競争力を高めることができる点です。独自の事業展開よりも、シナジー効果を活用することで、大きな成果を期待することができます。具体的なシナジー効果の例として、物流コストの削減、研究開発能力の向上などが挙げられます。

経営戦略の策定における3つのレベル

経営戦略は、企業戦略、事業戦略、機能戦略の3つのレベルで策定されます。以下では、各レベルの概要について説明します。

企業戦略

企業戦略とは、企業全体がどの事業領域で活動し、どのように成長を目指すかを策定した戦略です。企業戦略では、資源配分の方向性や経営ビジョンの策定などが含まれます。企業戦略を策定する際には、経営資源の活用方法や成長戦略の明確化が重要となります。

事業戦略

事業戦略とは、個々の事業分野における活動内容を定める戦略です。事業戦略では、商品やサービスの内容、事業モデルの選択などが重要となります。また、市場分析や競合企業の分析、自社の評価、ビジネスプロセスの設定、事業モデルの設定などが含まれます。

機能戦略

機能戦略は、どのような機能を構築し、運用していくかを具体的に策定する戦略です。企業戦略や事業戦略との整合性を保ちつつ、日常業務に落とし込むことにより、企業としての方向性が明確になります。

M&Aの手順

M&Aを経営戦略として実施する場合、どのような手順で進めていくべきでしょうか。以下では、M&Aの進め方について説明します。

自社分析

自社の強みと弱みを理解するために、自社分析を実施することが重要です。自社分析の方法として、フレームワークを活用することがあります。フレームワークの利点は、自社の現状を客観的な視点から把握し、分析することができる点です。

市場調査

市場調査を行い、譲渡予定企業の将来性や収益性などを明確にすることが重要です。競合他社が他業種である可能性も考慮し、より綿密な市場調査が求められます。新規事業譲受を目的とする場合は、さらに慎重な市場分析が必要となります。

目的の明確化

M&Aを検討する際の最初のステップは、自社のビジョンと市場調査に基づいて目的を明確にすることです。M&Aを通じて自社に不足している部分を補い、相乗効果(シナジー)を最大限に引き出すことが重要なポイントとなります。

買い手候補先の選定

次に、20~30社程度のロングリストを作成し、徐々に絞り込むことでショートリストを作るというアプローチが一般的です。目的に適した譲受先企業を意識して選定を行い、同時に譲受条件やM&Aの譲受対象を明確にします。

M&Aに必要な準備

M&Aを行う際には、自社と他社についての分析が不可欠です。

他社分析

他社の資産や債務について把握し、M&Aにおいて買い手が売り手の不要な資産や簿外債務を引き継いでしまうリスクを事前に確認することが重要です。また、M&Aによって得られるシナジー(相乗効果)についても、あらかじめ理解しておく必要があります。

自社の強みを明確化

自社の目標やリソース、実現したい未来像を定めることで、効果的な戦略を立てやすくなります。特に、SWOT分析は自社の本質的なニーズを理解する上で有益です。SWOT分析とは、自社の状況を「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの要素で評価する手法です。

M&Aを行う際の注意点

経営戦略の一環としてM&Aを進める際、留意すべきポイントについて説明いたします。

リスクを把握する

売り手及び買い手のリスクについて理解を深めておくことが肝要です。リスクの具体的な内容は次の通りです。

(売り手のリスク)

・従業員の理解が得られない

・雇用継続が困難なケースも存在する


(買い手のリスク)

・PMI(統合プロセス)実施に伴い、煩雑な手続が必要となることがある

・両社間での従業員待遇の差異に対処する必要がある

これらのリスクは、M&Aにおける条件を調整することで解消できます。当事者だけでなく専門的知識を持つ仲介業者を活用することで、適切な段取りや条件決定を行い、成約後のトラブルを未然に防ぐことが大切です。

さらに、それぞれの従業員に対して、M&A後の待遇や企業方針について十分に説明を行い、雇用や業務に関する不安を取り除く努力が重要です。

M&Aの目的を見失わない

M&A自体が目的化してしまうことに注意しましょう。M&Aは経営戦略の一手段に過ぎません。自社が追求すべきビジョンによっては、M&A以外の経営戦略が適切な場合も考えられます。

経営戦略としてM&Aを利用した事例

日本国内でも、多くの企業が経営戦略としてM&Aを実行しています。具体的な事例をいくつかご紹介します。

リクルートによる事業拡大

2007年には、業界第5位であったリクルートが業界トップの株式会社スタッフサービス・ホールディングスを1,700億円で譲受しました。当時、人材派遣業界の競争が激化しており、業界内での地位確立や市場シェアの拡大を目指し、M&Aが実施されました。

その後も2012年には、株式会社Indeedを譲受。人材マッチングビジネスという共通点を活かしシナジー効果を生かし、さらなる顧客拡大に成功しています。

オンワードによる新規事業参入

2017年2月、株式会社オンワードは、株式会社KOKOBUYと米国のInnovate Organics, Inc.の株式を取得し、子会社化しました。これにより、同社は化粧品業界への進出を果たしました。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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