事業承継における減資の活用方法と手順を解説します。税制対策や自社株買取など、減資のメリットを紹介し、株主総会での決議から登記までの手続を詳しく説明。円滑な事業承継を実現するための減資戦略をご紹介します。
目次
減資とは、企業が資本金の額を減少させる手続のことを指します。株主から出資を受けた資金である資本金を、企業が自主的に減少させる方法です。減資を行う際には、実際に発行済株式数が減少するわけではなく、主に帳簿上の処理が行われます。
減資には主に2つの種類があります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
無償減資は、株主への資本の払戻しを伴わない減資方法です。主な特徴は以下の通りです。
・減資によって生じた剰余金を利益剰余金のマイナスに充当する
・累積赤字の補填や節税などを目的に実施される
・株主への金銭的な還元は行われない
一方、有償減資は株主への資本の払戻しを伴う減資方法です。主な特徴は以下の通りです。
・利益が出ていない状況でも、株主還元策としての配当を実施したい場合に用いられる
・減資によってその他資本剰余金を作り、そこから配当を行う
・会社法の改正により、現在は「減資」と「資本の払戻し」が個別の取引として扱われる
・ただし、「減資」と「資本の払戻し」を一連の取引として行えば、従来の有償減資と同様の効果を得ることができる
減資は、事業承継を円滑に進める上で有効な手段となる場合があります。次のセクションでは、事業承継における減資の具体的な活用シーンについて解説します。
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(債務超過)
事業承継の過程で減資を活用するケースは複数あります。主な活用シーンを見ていきましょう。
事業承継税制は、現経営者から後継者への事業承継時に贈与税・相続税の猶予・免除を受けられる制度です。この制度の適用を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
・「中小企業であること」が要件の1つ
・「資本金」と「従業員数」が判断基準となる
・業種ごとに基準が異なる
株式の保有者が分散していると、経営権の分散にもつながり、事業運営や事業承継の際に不都合が生じやすくなります。
・安定した経営のためには、自社株式の分散を可能な限り避けることが重要
・有償減資を活用し、自社株を購入することで対策が可能
・経営権の集中化や円滑な事業承継につながる
減資を行うことで、いくつかの税負担軽減効果が期待できます。
1. 外形標準課税の回避 ・資本金が1億円超の法人は、事業税について外形標準課税が適用される ・赤字でも税負担が
発生するため、経営不振により赤字が続く場合には有効 ・減資により資本金を1億円以下にすることで、外形標準
課税の適用を避けられる可能性がある
2. 地方税の均等割りの減少 ・地方税の均等割額は、「資本金等の額」および「従業員数」によって判定される ・減
資により資本金等の額を減らすことで、地方税の均等割りを減少できる可能性がある
3. 中小企業の優遇税制の適用 ・資本金を1億円以下にすることで、中小企業の優遇税制の特例を受けることが可能に
なる ・優遇税制の例:貸倒引当金の特例、交際費の損金不算入制度の特例、欠損金の繰り戻し、欠損金の控除制
限、賃上税制、少額減価償却資産の特例など
ただし、資本金の減少は会社の信用力に影響を与える可能性もあるため、慎重に判断する必要があります。
減資を行う際には、一定の手続を踏む必要があります。主な手順は以下の通りです。
減資は株主への影響が大きいため、原則として株主総会の特別決議が必要です。
株主総会では、以下の事項について決議が必要となります:
・減少する資本金の額
・減少する資本金の額の全部または一部を準備金とする場合は、その旨と準備金とする額
・効力発生日
減資は債権者にとって不利益となる場合もあるため、原則として債権者保護手続が必要です。
・官報公告と債権者への個別の催告を行う
・電子公告や日刊紙など、官報公告以外の掲載方法を定めている場合には、それらの方法で公告することで、債権者への個別催告を省略できる
・債権者が異議を申し述べられる期間を1か月以上設ける必要がある
・手続完了までには少なくとも1か月以上かかるため、スケジュールに余裕をもって実施することが重要
・債権者保護手続の期間中に異議を述べる債権者がいなかった場合、株主総会の決議で定めた効力発生日に減資の効力が
生じる
・債権者から異議が出るなど債権者保護手続が終了していない場合には、終了したときに効力が発生する
減資の登記申請を行う際の一般的な必要書類は以下の通りです:
・株主総会議事録
・株主リスト
・公告を実施したことを証するもの
・債権者への個別催告をしたことを証するもの
・定款で定めた公告方法で公告をしたことを証するもの
取締役会で決議した場合や債権者から異議が出た場合など、ケースによって必要な書類が異なる場合があります。登記申請の際には、書類等に不備がないよう司法書士に相談することが重要です。
減資は、資本金を減少させることで事業承継を円滑に進める手段の一つです。事業承継税制の適用、自社株の買い取り、税負担の軽減などに活用できます。ただし、減資には複雑な手続が必要で、会社の信用力にも影響を与える可能性があるため、慎重に検討し、専門家に相談しながら進めることが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画