事業承継の減資で自社株価と税負担を整える実務ポイント
事業承継で減資を使う目的を、株価引下げ、税負担軽減、経営権集約の観点から解説します。有償減資・無償減資の違い、資本金1億円以下にする効果、会社法手続、事業承継税制の取消リスク、M&A前の確認点を整理します。
目次

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(債務超過)
資本金が大きい会社ほど、事業承継で有利になるとは限りません。外から見ると立派に見えても、税務上は中小企業向けの優遇を受けにくくなり、後継者が株式を引き継ぐときの負担が重くなることがあります。
減資とは、会社の資本金の額を減らす手続です。ここでいう資本金は、会社の登記や決算書に表示される金額であり、減資をしたからといって、必ず工場、設備、売上先が失われるわけではありません。資本金を資本剰余金に振り替えるだけの減資であれば、会社の現預金は動かないため、事業そのものへの影響は限定的です。
ただし、減資は単なる会計処理ではありません。資本金は、法人税、法人事業税、地方税、事業承継税制、自社株評価、金融機関の見方に関係します。数字を下げればよい、という話ではないのです。
中小企業の事業承継では、主に次のような場面で減資を検討します。
・事業承継税制の中小企業要件に合わせたい場合
・自社株評価を下げ、後継者の相続税や贈与税の負担を抑えたい場合
・資本金1億円以下にして、中小法人向けの税務メリットを受けたい場合
・株式が分散しており、経営権を整理したい場合
・M&A(合併・買収)や第三者承継の前に、財務内容を分かりやすくしたい場合
よくある誤解は、減資をすると会社の価値が下がる、というものです。実際には、無償減資だけで事業価値が直ちに下がるわけではありません。一方で、有償減資のように株主へ払い戻しを行う場合は、会社の純資産や資金繰りに影響します。ここを分けて考えることが大切です。
減資は、後継者への株式移転や事業承継税制の申請と同じタイミングで慌てて行うと、手続の遅れや税務リスクにつながります。理想は、承継予定時期から逆算して、少なくとも数か月前から資本金、株価、株主構成、資金繰りを確認することです。
特に、すでに事業承継税制の適用を受けている会社では、減資が認定取消事由に該当する可能性があります。欠損填補を目的とする場合など例外もありますが、「税金を下げたいから減資する」という単純な判断は危険です。適用前に実施するのか、適用後でも問題がないのかを先に確認します。
後継者が株式を引き継ぐとき、負担になるのは株式の評価額です。非上場会社の株式は、上場株のように市場価格があるわけではありません。税務上の評価方法により、会社の利益、純資産、配当、類似業種の株価などをもとに計算します。
利益が安定している会社、内部留保が厚い会社、不動産や有価証券を多く持つ会社では、自社株評価が高くなりやすいものです。後継者から見ると、会社を引き継ぎたい意思はあっても、株式を受け取るための相続税や贈与税が重く、承継計画が止まることがあります。珍しい話ではありません。
有償減資は、資本の払戻しを伴う方法です。株主へ金銭を払い戻すため、会社の現預金や純資産が減ります。その結果、純資産を重視する自社株評価では、株価の引下げにつながる可能性があります。
たとえば、会社に事業で使っていない余剰資金が多く残っている場合、その資金が株価を押し上げていることがあります。後継者へ株式を移す前に、適正な範囲で有償減資を行い、会社の資産規模を整理することで、承継時の税負担を抑えられる場合があります。
ただし、払い戻した金額の一部は、株主側でみなし配当として課税されることがあります。みなし配当とは、形式上は資本の払戻しでも、税務上は配当と扱われる部分です。会社側に源泉徴収義務が生じることもあるため、株主ごとの税負担まで含めた試算が必要です。
株価を下げたいからといって、会社の運転資金まで外へ出してしまうと、承継後の経営が苦しくなります。後継者が引き継いだ直後に資金繰りへ追われる状況では、従業員や取引先の不安も大きくなります。
有償減資を検討する際は、最低限、次の点を確認します。
・月商何か月分の現預金を残すか
・金融機関の借入条件に影響しないか
・役員借入金、保証債務、リース契約に問題がないか
・後継者の相続税、贈与税、所得税を合計して有利か
・事業承継税制を使う場合、実施時期が適切か
株式が親族、退職役員、取引先、従業員持株会などに分散していると、後継者が安定して経営できないことがあります。株主総会の重要決議では、議決権の一定割合が必要になるためです。
この場合、有償減資だけでなく、自己株式の取得を組み合わせて株主構成を整理することがあります。自己株式の取得とは、会社が株主から自社の株式を買い取る取引です。特定の株主から株式を買い取れるため、後継者側に議決権を集約しやすくなります。
ただし、自己株式取得にも分配可能額の制限や税務上のみなし配当の問題があります。減資、自己株式取得、株式譲渡、贈与をどの順番で行うかにより、税負担と経営権の着地は大きく変わります。
減資には、大きく有償減資と無償減資があります。名前は似ていますが、資金が外へ出るかどうかが大きな違いです。ここを取り違えると、承継計画が大きく崩れます。
無償減資は、株主へ金銭を払い戻さず、帳簿上で資本金を資本剰余金などに振り替える方法です。会社の現預金は減りません。そのため、事業承継前に資本金の水準だけを調整したい場合に使いやすい方法です。
たとえば、資本金が2億円の会社が、無償減資により資本金を1億円以下へ下げるケースです。資本金の一部をその他資本剰余金に振り替えれば、現金を流出させずに資本金基準を満たしやすくなります。
また、過去の赤字で利益剰余金がマイナスになっている会社では、減資により欠損填補を行うことがあります。欠損填補とは、過去の赤字を資本の部で整理することです。見た目の財務内容を整え、金融機関や買い手企業に説明しやすくなる場合があります。
無償減資が向いているのは、次のような会社です。
・資金を外へ出したくない会社
・資本金だけが大きく、中小法人の税務メリットを受けにくい会社
・過去の赤字を整理し、財務の見え方を整えたい会社
・事業承継税制の要件確認を承継前に進めたい会社
・M&A前に、決算書の資本構成を分かりやすくしたい会社
無償減資は資金流出がない分、株価引下げへの効果は限定的です。純資産そのものが減らないためです。自社株評価を下げる目的が強い場合は、有償減資や自己株式取得、役員退職金、不要資産の整理など、別の方法も合わせて検討します。
有償減資は、会社から株主へ金銭を払い戻すため、会社の財産が減ります。後継者への株式移転コストを抑える効果が期待できる一方、会社の安全性を下げる可能性があります。
実務では、次のような場面で検討されます。
・余剰資金が多く、株価が高くなり過ぎている場合
・創業者や先代株主へ資本を一部払い戻したい場合
・株主構成を整理し、後継者の経営権を安定させたい場合
・M&A前に不要な現預金を整理し、譲渡価格の考え方を明確にしたい場合
有償減資では、株主が受け取る金額のうち、資本金等の額に対応する部分を超える金額が、みなし配当になることがあります。個人株主であれば所得税や住民税、法人株主であれば受取配当等の益金不算入など、株主の属性により扱いが変わります。
会社側も、源泉徴収、支払調書、会計処理、分配可能額の確認が必要です。株主が複数いる場合、同じ金額を受け取っても税負担が同じとは限りません。ここが意外と多い落とし穴です。
後継者目線では手取り額を見る
事業承継では、会社の税金だけでなく、後継者と先代経営者の手取り額を見る必要があります。法人税が下がっても、個人側の所得税や相続税が増えれば、全体では不利になることがあります。
減資の判断では、会社、先代経営者、後継者、その他株主を分けて試算します。誰に、いつ、どの税金が発生するのかを見える化してから実行します。
資本金1億円は、中小企業の税務で大きな分かれ目です。資本金を1億円以下にすることで、一定の中小法人向け制度を受けられる可能性があります。ただし、大法人の完全子会社など、例外により対象外となる場合もあるため、自社の株主構成まで確認します。
一定の中小法人では、年800万円以下の所得部分について、法人税の軽減税率が適用されることがあります。利益が安定している会社では、毎期の税負担に影響します。
ただし、資本金が1億円以下であっても、大法人に完全支配されている会社や、所得規模が大きい会社などは対象外となることがあります。事業承継前は親族会社でも、M&A後に大企業グループへ入る場合は、適用関係が変わることがあります。
資本金1億円以下の中小法人では、交際費について年800万円まで損金算入できる特例があります。損金算入とは、税金計算上の経費にできるという意味です。
承継後の会社では、後継者が取引先、金融機関、従業員との関係を作り直す場面があります。営業活動や関係維持のための支出が増える時期に、交際費の扱いは無視できません。
法人事業税の外形標準課税は、所得だけでなく、付加価値や資本の規模も基準に課税される制度です。赤字でも税負担が発生することがあるため、資本金1億円超の会社では、減資による対象外化が検討されることがあります。
ただし、近年は減資による外形標準課税逃れを防ぐため、制度の見直しが行われています。前事業年度に外形標準課税の対象だった法人で、資本金を1億円以下にしても、資本金と資本剰余金の合計額などの条件によっては、引き続き対象になる可能性があります。
「1億円以下にすれば必ず外形標準課税がなくなる」と考えるのは危険です。資本金だけでなく、資本剰余金、過去の課税状況、グループ関係、事業年度開始日まで確認します。
法人版事業承継税制は、非上場会社の株式を後継者が承継する際、一定の要件を満たすことで贈与税や相続税の納税猶予を受けられる制度です。対象会社は中小企業者である必要があり、業種ごとに資本金や従業員数の基準があります。
たとえば、小売業、サービス業、卸売業、製造業などで基準は異なります。資本金が基準を超えている場合、承継前に無償減資で資本金を調整することにより、制度活用の余地が生まれる場合があります。
一方で、すでに事業承継税制の認定を受けている場合は注意が必要です。欠損填補目的などを除き、資本金や準備金を減少させると、認定取消につながる可能性があります。承継税制を使うなら、減資は適用前に行うのか、適用後でも問題がないのかを、必ず順番で検討します。
減資は、税務だけで完結しません。会社法上の手続、株主への説明、債権者保護、登記、金融機関対応が必要です。ここで段取りを誤ると、承継時期がずれます。
株式会社が資本金を減少させる場合、原則として株主総会で決議します。通常は特別決議が必要です。決議では、減少する資本金の額、準備金にする額、効力発生日などを決めます。
その後、債権者保護手続を行います。これは、会社の債権者に対して、減資に異議を述べる機会を与える手続です。官報公告や、知れている債権者への個別催告が必要となるのが原則です。異議を述べることができる期間は、少なくとも1か月以上設けます。
そのため、実務では株主総会の準備、公告手配、債権者対応、登記申請まで含めると、最短でも1.5か月から2か月程度は見ておく必要があります。金融機関が多い会社や、株主が分散している会社では、さらに余裕を持たせます。
減資の効力が発生したら、資本金の額の変更登記を行います。登記簿の資本金、決算書の資本金、税務申告書の資本金等の額にズレがあると、金融機関や買い手企業から質問を受けやすくなります。
M&A実務では、こうした小さな不一致で確認作業が止まることがあります。減資そのものより、説明資料が整っていないことが問題になるのです。
金融機関は、資本金の額を会社の信用力を見る材料の1つにします。減資をすると、たとえ無償減資で現預金が減っていなくても、「財務が悪化したのではないか」と受け止められることがあります。
そのため、減資前に次の内容を説明しておくと安心です。
・事業承継に向けた資本政策であること
・現預金や返済能力に大きな悪影響がないこと
・外形標準課税や中小企業税制への影響を試算していること
・後継者の経営計画と資金繰り計画があること
・既存借入の財務制限条項に抵触しないこと
財務制限条項とは、借入契約で定められた財務上の約束です。純資産、自己資本比率、利益水準などが条件になっていることがあります。減資前に契約書を確認します。
大幅な減資をすると、取引先や従業員が不安を感じることがあります。外部からは、資本金の額だけを見て「経営が苦しいのではないか」と判断されることもあるためです。
特に、承継前後は社内が揺れやすい時期です。後継者が新しい方針を示す前に、減資だけが先に伝わると、退職や取引条件の見直しにつながる可能性があります。
説明では、減資の目的を短く明確にします。たとえば、「後継者への円滑な承継のため、税務上・資本政策上の整理を行うものです。通常の取引や雇用に影響はありません」といった伝え方です。必要以上に専門用語を並べないほうが伝わります。
親族内承継だけでなく、第三者承継として会社売却を検討する場合にも、減資は論点になります。買い手企業は、決算書の資本構成、余剰資金、株主構成、過去の赤字、税務リスクを確認します。
減資を先に行うべきか、M&Aの条件交渉の中で整理すべきかは、会社の状況により異なります。早く整えたほうがよい場合もあれば、買い手候補が決まってから協議したほうがよい場合もあります。
M&Aでは、会社に多額の現預金が残っていると、譲渡価格に反映されることがあります。一方で、買い手は事業運営に必要な運転資金を求めます。売り手側が承継前に有償減資で現預金を外へ出し過ぎると、買い手から「運転資金が不足している」と見られる場合があります。
逆に、事業に使わない余剰資金が多い会社では、減資や配当、役員退職金などで整理したうえで、事業価値を見えやすくすることもあります。どの方法がよいかは、税金、手取り額、買い手の評価、資金繰りを合わせて判断します。
買い手企業は、次のような点を見ています。
・減資の目的が合理的か
・債権者保護手続や登記が適切に完了しているか
・みなし配当や源泉徴収の処理に漏れがないか
・株主間で不公平感や紛争がないか
・外形標準課税や中小企業特例の判定が正しいか
・事業承継税制の取消リスクがないか
減資は、うまく使えば承継やM&Aの準備になります。しかし、説明できない減資は、買い手の不安材料になります。
第三者承継で意外と時間がかかるのが、少数株主の整理です。古い株主名簿に退職役員や親族が残っている、相続で株主が増えている、連絡が取れない株主がいる。こういうケースは珍しくありません。
株主構成が整理されていないと、株式譲渡契約の前提が崩れることがあります。減資、自己株式取得、株式譲渡、相続手続をどう組み合わせるかは、M&Aの初期段階で確認しておくべきです。
事業承継では、誰に会社を引き継ぐかだけでなく、どの状態で引き継ぐかが重要です。資本金が過大なまま、株価が高過ぎるまま、株主が分散したままでは、後継者も買い手企業も判断しにくくなります。
減資は、会社を小さく見せるための手続ではありません。承継しやすい資本構成に整えるための手段です。親族内承継、従業員承継、M&Aのどれを選ぶ場合でも、税務、会計、会社法、金融機関対応を一体で考えることが、後悔しない承継につながります。
減資は、事業承継前に資本金、株価、税負担、株主構成を整える有効な手段です。ただし、有償減資と無償減資では効果もリスクも異なり、会社法手続、事業承継税制の取消事由、金融機関の見方にも注意が必要です。承継やM&Aの直前に慌てて行うのではなく、早い段階で試算し、後継者が安心して引き継げる形を整えることが大切です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人