【M&A EBITDA】企業価値評価の要!計算方法と活用法を徹底解説

M&AにおけるEBITDAの重要性と活用法を徹底解説。企業価値評価の要となるEBITDAの計算方法から、実践的な活用事例まで、M&Aに関わる方必見の情報をお届けします。

目次

  1. EBITDAの定義と意味
  2. EBITDA、EBIT、フリーキャッシュフローの比較
  3. EBITDAの算出方法
  4. EBITDAを用いた企業評価
  5. M&AにおけるEBITDAの重要性
  6. EBITDAの把握がもたらすメリット
  7. EBITDAを使用する際の留意点
  8. EBITDAの実践的な活用事例
  9. まとめ

EBITDAの定義と意味

EBITDAは、企業の収益力を評価する重要な財務指標の一つです。この指標は「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の頭文字を取って名付けられました。日本語で表現すると、「利払い前・税引前・償却前利益」という意味になります。

EBITDAは、企業の本業から生み出される収益力を示す指標として広く活用されています。特に、国際的な企業や設備投資が多い企業の評価に適しているとされます。

特徴

この指標の特徴は、以下の点にあります。

1. 税引前利益をベースにしている

2. 支払利息を加算している

3. 減価償却費を加算している

これらの要素を考慮することで、EBITDAは企業の実質的な収益力をより正確に反映することができます。

一般的な財務指標である営業利益や経常利益と同様に、EBITDAも企業価値を客観的に評価するために使用されます。特に、キャッシュベースに近い指標であるため、企業の本業における収益力を示す指標として重宝されています。

EBITDAを構成する要素

EBITDAは5つの主要な要素から構成されています。それぞれの要素について詳しく見ていきましょう。

1. Earnings Before(利益): これは、以下の4項目の収益や費用を加減算する前の利益を指します。企業の基本的
                な収益力を示す出発点となります。

2. Interest(支払利息): 企業が借入金などに対して支払う利息のことです。EBITDAでは、この支払利息を加算す
              ることで、企業の資金調達方法による影響を排除します。

3. Taxes(税金): 法人税等の税金を指します。EBITDAでは、税金を加算することで、各国の税制の違いによる影
           響を排除し、純粋な事業の収益力を評価できるようにしています。

4. Depreciation(有形固定資産の減価償却費): 建物や機械設備など、有形の固定資産に対する減価償却費を指し
             ます。この費用は実際にはキャッシュアウトを伴わないため、EBITDAでは加算されます。

5. Amortization(無形固定資産の償却費): のれんやソフトウェアなど、無形の固定資産に対する償却費を指しま
            す。これも実際のキャッシュアウトを伴わない費用であるため、EBITDAでは加算されます。

これらの要素を考慮することで、EBITDAは企業の純粋な事業活動から生み出される収益力を示す指標となります。そのため、企業価値の評価や、M&Aにおける企業間比較など、様々な場面で活用されています。

特に、類似会社比準法(マルチプル法)と呼ばれる企業価値評価手法においては、EBITDAが重要な役割を果たします。この手法では、EBITDAを基準として企業価値を算出し、類似する企業間で比較を行います。

EBITDAを正しく理解し活用することで、企業の実質的な収益力をより深く把握することができ、投資判断やM&A戦略の立案に役立てることができます。

EBITDA、EBIT、フリーキャッシュフローの比較

EBITDAと似た指標として、EBITとフリーキャッシュフローがあります。これらの指標はそれぞれ異なる特徴を持っており、用途に応じて使い分けられています。

EBITの概要

EBITは「Earnings Before Interest and Taxes」の略で、日本語では「利払い前・税引前利益」と訳されます。一般的に「イービット」と呼ばれることが多いです。

EBITの特徴:

1. 企業の最終利益から支払利息と税金を戻した利益を示します。

2. 本業の事業活動から生じる利益に焦点を当てた指標です。

3. 借入コストの影響を除いた利益を分析する際に有用です。

EBITDAとの主な違いは、減価償却費の扱いにあります。EBITは減価償却費を含んでいるのに対し、EBITDAは減価償却費を加算しています。

フリーキャッシュフローの特徴

フリーキャッシュフローは、企業が営業活動によって生み出したキャッシュフローから、投資に必要な資金を差し引いたものを指します。

フリーキャッシュフローの特徴:

1. 本業で稼いだ資金から、事業に必要な設備投資や運転資金を確保した後の、自由に使える資金を示します。

2. 企業の実質的な資金創出力を表す指標として活用されます。

EBITDAとの主な違いは、フリーキャッシュフローが実際のキャッシュの動きを反映しているのに対し、EBITDAは税金や支払利息などを加算した理論上の利益を示している点です。

これらの指標はそれぞれ異なる側面から企業の財務状況を評価するため、目的に応じて適切な指標を選択することが重要です。

EBITDAの算出方法

EBITDAを算出する方法には複数のアプローチがありますが、最も一般的に使用される方法は営業利益に減価償却費を加算する方法です。

営業利益と減価償却費を用いた計算

最も簡便なEBITDAの計算式は以下のとおりです。

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

この計算方法の利点:

1. 減価償却費を含めて算出できるため、現預金を伴った企業価値の増加額を概算できます。

2. 事業により生み出したキャッシュフローに近い金額を算出できます。

3. 本業のキャッシュフローを簡易的に把握することができます。

この方法は、相手企業の状況を大まかに把握したい場合や、ざっくりとした収益力を評価する際に特に有用です。

その他のEBITDA算出式

目的に応じて、以下のような計算式も使用されます。

1. EBITDA = 経常利益 + 支払利息 + 減価償却費

2. EBITDA = 税引前当期純利益 + 特別損益 + 支払利息 + 減価償却費

3. EBITDA = 当期純利益 + 法人税等 + 特別損益 + 支払利息 + 減価償却費

これらの計算式は、企業の財務状況をより詳細に分析する必要がある場合や、特定の財務項目の影響を考慮したい場合に使用されます。

EBITDAを用いた企業評価

EBITDAを活用した企業評価には、主にEBITDAマージンとEV/EBITDA倍率という2つの方法があります。

EBITDAマージンの活用

EBITDAマージンは、売上高に対するEBITDAの割合を示す指標です。この指標は、企業のキャッシュ創出能力を評価するのに役立ちます。

計算式: EBITDAマージン = EBITDA ÷ 売上高 × 100

例えば、売上高が50億円、営業利益が5億円、減価償却費が1億円の企業の場合:

EBITDAマージン = (5億円 + 1億円) ÷ 50億円 × 100 = 12%

EBITDAマージンが高いほど、その企業は売上に対して高い収益性を持っていると評価できます。

EV/EBITDA倍率の意義

EV/EBITDA倍率は、企業価値(EV:Enterprise Value)がEBITDAの何倍にあたるかを示す指標です。この倍率は「管理買収倍率」とも呼ばれ、M&Aの際の企業価値評価に広く使用されています。

計算式: EV/EBITDA倍率 = EV ÷ EBITDA EV = 株式時価総額 + 有利子負債 - 現預金

この倍率の特徴:

1. 買収の初期投資額を回収するまでの年数を概算できます。

2. 数値が小さいほど、コスト回収にかかる期間が短いと判断できます。

3. 株価比較の尺度としても活用されています。

EV/EBITDA倍率は、同業他社との比較や業界平均との比較に用いることで、当該企業の株価が割高か割安かを判断する材料となります。

M&AにおけるEBITDAの重要性

EBITDAは、特に中小企業のM&Aにおいて重要な役割を果たしています。その理由には主に以下の点が挙げられます。

簡易的な株価測定

EBITDAは、企業の譲渡価格を算出する際の重要な指標となります。特に、非上場企業の株価を簡易的に測定する際に有用です。

1. EV/EBITDA倍率を用いることで、株価の時価総額を概算できます。

2. 大企業の買収で使用される複雑なファイナンス理論に比べ、中小企業のM&Aにより適しています。

3. 企業の実質的な収益力を反映した評価が可能です。

借入金や税金の影響を排除した比較

EBITDAを使用することで、借入金や税金の影響を受けずに複数の企業を比較することができます。

1. 成長期の企業は往々にして借入金が多くなりがちですが、EBITDAを用いることでその影響を排除して企業の実力
   を評価できます。

2. 税制の違いによる影響を排除できるため、国際的な企業比較にも有効です。

3. 企業のステージや業種が異なる場合でも、公平な比較が可能になります。

これらの特徴により、EBITDAはM&Aにおける企業価値評価の重要な指標として広く活用されています。

EBITDAの把握がもたらすメリット

EBITDAを正しく把握することで、企業評価や経営判断において多くのメリットを得ることができます。

EBITDAのメリット

以下に主なメリットを詳しく説明します。

1. 業種や企業のステージにかかわらず、収益を比較できる 

EBITDAは、異なる業種や成長段階にある企業間でも比較可能な指標です。例えば、大規模な設備投資により減価償却費が大きくなる企業であっても、EBITDAを用いることで、その影響を排除して純粋な事業の収益力を比較できます。

2. 中長期的な視点で企業価値評価ができる 

減価償却費の影響を排除したEBITDAは、企業の実質的な利益を示します。これにより、短期的な会計上の利益だけでなく、中長期的な企業の収益力や成長性を評価することが可能になります。

3. グローバル企業の収益性比較ができる 

国によって税率や金利、減価償却の方法が異なるため、当期純利益などの指標では国際的な企業比較が難しい場合があります。EBITDAは、これらの要因の影響を受けにくいため、グローバル企業の収益力を正確に比較することができます。

4. 経年比較ができる 

EBITDAは、過去に遡って経年比較を行うのに適した指標です。EBITDAマージンを算出することで、キャッシュベースでの収益率の推移を把握することができ、企業の成長性や収益性の変化を時系列で分析できます。

5. 資本構成の違いを排除した比較ができる 

企業によって借入金の額や株主資本の構成が異なりますが、EBITDAはこれらの影響を受けません。そのため、資本構成の違いに左右されずに、純粋な事業の収益力を比較することができます。

6. M&Aにおける企業価値評価に活用できる 

EBITDAは、M&Aの際の企業価値評価に広く使用されています。特に、EV/EBITDA倍率を用いることで、簡易的に企業価値を算出し、買収価格の妥当性を判断することができます。

7. 投資判断の材料として活用できる 

投資家にとって、EBITDAは企業の実質的な収益力を示す重要な指標となります。特に、成長企業や赤字企業の評価において、EBITDAは有用な情報を提供します。

8. 経営戦略の立案に役立つ 

経営者にとって、EBITDAは自社の収益構造を理解し、改善点を見出すための重要な指標となります。例えば、同業他社とのEBITDAマージンの比較を通じて、自社の競争力や効率性を評価することができます。

これらのメリットにより、EBITDAは財務分析や企業評価において非常に重要な指標として広く活用されています。しかし、EBITDAにも限界があるため、次のセクションで説明する注意点も併せて理解することが重要です。

EBITDAを使用する際の留意点

EBITDAは有用な指標ですが、いくつかの重要な留意点があります。これらを理解することで、EBITDAをより適切に活用することができます。

のれんや設備投資費の損失が反映されない問題

EBITDAを使用する際の最も重要な留意点の一つは、のれんや設備投資費の損失が反映されないことです。

1. 無形固定資産の償却が考慮されない: 

EBITDAは、のれんやソフトウェアなどの無形固定資産の償却費を加算します。そのため、M&Aで高額ののれんを計上した企業や、ソフトウェア開発に多額の投資を行っている企業の場合、その影響が反映されません。

2. 設備投資の必要性が見えにくい: 

減価償却費を加算するEBITDAでは、設備投資の必要性が適切に反映されません。老朽化した設備を抱える企業と最新の設備を持つ企業が、同じEBITDAを示す可能性があります。

3. M&Aの失敗リスク: 

EBITDAのみで業績を判断すると、M&Aの失敗を招く可能性があります。のれんの減損などの潜在的なリスクを見逃す恐れがあるため、営業利益やEBITなど他の指標も併せて確認することが重要です。

借入金の支払利息が考慮されない課題

EBITDAを使用する際のもう一つの重要な留意点は、借入金の支払利息が考慮されないことです。

1. 財務リスクの過小評価: 

EBITDAは支払利息を加算するため、多額の借入金を抱える企業の財務リスクを適切に反映できません。実際の利益は支払利息によって大きく減少する可能性があります。

2. M&Aにおける注意点: 

買収対象企業に多額の借入金がある場合、EBITDAだけでは適切な評価ができません。買収後に想定した利益を得られない可能性があるため、注意が必要です。

3. キャッシュフローとの乖離: 

支払利息を考慮しないEBITDAは、実際のキャッシュフローとは乖離する可能性があります。特に、高金利環境下では、この乖離が大きくなる傾向があります。

4. 資本構成の違いを無視: 

EBITDAは企業の資本構成(負債と資本のバランス)を考慮しません。そのため、財務レバレッジの高い企業と低い企業を同じ基準で評価してしまう可能性があります。

これらの留意点を踏まえ、EBITDAを使用する際は以下の点に注意することが重要です。

EBITDAだけでなく、他の財務指標も併せて分析する

企業の負債状況や設備投資の必要性を別途確認する

業界特性や企業の成長段階を考慮に入れる

中長期的な視点で企業の収益力を評価する

EBITDAは非常に有用な指標ですが、これらの限界を理解した上で適切に活用することが、より正確な企業評価や意思決定につながります。

EBITDAの実践的な活用事例

EBITDAは、様々な場面で活用されています。以下に、EBITDAの実践的な活用事例をいくつか紹介します。

1. M&Aにおける企業価値評価 

買収予定の企業の財務状況を評価する際、EBITDAは重要な指標として用いられます。特に、EV/EBITDA倍率を業界平均と比較することで、買収価格の妥当性を判断することができます。

2. 株価の時価総額算出 

上場企業の株価評価において、EV/EBITDA倍率は重要な指標の一つとなります。この倍率が業界平均よりも低い場合、その企業の株価が割安である可能性を示唆します。

3. 企業の収益性評価 

EBITDAが高ければ、基本的にその企業の収益性が高いと評価できます。特に、EBITDAマージンを同業他社と比較することで、相対的な収益力を把握することができます。

4. 負債返済能力の評価 

金融機関が企業の融資審査を行う際、EBITDA/有利子負債比率を用いて負債返済能力を評価することがあります。この比率が高いほど、返済能力が高いと判断されます。

5. 経営計画の策定 

中期経営計画を策定する際、EBITDAを重要なKPI(Key Performance Indicator)の一つとして設定することがあります。これにより、純粋な事業の収益力向上を目指した計画を立てることができます。

6. 投資判断の材料 

投資家が企業価値を評価する際、EBITDAは重要な指標の一つとなります。特に、成長企業や一時的な赤字企業の評価において、EBITDAは有用な情報を提供します。

7. クロスボーダーM&Aの比較 

国際的なM&Aにおいて、EBITDAは異なる国の企業を比較する際の共通指標として活用されます。税制や会計基準の違いを排除して企業価値を評価できるためです。

8. LBO(レバレッジド・バイアウト)の評価 

LBOを行う際、EBITDAは借入金の返済能力を評価する重要な指標となります。EBITDA/支払利息比率などを用いて、買収後の債務返済能力を予測します。

9. 業績連動型報酬の基準 

経営者の業績連動型報酬を設計する際、EBITDAを評価指標の一つとして採用することがあります。これにより、経営者に純粋な事業の収益力向上を促すことができます。

10. ターンアラウンド(企業再生)の進捗評価 

経営不振企業の再建過程において、EBITDAの改善度合いは重要な指標となります。赤字であっても、EBITDAが改善傾向にあれば、再生の兆しとして評価されます。

これらの活用事例からわかるように、EBITDAは企業評価や経営判断において幅広く活用されています。ただし、前述の留意点を踏まえ、他の指標と併せて総合的に判断することが重要です。

まとめ

EBITDAは、企業の純粋な事業収益力を示す重要な財務指標です。利払い前・税引前・償却前利益を表すこの指標は、企業価値評価やM&A、投資判断など様々な場面で活用されています。EBITDAの主な特徴として、借入金や税金の影響を受けずに企業間比較ができること、グローバル企業の収益性比較が可能なこと、中長期的な視点で企業価値評価ができることなどが挙げられます。一方で、のれんや設備投資費の損失が反映されない点や、借入金の支払利息が考慮されない点など、いくつかの留意点もあります。これらの特徴と限界を理解した上で、他の財務指標と併せて活用することで、より正確な企業評価や意思決定が可能となります。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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