EBITDAとは?M&A企業価値評価の使い方と注意点
EBITDAの意味、計算式、EBIT・FCFとの違い、EV/EBITDA倍率での活用を解説。M&Aで企業価値を判断する際のメリット、限界、関連指標の確認方法まで、中小企業オーナー向けに整理します。会社売却や買収検討で、譲渡価格の見方を誤らないための基礎を押さえられます。
目次

▶目次ページ:企業価値評価(類似会社比較法)
EBITDAは、会社の利益を見る指標の1つです。決算書には営業利益、経常利益、当期純利益など多くの利益が並びますが、M&A(合併・買収)や企業価値評価では、EBITDAを先に確認する場面が少なくありません。
EBITDAは「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の略です。日本語では、利払い前・税引前・償却前利益と訳されます。かみ砕くと、支払利息、税金、減価償却費、のれん償却費などの影響を除く前の利益です。
EBITDAは、企業の本業がどれだけ現金を生み出しているかを大まかに見るために使います。減価償却費やのれん償却費は、会計上は費用ですが、その期に現金が出ていく費用ではありません。これらを足し戻すことで、営業利益よりもキャッシュに近い利益をつかめます。
たとえば、機械設備を多く持つ製造業では、減価償却費が大きくなり、営業利益が低く見えることがあります。しかし、その会社が毎月しっかり受注し、現金を稼いでいるなら、EBITDAでは違う見え方になります。ここで判断が止まることは、M&A実務でも珍しくありません。
法人税率、金利水準、借入の多さ、設備投資の規模は会社ごとに違います。最終利益だけを見ると、事業そのものの強さではなく、税制や借入条件の差まで混ざってしまいます。
EBITDAは、税金、支払利息、減価償却費の影響をいったん外します。そのため、国際比較、同業他社比較、買収候補先の初期比較に向いています。通信、製造、ITインフラなど、先行投資が大きい業種では特に使いやすい指標です。
便利な一方で、EBITDAは日本基準やIFRSで厳密に統一された会計指標ではありません。会社や資料によって、のれん償却費を含めるか、特別損益をどう扱うかが変わる場合があります。
そのため、数字を比較するときは、計算式を必ず確認します。同じ「EBITDA」と書かれていても、中身が少し違うことがあるためです。
EBITDAの計算式は1つだけではありません。実務では、手元にある決算書の情報や分析目的に合わせて、営業利益から簡便に求める方法と、当期純利益から積み上げる方法を使い分けます。
EBITDAは「イービットディーエー」と読むことが多いですが、「イービッダー」「エビーダ」と呼ばれることもあります。海外資料や会話では「エボンダ」に近く聞こえることもあります。読み方よりも、中身を理解することが大切です。
営業利益から求める簡便な計算式
中小企業の決算書から素早く確認する場合は、次の式がよく使われます。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 + のれん償却費
減価償却費は、建物、機械、車両、設備などの取得費を一定期間に分けて費用化する会計処理です。のれん償却費は、買収時に生じた超過収益力などを一定期間で費用化するものです。どちらも、その期に現金が流出する費用ではないため、EBITDAでは足し戻します。
簡便式は、M&Aの初期検討や同業他社との大まかな比較に向いています。詳細な企業価値評価の前に、対象会社の収益力の方向感をつかむためです。ただし、営業外損益や一時的な損益が大きい会社では、簡便式だけでは実態とずれることがあります。
より定義に近く計算する場合は、当期純利益から必要項目を足し戻します。
EBITDA = 当期純利益 + 法人税等 + 支払利息 + 減価償却費 + のれん償却費
実務では、固定資産売却損益、補助金収入、災害損失など、一時的な損益を別途調整することもあります。買い手が確認したいのは、来期以降も続く利益だからです。
営業利益が4,000万円、減価償却費が1,200万円、のれん償却費が300万円であれば、EBITDAは5,500万円です。営業利益より1,500万円大きく見えるのは、現金支出を伴わない償却費を足し戻したためです。
M&Aでは、買い手が「この会社を買えば、どれだけの現金を生み出せるか」を重視します。利益が出ていても、借入返済や設備更新で現金が残らない会社なら、買収後の運営は難しくなります。
EBITDAは、企業価値評価の入口として使いやすい指標です。特に、類似会社比較法やマルチプル法では、EBITDAが基礎数値になります。
当期純利益は、税金、支払利息、特別損益の影響を受けます。借入が多い会社は支払利息で利益が下がり、設備投資直後の会社は減価償却費で利益が圧迫されます。
EBITDAはこれらを除いて見ます。そのため、借入方針や投資タイミングが違う会社同士でも、本業の稼ぐ力を比べやすくなります。
成長中の会社は、売上が伸びる前に設備、システム、人材へ投資することがあります。その結果、営業利益や当期純利益が一時的に小さく見える場合があります。
EBITDAは償却費を足し戻すため、投資負担で会計利益が下がっている会社の本業収益力を見やすくします。ただし、将来の設備更新まで無視してよいわけではありません。ここは後述する重要な注意点です。
M&Aでよく使われるEV/EBITDA倍率は、事業価値がEBITDAの何倍かを示す指標です。簡易買収倍率とも呼ばれ、投資額を何年程度で回収できるかを考える目安になります。
ただし、倍率に一律の正解はありません。業種、成長性、会社規模、取引先の安定度、オーナー依存度、買い手との相性によって大きく変わります。倍率は結論ではなく、交渉の出発点です。
EBITDAは単独で見るより、関連指標と組み合わせることで意味がはっきりします。M&Aの企業価値評価では、EV/EBITDA倍率、EBITDAマージン、ネットD/EBITDA倍率をあわせて確認します。
EVは、会社の事業全体の価値を表す考え方です。一般には、株式価値に有利子負債を加え、現預金などを差し引いて考えます。
EV/EBITDA倍率 = EV ÷ EBITDA
倍率が低いほど、EBITDAに対して事業価値が小さいため、投資回収が早いと見られやすくなります。反対に倍率が高い場合は、将来成長への期待が大きい、または割高に見える可能性があります。
経営者が受け取る譲渡対価は、通常、事業価値そのものではなく株式価値です。借入金が多ければ、事業価値が高くても株式価値は下がります。現預金が厚ければ、株式価値が上がることもあります。
この違いを理解していないと、「EBITDAに倍率を掛けた金額がそのまま手取りになる」と誤解しやすいです。意外と多い落とし穴です。
EBITDAマージンは、売上高に対してEBITDAがどれだけ出ているかを見る指標です。
EBITDAマージン = EBITDA ÷ 売上高
売上が大きくても、EBITDAマージンが低い会社は、価格競争、人件費増、外注費増などで収益効率が下がっている可能性があります。反対に、売上規模が小さくてもマージンが高い会社は、ニッチな強みや安定した顧客基盤を持っている場合があります。
ネットD/EBITDA倍率は、純有利子負債がEBITDAの何年分かを見る指標です。ネットDは、有利子負債から現預金を差し引いた金額を意味します。
ネットD/EBITDA倍率 = (有利子負債 - 現預金) ÷ EBITDA
この倍率が高い会社は、稼ぐ力に対して借入負担が重いと見られます。M&Aでは、買収後に金融機関対応や個人保証の解除が論点になることもあるため、EBITDAと借入金は必ずセットで確認します。
EBITは、利息と税金を差し引く前の利益です。EBITDAと違い、減価償却費は足し戻しません。そのため、設備投資の負担をある程度反映した利益として見られます。
フリーキャッシュフローは、営業活動で得た現金から設備投資などを差し引いた、自由に使える現金です。EBITDAよりも実際の資金繰りに近い指標です。
EBITDAは稼ぐ力、EBITは償却費を含めた会計上の利益、フリーキャッシュフローは実際に残る現金を見ます。どれか1つだけで判断せず、目的ごとに使い分けることが重要です。
EBITDAは便利な指標です。しかし、便利だからこそ過信すると危険です。数字が良く見えても、実際には設備更新、借入返済、運転資金で苦しい会社もあります。
EBITDAのメリットは、比較のしやすさです。税制、金利、減価償却方法の違いをある程度ならして、同業他社や海外企業と比べられます。
また、設備投資が先行している会社の収益力を見やすくなります。過去の投資による償却負担で営業利益が下がっていても、EBITDAを見ることで、本業の現金創出力を確認できます。
さらに、M&Aの初期評価で使いやすい点も大きなメリットです。決算書から算出しやすく、買い手、金融機関、専門家が共通の物差しとして議論しやすいためです。
EBITDAは、税金の支払い、借入返済、設備投資、運転資金の増減を直接反映しません。売掛金の回収が遅れている会社や在庫が増えている会社では、EBITDAが黒字でも手元資金が減ることがあります。
黒字なのに資金繰りが苦しい。こういうケースは珍しくありません。M&Aで買い手がキャッシュフロー計算書や月次資金繰り表を見るのは、このズレを確認するためです。
EBITDAは減価償却費を足し戻します。そのため、設備の老朽化や将来必要になる更新投資が見えにくくなります。
古い機械を使い続けて利益を出している会社と、最新設備に投資済みの会社が同じEBITDAでも、買い手からの評価は同じとは限りません。将来の投資負担が重い会社は、倍率が下がる可能性があります。
EBITDAは支払利息を足し戻すため、借入が多い会社でも収益力が高く見えることがあります。しかし、実際には元本返済と利息支払いが続きます。
金利が上がる局面や返済が集中する時期には、EBITDAが安定していても資金繰りが悪化します。ネットD/EBITDA倍率、返済予定表、金融機関との契約条件をあわせて確認することが大切です。
EBITDAは万能な価格指標ではない
EBITDAは、会社の価値を考えるための入口です。最終的な企業価値は、事業計画、顧客基盤、従業員の定着、許認可、株主構成、個人保証、税務リスクなども踏まえて決まります。
中小企業のM&Aでは、EBITDAの計算そのものよりも、その数字が本当に続くかどうかが問われます。買い手は、決算書の数字をそのまま信じるのではなく、詳細調査で実態を確認します。
本業と関係の薄い固定資産売却益、補助金収入、災害損失、訴訟費用などは、通常の収益力とは分けて考えます。一時的な利益を含めたまま高いEBITDAを示すと、買い手との信頼関係を損ねるおそれがあります。
反対に、一時的な費用でEBITDAが低く出ている場合は、根拠資料を示して説明できるようにします。請求書、契約書、稟議書、月次推移などの資料があると、交渉で説明しやすくなります。
中小企業では、売上の多くを社長個人の営業力に頼っているケースがあります。EBITDAが高くても、社長が退任した後も同じ利益が続くかは別問題です。
買い手は、主要取引先との契約、従業員への権限移譲、管理体制、後任者の有無を確認します。会社売却を考えるなら、利益の数字だけでなく、利益が再現される仕組みを整えることが重要です。
企業価値が高く評価されても、経営者の手取り額は税金や取引スキームで変わります。株式譲渡、事業譲渡、退職金支給、不動産の扱いなどで、税負担や残るリスクが変わるためです。
EBITDAは譲渡価格を考えるうえで重要ですが、手取り額そのものを示す指標ではありません。価格、税金、借入金、個人保証を一体で確認して初めて、現実的な判断ができます。
M&Aを本格検討する前から、過去3年から5年のEBITDA、EBITDAマージン、借入金、設備投資、月次推移を整理しておくと、自社の強みと弱みが見えます。買い手に対しても、数字の背景を説明しやすくなります。
EBITDAは、本業のキャッシュ創出力を把握し、M&Aの企業価値評価やEV/EBITDA倍率の検討に役立つ指標です。一方で、設備更新、借入返済、運転資金、税金までは十分に表しません。会社売却や買収を判断する際は、EBITDAを入口に、FCFやネットD/EBITDA倍率、税務面の手取りまで確認することが大切です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人