DCF法とは?中小企業の会社売却で価値を読む実務入門
DCF法とは、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に直して企業価値を算定する方法です。会社売却で見るべき計算手順、WACC、継続価値、注意点を中小企業M&Aの実務目線で解説します。
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▶目次ページ:企業価値評価(DCF法)
DCF法とは、企業が将来生み出すキャッシュフローを、いまの価値に直して企業価値を計算する方法です。正式にはディスカウント・キャッシュ・フロー法と呼ばれます。会社売却やM&A(合併・買収)では、買い手が「この会社は将来どれくらい現金を生むのか」を確認するために使われます。
会計上の利益だけでは、会社の実力をつかみにくいことがあります。売上や利益が出ていても、設備投資や在庫の増加で手元資金が減る会社は珍しくありません。DCF法では、最終的に会社に残る現金の流れに注目するため、将来の収益力をより直接的に見やすくなります。
DCF法の根底には、「今日の1円は、明日の1円より価値が高い」という考え方があります。いま手元にあるお金は運用できますし、将来受け取るお金には、受け取れないかもしれないリスクもあります。
たとえば、1年後にもらう100万円は、いま受け取る100万円と同じ価値ではありません。1年後の100万円を現在価値に直すと、通常は100万円より小さくなります。この目減りさせる割合が、割引率です。
DCF法の基本式は、次のように考えます。
PV=CF1÷(1+r)^1+CF2÷(1+r)^2+CF3÷(1+r)^3+……+CFn÷(1+r)^n
PVは現在価値です。会社売却の場面では、算定したい事業価値や企業価値を意味します。CFnはn年目に発生するフリーキャッシュフローで、会社が事業から生み出す自由に使える現金を指します。rは割引率で、企業価値評価ではWACC(加重平均資本コスト)を使うことが一般的です。WACCとは、株主が求める利回りと金融機関など債権者への借入コストを、資本構成に応じて平均したものです。
難しく見える式は「未来のお金を割り戻す足し算」
式だけを見ると難しく感じるかもしれません。しかし本質はシンプルです。1年後、2年後、3年後に生まれる現金を、それぞれ現在価値に直して足し合わせます。
M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。数式そのものより、どのキャッシュフローを使うか、どの割引率を置くか、予測期間後の価値をどう見るかが重要だからです。
DCF法では、細かい計算に入る前に、3つの数字を押さえる必要があります。フリーキャッシュフロー、割引率、継続価値です。この3つの置き方が少し変わるだけで、評価額は大きく変わります。
フリーキャッシュフローは、事業から生まれた現金のうち、税金、設備投資、運転資金の増減などを考慮した後に残る現金です。略してFCFといいます。
簡略化すると、次のように考えます。
FCF=営業利益×(1−税率)+減価償却費−設備投資額±運転資本増減額
営業利益は本業のもうけです。減価償却費は会計上の費用ですが、支出を伴わないため加え戻します。設備投資額は機械、店舗、システムなどへの支出です。運転資本は、売掛金、在庫、買掛金など日々の事業運営に必要な資金を指します。
割引率は、将来のキャッシュフローを現在価値に直すための率です。一般に、リスクが高い会社ほど割引率は高くなり、現在価値は低くなります。反対に、安定した収益が見込める会社では、割引率は低くなりやすいです。
中小企業では、上場会社と比べて情報の公開度、事業規模、資金調達の安定性、経営者依存度などに違いがあります。そのため、類似上場企業のデータをそのまま使うのではなく、自社の事業リスクに合わせて補正する必要があります。
WACCは、株主資本コストと負債コストを加重平均したものです。計算式は次のように表されます。
WACC=E÷(D+E)×Re+D÷(D+E)×Rd×(1−T)
Eは株主資本、Dは有利子負債、Reは株主資本コスト、Rdは負債コスト、Tは税率です。株主資本コストは株主が期待するリターン、負債コストは借入金利などを基礎に考えます。
DCF法では、一般的に3〜5年程度の事業計画を作り、その期間のフリーキャッシュフローを予測します。ただし、会社はその後も事業を続ける前提で評価されることが多いため、予測期間の後に残る価値をまとめて計算します。これが継続価値、またはターミナルバリューです。
永久成長率法を使う場合、次の式で計算します。
継続価値=最終年度FCF×(1+成長率)÷(割引率−成長率)
この成長率を高く置きすぎると、企業価値が過大に出ます。とくに継続価値は企業価値の大きな部分を占めやすいため、慎重な検証が必要です。
DCF法は、数字を順番に入れれば自動的に正しい答えが出る方法ではありません。会社売却の場面では、事業計画を作る段階から、買い手が納得できる根拠をそろえることが大切です。
最初に、今後の売上、利益、設備投資、運転資金を見積もります。過去の実績、受注状況、主要取引先との関係、業界動向、人員計画などを踏まえて、実現可能性のある事業計画を作ります。
ここで楽観的な数字を置きすぎると、後の交渉で修正されます。たとえば、売上は毎年伸びる前提なのに、人員や設備の増加が織り込まれていない場合、買い手はその計画をそのまま採用しにくくなります。
中小企業では、売上の伸びだけでなく、売掛金の回収期間や在庫の増え方も重要です。利益が増えていても、売掛金や在庫が大きく増えると、フリーキャッシュフローは小さくなります。
次に、WACCなどを使って割引率を決めます。割引率は、将来キャッシュフローの不確実性を反映する重要な数値です。金利、事業リスク、財務リスク、会社規模、経営者依存度などを見て設定します。
割引率を1%変えるだけで、評価額が大きく動くことがあります。とくに継続価値が大きい会社では、その影響がより強く出ます。
予測期間中のフリーキャッシュフローと、予測期間後の継続価値を現在価値に直します。それらを合計すると、事業価値が求められます。
その後、事業に直接使っていない資産を加え、有利子負債などを差し引くことで、株主価値を導きます。会社売却で経営者が受け取る対価を考えるときは、この株主価値の考え方が重要になります。
事業価値は、事業そのものの価値です。企業価値は、事業価値に余剰現金や遊休不動産などの非事業用資産を加えたものです。株主価値は、そこから借入金などを差し引いた株主に帰属する価値を指します。
会社売却の価格交渉では、この違いを整理しないまま話が進むことがあります。意外と多い落とし穴です。
DCF法の考え方は、簡単な数字で見ると理解しやすくなります。ここでは、毎年100万円のフリーキャッシュフローを3年間生み出す会社を例にします。4年目以降の継続価値は考えないものとし、割引率は5%とします。
1年目の現在価値は、100万円÷(1+0.05)^1で、約95.24万円です。
2年目の現在価値は、100万円÷(1+0.05)^2で、約90.70万円です。
3年目の現在価値は、100万円÷(1+0.05)^3で、約86.38万円です。
これらを足し合わせると、95.24万円+90.70万円+86.38万円=272.32万円となります。単純に3年間で300万円を稼ぐ会社でも、現在価値に直すと272.32万円になります。将来のお金は、時間価値とリスクの分だけ小さく評価されるためです。
上記の例では、4年目以降の価値を0としました。しかし実際の会社評価では、事業がその後も続く前提で継続価値を計算します。そのため、実務上のDCF法では、3年分や5年分のフリーキャッシュフローだけでなく、継続価値の前提が非常に重要です。
DCF法は、将来キャッシュフローを現在価値に直して価値を計算する考え方です。一方、IRRは投資に対する利回りを測る考え方です。買い手は、買収価格に対してどれくらいのリターンが見込めるかを見るため、DCF法とIRRの両方を確認することがあります。
DCF法は、将来の成長性やリスクを反映しやすい評価手法です。ファイナンスの世界で広く使われており、M&Aの買収価格の検討、株式投資の割安・割高判断、不動産投資の収益性評価などにも活用されます。
DCF法の大きな利点は、過去の決算書だけでは見えにくい将来の成長力を評価に反映できることです。新規取引先の開拓、設備投資の効果、買い手とのシナジー効果などを、フリーキャッシュフローとして数値化しやすくなります。
会社売却を検討する経営者にとっては、自社の強みを「将来どれくらい現金を生むか」という形で説明できる点が重要です。単なる希望価格ではなく、事業計画に基づく説明ができるからです。
DCF法では、割引率を通じてリスクを反映できます。特定の取引先への依存度が高い、経営者個人の営業力に頼っている、設備更新が近い、法規制の影響を受けやすいといった事情は、評価額に影響します。
これらを見落とすと、買い手のデューデリジェンスで評価額が下がることがあります。デューデリジェンスとは、買い手が財務、税務、法務、事業面のリスクを調べる手続です。
DCF法の弱点は、将来予測に主観が入りやすいことです。数年後の売上、利益、設備投資、運転資金を正確に見通すことは簡単ではありません。割引率や継続価値の設定によっても、結果は大きく変わります。
成長初期のベンチャー企業や、赤字が続いている会社、キャッシュフローが安定しない会社では、DCF法だけで評価することが難しい場合があります。金融機関のように事業構造が一般事業会社と異なる業種でも、通常のDCF法をそのまま使いにくいことがあります。
中小企業M&Aでは、DCF法だけで価格を決めるのではなく、時価純資産法、類似会社比較法、年買法などと合わせて検討することが多いです。DCF法で将来価値を見て、他の手法で市場感や資産価値との整合性を確認します。
DCF法で出た評価額は、絶対的な価格ではありません。あくまで、置いた前提に基づく理論値です。会社売却では、評価額そのものより「どの前提でその金額になったのか」を確認することが大切です。
買い手は、将来計画が過去実績から見て自然かどうかを見ます。売上成長率が急に高くなる場合は、新規契約、販売チャネル、採用計画、設備能力などの根拠が必要です。
根拠が弱い計画は、交渉で保守的に修正されやすくなります。経営者としては、成長ストーリーを語るだけでなく、売上、粗利、人件費、設備投資、運転資金のつながりを説明できる状態にしておくことが望ましいです。
DCF法では、WACCや成長率を少し変えるだけで評価額が大きく変わります。そのため、1つの数字だけを見るのではなく、複数のシナリオを確認します。
たとえば、WACCを0.5%または1%動かした場合、継続成長率を変えた場合、売上成長率を保守的にした場合などを比べると、評価額の幅が見えてきます。価格交渉では、この幅を理解しているかどうかが重要です。
ベースケースだけで判断しない
もっとも起こりやすいシナリオをベースケースとします。ただし、楽観ケースと慎重ケースも確認しておくと、買い手との議論で冷静に対応しやすくなります。1つの評価額だけを正解と考えないことが大切です。
買い手が自社を買収することで、売上拡大、仕入コスト削減、人材補完、設備共有などのシナジーが生まれることがあります。DCF法は、こうした将来効果を計算に入れやすい手法です。
ただし、売り手側の希望としてシナジーをすべて価格に反映できるとは限りません。買い手は、統合にかかる費用や実現リスクも見ます。PMI(M&A後の統合プロセス)が難しい場合、シナジーの一部しか評価されないこともあります。
会社売却を検討する段階では、過去3期程度の決算書、月次試算表、事業計画、主要取引先別の売上、借入金明細、設備投資計画、在庫や売掛金の状況を整理しておくと、DCF法による検討が進めやすくなります。
数字の整備ができている会社は、買い手に説明しやすくなります。反対に、資料が不足していると、評価以前の段階で不安を持たれることがあります。
DCF法は、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に直すため、会社売却で将来の稼ぐ力を説明しやすい手法です。ただし、事業計画、WACC、継続価値の置き方で評価額は大きく動きます。価格だけを見ず、前提の妥当性と他手法との整合を確認して進めることが重要です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人