2024年版|M&A業界の最新動向!業務内容業界別の事業承継の今後は?

M&Aとは、法人同士が合併や買収を行うことを指す言葉です。過去には乗っ取りなどのネガティブなイメージを持たれていましたが、近年では事業承継の選択肢や企業の成長戦略として、またスタートアップの支援手段として、多様なニーズが存在し、M&Aが活用されています。本記事では、M&A業界の特徴や動向について詳しく解説します。

目次

  1. M&Aの定義
  2. M&A業界の業務内容
  3. M&A業界の最新動向
  4. 事業承継M&Aが増加する背景
  5. 業界別のM&A動向
  6. M&A業界の将来展望
  7. M&A業界の今後まとめ

M&Aの定義

M&Aは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略語で、「法人同士の合併や買収」を意味します。合併とは、2つ以上の法人が一つの法人に統合されること。買収とは、ある法人が他の法人を買い取り、子会社化することです。かつてはネガティブなイメージが強かったものの、現在では企業の成長戦略や事業承継の選択肢として認識されるようになっています。

M&A業界の業務内容

M&A業界での主な業務は、以下の通りです。

• 相手先の選定・紹介

• 交渉・諸手続きに関するスケジューリング

• 価値評価・推進方法に関する助言

• 相手との交渉時の立会

• 法律事務所・会計事務所・その他専門家の紹介

• デューデリジェンスの調整

M&A実行に向けての全ての業務を担当します。

初期相談・マッチング

M&Aでは、譲渡側と譲受側が互いに相手を見つけなければ対象となる取引が成立しません。自社でM&Aの相手先を探すことは非常に困難であるため、M&Aアドバイザリー会社に相談・依頼することが一般的です。M&Aアドバイザリー会社は、相談・依頼を受けた後、自社のデータベースやネットワークを活用して、双方に適した相手先とのマッチング(譲渡企業と譲受企業のマッチング)を行います。

交渉契約サポート

M&A実行に向けた譲渡側と譲受側間の交渉では、財務・税務・法務・不動産など多岐にわたる事項と、取引金額や条件などセンシティブな交渉事項が含まれます。そのため、両者の不要な摩擦を避けるため、M&Aアドバイザリー会社が交渉を代行します。また、契約に関しても、基本合意書や最終契約書など重要な契約が多く、法務アドバイザーへの依頼や契約内容の把握・説明などのサポートを行います。

スキーム検討

M&A実行においては、譲渡側と譲受側がお互いに最適と考えるスキームを検討し、選択する必要があります。特に重要なのは、M&A取引金額以外に発生する税務面を考慮したスキーム検討です。スキームを決定するため、専門家によるデューデリジェンスを実施することもあります。

企業価値評価

M&A(合併・買収)の成否において、企業価値の算定結果は最も大きな要因となると言われています。譲渡企業の財務資料を基に、譲渡対象となる企業や事業の価値を算定(バリュエーションとも言われる)し、それに基づいてM&A取引の金額が決定されます。企業価値の算定方法は、一般的な手法で行われますが、M&A交渉が進む中で取引金額が変動することがあります。そのため、最終的な企業価値(M&A取引金額)は、デューデリジェンス(買収監査)の実施後に確定されます。

デューデリジェンス

デューデリジェンスは、M&A実行前に譲受側が行う買収監査のことです。これは譲受側の手続きであり、公認会計士、税理士、弁護士などの専門家を依頼して実施されます。デューデリジェンスの結果をもとに、M&Aのスキームや取引金額の最終決定が行われます。

各種契約書の作成・クロージングの支援

M&A実行に向けて、さまざまな契約書や資料が必要になります。例えば、秘密保持契約やアドバイザリー契約、基本合意書や最終契約書などがあります。これらの重要な契約書については、弁護士などの専門家に依頼するのが一般的です。また、M&A交渉時に使用する譲受側の説明資料(ノンネームシートや企業概要書)の作成も必要ですが、これらの資料はM&Aアドバイザーが作成することが通常です。

また、必要応じて弁護士・司法書士などと連携しながら、最終的なM&Aの実行(決済)の準備・立ち合いを行います。M&A後のサポート(PMI)

PMIとは、ポスト・マージャー・インテグレーションの略で、M&A実行後の経営統合作業を指す言葉です。経営統合には、経営・業務・意識など広範な分野が含まれるため、専門家にサポートを依頼するのが一般的です。M&A取引の成功は、PMIが円滑に完了し、グループとしての一体運営が可能になって初めて達成されたと言えます。

M&A業界の最新動向

かつては、上場企業や大企業間でのみ実施されるイメージのあったM&Aですが、現在では非上場企業や中小企業においても実施されることが増えています。中小企業がM&Aを実施する理由としては、事業承継の選択肢(後継者不在や業界の衰退)が主に挙げられ、最近では企業成長の選択肢としても注目を集めています。

M&A件数の増加

レコフM&Aデータベースによれば、2023年の国内企業関連のM&A成約件数は4,015件に上りました。ただし、このデータは公表データを基に集計されており、公表義務のない企業のM&AやスモールM&A(小規模企業のM&A)などを考慮すると、実態としてはその数倍のM&Aが実行されていると推測されます。このように、M&Aの件数は増加傾向にあります。

事業承継における休業・廃業の変化

中小企業において、M&Aが主に後継者不在の解決策として実施されることが多いですが、日本の中小企業においてはまだ十分に普及していないのが現状です。東京商工リサーチの調査によると、2023年の「休廃業・解散」過去最多の4.97万件、この中で黒字率は52.4%と高い水準で推移し、後継者不在がその主な原因のひとつとされています。

事業承継M&Aの動向

現在の中小企業経営者のうち、引退平均年齢である70歳を超える経営者は、2025年には約245万人に上り、そのうち約半数の127万人が後継者不在(未定)とも言われています。このため、今後も事業承継M&Aは増加傾向にあると予想されます。実際に、2022年に事業承継・引継ぎ支援センターで実施されたM&Aの件数は1,514件と過去最高を記録し、相談件数も右肩上がりで増加しています。

出典:中小企業庁 中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題

事業承継の内訳

かつては事業承継のほとんどが親族内承継でしたが、現在では約60%が親族外の承継者による事業承継が主流となっており、親族内承継の割合が減少しています。また、事業承継・引継ぎセンターでのM&A実績も増加傾向にあり、親族外の第三者による事業承継が一層盛んになっています。

事業承継の準備と所要期間

日本において、70代や80代の経営者で事業承継の準備が完了している企業は半数以下とされており、準備不足が指摘されています。また、現経営者から後継者への事業承継にかかる期間は、5~10年とかなりの時間が必要とされています。誰に事業承継をするかを決定し、まずは実行に移すことが大切です。現経営者が元気で引退までの時間が長ければ、様々な事業承継の方法(親族内承継、親族外承継、M&A、経営人材ヘッドハントなど)を検討し、選択肢が増えるでしょう。

事業承継M&Aが増加する背景

2025年には全ての団塊世代の経営者が75歳を超えることが予想されており、このことから多くの企業で事業承継が実施されると考えられています。このため、中小企業庁は事業承継の集中支援期間と位置づけ、「事業承継5か年計画」を策定し、事業承継の支援を強化しています。また、日本国としても税制優遇や助成金など、事業承継実施に伴うインセンティブの整備や支援プラットフォームの構築、小規模M&Aマーケットへの支援、事業統合支援や経営人材の活用など、様々な事業承継支援策が実施されています。さらに、少子高齢化やグローバル化、IT化の進展に伴って多様な価値観が生まれ、従来の事業承継(親族内承継等)が難しくなる時代が到来しており、合理的な第三者への事業承継が可能なM&Aが増加傾向にあることが言えます。

業界別のM&A動向

M&Aの動向は企業規模や地域、業界によって異なります。この記事では主要な業界ごとのM&A動向について解説します。

IT業界

IT業界は他の業界に比べてM&Aが活発に行われている分野であり、業界自体の歴史が短いため、創業者オーナーが経営している会社が多く、多くの企業で初めての事業承継が行われています。また、家業ではないことから、親族外承継の方法としてM&Aが盛んに実施されています。加えて、IT業界は好調であり、M&Aを積極的に検討する企業が多く存在し、慢性的な人材不足もM&Aが活発に行われる要因となっています。

医療・介護業界

• 医療・介護業界は超高齢化社会が進行する中で市場が拡大する一方で、過酷な労働条件から人材不足が続いています。

• 介護業界では設備の老朽化や利用者獲得競争が激化し、大手グループ傘下に入るケースが増えています。

• 医療業界では開業医の約8割が後継者不在と言われており、今後M&Aが活発化することが予想されています。

製造業界

製造業界ではM&Aの実行件数が最も多く、海外生産や現地販売、OEM輸入などの海外ビジネスが多い業界ですが、新型コロナウイルスの影響を受けています。しかし、市場規模や裾野が広い業界であることから、今後もM&Aが活発に行われることが予想されています。近年は専門業者から総合業者が増えてきており、卸会社などが製造機能を持つなど、自社のバリューチェーン構築にM&Aを活用する企業が増えています。

物流業界

物流業界は、過去にM&Aが活発に活用されたことで、業界再編が進んできた状況にあります。オーナーの高齢化が進む中で、事業承継問題の解決策として、大手グループ傘下に入って業界を取り巻く環境変化(雇用形態・慢性的な人材不足・多重下請け構造など)に対応するため、今後もM&Aが盛んに活用されると見込まれています。譲受企業としては、人材確保や地域拠点拡大のために、自社が得意とする地域だけでなく、空白地域の補完の目的で、地方企業とのM&Aを増やしています。

建設業界

建設業界でも、他の業界同様に人材不足問題が深刻であり、特に資格者不足が問題となっています。このため、建設業界での労働環境や安全対策の改善が進む中で、資格者の需要が高まっています。しかし、現場では資格の取得だけでなく、経験も重要であるため、自社での資格者育成には時間がかかってしまいます。そんな状況下で、資格者確保の策として、M&Aが活用されるケースが増えています。また、建設業界でも専業化から総合化(ワンストップでの対応)の流れがあり、主業の周辺業務を運営している会社をM&Aで買収するケースが増えています。

M&A業界の将来展望

事業承継や成長戦略の選択肢としてM&Aの認知度が確実に上がってきており、時代の背景や日本全体の課題解決策として注目を集めることが予想されます。

第三者承継支援総合パッケージ

「第三者承継支援総合パッケージ」とは、経済産業省が2019年に策定した、第三者承継を支援するための方針がまとめられた文書です。この支援方針によれば、年間の中小企業におけるM&A件数(公表されているもの)は約4,000件程度に対して、潜在的な後継者不在の中小企業が127万社とされており、第三者承継の数がまだ十分ではないとされています。この状況を改善するために、「10年間で60万件の第三者承継の実現を目指す」という指針が策定されており、黒字廃業や休業への対策、地域の雇用維持、技術の伝承を実現するための支援が始まっています。

事業承継M&Aの増加

2025年には、団塊の世代の経営者が75歳を超えることから、多くの会社で事業承継が実施されると予想されています。少子高齢化やグローバル化、IT化などが進む中で、従来多かった親族内承継も減少傾向にあることから、M&Aが中小企業において最も合理的な事業承継方法として認知度が上がってきており、第三者への事業承継(事業承継M&A)が増加すると予想されています。

M&Aプラットフォームの進化

従来のM&A手法では、M&Aアドバイザリーへ取引相手とのマッチングを依頼する(人海戦術)のが一般的でした。しかし、M&A業界もIT化が進み、M&Aマッチングプラットフォームの数が増加しています。手軽に取引相手とのマッチングができるため、短期間でM&Aを進めたい経営者や、良い相手に出会えずにM&Aを検討しているものの進展が見られない企業にとっては、プラットフォームの利用が非常にお勧めです。M&Aプラットフォームのスピード感や便利さは大きなメリットですが、交渉や判断などは当事者が実施しなければならないデメリットもあります。そのため、M&Aプラットフォームの欠点を補う意味でも、M&Aアドバイザリーと並行して活用することが最も効果的な手段だと言えるでしょう。

小規模事業者によるM&Aの増加

これまでのM&Aアドバイザリーへの成功報酬は、1,000万円~2,000万円という高額なため、小規模事業者(売上1億円以下)のM&Aはなかなか進行しないことが一般的でした。しかし、マッチングプラットフォームの登場により、マッチング効率が向上し、1人のM&Aアドバイザーが複数の案件に取り組みやすくなったこと、起業家が小規模事業者を買収(M&A)して買収対象企業のリソースを活用し、スタートアップ時の時間と労力を削減する動きが広がっています。その結果、今後は小規模事業者のM&Aが増加することが予想されます。

M&A業界の今後まとめ

M&Aは、事業承継の選択肢として、かつては稀なケースであったものが、現在では日常的なケースとして認知度が向上しています。少子高齢化や2025年問題などの時代的な課題とともに、日本政府もインセンティブや支援整備を進めており、ますます事業承継の選択肢としてM&Aが活用され、事業承継M&A市場が拡大することが予想されます。市場の拡大に伴い、多くのM&Aアドバイザリーが参入してくるため、適切なアドバイザリーを選ぶことが重要になります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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