個人事業廃業手続からM&A事業譲渡の選択までを解説


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個人事業の廃業手続とM&A事業譲渡で失敗しない判断軸

個人事業の廃業で必要な届出、確定申告、青色申告、消費税、従業員対応を整理します。廃業届を出す前に、設備や顧客、許認可を事業譲渡で残せないか、法人化や休業との比較軸も解説します。

目次

  1. 廃業届を出す前に決めるべきこと
  2. 個人事業の廃業で必要になる届出
  3. 廃業年の確定申告と税務処理の注意点
  4. 借入金・従業員・取引先を整理する
  5. 廃業ではなく事業譲渡を検討する場面
  6. 法人化や休業も含めた判断の進め方
  7. まとめ

個人事業廃業手続からM&A事業譲渡の選択までを解説

廃業届を出す前に決めるべきこと

個人事業をやめると決めたとき、多くの経営者は最初に廃業届の書き方を調べます。もちろん届出は大切です。ただ、実務では届出より先に考えるべきことがあります。事業を本当に終わらせるのか、それとも第三者に引き継げる部分があるのかという判断です。

個人事業の廃業とは、個人として営んできた事業活動を終了することです。廃業を選べば、日々の資金繰りや経営判断の重圧から離れられます。一方で、顧客、設備、屋号、取引先との関係、従業員の雇用など、長年積み上げてきた価値も失われます。ここを十分に見ないまま手続を急ぐと、後から「売却できたかもしれない」と気づくことがあります。

廃業と休業と倒産は意味が違う

廃業は、自分の意思で事業を終えることです。休業は、再開の可能性を残して一時的に事業を止めることです。倒産は、資金繰りが行き詰まり、支払不能や債務超過に近い状態になっていることを指します。似ているようで、取るべき手続も、周囲への説明も異なります。

「赤字だから廃業しかない」と考える方もいますが、赤字でも設備や顧客基盤に価値が残っているケースは珍しくありません。反対に、黒字でも後継者がいないために廃業を選ぶ方もいます。決算書だけで決めないことが大切です。

廃業前に棚卸しすべき4つの価値

廃業を決める前に、自社に残る価値を確認します。1つ目は、設備や店舗、車両などの事業用資産です。2つ目は、継続取引先や顧客名簿です。3つ目は、許認可、商標、屋号、ウェブサイトなどの無形の資産です。4つ目は、従業員や協力先の技術です。

これらは、単独で処分すると安く見積もられがちです。しかし、事業としてまとめて引き継げば、買い手にとって時間短縮や新規参入の手段になります。M&A(合併・買収)のうち、個人事業で使われやすい方法は事業譲渡です。事業譲渡とは、資産、契約、顧客、ノウハウなどを個別に選んで第三者に引き継ぐ方法をいいます。

廃業届は判断の最後に置く

廃業届を出すこと自体は難しい手続ではありません。問題は、届出によって「事業を終えた」という事実がはっきりすることです。廃業後に買い手を探しても、営業中の事業として評価されにくくなります。設備処分、従業員退職、取引先解約が進むほど、事業譲渡の選択肢は狭くなります。

個人事業の廃業で必要になる届出

廃業時の届出は、税務署への書類が中心です。全員に共通しやすい届出と、青色申告、消費税、従業員、予定納税などの状況に応じて必要になる届出を分けて確認します。ここを混同すると、出したつもりで漏れている書類が出ます。

廃業届は確定申告期限までに提出する

税務署へ提出する主な書類は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。一般には廃業届と呼ばれます。提出先は、納税地を所轄する税務署です。提出期限は、廃業した日の属する年分の確定申告期限までと整理されます。

旧来の解説では「廃業日から1か月以内」と説明されていることがありますが、現在の国税庁の手続案内では、確定申告期限までの提出とされています。期限の見方を誤ると不安になりますが、早めに提出する姿勢は変わりません。廃業日、廃業理由、事業所の所在地、所得の種類などを正確に記入しましょう。

都道府県税事務所への届出も確認する

個人事業税に関する届出は、都道府県税事務所が窓口になります。様式や期限は自治体ごとに異なるため、税務署の廃業届だけで終わったと思わないことが大切です。事業所が複数ある場合や、住所地と事業所所在地が異なる場合は特に確認が必要です。

提出方法はe-Tax・窓口・郵送から選べる

廃業届は、e-Tax、税務署窓口への持参、郵送で提出できます。郵送の場合は、控えが必要であれば控え用の書類と返信用封筒を同封します。書面提出では、マイナンバー確認と本人確認が関係するため、添付書類も確認しましょう。e-Taxで提出する場合は、本人確認書類の写しの添付が不要になる取扱いがあります。

青色申告をやめる場合の届出

青色申告の承認を受けている個人事業主が廃業する場合は、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」も確認します。提出期限は、青色申告を取りやめる年分の確定申告期限までです。通常は廃業年の申告期限に合わせて準備します。

青色申告は、複式簿記で帳簿をつける代わりに、青色申告特別控除や赤字の繰越などの有利な取扱いを受けられる制度です。廃業年に赤字が出る場合、一定の要件を満たせば純損失の繰越控除を使えることがあります。赤字だから申告しなくてよい、と決めつけないでください。

消費税の課税事業者は事業廃止届出書を確認する

消費税の課税事業者だった場合は、「事業廃止届出書」が必要になることがあります。提出時期は、事由が生じた場合に速やかに提出する扱いです。インボイス発行事業者の登録をしている場合は、登録の取扱いも別途確認します。

廃業時に事業用資産を自分で使う場合、消費税では事業用資産を家事用に使ったものとして、みなし譲渡の問題が生じることがあります。たとえば車両や備品を廃業後も私用で使う場合です。消費税の申告が必要な年かどうか、廃業日を含む課税期間の処理を確認しましょう。

従業員や専従者がいる場合の給与関係

従業員や青色事業専従者へ給与を支払っていた場合は、源泉所得税と年末調整、退職時の源泉徴収票の交付を確認します。給与支払事務所等の廃止届出書が問題になる場面もありますが、個人事業主が事業所の廃止について個人事業の開業・廃業等届出書を提出する場合、別の給与支払事務所等の廃止届出書は不要とされる取扱いがあります。

ただし、給与関係だけを先に閉じる場合、複数の事業を持っている場合、家族専従者の給与処理が残る場合は、税務署へ確認した方が安全です。給与や退職金の処理は、従業員の生活にも直結します。意外と多い落とし穴です。

予定納税がある人は減額申請を検討する

前年の所得が多く、予定納税の通知を受けている場合は、廃業や休業により所得が減る見込みでも、そのままでは予定納税が発生することがあります。この場合、「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」を検討します。

第1期・第2期分の減額申請は原則として7月1日から7月15日まで、第2期分のみは11月1日から11月15日までが提出期間です。廃業したのに納税資金が先に出ていくと、生活費や返済計画に影響します。予定納税の通知が届いたら、放置せずに見込み所得を確認しましょう。

廃業年の確定申告と税務処理の注意点

廃業届を出しても、廃業年の確定申告は必要です。廃業した年の1月1日から廃業日までの売上、経費、在庫、固定資産の処分、貸倒れ、原状回復費などを整理します。最後の申告ほど、通常の年より手間がかかることがあります。

確定申告は翌年の通常期間に行う

廃業年の所得は、翌年の確定申告期間に申告します。青色申告の場合は、帳簿、決算書、貸借対照表などの整合性も必要です。青色申告特別控除を受けるには、期限内申告が重要になります。

白色申告であっても、売上や経費の記録、請求書、領収書、通帳の保存は必要です。廃業後は資料が散らばりやすくなります。店舗を退去する前、パソコンを処分する前、会計ソフトを解約する前に、必要なデータを保存しておきましょう。

青色申告の赤字は将来の税負担に影響する

青色申告で事業所得に赤字が出た場合、一定の要件のもとで純損失を翌年以後に繰り越せることがあります。廃業後に再び事業を始める場合や、他の所得との関係がある場合、赤字申告をしておく意味が出ることがあります。

赤字だから何もしない、という判断は危険です。損失の繰越には、損失が生じた年の申告や、その後の連続申告が関係します。税金が出ない年ほど申告を軽く見がちですが、廃業時こそ税務上の権利を失わない確認が必要です。

廃業後に発生する費用も確認する

廃業日以降の費用は、原則として通常の事業経費とは見られにくくなります。ただし、事業を廃止した後に発生した費用でも、事業を続けていれば必要経費になった性質のものは、一定の範囲で廃業年または前年の必要経費として扱える特例があります。

たとえば、店舗の原状回復費、事業用設備の撤去費、売掛金の貸倒れ、廃業後に確定した未払費用などです。すべてが自動的に経費になるわけではありません。契約書、請求書、支払日、廃業との関係を残しておくことが重要です。

在庫と固定資産は処分方法で税務が変わる

在庫を安く売る、廃棄する、自分で使う、買い手へまとめて譲渡する。この違いで税務処理は変わります。固定資産も同じです。機械、車両、什器備品を売却すれば、帳簿価額との差額が所得計算に影響します。

事業譲渡に組み込める資産を先に処分してしまうと、買い手が評価しにくくなります。廃業のための処分と、譲渡のための整理は目的が違います。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。

借入金・従業員・取引先を整理する

個人事業の廃業で見落とされやすいのは、税務署への届出以外の後始末です。借入金、リース契約、従業員、取引先、賃貸借契約、個人保証などは、廃業届を出しても自動的には消えません。ここを残したまま事業だけ止めると、生活再建が難しくなります。

借入金は個人の債務として残る

個人事業主の借入金は、事業をやめても原則として個人の返済義務が続きます。金融機関からの借入、カードローン、リース債務、仕入先への未払金を一覧にし、廃業後の返済原資を確認します。設備を売って返済できるのか、返済条件の変更が必要なのか、早い段階で金融機関へ相談しましょう。

事業譲渡を検討できる場合は、譲渡対価を返済原資にできる可能性があります。買い手が借入金を引き受けるかどうかは金融機関の同意も関係するため、簡単ではありません。それでも、廃業して資産をばらばらに売るより、返済計画を作りやすくなることがあります。

従業員には早めに説明する

従業員がいる場合、廃業は雇用の終了につながります。退職日、最終給与、退職金、有給休暇、社会保険や雇用保険の手続を整理する必要があります。突然伝えると、従業員だけでなく取引先にも不安が広がります。

事業譲渡であっても、個人事業主の雇用契約がそのまま自動的に移るわけではありません。買い手企業との間で雇用条件を確認し、従業員本人の同意を得ながら進める必要があります。人を残したいなら、廃業よりも譲渡を先に検討する価値があります。

取引先と顧客への説明は信用を守る

取引先には、最終受注日、納品予定、未回収の売掛金、買掛金の支払日を明確に伝えます。顧客に前受金や予約がある業種では、返金や代替対応も必要です。廃業後に連絡が取れなくなると、個人としての信用にも影響します。

事業譲渡を選ぶ場合は、取引先契約を買い手に引き継げるかが大きな論点になります。契約書に譲渡禁止条項がある場合、相手先の承諾が必要です。口約束だけで続いてきた取引も、買い手から見ると不安材料になります。廃業前の整理は、譲渡前の準備にもなります。

廃業ではなく事業譲渡を検討する場面

個人事業主でも、事業の中身に価値があれば第三者へ譲渡できる可能性があります。法人のような株式はありませんが、店舗、設備、在庫、顧客、屋号、ウェブサイト、許認可に関連する地位、従業員の技術などを個別に引き継ぐ方法があります。

買い手が評価しやすい個人事業

買い手が評価しやすいのは、再現に時間がかかる事業です。たとえば、地域に根付いた店舗、専門設備を持つ工房、許認可が必要な事業、固定客の多いサービス業、職人の技術が残る事業などです。大きな会社でなくても、引き継ぐ価値がある事業はあります。

一方で、経営者本人の人柄や技術だけで成り立ち、顧客も設備も引き継げない場合は、譲渡が難しくなります。その場合でも、顧客リスト、業務マニュアル、外注先との関係を整理すれば、評価が変わることがあります。

許認可は引き継げるとは限らない

許認可が必要な事業では、買い手がその許認可を使えるかが重要です。個人にひも付く許認可は、原則としてそのまま移せないことが多く、買い手側で再取得が必要になる場合があります。一方で、業種によっては地位承継や認可手続が認められることもあります。

許認可があるから高く売れる、と決めつけるのは危険です。更新状況、欠格事由、名義、営業所要件、管理者要件を確認しておく必要があります。譲渡交渉の直前に不備が見つかると、価格や成約時期に影響します。

譲渡価格よりも手取りを確認する

事業譲渡では、譲渡価格の全額が手元に残るわけではありません。棚卸資産、固定資産、営業権、土地建物など、譲渡するものによって所得区分や消費税の取扱いが変わります。借入金の返済、未払金の支払、専門家費用も考える必要があります。

廃業の場合は、営業権が現金化されず、設備や在庫の処分だけで終わることがあります。事業譲渡の場合は、買い手が将来の収益や立地、顧客基盤を評価するため、単なる処分価格より高く評価される可能性があります。大切なのは、譲渡価格ではなく最終的な手取りです。

相談前に整理しておく資料

事業譲渡の相談では、直近の確定申告書、青色申告決算書または収支内訳書、月次売上、主要取引先、設備一覧、賃貸借契約、許認可証、従業員情報、借入金一覧を準備します。すべてそろっていなくても構いません。資料があるほど、譲渡可能性と手取りの見込みを早く確認できます。

法人化や休業も含めた判断の進め方

廃業か事業譲渡かの二択に見えても、実際には休業、法人化、親族や従業員への承継なども選択肢になります。どれが適しているかは、利益、借入金、従業員、許認可、年齢、健康状態、売却までの時間によって変わります。

休業は再開余地を残す選択肢

一時的に体調や家庭の事情で事業を止めるだけなら、廃業ではなく休業が合う場合があります。休業なら、事業再開や譲渡の可能性を残せます。ただし、休業中でも確定申告や帳簿管理が必要になる場合があり、青色申告を維持するなら申告を続ける意識が必要です。

休業状態が長く続くと、顧客は離れ、設備は古くなり、従業員も別の職場へ移ります。休業は時間を買う方法ですが、価値を守る方法ではありません。再開時期や譲渡検討の期限を決めておくと、判断が先送りになりにくくなります。

法人化してから売却する方法もある

個人事業を法人化し、将来は株式譲渡で売却する方法もあります。株式譲渡は、会社の株式を売る形なので、契約や雇用、許認可が法人にひも付いていれば、事業全体を引き継ぎやすくなる場合があります。税務上の取扱いも、個人事業の事業譲渡とは異なります。

ただし、法人化すれば必ず有利になるわけではありません。法人設立費用、法人住民税、社会保険、会計処理、役員報酬、個人資産を法人へ移す際の税務などが発生します。売却直前の形式的な法人化は、税務上も実務上も慎重に考えるべきです。

法人の廃業手続とは分けて考える

個人事業の廃業は、法人の解散や清算とは異なります。法人では、解散決議、清算人、公告、清算結了登記など、会社法上の手続が関係します。個人事業の記事を読んでいる方でも、将来法人化を検討する場合は、法人の廃業や清算の流れも別に理解しておくと判断しやすくなります。

判断は手続順ではなく価値順で進める

廃業の進め方は、手続の順番だけで考えると失敗しやすくなります。先に届出、次に処分、最後に申告という流れだけでは、残せる価値を見落とします。実務では、まず事業価値の棚卸し、次に借入金と従業員対応、次に税務試算、最後に廃業届または譲渡実行という順で考える方が安全です。

相談前に決めておきたいこと

専門家へ相談する前に、希望する引退時期、最低限必要な手取り、従業員を残したいか、屋号を残したいか、借入金をどうしたいかを整理します。全部を決めきる必要はありません。経営者の優先順位が分かるだけで、廃業、事業譲渡、法人化、休業の比較がしやすくなります。

個人事業の廃業は、人生の区切りでもあります。だからこそ、手続だけで急がないでください。事業を閉じるのか、残すのか、形を変えて引き継ぐのか。届出の前にこの順番で考えることが、後悔を減らす近道です。

まとめ

個人事業の廃業は、届出を出して終わりではありません。確定申告、消費税、従業員、借入金、取引先対応まで整理して進める必要があります。設備、顧客、許認可、技術が残る場合は、廃業届を出す前に事業譲渡や法人化も比較し、手取りと事業の残し方を確認しましょう。判断が遅れるほど選択肢は狭くなるため、早めの棚卸しが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人


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