個人事業の廃業に関する手続の流れや注意点を詳しく解説します。廃業届の作成方法や提出時期、確定申告の継続義務、借入金の処理など重要なポイントやM&Aによる事業譲渡の可能性まで網羅的に紹介します。
目次
個人事業主の廃業とは、法人を設立せずに事業を営む個人(自営業、フリーランスなど)が、その事業活動を完全に終了することを指します。
廃業を行う際の主なポイントは以下の通りです:
・廃業後1か月以内に、管轄の税務署や都道府県などの自治体に廃業届を提出する必要があります
・届出を怠ると、事業を継続しているとみなされ、不要な税金を支払う可能性があります
・事業所得(総収入-必要経費)に関する確定申告や、その他の税務手続が必要となります
▶目次ページ:事業承継とは(会社の廃業と解散・清算)
廃業届は、個人事業主が事業を終了する際に必要な公的書類です。税務署や自治体は、個人の事業継続状況を直接確認することが難しいため、開業届と廃業届によって事業の開始・終了を把握します。
提出が必要な主な税金関係:
・所得税
・消費税
・個人事業税
・従業員を雇用している場合は源泉所得税
廃業届の記入項目と注意点は以下の通りです:
1. 届出書上段の記入
納税地、氏名、事業主の生年月日、個人番号、職業、屋号
2. 廃業理由の記入
業績不振による事業継続困難、事業主の高齢化や健康上の理由
M&Aによる事業譲渡の場合は譲渡先情報も記載
3. 所得種類のチェック
該当する事業所得すべてにチェック
全事業廃業の場合は「全部」欄もチェック
提出時に必要な書類:
・個人事業の開業・廃業等届出書
・届出書の控え(押印後返却され、提出根拠として保管可能)
・身分証明書(郵送の場合は写し)
・郵送の場合は返信用封筒
廃業時には以下の点に特に注意が必要です:
1. 確定申告の継続義務
・前年1月1日から廃業日までの事業所得の申告が必要
・所得が20万円以下でも、青色申告の場合は申告が必要
・申告を怠ると特別控除を受けられない可能性あり
2. 廃業後の経費処理
・廃業日以降の経費は原則として計上不可
・例外:売上債権の貸倒損失、商品在庫の値引き、廃業に伴う損失
・事業継続中に必要経費の計上を済ませることを推奨
3. 借入金の処理
・廃業後も事業主個人の借入金として返済継続
・内部留保や事業資産売却資金での返済が基本
・返済計画を立て、事前に債権者と協議することを推奨
4. 事業主死亡時の手続
・相続人が「個人事業主の死亡届出書」を速やかに提出
・相続人による準確定申告が必要
・申告期限は相続を知った日から4か月以内
廃業のタイミングは、以下の要素を考慮して慎重に決定する必要があります:
・廃業日から1か月以内の届出提出が必要
・機械設備の処分や従業員への退職金支給などの清算作業の完了時期
・廃業後の経費計上が原則認められないことを考慮
・清算対応に必要な費用と工数を考慮した計画的な時期設定
推奨される手順:
1. 清算作業の実施
2. 必要経費の計上
3. 清算完了確認
4. 廃業届の提出
休業とは事業を一時的に停止する制度で、将来の事業再開を見据えた選択肢として活用できます。休業中の主な特徴は以下の通りです:
・事業税、消費税、住民税が減免または免除
・所得税は減免制度なし
・確定申告は継続して必要 ・青色申告の場合、2期連続未申告で承認取消(その後1年間申告不可)
休業のメリット:
・手続が比較的簡便
・事業再開が容易
・許認可等の地位維持が可能
・各種税金の減免制度を活用可能
休業のデメリット:
・確定申告義務が継続
・1年間売上がない場合は廃業とみなされる可能性
・青色申告の継続に注意が必要
休業時に必要な提出書類:
1. 異動届出書(休業の旨を記載)
2. 給与支払事務所等の廃止届出書(従業員がいる場合)
3. 消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書
4. 健康保険・厚生年金保険適用事務所全喪届(社会保険加入の場合)
特徴:
・提出期限の定めなし
・資産や負債の整理が不要
・手続が比較的簡便
事業終了の選択肢として、M&Aによる事業譲渡も検討価値があります。個人事業主の場合は、事業と事業用資産を売却する事業譲渡スキームが一般的です。
需要の高い事業タイプ:
1. 設備・施設型事業
製造業、介護施設、日本語学校
2. 伝統技術保有事業
和菓子製造、伝統工芸品製作、長年培った技術やブランド力のある事業
3. 許認可必要事業
特定の許認可が必要な業種、買収側企業の許認可取得の時間・労力を軽減することが可能な業種
事業譲渡でも許認可が継続可能な業種:
・旅館業、建設業、一般旅客自動車運送事業、一般貨物自動車運送事業、火薬類製造業、火薬類販売業、一般ガス導管事
業
個人事業主の廃業には、慎重な検討と適切な手続が必要です。廃業届の提出や確定申告の継続、経費処理、借入金の返済など、様々な要素を考慮する必要があります。また、事業の一時停止を望む場合は休業制度の活用も選択肢となり、さらにM&Aによる事業譲渡という選択肢もあります。状況に応じて最適な方法を選択し、計画的に進めることが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画