個人事業廃業手続からM&A事業譲渡の選択までを解説
個人事業を畳むには何をすれば良いのでしょうか? 本記事では廃業届の書き方から確定申告、借入金の扱い、さらにはM&Aによる事業譲渡まで、失敗を防ぐためのポイントを分かりやすく解説します。
目次
▶目次ページ:事業承継とは(会社の廃業と解散・清算)
廃業とは、法人化せずに事業を行う個人事業主が事業活動を終えることを指します。廃業届の提出を怠ると、事業が継続しているとみなされ、不要な税金を課されるおそれがあります。廃業の届け出は廃業日から一か月以内が原則です。届け出を行わないまま放置すると、確定申告や事業税の課税対象になり、後で追徴課税や延滞税が課せられるリスクが高まります。
倒産は債務超過で支払不能に陥り法律上の整理手続を行う状況、休業は一時的に事業を止める状態です。廃業は債務の有無にかかわらず自ら事業を終える選択であり、設備や在庫を計画的に処分し、取引先との契約を終了させ、税務手続を完了させる点が特徴です。
事業から完全に撤退することで経営判断の重圧から解放されます。後継者育成が不要となり、事業承継や統合作業を行う長期的負担もなくなります。また、倒産と異なり従業員や取引先に与えるダメージを最小限に抑えられる点も利点です。
長年培った顧客基盤や技術が失われ、従業員の雇用も失われます。資産の処分価格が下がりやすく、事業を再開したくなっても許認可を再取得しなければなりません。こうしたデメリットを十分に把握し、休業やM&Aと比較検討する姿勢が重要です。
税務署や都道府県は個人事業の開始・終了を書面でしか把握できません。そのため「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出してようやく事業終了が公式に認識されます。
所得税・消費税・個人事業税のほか、従業員を雇っている場合は源泉所得税にも関係します。提出先は納税地を所轄する税務署であり、都道府県税事務所への提出書類も忘れずに確認しましょう。
届出書上段には納税地・氏名・生年月日・個人番号などを記入します。廃業理由欄には業績不振や高齢・健康理由、あるいはM&Aによる事業譲渡といった具体的事由を書き、譲渡の場合は譲渡先情報を追記します。所得種類には事業所得すべてをチェックし、全事業をやめるときは「全部」の欄を忘れずにマークします。添付するのは控え用の届出書、身分証の写し、郵送なら返信用封筒です。
廃業日から一か月以内の提出が法律上の義務です。期限後に提出すると青色申告特別控除が認められないケースがあります。控えは税務調査時の証拠となるため必ず保管しましょう。
廃業後も税務処理は続きます。確定申告、経費計上、借入金返済などを順序よく進めなければなりません。
廃業した年の1月1日から廃業日までの収入と必要経費を申告します。青色申告の場合、所得が20万円以下でも申告は必須です。申告が遅れると控除が受けられず税負担が増えます。
廃業後の経費は基本的に計上できません。ただし売掛金の貸倒損失や在庫値引きなど廃業に伴う損失は例外的に認められます。計上漏れを防ぐため、清算作業と経費処理を同時並行で行いましょう。
廃業しても借入金は事業主個人の債務として残ります。設備売却益や内部留保で返済計画を立て、事前に金融機関と協議しておくと、廃業後の生活資金計画も立てやすくなります。
廃業届は廃業後一か月以内という期限がありますが、その前段階で清算作業を終わらせる必要があります。機械設備の処分や従業員への退職金支払いなどの準備期間を逆算し、届出期限を守れる日程を組み立てましょう。また、年末に合わせると確定申告が一度で済み、翌年分の申告負担を抑えられる利点があります。
休業は事業を完全に畳むのではなく一時停止する制度で、将来の再開を視野に入れつつ税負担を抑えられる選択肢です。廃業届のような形式的な「休業届」は存在しませんが、税務署や社会保険関係に対して所定の書類を提出する必要があります。休業を選ぶことで設備や許認可を維持し、事業者自身は経営から距離を置きながら今後の方針を再検討できます。
休業中は事業税・消費税・住民税が減免または免除されるため資金流出を抑制できます。資産整理や負債清算が不要なため、機械設備を残したまま再開を検討できる点も大きな利点です。休業手続に必要なのは「異動届出書」や「給与支払事務所等の廃止届出書」など数点で、提出期限は定められていません。
休業とはいえ事業所得の赤字繰越を活用するなら確定申告は継続が必要です。青色申告を維持する場合、二期連続で申告を怠ると承認が取り消され、翌年以降の青色控除が使用できなくなるため注意しましょう。
廃業では資産処分価格が下がりやすく、事業自体も消滅します。そこで第三者に事業を売却するM&Aを検討することで、長年培った技術や取引基盤を残しつつ資産価値も最大化できます。個人事業主の場合は事業と資産をセットで譲渡する「事業譲渡」スキームが一般的です。
旅館業・建設業・一般貨物自動車運送事業などは許認可が事業譲渡後も継続可能です。買い手にとっては即日営業できる魅力があるため、譲渡対価が上がる傾向があります。事前に許認可の更新状況や名義変更手続を整理しておくと交渉を有利に進められます。
事業立て直しや新分野挑戦の資金確保には補助金の活用が有効です。いずれも返済不要で採択後の事業計画ブラッシュアップが期待できる点が魅力です。
コロナ禍で売上が減少した中小事業者が新分野展開や事業転換を行う際に活用できます。経営革新等支援機関の伴走支援を受けながら事業計画を作成できるので専門家フォローも得られます。
販路開拓や新商品開発にかかる経費の2/3(上限200万円)まで補助されます。事前に商工会議所で支援計画を作成するため、販路戦略を整理する機会にもなります。
制度変更対応などのために大型設備を導入する場合に活用可能です。採択率は3〜5割程度ですが、採択された事業者は信用力向上にもつながります。
廃業を後悔しないためには、以下の7項目をチェックして総合的に判断しましょう。
廃業届のほか青色申告取りやめ届出書など、提出先・期限が異なる書類を一覧で確認して遅延を防ぎます。
設備売却益や内部留保で借入金返済が完了するか、債権者と協議済みかを事前に確認します。
退職金支給や取引先への債務返済スケジュールを決め、信頼関係を保ったまま事業を終える準備を行います。
精神的負担・資産価値・時間コストの観点から各選択肢を比較し、将来の再起可能性や周囲への影響を総合判断します。
廃業により消滅する許認可や商標・特許の取り扱いを事前に決定し、必要なら譲渡や名義変更を検討します。
期限後申告や届出漏れがあると青色控除が無効となり、追加課税の可能性があるため、必要書類を完備します。
M&Aや事業承継を選ぶ場合、個人保証が引き継がれるか解除できるかを事前に明確にしておくと安心です。
清算作業→経費計上→清算完了確認→廃業届提出という順で進めるとスムーズです。ガントチャートやチェックリストを作成し、作業担当と締切を明示することで漏れを防止できます。
廃業はゴールではなく新たなスタートです。返済計画や生活費を確保しつつ、スキルアップや新規事業の情報収集を行い、将来の再挑戦に備えましょう。
廃業は精神的負担を軽減できる一方、事業消滅や資産価値低下などのデメリットもあります。休業制度やM&A、補助金制度と比較し、税務・許認可・従業員対応を整理した上で最適な選択肢を選び、計画的に手続を進めることが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー/M&Aアドバイザー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画