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LBOとはなにか?買収対象の資産を活かした戦略を解説

「lboとは何か?」と尋ねられたら──それは借入金を活用し、大きな企業でも少ない自己資金で買収できる大胆な手法です。本記事では仕組み、流れ、利点と注意点を税理士がわかりやすく紹介します。

目次

  1. LBOを正しく理解するための出発点
  2. 5ステップでつかむLBOの仕組み
  3. LBO実行プロセスを詳しく追う
  4. .BOのメリットを具体的に掴む
  5. デメリットと注意すべき5つの落とし穴
  6. 成功事例から学ぶLBOの効果
  7. 失敗事例に見るLBOのリスク
  8. LBOを成功させるための5つのポイント
  9. まとめ

LBOを正しく理解するための出発点

LBOは「Leveraged Buyout」の頭文字を取った言葉で、対象会社の資産や将来キャッシュフローを担保にして金融機関等から資金を借り入れ、その資金で企業を買収する方法です。買収側は自己資金が少なくても規模の大きな案件へ挑戦できる一方、買収後は対象会社に多額の債務が残るため、リスク面の把握が欠かせません。

LBO・MBO・EBOの違いを整理する

LBOは買収資金の調達方法を指します。これに対しMBO(マネジメント・バイアウト)は経営陣が自社株を取得して経営権を得る手法、EBO(エンプロイー・バイアウト)は従業員が株式を取得して経営に参画する手法です。MBOやEBOでは多くの場合、資金調達の手段としてLBOが採用されます。

5ステップでつかむLBOの仕組み

LBOの流れはおおむね次の五つの段階に整理できます。

  1. 特別目的会社(SPC)の設立
    買収側はまずリスクを隔離するためにSPCを設立します。SPCは買収資金の受け皿であると同時に、買収主体としての役割を担います。
  2. 金融機関・ファンドから資金を調達
    SPCは対象会社の資産とキャッシュフローを担保にLBOローンを組み、さらにエクイティ出資を受ける場合もあります。審査過程では精緻なデューデリジェンスが行われ、返済原資となるキャッシュフローの安定性が厳しくチェックされます。
  3. SPCによる対象会社の株式取得
    SPCは調達した資金で対象会社株式の100%取得を目指します。支配権を完全に掌握することで、買収後の戦略を迅速に実行できる体制を整えます。
  4. SPCと対象会社の合併
    買収完了後、一般的にはSPCを対象会社に吸収合併させます。合併により債務が対象会社へ移転し、キャッシュフローと返済義務が一体化します。
  5. キャッシュフローによる借入金返済
    合併後の企業は営業キャッシュフローを用いてLBOローンの返済を行います。金融機関はリスクを抑えるため、余剰資金をできる限り返済に充当するよう求めるのが通常です。

LBO実行プロセスを詳しく追う

上記の5ステップをさらに掘り下げ、それぞれの工程で押さえるべき要点を説明します。

リスクを隔離する特別目的会社SPCの役割

SPCを使う最大の理由は、本体企業への影響を限定し、万一失敗したときの損失を出資分に封じ込めることにあります。SPCは純粋に買収と債務管理に特化した器です。

LBOローンとエクイティ出資の組み合わせ

LBO資金は高金利のLBOローンが中心ですが、自己資本比率を一定水準に保つためエクイティも投入されます。債務・資本のバランスは金融機関の見極め次第で変動します。

100%株式取得でスピーディーに経営改革

対象会社を完全子会社化することで、経営陣を交代させる、資産を売却するなどの施策を迅速に決定できます。部分取得では意思決定が遅れ、見込んだ効果が薄れるおそれがあります。

合併の判断ポイント

合併せずSPCを存続させる選択肢もありますが、許認可の承継が難しい場合や税務メリットを活かす場合を除き、合併して返済原資と債務を一本化するのが一般的です。

返済計画は保守的に立案する

LBOローンの返済期間中は、キャッシュフローが大幅に返済に回されるため、成長投資に使える資金が制限されます。返済計画を甘く見積もると、資金繰りが行き詰まり黒字倒産に陥るリスクもあります。

LBOのメリットを具体的に掴む

  • 少ない自己資金で大規模買収が可能
    借入金を主たる資金とするため、手元資金が限られていても大規模案件に挑戦できます。
  • 高いリターンが期待できる
    自己資金が小さい分、対象会社の価値が上昇すれば投資利回りは大きく跳ね上がります。
  • リスクをSPCに限定できる
    本体企業は出資額以上の債務を負わない構造となり、最悪の場合でも損失は限定的です。
  • 利息控除による節税効果
    借入利息は損金算入できるため、法人税負担を軽減できます。ただし過度な借入は借入コストそのものが経営を圧迫します。

デメリットと注意すべき5つの落とし穴

  1. 債務負担による経営の柔軟性低下
    負債が重くなると研究開発や設備投資へ資金を回しにくくなり、競争力を失う恐れがあります。
  2. リターンが保証されているわけではない
    業績悪化やシナジー未達により、予想したリターンを得られない可能性があります。
  3. 短期志向に陥りやすい
    返済を急ぐあまり、長期的な成長戦略よりも短期的利益を優先する経営になりがちです。
  4. 金融機関による厳格なコベナンツ
    財務制限条項に違反するとローン契約解除のリスクがあるため、継続的なモニタリング対応が不可欠です。
  5. 高金利ゆえの財務負担
    LBOローンは通常のシンジケートローンよりも金利が高く設定され、利払い負担が経営を圧迫します。

成功事例から学ぶLBOの効果

LBOはハイリターンを狙える手法ですが、理論だけでは実感が湧きません。ここでは四つの実例を通じて、どのようにしてレバレッジが利益創出につながったかを具体的に確認します。各事例の背景、買収戦略、実行後の成果を順に追い、共通する成功要因を抽出します。

短期間で企業価値を高めた日本テレコムの事例

米国投資ファンドが日本テレコムを買収した際、買収直後に経営陣を刷新し、通信インフラのデータ分野へ資金を集中しました。市場拡大が続く分野に絞ったことで、キャッシュフローが急速に改善し、わずか一年で売却益を実現しました。

成功の鍵は「選択と集中」です。不採算部門を切り離し、将来の成長エンジンに資本を投下したことで、返済余力が早期に確保できました。

通信ビジネス参入に成功したソフトバンクの事例

ソフトバンクは携帯電話会社を買収するため、約一兆円のLBOローンを調達しました。通信契約の長期安定収益を返済原資に見込んだ計画が奏功し、固定回線事業との相乗効果で顧客基盤を一気に拡大しました。

リターンを生んだのは「安定キャッシュフロー型ビジネス」の選定です。利用者が継続的に料金を支払う構造は、LBOローンの高金利負担を吸収しやすい特徴があります。

化学分野の競争力を強化した昭和電工の事例

昭和電工は独自の研究開発力を持つ化学会社を買収するため、自己資金とLBOローン、そして種類株式を組み合わせる複層的な資金調達を行いました。買収後は製品ポートフォリオを補完し、異分野技術の導入で粗利率を底上げしました。

ポイントは「資本構成の柔軟性」です。ローンとエクイティを巧みに配分し、過剰債務を避けながらレバレッジ効果を確保しました。

積極投資でシェアを広げたボーダフォン買収の教訓

買収側はモバイル事業の将来性に着目し、既存の通信・インターネットサービスとのクロスセルを促進しました。高額な設備投資が必要でも、契約数の増大がキャッシュフローを押し上げ、ローン返済を計画通りに進めました。

この事例は「成長市場を狙った拡大戦略」がLBO成功の条件であることを示します。

失敗事例に見るLBOのリスク

成功例の裏には、大胆な負債が裏目に出た失敗例も存在します。ここでは一例を詳しく検証し、どこに落とし穴があったのかを整理します。

黒字倒産に陥ったさとうべネックの事例

買収直前まで無借金で健全経営だった会社は、多額の借入を背負った瞬間に資金繰りが急速に悪化しました。営業利益は出ていたものの、返済スケジュールが過密でキャッシュフローが追いつかず、買収から八ヶ月で民事再生に至りました。

失敗要因は「過大な借入」と「シナジーの見誤り」です。買収側が描いた統合効果は実現せず、仕様変更や顧客離れで収益が伸び悩んだことが致命傷となりました。

LBOを成功させるための5つのポイント

LBOは高い専門性を要する取引です。以下の五点を体系的に管理できれば、失敗確率を大きく低減できます。

  1. 適正な買収価格と借入規模
    返済余力に対して借入が過大にならない水準を設定し、ストレスシナリオも含めた財務モデルを作成します。
  2. キャッシュフローの保守的な予測と資金繰り管理
    債務返済期日に合わせた資金計画を月次でアップデートし、不測の事態でも支払不能に陥らない備えを整えます。
  3. 明確な経営戦略とシナジーの検証
    事業統合後にどのコストを削減し、どの売上を伸ばすのか指標を具体化し、実行責任者を定めます。
  4. 迅速な経営改革と専門家の活用
    外部経営者や専門コンサルタントを早期に投入し、意思決定速度を高めます。税務・法務・会計の観点から多面的に支援する体制が不可欠です。
  5. 長期視点に立つガバナンス体制
    債務返済優先で短期利益に偏らないよう、取締役会で中長期の投資計画とコベナンツ管理を継続的に議論します。

これらを踏まえれば、LBOは単なる資金調達スキームではなく、企業価値を飛躍的に高める戦略的手段となります。逆に一つでも欠落すれば、前述の失敗事例のように財務負担が一気に経営を圧迫する点に留意が必要です。

まとめ

LBOは、対象企業の資産とキャッシュフローを活用して少ない自己資金で大規模な買収を実現できる強力な手法です。しかし、高金利の債務を背負うため、返済計画とシナジー実現の精度が成否を分けます。適正価格の設定、保守的な資金繰り、迅速な経営改革を徹底し、長期的視点でガバナンスを行えば、LBOは企業成長を加速させる有力な選択肢になります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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