後継者不足に悩む中小企業を事業承継で解決する最新動向と対策


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後継者不足の事業承継対策 中小企業が廃業を防ぐ実務手順

後継者不足で事業承継が進まない中小企業向けに、親族内承継、社内承継、M&Aの違い、廃業リスク、自社株、税金、個人保証、相談先、買い手探しまで解説します。

目次

  1. 後継者不足は廃業前に動く経営課題
  2. 承継先は3つのルートで同時に比べる
  3. 事業承継が止まる実務上の原因
  4. 廃業を避けるための4つの実務手順
  5. 第三者承継を検討する場合の判断材料
  6. 相談先を使い分けて早期に着手する
  7. まとめ

後継者不足に悩む中小企業を事業承継で解決する最新動向と対策

後継者不足は廃業前に動く経営課題

後継者不足は、「候補者がいない」という一言だけでは片付きません。実務では、候補者はいるものの、株式の買い取り資金、個人保証、相続人との調整、従業員の納得などで止まることが珍しくありません。

中小企業では、経営者の高齢化が進む一方で、若い世代が必ずしも家業を継ぐとは限らなくなりました。親族が別の仕事をしている、社内に経営を任せられる人がいない、外部への譲渡はまだ早いと感じる。こうした迷いが重なると、黒字であっても廃業が現実味を帯びます。

「経営者年齢の分布」



「経営者平均年齢の推移」


出典:中小企業庁/2022年度版中小企業白書 

「後継者不在率の推移」

出典:中小企業庁/2022年度版中小企業白書

事業承継は、経営者の引退時期だけでなく、従業員の雇用、取引先との関係、金融機関からの信用、地域に残る技術にも関わります。特に、地域密着型の製造業、建設業、卸売業、医療・介護、飲食業などでは、一社の廃業が周辺企業の受注や人材にも影響します。

黒字でも廃業を選ぶ会社がある

黒字なら承継できる、とは限りません。利益が出ていても、後継者がいなければ経営者がいつかは判断を迫られます。借入金が残っている場合や、経営者の営業力に依存している場合は、買い手や後継者から見た引継ぎの難易度も上がります。

廃業には、設備や在庫の処分、賃貸借契約の解約、従業員への退職金、取引先への精算、借入金返済などが伴います。会社を閉じれば終わり、という単純な話ではありません。むしろ、準備不足の廃業は経営者個人の資産に影響することもあります。

事業を残す判断は早いほど選択肢が多い

事業承継には、数年単位の準備が必要になることがあります。後継者育成、自社株の整理、金融機関との交渉、買い手探し、税務対策を一度に進めようとすると、時間が足りません。

70歳を過ぎてから慌てて動くより、60代前半から承継先の選択肢を並べておく方が、会社の価値を落とさずに引き継げる可能性が高まります。健康面の不安が出てからでは、交渉力も落ちやすいです。

承継先は3つのルートで同時に比べる

後継者不足に直面したときは、親族、社内、第三者のどれか一つに最初から絞り込まないことが大切です。経営者の希望と、実際に成立する承継方法が一致しないことがあるためです。

親族内承継は感情面と税務面を分けて考える

親族内承継は、子どもや親族に会社を引き継ぐ方法です。従業員や取引先から理解を得やすく、創業家の想いを残しやすい点が強みです。

一方で、子どもが本当に経営者に向いているか、本人に継ぐ意思があるか、自社株をどのように渡すかを冷静に見極める必要があります。自社株とは、会社の支配権を表す株式です。株式を誰が持つかで、経営権と相続財産の配分が大きく変わります。

相続税・贈与税の検討を後回しにしない

親族内承継では、株式を贈与するのか、相続で渡すのか、売買するのかによって税金が変わります。会社の業績が良いほど株式評価が高くなり、後継者や他の相続人との調整が難しくなることがあります。

遺言書や遺留分への配慮も重要です。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障される最低限の取り分です。ここを整理しないまま株式を後継者に集中させると、後で家族間の対立が起こる可能性があります。

社内承継は人材と資金の両方を見る

社内承継は、役員や優秀な従業員に会社を引き継ぐ方法です。仕事の内容、顧客、社内文化を理解しているため、現場の混乱を抑えやすい点がメリットです。

ただし、従業員が株式を買い取るための資金を持っているとは限りません。経営者としての能力があっても、まとまった株式取得資金を個人で用意するのは簡単ではありません。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。

従業員に覚悟だけを求めると失敗しやすい

社内承継では、後継者候補に「社長になってほしい」と伝えるだけでは足りません。経営計画、借入金、株式の移転方法、役員報酬、金融機関対応まで共有する必要があります。

特に、前経営者の個人保証をどう外すか、後継者に新たな保証を求めるのかは重要です。ここを曖昧にすると、候補者が最後に辞退することがあります。

第三者承継は外部から後継者を探す方法

第三者承継は、親族や社内に適任者がいない場合に、外部の会社や個人に事業を引き継ぐ方法です。一般には、M&A(合併・買収)を使い、株式譲渡や事業譲渡などの形で進めます。

株式譲渡は、会社の株式を買い手に譲渡し、会社そのものを引き継いでもらう方法です。事業譲渡は、特定の事業、資産、負債、契約、従業員などを個別に引き継ぐ方法です。契約や許認可は当然に移るとは限らず、取引先や行政の承諾、手続が必要になることがあります。

事業承継が止まる実務上の原因

「後継者がいない」と言われる会社でも、実際には複数の課題が絡み合っています。原因を分解すると、次にやるべきことが見えます。

個人保証が承継の心理的な壁になる

中小企業の借入では、経営者が個人保証をしているケースがあります。個人保証とは、会社が返済できない場合に、経営者個人が返済責任を負う約束です。

後継者にとって、会社を継ぐことと個人保証を負うことは別問題です。役員や従業員が経営能力を持っていても、家族や自宅を巻き込むリスクを考えると、承継をためらうのは自然です。

「経営者保証に依存しない新規融資の融合」

出典: 中小企業庁/経営者保証

「経営者保証の提供状況」

出典: 中小企業庁/経営者保証

個人保証は、M&Aでも重要な交渉項目です。買い手が会社を引き継ぐ場合でも、金融機関が自動的に保証を解除するわけではありません。譲渡の前後で金融機関と協議し、返済計画、会社の財務内容、買い手の信用力を説明する必要があります。

自社株の評価額が想定より高い

事業承継では、会社の価値を把握しないまま話を進めると危険です。親族内承継では税金、社内承継では買い取り資金、M&Aでは譲渡価格に直結します。

決算書上の利益が小さくても、不動産や現預金を多く持っている会社は株式評価が高くなることがあります。反対に、利益は出ていても、借入金や設備更新の負担が大きい会社では、買い手が慎重になる場合があります。

会社の価値は希望額だけでは決まらない

経営者には、長年育てた会社への思いがあります。高く評価してほしいと考えるのは当然です。ただし、買い手は将来の収益力、借入金、従業員体制、取引先の継続性、設備投資の必要性を見ます。

「この金額なら売りたい」という希望額と、「買い手が合理的に出せる金額」は異なります。早い段階で概算評価を行い、価格よりも雇用維持や社名、取引先対応を優先するのかを整理しておくと、交渉が進みやすくなります。

勇退後の生活設計が決まっていない

事業承継は会社の問題であると同時に、経営者個人の人生設計でもあります。譲渡後の生活費、退職金、借入保証の解除、役員として残る期間、家族への説明を整理しないと、最後の意思決定ができません。

意外と多い落とし穴です。買い手候補が現れても、経営者本人が「まだ自分がいないと不安だ」と感じ、交渉が長引くことがあります。従業員に迷いが伝わると、社内の不安も大きくなります。

廃業を避けるための4つの実務手順

後継者不足を解決するには、思い立った日に買い手を探すのではなく、順番を決めて進めることが重要です。ここでは、親族内承継、社内承継、第三者承継のいずれにも共通する手順を整理します。

1. 現状を可視化する

最初に、自社の状態を見える化します。確認すべき主な項目は、売上と利益の推移、借入金、個人保証、株主構成、役員構成、主要取引先、従業員の年齢構成、許認可、所有不動産、設備の老朽化です。

この段階で、自社株式の概算評価も確認します。親族や従業員に引き継ぐ場合でも、第三者へ譲渡する場合でも、株式価値が分からなければ税金や資金調達の検討ができません。

「買い手・相手企業の探し方」

出典:中小企業庁/2022年度版中小企業白書 

2. 承継方法を選ぶ

次に、親族内承継、社内承継、第三者承継を同時に比較します。最初から「子どもに継がせるしかない」「従業員に任せるしかない」と決めると、現実的な選択肢を見落とします。

親族内承継は、家族の意思と相続対策が中心です。社内承継は、後継者の資金と個人保証が中心です。第三者承継は、買い手候補、譲渡価格、従業員や取引先の引継ぎが中心になります。

承継期限を決めると比較しやすい

「いつか承継したい」では進みません。3年以内、5年以内、体調が悪化する前、借入金の更新前など、目標時期を置くと具体的になります。

期限を決めると、親族の育成に時間が足りるか、社内候補者が資金を用意できるか、M&Aで買い手を探す時間があるかを判断できます。

3. 公的窓口と専門家を使う

情報収集の初期段階では、事業承継・引継ぎ支援センター、商工会議所、地域金融機関を活用できます。公的窓口は無料相談から始められるため、まだ方針が固まっていない経営者にも使いやすいです。

ただし、税金、自社株評価、法務、M&A交渉、労務対応が絡む場合は、税理士、公認会計士、弁護士、M&Aアドバイザーなどの専門家を組み合わせる必要があります。相談先によって得意分野が違うため、一つの窓口だけで完結させない方が安全です。

4. 後継者または買い手との引継ぎを進める

承継方法が決まったら、後継者または買い手との引継ぎを進めます。親族内承継や社内承継では、経営権の移転、株式移転、金融機関対応、取引先への説明、従業員への発表を段階的に行います。

第三者承継では、買い手候補の探索、秘密保持契約、企業価値算定、条件交渉、基本合意、買収監査、最終契約、クロージングという流れになります。クロージングとは、契約に基づいて株式や事業を実際に引き渡し、代金を決済することです。

「買い手としてM&Aを実施する際の障壁」

出典:中小企業庁/2022年度版中小企業白書 

「売り手・M&Aを実施する際の障壁」

出典:中小企業庁/2022年度版中小企業白書

第三者承継を検討する場合の判断材料

第三者承継は、親族や社内に後継者がいない会社だけの手段ではありません。従業員の雇用を守りたい、取引先への供給を止めたくない、廃業費用を避けたい、経営者個人の保証を整理したい場合にも検討対象になります。

譲渡の目的を最初に決める

第三者承継で大切なのは、譲渡価格だけを目的にしないことです。高く売ることも重要ですが、従業員の雇用、取引先との関係、社名やブランド、経営者の退任時期、個人保証の解除なども同時に検討します。

「M&Aの相手先経営者の年齢別・目的」  

出典:中小企業庁/2022年度版中小企業白書 

「中小企業のM&A実施状況」

出典:中小企業庁/2022年度版中小企業白書 

経営者が70代に近づくほど、時間の制約は強くなります。買い手候補を探し、条件交渉を行い、買収監査を受け、契約を締結するまでには時間がかかります。会社の資料が整っていなければ、さらに長引きます。

買い手が見ているのは将来の引継ぎやすさ

買い手は、決算書だけを見て判断するわけではありません。代表者に売上が集中していないか、従業員が残るか、主要取引先が継続するか、設備投資が必要か、簿外債務がないかを確認します。

簿外債務とは、決算書に十分反映されていない将来負担のことです。未払い残業代、退職金に関する負担、保証債務などが問題になることがあります。大きな問題が後で見つかると、価格が下がったり、交渉が止まったりします。

M&A後の成長可能性も評価される

買い手にとって、後継者不足の会社を引き継ぐことは、単なる救済ではありません。商圏の拡大、人材の確保、技術の獲得、新サービスの追加など、成長戦略になる場合があります。

「M&A実施の具体的効果」

出典:中小企業庁/2022年度版中小企業白書 

「同業平均値と純利益成長率を比較」


出典:中小企業庁/財務サポート「事業承継」

「M&A後の労働生産性」

出典:中小企業庁/財務サポート「事業承継」

売り手側も、成長可能性を説明できるように準備しておくことが重要です。既存顧客の継続率、利益率の高い商品、熟練従業員の技術、地域での認知度などは、譲渡価格や買い手の関心に影響します。

マッチング前に資料を整える

第三者承継を考える場合、いきなり買い手候補に情報を出すのではなく、資料整理から始めます。直近3期分の決算書、月次試算表、借入明細、株主名簿、従業員一覧、主要取引先、契約書、許認可、設備一覧を確認します。

資料が整っている会社は、買い手からの信頼を得やすくなります。反対に、数字の説明ができない会社は、たとえ利益が出ていても不安視されます。

「売り手・相手企業の探し方」

出典:中小企業庁/2022年度版中小企業白書 

相談先を使い分けて早期に着手する

後継者不足は、経営者一人で抱え込むほど選択肢が狭くなります。家族に話しにくい、従業員にまだ言えない、取引先に知られたくない。そのために先送りしてしまう会社は少なくありません。

公的窓口は初期相談に向いている

事業承継・引継ぎ支援センターは、各都道府県に設置されている公的な相談窓口です。親族内承継、従業員承継、第三者承継について相談でき、後継者探しやM&Aのマッチング支援も受けられます。

商工会議所や地域金融機関も、地元の事情を踏まえた相談先になります。特に地域内での承継や、取引先との関係を重視する場合は、日頃から会社を知っている機関に相談する意味があります。

制度や補助金は最新情報を確認する

事業承継に関する補助金、税制、金融支援は、年度や公募回によって内容が変わります。専門家費用、設備投資、廃業費用の一部が対象になる制度もありますが、必ず使えるとは限りません。

制度名だけを見て判断せず、公募期間、対象者、対象経費、申請手続、採択後の報告義務を確認しましょう。補助金ありきでM&Aを進めると、スケジュールが合わずに使えない場合もあります。

税務・会計・法務は早めに確認する

事業承継では、税金の確認が後回しになると手取り額が大きく変わります。株式譲渡では、個人株主の場合は譲渡所得、法人株主の場合は法人税上の譲渡損益が問題になります。事業譲渡では、会社側の税金に加え、譲渡資産ごとに消費税の課税・非課税を確認する必要があります。

法務面では、株式の譲渡制限、契約上の承諾条項、許認可の引継ぎ、従業員の労働条件を確認します。会計面では、実態純資産、借入金、役員貸付金、保険積立金、含み損益を整理します。

相談前に整理しておくとよい項目

相談先に行く前に、現在考えている承継方法、希望時期、業種、従業員数、売上規模、借入金、個人保証の有無、株主構成を整理しておくと話が早く進みます。

まだ方針が決まっていなくても問題ありません。むしろ、方針が固まる前に相談した方が、親族内承継、社内承継、第三者承継を比較できます。決めてから相談するのではなく、決めるために相談するという考え方が大切です。

専門家選びでは得意分野を見る

税理士は税務と自社株評価、公認会計士は財務調査や企業価値、弁護士は契約や相続紛争、M&Aアドバイザーは買い手探索や交渉支援を得意とします。すべてを一人で完結できる専門家は多くありません。

後継者不足の事業承継では、複数分野を横断して判断する必要があります。税金だけ、価格だけ、相続だけで判断すると、別の部分に問題が残ることがあります。

まとめ

後継者不足による廃業を避けるには、親族内承継、社内承継、第三者承継を早い段階で比較し、自社株、税金、個人保証、従業員、取引先への影響を整理することが大切です。会社を残す選択肢は一つではありません。公的窓口や専門家を活用し、経営者が元気なうちに承継方法を具体化しましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー  

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事 

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人 

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