本コラムでは、後継者不在で、事業継続に悩む中小企業経営者の皆様へ、解決策を提供します。
会社が黒字であっても、後継者が見つからず事業を継続しなければならない経営者は、意外と多くいます。特に中小企業経営者の平均年齢が上昇していることから、後継者が決まらず、黒字ながら廃業を選択する企業も増えています。
この問題に対して、経営者が会社資金を金融機関に借りる際の個人保証も、事業承継の壁となります。しかし、M&A(合併・買収)を利用することで、個人保証を外しつつ事業継続できる可能性があります。
目次
以下に示す(図1)は、中小企業経営者年齢の分布を年代別に表示したものです。このデータから次の事がわかります。
① 2000年には経営者年齢のピークが「50歳~54歳」であった
② 年代が進むにつれて、経営者年齢の高齢化が進行し、2020年では経営者年齢の多い層が「60歳~64歳」「65歳~69歳」「70歳~74歳」に分散している
③ 団塊世代の経営者が事業承継や廃業により経営から退いている一方で、70歳以上の経営者割合は高いままであり、事業承継を実施した企業と実施していない企業で二極化が進んでいる
(図1) 「経営者年齢の分布」
(図2)は、休廃業・解散件数と経営者平均年齢の推移を示したものです。2021年の休廃業・解散件数は44,377件であり、新型感染症関連の策が導入されたにもかかわらず、依然として高水準が続いています。
一方で経営者の平均年齢は上昇傾向が続き、休廃業・解散件数の増加背景には経営者の高齢化が関与していることから、この問題への対処は急務であると言えます。
最後に示す(図3)は、後継者不在企業のの推移を示したものです。後継者不在率は、2017年の66.5%がピークとなって以降、近年は減少傾向が見られますが、2021年は前年比で3.6%減の61.5%となっています。
(図3) 「後継者不在率の推移」
(図4)は休廃業・解散及び倒産件数の推移と廃業事業者の損益比率を示しています。
多様な理由により休廃業・解散を余儀なくされる企業数は増加傾向にありますが、2020年の廃業事業者49,698件のうち、なんと61.5%が黒字企業であるという驚くべき事実が明らかになっています。
このまま放置してしまうと、さらに多くの雇用機会が失われてしまうため、何らかの対策が必要です。
(図4) 「廃業件数」 出典:中小企業庁/財務サポート「事業承継」
黒字企業を廃業に追い込まず、事業継続を目指したい場合、活用できる方法のひとつがM&A(企業の合併・買収)です。
下記の(図5)は、M&Aの買い手企業に対して、「相手先企業の経営者のM&Aを行う目的」について「年齢別」に確認したグラフです。
このグラフで相手先企業の経営者の年齢を「60代」「70代」に絞って確認すると、M&Aを行う目的として「事業の承継」を最も重視していることがわかります。
特に「70代」の経営者は「会社債務に対する経営者等の個人保証解除」に強い関心があることが読み取れます。
一方で「40代以下」の経営者は、「事業の成長・発展」を目的としてM&Aを行う割合が高く、年代別で大きくM&Aの目的が異なっていることがうかがえます。
(図5) 「M&Aの相手先経営者の年齢別・目的」
▶目次ページ:事業承継とは(事業承継の問題・課題)
高齢の中小企業経営者が事業承継の際に問題と感じている個人保証(経営者保証)に関するデータを紹介いたします。
2000年以前に事業承継を検討した場合、大きな障壁となっていたのが経営者の個人保証でした。
会社を譲渡する際に、会社に借金があり残債務に経営者の個人保証がついていると、後継者は会社と共にその個人保証を引き受けなければならなかったためです。
しかし現在では、国もその問題を把握しており、政府主導で、政府系・民間金融機関問わず、金融機関が企業に融資する際には、企業業績を評価して融資を行い、できるだけ経営者の個人保証を取らないよう指導しています。
さらに適宜個人保証を見直し、途中からでも契約から個人保証を外すよう指導しています。
また全国銀行協会と日本商工会議所の取り組みとして、「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、傘下の金融機関や企業に周知・徹底を図っています。
■(図6)は経営者保証に依存しない新規融資の割合の推移グラフです。
政府系及び民間金融機関とも、経営者保証に依存しない融資比率が上昇していることから、事業承継の障壁のひとつが確実に減っていることが分かります。
■(図7)では融資実行分のうち、依然として8割(2020年実績)が条件として融資の全額または一部に経営者保証を提供していることから、個人保証を完全に融資条件から分離することが難しい現状が読み取れます。
(図6) 「経営者保証に依存しない新規融資の融合」
出典: 中小企業庁/経営者保証
(図7) 「経営者保証の提供状況」
出典: 中小企業庁/経営者保証
本章では、最新の中小企業における業況、売上高、利益などのデータをご紹介いたします。これらのデータは、中小企業がどのような状況にあるかを把握する上で非常に重要です。
以下に示す(図8)は、企業規模別に分けた業況判断DI(業況判断拡大指数)のデータです。
業況判断DIとは、直近の業況が前期に比べて「好転」と回答した企業の割合から、「悪化」と回答した企業の割合を引いた指数のことです。
(図8)を観察すると、過去にはいくつかの要因で業況が落ち込む局面はありましたが、全体的には緩やかな回復基調を辿ってきたことがわかります。
しかし、2020年には感染症の流行により社会経済活動が大幅に停滞し、それに伴って業況判断DIも急速な低下が発生しました。
一方で、政府がさまざまな対策を講じた結果、2021年以降は回復基調が続いており、業況判断DIも再び上向きの兆しを見せています。
今後の中小企業の業況については、新型感染症の収束や政府の対策などが大きく影響すると予想されます。引き続き、業況やデータの分析が重要となってくるでしょう。
またこの動きは、(図9) (図10)の「企業規模別売上高の推移」「経常利益の推移」を見れば、大企業ほどではないものの、中小企業でも確実に業績が回復していることが見て取れます。
(図9) 「企業規模別・売上高の推移」
(図10) 「企業規模別・経常利益の推移」
図11に示すのは、中小企業におけるM&A(合併・買収)の実施状況に関するデータです。
大企業と違って、中小企業におけるM&Aの実施状況は公表されていないケースも多く、データ収集には制約があります。
しかし、M&A仲介大手3社が手掛ける中小企業向けM&A仲介の成約件数や、全国に設置されている事業承継・引継ぎセンターの数字を調べると、どちらも取引件数が増加しており、M&A市場が盛況であることがわかります。
これからも事業承継の重要性は増していくことが予想されるため、適切なデータや情報を把握しておくことが求められます。
(図11) 「中小企業のM&A実施状況」
(図12)から(図15)までのデータは、M&Aの取引相手を探す方法や、M&Aを実行する際に遭遇する障壁について、売り手側・買い手側・双方の視点から分析されたものです。
(図12)を見ると、買い手側では金融機関による探索を依頼する企業が7割を占め、最も多くなっています。次いで専門仲介機関が多く利用されています。また、会計処理を通じて親しくなった公認会計士や税理士なども、頼りにしている相手として上位に位置しています。
このような選択基準は、「信用」や「信頼」といった要素がその根底にあると考えられます。
(図12) 「買い手・相手企業の探し方」
(図13)によれば、買い手にとってのM&A障壁の上位は、「期待する効果が不明」「判断材料としての情報が不足」といったものが挙がっています。
このような問題を解決するためには、信頼できるM&A支援機関を選び、情報提供や判断のサポートを受けることが重要です。
(図13) 「買い手としてM&Aを実施する際の障壁」
(図14)を見ると、売り手側もまた金融機関を第一位として探索を依頼しており、次に専門仲介機関が続いています。また、買い手と同様に、公認会計士や税理士が相談しやすい相手として第三位に位置しています。データからも分かるように、売り手にとっても信頼できる相談相手は専門家や身近な存在となっています。
(図14) 「売り手・相手企業の探し方」
(図15)によれば、売り手がM&Aで感じる障壁として上位に位置するのは、「経営者としての責任感や後ろめたさ」が挙げられます。また、「買い手が見つからない」「仲介等の手数料が高い」といった実務的な障壁も挙げられています。
M&Aの意思決定において、売り手経営者が心理的側面から影響を受けることは避けられません。そのため、支援機関はM&Aのメリットを丁寧に説明し、経営者の心のハードルを下げてあげることが重要になります。
(図15) 「売り手・M&Aを実施する際の障壁」
最後に取り上げるデータは、事業承継実行後および廃業後に関連するものです。
事業が黒字のまま廃業すると、取引先や金融機関に迷惑をかけるばかりか、結局のところ社員の雇用を守ることができないなど、デメリットが多く存在します。そこでM&Aを選択することで、事業の継続が可能となり、取引先や従業員を守ることができるでしょう。
加えて、M&A後に売却や譲渡された会社や事業は、さらなる発展の可能性があります。本章では、そのことをデータ面から具体的に示していきます。
以下の(図16)は、M&Aが実施された後に経営者が実感した満足度を項目ごとにグラフ化したデータです。このデータを確認すると、M&A効果に関連する重要な項目である「商圏の拡大による売上・利益の増加」「商品・サービスの拡充による売上・利益の増加」において、「期待通り・期待を上回る満足度」が、「期待を下回る満足度」を大幅に上回っていることがわかります。
(図16) 「M&A実施の具体的効果」
(図17)は、事業承継実施企業が同業平均値と純利益成長率を比較した割合であり、(図18)は、M&A後の労働生産性を比較したデータです。それぞれのデータで、M&Aを実施した企業が高い数字を示しており、事業承継を契機として成長し、労働生産性を向上させていることが読み取れます。
(図18) 「M&A後の労働生産性」
中小企業の経営者が、M&Aを検討する際には、心理的な側面や物理的な障壁の悩みも大きいと思われます。
しかしながら、今回のコラムで取り上げさせていただいたように、M&Aを実施する際のハードルは日々下がっており、またM&A実施後に会社が成長する可能性も高いことが確認できます。黒字企業のまま廃業を検討するよりも、思い切ってM&Aを実施し、会社が生き残る道を選択される方が得策であると考えられます。
事業承継による世代交代やM&Aによる規模拡大は、企業の成長を促進する効果があります。中小企業の活力を維持・発展させるためにも、M&Aに積極的に取り組むことが望ましいでしょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事