企業の生存率を高める要因と長期存続を実現する方法を解説
企業は10年でどれだけ生き残れるのでしょうか。実際の生存率データと倒産要因を整理し、売上維持や資金繰り、後継者育成など今すぐ取り組める対策をわかりやすく解説します。
目次
▶目次ページ:事業承継とは(会社の廃業と解散・清算)
企業の生存率は、創業した会社が廃業や倒産をせず経営を続けられている割合を数値化したものです。経済の活力を測る上で重要であり、特に中小企業が多い日本では政策立案や金融機関の融資判断にも活用されます。
高い生存率は起業しやすさだけでなく、事業継続を支える制度や市場の安定性を示します。反対に低い生存率は経営環境の厳しさを映し出し、新規参入企業の資金調達や人材集めを困難にします。
中小企業白書(2017年版)によれば、日本の起業後生存率は1年後95.3%、3年後88.1%、5年後81.7%と、米国48.9%、英国42.3%など欧米主要国を大きく上回っています。背景には、地域金融機関の伴走支援や商慣習としての長期取引文化があるとされます。
東京商工リサーチの調査では、2023年の休廃業・解散は4万9,788件、倒産を含めると5万8,478件に達しました。コロナ禍後のゼロゼロ融資返済開始や物価高、人件費上昇が経営を圧迫し、特に業歴の浅い企業に影響しました。
倒産企業の平均寿命は23.1年と短命化
2007年の統計開始以降で二番目に短く、資金繰り体力が乏しい企業ほど外部ショックに耐えられない現実が浮き彫りです。
生存率は算出方法で大きく変わります。年間廃業率4%という推計を積み上げた場合、10年後は約66.5%が存続します。一方、別資料では実測値として10年後の存続率6.3%という極端に低いデータも示されています。
推計66.5%は平均的な廃業率を機械的に延長した数値ですが、実測6.3%は累積で廃業届出や解散登記を確認した結果です。いずれにせよ、経営者は生存率の高低に一喜一憂するのではなく、自社のリスク要因を把握し具体策を打つことが重要です。
倒産は複合的な要因で起こりますが、特に売上不振・資金繰り悪化・後継者問題が長期存続を脅かします。ここでは各要因の特徴と対処の考え方を整理します。
競合との差別化が曖昧だと顧客に価値が伝わらず、販売データを見逃すと対策の手遅れを招きます。定期的な市場分析と早期の販売戦略修正で回避可能です。
どんぶり勘定での資金管理や過剰投資、売掛金回収遅延は資金ショートを招きます。月次キャッシュフロー管理と専門家相談が不可欠です。
高齢化で経営者が引退期を迎えても後継者が決まらないケースが増加中です。人材育成と早期承継準備がなければ、黒字でも廃業せざるを得ません。
倒産要因を踏まえ、長期存続企業は①収益構造の強化②財務基盤の防衛③人材・組織の継続性確保という視点で日常の経営を磨いています。次章からは具体的施策を掘り下げます。
企業が利益を確保し続けるためには、売上の最大化だけでなく支出の最適化が欠かせません。コストを意識せずに成長を追うと、景気後退や価格競争が起きた際に手元資金が枯渇する恐れがあります。固定費と変動費を分けて管理し、どちらも数字で把握したうえで継続的に削減余地を探る姿勢が重要です。
賃料、人件費、保険料などの固定費は、一度膨らむと下げにくい特徴があります。自社ビル保有の場合は売却・賃借への切替、倉庫スペースの縮小、リモートワーク導入による事務所面積削減などが即効性の高い手段です。固定費の1%削減は売上1%増加と同じ効果を生み出すことを数字で示し、従業員にも共有しましょう。
不要スペースの縮小は即効性が高い
使用頻度の低い会議室や倉庫はサブリースやトランクルーム活用で外部化できます。稼働率を定量把握し、空き時間が月の50%を超える部屋は縮小候補としてリスト化することがポイントです。
仕入単価や物流費は交渉と発注量調整で圧縮できます。購買担当が月次で主要サプライヤーと原価推移を共有し、相見積もりを取る仕組みを設ければ、急な需要減でも原価率を一定に保てます。
紙ベースの伝票はオンライン化し、RPAを導入して定型入力を自動化すると人件費とミスを同時に削減できます。外注と内製コストを比較し、専門外業務は思い切って委託することで核となる業務へ人材を集中させることが可能です。
企業を取り巻くリスクは自然災害、感染症、サイバー攻撃、為替変動など多岐にわたります。事前に洗い出し、発生確率と影響度で優先順位を付け、期間を区切って対策を更新するサイクルが長期存続の鍵です。
まず経営会議で自社が直面し得るリスクをブレインストーミングし、一覧表に整理します。続いて影響額と復旧日数で点数化し、高スコアのリスクから対策提案を行うと、限られた資源でも防御範囲を拡大できます。
緊急時の指揮命令系統、代替拠点、重要データのバックアップ手順を明文化し、年1回は訓練を実施します。訓練によって浮かんだ課題は即座に文書へ反映させ、次回までに改善することで計画を“生きたマニュアル”にできます。
火災や賠償責任に備える保険加入に加え、主要取引先比率を定期的に点検し、一社依存が30%を超えた場合は新規顧客開拓を経営指標に組み込むと健全性が高まります。
経営者の高齢化が進むなか、後継者問題は企業存続を左右する大きな要素です。良好な業績を保っていても経営を引き継ぐ人材がいなければ廃業リスクは高まります。
承継時期を逆算し、資産移転・税負担・組織体制変更をロードマップに落とし込むと、金融機関や取引先も安心し支援を受けやすくなります。
候補者には営業・財務・人事のローテーションを経験させ、社内外の信用を得る場を意識的に提供します。段階的な決裁権委譲で経営判断の質を磨き、失敗経験を積ませることが長期的な経営力につながります。
親族・社員に適任者がいない場合は、価値観を共有できる譲受企業へのM&Aも有効です。株式評価とデューデリジェンスを早期に行えば、想定外の税負担や従業員退職を防げます。
時代とともに顧客ニーズは変化します。企業は使命を守りつつ、製品・サービス・ビジネスモデルを柔軟に更新することで顧客との関係を維持できます。また社会貢献活動はブランド力と採用力を高め、結果として財務基盤を強固にします。
自社の存在意義を共有しつつ、新技術導入や新市場開拓を継続する姿勢は顧客に安心感と期待感を同時に提供します。社内では改善提案を歓迎する風土を整え、小さな挑戦を称賛する仕組みをつくることがポイントです。
地域イベント協賛、教育プログラム提供、脱炭素化投資などは短期的利益を生まなくても、長期的に顧客ロイヤルティと金融機関の評価を向上させます。これにより低利融資や優秀な人材採用が可能となり、生存率向上に寄与します。
企業の生存率向上には①固定・変動費の継続的削減②BCPを含むリスク管理徹底③早期の後継者育成とM&A活用④使命を守りつつ革新を続け社会に貢献する姿勢が不可欠です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事