企業の10年後の生存率は約66.5%と推計されています。本記事では、企業の生存率の実態や倒産の主な原因、そして企業を長期存続させるためのポイントについて詳しく解説します。
目次
企業の生存率(存続率)は、起業や開業した会社が廃業や倒産せずに経営を継続できている割合を示す指標です。この指標は、企業の持続可能性や経済の活力を測る上で重要な役割を果たします。
日本企業の生存率は、国際的に見ても高い水準にあります。中小企業白書(2017年版)によると、日本企業の起業後の生存率は以下のように推移しています:
• 1年後:95.3%
• 2年後:91.5%
• 3年後:88.1%
• 4年後:84.8%
• 5年後:81.7%
これらの数値を欧米諸国と比較すると、日本企業の5年後の生存率(81.7%)は、アメリカ(48.9%)、イギリス(42.3%)、ドイツ(40.2%)、フランス(44.5%)を大きく上回っていることがわかります。
2023年は、企業の休廃業・倒産が過去最多を記録した年となりました。東京商工リサーチの『2023年 休廃業・解散企業動向調査』によると、休廃業・解散企業件数は4万9,788件に達し、過去最高を記録しました。さらに、倒産件数を含めると5万8,478件となり、これも過去最多となっています。
この数字は、日本の企業が直面している厳しい経営環境を如実に示しています。コロナ禍からの回復途上にある中、多くの企業が経営の継続に苦心していることがうかがえます。
2023年に倒産した企業の平均寿命については、興味深いデータが報告されています。東京商工リサーチによると、2023年に倒産した企業の平均寿命は23.1年でした。この数字は、2007年の調査開始以来、東日本大震災が発生した2011年(23.0年)に次いで短い寿命となっています。
この背景には、以下のような要因が考えられます:
• ゼロ金利融資の返済開始
• 物価高騰
• 人件費の上昇
• 人手不足
これらの問題が複合的に作用し、特に経営基盤の脆弱な業歴の浅い企業にとっては、コロナ禍の影響がより深刻だったと推測されます。結果として、企業の平均寿命を短くする要因となったのです。
このデータは、企業の長期的な存続が決して容易ではないことを示しています。特に、新興企業や中小企業にとっては、経営環境の変化に柔軟に対応し、強固な経営基盤を築くことが極めて重要であることを示唆しています。
▶目次ページ:事業承継とは(会社の廃業と解散・清算)
企業の長期的な生存率を考える上で、10年後の生存率は重要な指標となります。しかし、この数値は企業の規模や業種によって大きく異なることがあります。
一般的な企業の生存率はどうでしょうか。中小企業白書2023年版のデータを基に、単純な推計を行うことができます。
「2023年版中小企業白書「開業率・廃業率の推移」
過去約40年間、日本企業の年間廃業率はおよそ4%程度で推移しています。この数値を基に、1年後の生存率を96%と仮定し、これが一定と仮定すると、以下のような推計が可能です:
• 5年目:81.5%
• 10年目:66.5%
• 20年目:44.2%
• 30年目:29.4%
この推計によれば、10年目の企業生存率は約66.5%となります。ただし、これはあくまで単純な推計であり、実際の数値は業種や経済環境などによって変動する可能性があります。
これらのデータから、一般企業とベンチャー企業の生存率には大きな開きがあることがわかります。ベンチャー企業は高いリスクと引き換えに急成長を目指す一方、一般企業はより安定的な経営を目指す傾向があるためと考えられます。
企業の長期的な生存を目指すためには、自社の特性や市場環境を十分に理解し、適切な経営戦略を立てることが重要です。また、長期的な視点で事業計画を立て、リスク管理を徹底することも企業の生存率を高める上で欠かせません。
企業が倒産に至る原因は複雑で多岐にわたりますが、主に以下の3つの要因が挙げられます。これらの要因を理解し、適切に対処することが企業の長期存続には不可欠です。
売上不振は企業倒産の最も一般的な要因の一つです。以下のような問題が売上不振につながる可能性があります:
• 競合他社との差別化の失敗
• 顧客ニーズの把握ミス
• 自社の魅力を顧客に十分伝えられていない
• 販売業績の低迷に気づくのが遅い
これらの問題を解決するためには、市場調査や顧客分析を定期的に行い、自社の強みを活かした戦略を立てることが重要です。また、販売データを常にモニタリングし、早期に問題を発見・対処することも必要です。
資金繰りの悪化は、企業の存続に直結する深刻な問題です。主な原因としては以下が挙げられます:
• 経営者の不適切な資金管理
• 誤った経営判断
• 過剰な設備投資
• 売掛金の回収遅れ
特に財務に詳しくない経営者が誤った判断をすることで、資金繰りが悪化し倒産に至るケースが少なくありません。これを防ぐためには、財務知識の習得や専門家への相談を積極的に行うことが重要です。
事業の継続性を脅かす要因として、後継者問題と人材不足も無視できません:
• 後継者の不在:経営者の高齢化が進む中、適切な後継者が見つからないケースが増加しています。
• 人材不足:少子高齢化の影響で、多くの業種で人材確保が困難になっています。
これらの問題に対処するためには、長期的な視点での人材育成や、事業承継計画の早期策定が必要です。また、外部人材の登用やM&Aによる事業承継なども選択肢として考慮すべきでしょう。
企業が長期的に存続し、成長を続けるためには、様々な課題に取り組む必要があります。ここでは、企業の存続率を高めるための重要なポイントについて解説します。
コスト削減は企業の収益性を高め、競争力を維持するために欠かせません。効果的なコスト削減のポイントは以下の通りです:
1. 固定費の見直し:
• オフィスや倉庫のスペース最適化
• 不要な設備や機材の処分
• 光熱費などの経費削減
2. 変動費の管理:
• 仕入れ先の見直しと交渉
• 生産効率の向上
• 在庫管理の最適化
3. 業務プロセスの効率化:
• デジタル化やオートメーション化の推進
• 不要な業務の廃止や外部委託の検討
コスト削減を行う際は、単純な切り詰めではなく、中長期的な視点で企業の競争力を高めることを意識することが重要です。
企業を取り巻くリスクは多岐にわたります。適切なリスク管理は企業の長期存続に不可欠です。以下のポイントに注意しましょう:
1. リスクの特定と評価:
• 定期的なリスク分析の実施
• 潜在的なリスクの洗い出し
2. リスク対策の策定:
• コンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)の作成
• BCP(事業継続計画)の策定
3. リスクヘッジ:
• 適切な保険の加入
• 取引先の分散化
4. モニタリングと見直し:
• リスク対策の定期的な評価と更新
• 新たなリスクへの迅速な対応
特に、経営者の突然の離脱に備えた対策は重要です。後継者の指名や、緊急時の事業計画策定などを事前に行っておくことが望ましいでしょう。
事業承継は企業の長期存続に直結する重要な課題です。円滑な事業承継を実現するためのポイントは以下の通りです:
1. 早期の承継計画策定:
• 5年から10年先を見据えた計画立案
• 承継の方法(親族内承継、従業員承継、M&Aなど)の検討
2. 後継者の選定と育成:
• 候補者の早期選定
• 計画的な教育と権限委譲
3. 財務・法務面の準備:
• 自社株式の評価と対策
• 税制優遇措置の活用検討
4. ステークホルダーとの調整:
• 取引先や従業員との関係維持
• 金融機関との良好な関係構築
5. 外部専門家の活用:
• 税理士や弁護士など専門家への相談
• M&A仲介会社の活用検討
企業の生存率を高め、長期的な存続を実現するためには、経営環境の変化に柔軟に対応し、適切な戦略を立てることが重要です。売上の維持・向上、効果的なコスト管理、リスク対策の実施、そして計画的な事業承継の準備が、企業の持続可能性を高める鍵となります。経営者は常に先を見据え、必要に応じて専門家の助言を得ながら、戦略的な経営を行うことが求められます。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事