合同会社売却の方法と注意点|M&A・事業譲渡の実務解説

合同会社のM&Aや売却は可能ですが、株式会社とは異なる手法が必要です。本記事では、合同会社の特徴や売却方法、事業譲渡のメリット・デメリットなどを詳しく解説します。

目次

  1. 合同会社の定義と特徴
  2. 合同会社の売却
  3. 合同会社の売却方法と手続
  4. 合同会社の事業譲渡におけるメリットとデメリット
  5. まとめ

合同会社の定義と特徴

合同会社は、2006年に導入された比較的新しい会社形態です。出資者と経営者が同一である点が特徴で、アメリカのLLC(Limited Liability Company)を参考に作られました。そのため、「日本版LLC」とも呼ばれています。

合同会社は、株式会社とは異なる仕組みを持っており、その特徴を理解することが重要です。以下、合同会社の主な特徴、持分会社の概要、そして株式会社との違いについて詳しく見ていきます。

合同会社の主な特徴

合同会社には、以下のような特徴があります。

社員の定義:合同会社では、「社員」は出資者を指します。つまり、社員イコール従業員ではありません。

所有と経営の一致:出資者全員が社員となり、会社の経営に参加します。

平等な決定権:出資額に関わらず、全社員が平等に会社の意思決定に関与できます。

有限責任:全社員が有限責任を負います。つまり、出資額を超える責任は負いません。

持分会社の概要

持分会社とは、会社の所有と経営が一致している会社形態を指します。具体的には以下の3種類があります。

合名会社

合資会社

合同会社

これらの会社では、株式会社の「株式」に相当するものを「持分」と呼びます。出資者の権利は持分として表現されます。

持分会社の中でも、合同会社は他の2つとは異なる特徴を持っています。特に、債権者に対する社員の責任範囲が異なります。

合名会社:全社員が無限責任

合資会社:一部の社員が無限責任、他の社員が有限責任

合同会社:全社員が有限責任

合同会社と株式会社の主な相違点

合同会社と株式会社には、いくつかの重要な違いがあります。

1. 所有と経営の関係

 o 合同会社:所有者(社員)と経営者が同一

 o 株式会社:所有者(株主)と経営者(代表取締役)が分離可能

2. 意思決定

 o 合同会社:原則として社員全員の合意が必要

 o 株式会社:株主総会や取締役会で決定

3. 出資者の責任

 o 合同会社:全社員が有限責任

 o 株式会社:株主が有限責任

4. 設立手続

 o 合同会社:比較的簡単で費用も低い

 o 株式会社:手続がやや複雑で費用も高い

5. 資金調達

 o 合同会社:株式発行ができないため、資金調達に制限がある

 o 株式会社:株式発行による資金調達が可能

これらの違いを理解することで、事業の目的や規模に応じて適切な会社形態を選択することができます。

合同会社の売却

合同会社のM&A(売却)は可能です。しかし、株式会社とは異なるスキームや手続が必要となるため、注意が必要です。合同会社の売却には一定の困難さがあり、その理由を理解することが重要です。

合同会社の売却が難しい理由

合同会社の売却が困難とされる主な理由は以下の通りです。

1. 全社員の同意が必要

合同会社の持分譲渡には、原則として全社員の同意が必要です。これは、株式会社が株主総会や取締役会の承認で株式譲渡ができるのとは大きく異なります。社員数が多い場合、全員の同意を得ることは容易ではありません。

2. 株式会社への組織変更の難しさ

合同会社を株式会社に組織変更すれば、株式譲渡による売却が可能になります。しかし、この組織変更自体に困難が伴います。 

 o 組織変更計画に全社員の同意が必要

 o 債権者への公告や催告に時間と手間がかかる これらの理由から、組織変更は社員が極めて少数の場合にのみ実現可能な選択肢となります。

3. 事業譲渡でも社員の同意が必要

事業譲渡は、合同会社のM&Aを進める際に比較的採用されやすいスキームです。しかし、これにも社員の過半数の同意が必要です。複数の社員がいる場合、社内の合意形成に時間を要することがあり、買い手側にとっては事業譲渡の実現可能性が不確実になる可能性があります。

4. 持分の評価の難しさ

合同会社の持分は、株式会社の株式と比べて評価が難しい場合があります。これは、合同会社の財務情報が株式会社ほど公開されていないことや、持分の流動性が低いことが理由として挙げられます。

5. 買い手側の懸念

合同会社は株式会社と比べて知名度や信用力が劣る場合があります。そのため、買い手側が合同会社の買収に慎重になる可能性があります。

これらの理由から、合同会社の売却は株式会社と比べて困難を伴うことがあります。しかし、適切な方法を選択し、慎重に進めることで、合同会社のM&Aも実現可能です。

合同会社の売却方法と手続

合同会社を売却する方法には、主に以下の4つがあります。それぞれの方法について、具体的な手続と注意点を説明します。


 

事業譲渡による売却

事業譲渡は、企業の一部または全部の事業を他の企業に譲渡する方法です。合同会社のM&Aにおいて、比較的採用されやすい手法です。

手続

1. 事業譲渡契約書の作成

2. 社員の過半数の同意を得る

3. 事業譲渡契約書の締結

4. 資産・負債の個別移転手続

注意点

個々の資産と負債の移転について、個別に手続が必要です。

複数の事業を譲渡する場合、手続が多くなり、時間と手間がかかります。

税理士、公認会計士、弁護士などの専門家のサポートを受けることが重要です。

持分譲渡による売却

持分譲渡は、保有している持分を第三者に譲渡する方法です。

手続

1. 持分譲渡契約書の作成

2. 譲渡する持分について、社員全員の承認を得る

3. 登記手続(業務執行社員や代表社員の変更がある場合)

注意点

全社員の同意が必要なため、社員数が多い場合は実現が難しくなります。

買い手が合同会社の持分を取得することに抵抗がある可能性があります。

組織変更後の株式譲渡

合同会社を株式会社に組織変更した後、保有する株式を買い手に譲渡する方法です。

手続

1. 組織変更計画の作成

2. 組織変更計画に対する全社員の同意

3. 官報への公告

4. 債権者への個別催告

5. 組織変更後の株式会社で代表取締役の選任

6. 登記手続

7. 株式譲渡

注意点

全社員の同意が必要なため、社員数が多い場合は実現が難しくなります。

組織変更から株式譲渡までの一連の手続に時間がかかります。

吸収合併による統合

 

吸収合併は、合併する会社のうち1社が存続会社となり、消滅する会社の権利義務のすべてを承継する方法です。

手続

1. 合併契約書の作成

2. 合併契約書に対する全社員の同意

3. 合併契約書の締結

4. 官報への公告

5. 債権者への個別催告

6. 登記手続

注意点

合同会社同士の吸収合併は可能ですが、買い手側が合同会社である必要があります。

全社員の同意が必要なため、社員数が多い場合は実現が難しくなります。

これらの方法のうち、どれを選択するかは、合同会社の状況や買い手の意向、売却の目的などによって異なります。専門家のアドバイスを受けながら、最適な方法を選択することが重要です。

合同会社の事業譲渡におけるメリットとデメリット

合同会社の売却方法の中でも、特に事業譲渡は比較的採用されやすい手法です。ここでは、合同会社が事業譲渡を行う際のメリットとデメリットについて詳しく説明します。

事業譲渡のメリット

1. 一部の事業のみ売却可能: 事業譲渡では、企業の一部の事業だけを売却することができます。これにより、非採算
               事業を手放して経営資源を採算性の高い事業に集中させることが可能になります。

2. 企業の存続が可能: 事業譲渡は企業全体の売却ではないため、売り手は経営権を維持したまま企業を存続させるこ
            とができます。これは、会社の歴史や信用を維持したい場合に有効です。

3. 戦略的な経営が可能: 事業の一部を譲渡することで得た利益を、残りの事業の強化や新規事業の立ち上げなどに活
             用できます。これにより、より戦略的な経営が可能になります。

4. 後継者問題の解決: 合同会社の社員が亡くなった場合、その社員の持分は相続されず消滅します。社員が一人の場
            合、会社自体が消滅する可能性がありますが、事前に第三者への事業譲渡を行っていれば、会
            社の継続と後継者問題の解決が可能になります。

5. 譲渡対象の選択が自由: 事業譲渡では、譲渡する資産、負債、契約などを細かく選択できます。これにより、買い
              手のニーズに合わせた柔軟な譲渡が可能になります。

事業譲渡のデメリット

1. 手続に時間がかかる: 事業譲渡では、譲渡する事業に関わるすべての契約について個別の同意が必要になります。
             これには債務者、取引先、従業員との契約も含まれます。複数の事業を譲渡する場合は特
             に、手続が多くなり時間がかかります。

2. 譲渡益に法人税が課される: 事業譲渡による利益には、法人税・地方法人税・法人住民税・事業税等が課税されま
                す。これらを合計すると、約30%の税金が課される可能性があります。

3. 競業避止義務の対象になる: 事業譲渡を行うと、売り手は競業避止義務の対象になります。競業避止期間は両社の
                協議によって決定されますが、最長で30年間に及ぶ可能性があります。これにより、
                譲渡後の事業展開に制限がかかる可能性があります。

4. 従業員の同意が必要: 事業譲渡に伴い従業員を転籍させる場合、各従業員の同意が必要になります。全従業員の同
             意を得るのは容易ではない場合があり、人材の確保に課題が生じる可能性があります。

5. のれん代の評価が難しい: 事業譲渡では、譲渡価額に含まれるのれん代(事業の将来性や信用力などの無形資産の
               価値)の評価が難しい場合があります。これにより、適正な譲渡価額の設定に時間がか
               かる可能性があります。

6. 契約の承継に関する問題: 取引先との契約を承継する際、相手方の同意が必要になります。長年の取引関係がある
               場合でも、新しい会社との取引に同意しない取引先が出る可能性があります。

これらのメリットとデメリットを十分に理解し、自社の状況に照らし合わせて検討することが重要です。また、専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることをお勧めします。

まとめ

合同会社のM&Aは可能ですが、その特徴ゆえに株式会社とは異なる手法や手続が必要になります。事業譲渡、持分譲渡、組織変更後の株式譲渡、吸収合併など、複数の選択肢がありますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。特に事業譲渡は比較的採用されやすい手法ですが、手続の複雑さや税金の問題など、慎重に検討すべき点があります。合同会社の売却を検討する際は、専門家のアドバイスを受けながら、自社の状況に最適な方法を選択することが重要です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

相続の教科書