秘密保持契約はM&Aの本格検討前に締結 記載内容のポイント


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M&A秘密保持契約とは?締結時期と確認ポイントを解説

M&A秘密保持契約は、会社売却の検討事実や財務資料、顧客情報、技術情報を守る最初の契約です。締結時期、秘密情報の定義、開示範囲、有効期間、返還・破棄、損害賠償まで、経営者が確認すべき点を解説します。

目次

  1. 秘密保持契約で守る情報と検討事実
  2. 契約を結ぶ相手と開示前の順番
  3. 秘密情報の範囲は広く例外は狭くする
  4. 条項ごとに見るNDAの確認ポイント
  5. 契約後に情報漏洩を防ぐ実務対応
  6. まとめ

秘密保持契約はM&Aの本格検討前に締結 記載内容のポイント

秘密保持契約で守る情報と検討事実

M&A(合併・買収)では、最初の打診段階では社名を伏せても、検討が進むと会社の中身をかなり詳しく見せることになります。決算書だけではありません。顧客、取引条件、技術情報、従業員の処遇、借入金、株主構成まで、外に出ると経営に影響する情報が含まれます。

この情報を守るために結ぶ契約が、秘密保持契約です。相手に開示した情報を第三者に漏らさないこと、M&Aの検討以外に使わないことを、書面で約束します。

NDA・CAは呼び名が違っても役割は同じ

秘密保持契約は、NDAやCAと呼ばれることがあります。NDAはNon-Disclosure Agreementの略で、CAはConfidentiality Agreementの略です。機密保持契約という名称が使われることもありますが、M&A実務ではいずれも「開示された情報を秘密として扱う契約」という意味で使われます。

名前の違いよりも大切なのは、中身です。秘密情報の範囲、開示できる相手、目的外利用の禁止、有効期間、破談時の返還・破棄が明確になっているかを確認します。

漏洩防止だけでなく目的外利用も防ぐ

秘密保持契約の目的は、単に情報を外へ漏らさないことだけではありません。開示した情報を、相手が別の目的に使うことも防ぎます。

たとえば、買い手候補が同業の場合、自社の顧客リスト、仕入条件、技術ノウハウ、価格表を見せることがあります。これらがM&Aの検討ではなく、営業活動や新規事業に使われると、自社の競争力が下がるおそれがあります。これは意外と多い落とし穴です。

そのため、契約書には「M&Aの検討目的に限って使用する」といった目的限定の条項を入れます。相手が誠実であっても、担当者が社内で資料を広く共有しすぎるとリスクは高まります。条文と運用の両方が必要です。

売却検討の事実そのものも秘密情報にする

M&Aでは、資料の中身だけでなく「会社売却を検討している」という事実そのものも守る必要があります。

この事実が従業員に早く伝わると、雇用不安から退職を考える人が出るかもしれません。取引先に伝わると、契約継続に不安を持たれることもあります。金融機関や仕入先に余計な心配を与えることもあるでしょう。

会社売却は、経営者にとって前向きな選択である一方、周囲の受け止め方は必ずしも同じではありません。だからこそ、検討事実も秘密情報に含める設計が重要です。

契約を結ぶ相手と開示前の順番

秘密保持契約は、情報を渡した後に結ぶものではありません。情報を渡す前に結ぶものです。順番が逆になると、すでに開示した情報を十分に守れない可能性があります。

M&Aでは、最初にノンネームシートという匿名資料で買い手候補の関心を確認します。業種、地域、売上規模、利益水準などをぼかして示し、社名を伏せたまま検討してもらう資料です。その後、相手が前向きであれば、社名や詳しい財務資料を含む企業概要書を開示します。

秘密保持契約を結ぶべきなのは、この本格的な情報開示の前です。

ノンネームの次に実名を出す前に締結する

買い手候補に実名を開示する前には、原則として秘密保持契約を締結します。企業概要書、決算書、月次試算表、主要取引先の情報、人員構成などを渡す段階では、すでに機密性の高い資料が動きます。

ここで「相手が興味を持ってくれるか分からないから、少しだけ先に見せる」という進め方をすると危険です。一度資料を出してしまうと、後から契約を求めても相手が応じないことがあります。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。

短い資料でも、社名が入っているなら慎重に扱うべきです。

仲介会社・専門家・買い手候補ごとに確認する

秘密保持契約は、買い手候補とだけ結ぶとは限りません。仲介会社、FA、弁護士、公認会計士、税理士など、M&Aに関わる専門家との間でも必要になることがあります。

仲介会社と契約する場合、仲介契約やアドバイザリー契約の中に秘密保持条項が入っていることもあります。この場合は、別紙のNDAがなくても、契約書全体として秘密保持義務が定められているかを確認します。

売り手側で見落としやすい順番

売り手側で特に注意したいのは、資料開示の順番です。最初の面談で詳しい数字を話しすぎると、契約書がないまま重要情報を渡したのと同じ状態になります。

資料を渡す前の確認

決算書、試算表、顧客別売上、契約書の写しなどは、秘密保持契約を結んでから渡すのが基本です。従業員名簿や個人顧客情報のように個人情報を含む資料は、さらに慎重に扱います。初期段階では氏名を伏せる、人数や年齢層だけにする、必要な項目だけに絞るなど、匿名化や集計化を優先します。

相手の担当者を増やす前の確認

買い手候補の社内で検討者が増える場合も、開示範囲を確認します。役員だけなのか、経営企画部門までよいのか、外部専門家まで含むのか。契約書に書かれていないまま広がると、情報管理が難しくなります。

片務型より双務型が合う場面も多い

秘密保持契約には、片方だけが義務を負う片務型と、双方が義務を負う双務型があります。売り手だけが情報を出すように見えても、買い手候補から買収方針、資金調達、統合方針などの情報が出ることもあります。

そのため、M&Aでは双方が署名し、相互に秘密保持義務を負う形が使われることがあります。形式だけで優劣が決まるわけではありませんが、情報が双方向に流れる場合は、双務型のほうが実態に合いやすいです。

秘密情報の範囲は広く例外は狭くする

秘密保持契約で最も重要な条項の一つが、秘密情報の定義です。ここが狭すぎると、本当に守りたい情報が契約の対象から外れてしまいます。

売り手側では「秘密」と明記した資料だけを対象にすれば十分だと思いがちです。しかし、M&Aの初期検討では、口頭説明やオンライン会議で重要情報が出ることがあります。社長が何気なく話した主要取引先との単価、粗利率、退職予定者の話も、相手にとっては大きな情報です。

財務・顧客・技術・人事情報をまとめて対象にする

秘密情報には、財務データ、顧客リスト、取引先との契約条件、技術情報、ノウハウ、従業員情報、役員報酬、借入金、株主情報などを含めます。会社売却では、企業価値を判断するために幅広い資料を見せるからです。

ただし、個人情報を含む資料は、秘密保持契約だけで十分とは限りません。一般に、個人データを第三者へ提供する場合は、本人同意や提供記録などの確認が必要になることがあります。M&Aでは事業承継に伴う例外や実務上の扱いもありますが、初期検討では個人が特定されない形に加工してから開示するのが安全です。

また、検討事実そのものも秘密情報に含めるのが望ましいです。「社名は出していないから問題ない」と考えても、地域、業種、規模、特殊な取引先の情報から会社が推測されることがあります。

口頭情報と電子データの扱い

契約書では、書面、メール、PDF、クラウド上のデータ、口頭説明など、媒体を問わず秘密情報に含める形が実務上は使いやすいです。

ただし、口頭情報をすべて対象にすると受け手側の管理負担が重くなるため、「口頭で開示した情報は、後日一定期間内に書面やメールで秘密情報として特定する」といった定め方もあります。どちらがよいかは、相手との交渉力や開示する情報の重要度によって変わります。

秘密情報から外す情報を明確にする

秘密保持契約では、すべての情報を無制限に秘密扱いするわけではありません。すでに公知の情報、受領前から相手が持っていた情報、正当な第三者から受け取った情報、相手が独自に開発した情報などは、除外されることがあります。

ここで重要なのは、除外事由を広げすぎないことです。たとえば「相手が以前から知っていた情報」を広く認めると、後で争いになったときに、何が契約対象だったのか分かりにくくなります。除外するなら、相手がそれを証明できる形にしておくと安心です。

開示対象者は必要な人に限る

M&Aでは、買い手候補の役員、経営企画担当者、外部の弁護士、公認会計士、税理士などが情報を見ることがあります。ここで「関係者」とだけ書くと、範囲が広くなりすぎます。

契約書では、M&Aの検討に必要な役員・従業員・外部専門家に限るなど、開示できる相手を明確にします。さらに、その開示先にも同等の秘密保持義務を負わせることが大切です。情報は一度広がると回収できません。

条項ごとに見るNDAの確認ポイント

秘密保持契約は、ひな形をそのまま使えばよい契約ではありません。ひな形自体は便利ですが、自社の状況、相手との関係、開示する情報の重さに合わせて確認する必要があります。

特に会社売却では、相手が同業かどうか、従業員情報をどこまで出すか、破談時に資料をどう処理するかが重要です。ここを曖昧にしたまま進めると、成約しなかった場合のリスクが残ります。

目的外利用禁止と直接接触の制限

目的外利用の禁止とは、開示された情報をM&Aの検討以外に使わないという約束です。顧客情報を営業に使わない、技術情報を自社製品に流用しない、従業員情報を採用活動に使わない、といった意味を含みます。

また、仲介会社やアドバイザーを通じて交渉している場合、相手が自社の従業員、取引先、金融機関などへ無断で接触しないように制限する条項を置くことがあります。これは交渉の混乱を避けるためです。

直接接触の禁止は、強くしすぎると必要な確認まで止まることがあります。誰への接触を禁止するのか、事前承諾があればよいのか、実務で動ける形にしておくことが大切です。

返還・破棄と破談後の管理

M&Aが成立しなかった場合、開示した資料を返還または破棄してもらう条項が必要です。紙の資料だけでなく、PDF、Excel、メール添付、クラウド上のデータ、社内共有フォルダのコピーも対象になります。

「破棄する」と書くだけでは足りないことがあります。複製物も含むのか、バックアップデータはどう扱うのか、破棄したことを証明する書面を求めるのか。細かく見えますが、実務ではここが重要です。

破談後は、相手の関心がなくなっているため、情報管理の優先順位が下がりやすくなります。契約書で返還・破棄の手続を決めておく意味は大きいです。

有効期間・損害賠償・差止請求

秘密保持契約には有効期間を定めます。一般には1〜3年程度で設定されることがありますが、情報の性質によって調整が必要です。技術情報や顧客情報のように長く価値を持つ情報であれば、短すぎる期間は売り手に不利になることがあります。

契約違反があった場合には、損害賠償を請求できる条項を入れます。さらに、情報の利用停止や開示停止を求める差止請求についても、契約上の根拠を確認します。差止請求とは、漏洩や不正利用を止めるよう求める手続です。

1〜3年が目安でも内容で調整する

「一般的な期間だから」という理由だけで決めるのは避けたいところです。交渉期間が長引く可能性、開示する情報の重要性、相手が同業かどうか、破談時の影響を踏まえて調整します。

契約期間が終わっても、秘密保持義務だけは一定期間残す存続条項を置くことがあります。契約終了と同時に守秘義務まで消えると、売り手側のリスクが大きくなるためです。

準拠法と管轄裁判所も最後に確認する

国内M&Aでは、日本法を準拠法とするのが通常です。管轄裁判所は、トラブルが起きた場合にどこの裁判所で争うかを決める条項です。

中小企業のM&Aでは、この条項を見落とすことがあります。実際に裁判になる可能性は高くなくても、自社から遠い裁判所が指定されていると負担が増えます。最後の一般条項だからと読み飛ばさず、違和感がないか確認しましょう。

契約後に情報漏洩を防ぐ実務対応

秘密保持契約を結んでも、それだけで情報が守られるわけではありません。契約書は土台です。実際に情報を守るのは、誰に、いつ、どの資料を、どの方法で共有するかという運用です。

会社売却では、情報を出さなければ買い手は判断できません。一方で、出しすぎるとリスクが高まります。このバランスを取ることが、M&A実務の難しいところです。

社内共有は人数と時期を絞る

売り手側では、社内の誰にM&A検討を伝えるかを慎重に決めます。経理責任者や一部の幹部に協力を求めることはありますが、早すぎる共有は従業員の不安につながります。

親族や役員への共有も同じです。悪意がなくても、何気ない会話から外部に伝わることがあります。こういうケースは珍しくありません。必要な人に、必要な時期に、必要な範囲だけ伝えるのが基本です。

買い手側でも、社内共有の範囲を限定します。検討メンバーを明確にし、資料を転送できる範囲を絞り、クラウド共有の権限を管理します。印刷やダウンロードの可否も確認しておくと、情報の拡散を抑えやすくなります。

同業の買い手候補には段階開示を徹底する

1〜3年が目安でも内容で調整する

買い手候補が同業の場合は、段階開示が特に重要です。最初から顧客名、価格表、主要仕入先、製造方法をすべて出す必要はありません。

初期段階では概要にとどめ、関心度が高まり、秘密保持契約の内容を確認したうえで、徐々に詳しい資料を開示します。デューデリジェンスの段階でも、資料ごとに開示の順番を決めることがあります。

M&Aは相手を信用して進める取引ですが、信用だけに頼ると危険です。条文、開示範囲、資料管理を組み合わせて守る姿勢が必要です。

相手からドラフトが届いたときの見方

相手方から秘密保持契約書のドラフトが届いた場合、立場によって見るべき点が変わります。売り手側なら、秘密情報の範囲が狭くなっていないか、目的外利用が十分に禁止されているか、返還・破棄が明確かを確認します。

買い手側なら、通常の検討に必要な社内共有や専門家への開示まで過度に制限されていないかを確認します。秘密保持義務は重要ですが、実務上必要な検討ができないほど厳しいと、交渉が進みにくくなります。

売り手と買い手で気を付ける点

売り手は、情報を守る側として広めの保護を求めます。買い手は、検討に必要な範囲で使えるようにします。双方の目的は対立するように見えますが、M&Aを安全に進めるためには、どちらにも納得できる線を探す必要があります。

特に気になる条項がある場合は、開示する資料の種類、相手が同業かどうか、外部専門家の関与、破談時の手続を整理してから確認すると、修正すべき箇所が見えやすくなります。

まとめ

秘密保持契約は、M&Aの資料開示を安全に進めるための入口です。財務、顧客、技術、人事、検討事実を守るには、実名開示や企業概要書の前に締結し、秘密情報の範囲、開示対象者、目的外利用、返還・破棄、有効期間を具体的に決める必要があります。条文だけでなく、社内共有や段階開示まで管理して進めることが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

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