会社の休業・休眠について詳しく解説します。廃業との違い、メリットとデメリット、手続の流れや必要な費用まで、経営者が知っておくべき情報をわかりやすくまとめました。
目次:
会社の休業または休眠とは、企業が法人格を維持したまま、一時的に事業活動を停止する状態を指します。この状態では、会社は登記簿上に存続しているものの、実質的な経営活動は行われません。
休業・休眠の状態の特徴
1. 事業活動の一時停止:現行のすべての経営活動が停止されます。
2. 法人格の維持:会社は法的に存続し続けます。
3. 再開の容易さ:将来的に事業を再開する際、手続が比較的スムーズに進められます。
休業が適切な選択肢となるケースには、以下のような状況が考えられます:
• 経営者の高齢化や病気により事業継続が困難になった場合
• 事業再生のための時間確保が必要な場合
• 廃業に向けた準備期間を設けたい場合
休業として扱われる条件は、主に以下の2点です:
1. 最後の登記から12年以上が経過している(株式会社の場合)
2. 税務署で休業手続が完了している
株式会社の場合、最後の登記から12年間何も手続を行わないと、自動的に休業扱いとなります。一方、有限会社や合同会社では、法律上任期が定められていないため、最終登記から12年が経過しても自動的に休眠会社となることはありません。
なお、12年を待たずとも、自ら税務署へ届け出を行い手続を完了することで、休業が認められます。この方法により、企業は迅速に休業状態に移行することができます。
▶目次ページ:事業承継とは(会社の廃業と解散・清算)
休業・休眠と廃業は、いずれも会社の事業活動を停止させる選択肢ですが、その性質や影響には重要な違いがあります。これらの違いを理解することは、経営判断を行う上で非常に重要です。
主な相違点は以下の通りです:
1. 会社の存続
• 休業・休眠:会社は法的に存続し続けます。
• 廃業:会社は完全に消滅します。
2. 事業活動の停止期間
• 休業・休眠:一時的な停止を意味し、再開の可能性を残します。
• 廃業:永久的な停止を意味し、再開の余地はありません。
3. 再開のしやすさ
• 休業・休眠:比較的容易に事業を再開できます。
• 廃業:再開には新会社の設立が必要となり、手続が複雑です。
4. 許認可の維持
• 休業・休眠:既存の許認可は維持されます。
• 廃業:すべての許認可が失効します。
5. 費用面
• 休業・休眠:維持費用は発生しますが、再開時の費用は比較的少額です。
• 廃業:清算手続に費用がかかり、再開時には新規設立の費用が必要です。
6. 法的義務
• 休業・休眠:税務申告や役員変更登記などの義務が継続します。
• 廃業:清算手続完了後は、法的義務がなくなります。
休業・休眠を選択する場合、事業再開の可能性を残しつつ、一時的に経営活動を停止することができます。これは、将来的な事業再開を視野に入れている場合や、一時的な経営難を乗り越えるための時間が必要な場合に適しています。
一方、廃業を選択する場合は、完全に事業を終了し、新たなスタートを切ることができます。これは、全く新しい事業に取り組みたい場合や、債務整理を含めた完全な事業終了が必要な場合に適しています。
会社を休業または休眠状態にすることには、いくつかの重要なメリットがあります。特に、業績低迷時や後継者未定の状況下で、一時的に時間を確保したい場合に有効な選択肢となります。以下、主要な3つのメリットについて詳しく説明します。
休業を選択することで、将来的な事業再開に向けて高い柔軟性を維持することができます。
• 即時再開が可能:休業中も会社は登記簿上で存続しているため、事業再開の決断後、すぐに活動を再開できます。
• 簡素な再開手続:再開時には、自治体や税務署、年金事務所へ再開の意思を伝える書類を提出し、確定申告を行う
だけで済みます。
• 状況に応じた判断:市場環境や経営状況の変化に応じて、柔軟に再開のタイミングを選択できます。
この柔軟性により、経営者は将来の不確実性に対して、より戦略的に対応することが可能になります。
休業中も既存の許認可を維持できることは、大きなメリットの一つです。
• 許認可の継続:休業前に取得していた許認可は、休業期間中も有効です。
• 再取得の手間削減:廃業した場合に必要となる許認可の再取得手続が不要です。
• 時間とコストの節約:許認可の再取得にかかる時間的・金銭的コストを回避できます。
これにより、特定の業種や事業形態において重要な許認可を失うリスクを軽減し、将来の事業再開をよりスムーズに進めることができます。
休業を選択することで、廃業と比較して費用面でのメリットがあります。
1. 登記費用の節約:廃業時に必要な解散登記、清算人選任登記、決算結了登記の費用(各約4万円)が不要です。
2.公告費用の回避:官報への公告掲載費用(約3万~4万円)が発生しません。
3.税金面での優遇:
• 法人税・法人事業税・消費税:休業中は所得がないため、これらの税金支払いが不要です。
• 法人住民税の均等割:一部の自治体では免除される可能性があります(ただし、自治体によって異なるため
要確認)。
これらの費用削減効果により、企業の財務負担を軽減しつつ、将来の事業再開に向けたリソースを確保することができます。
会社の休業・休眠には多くのメリットがありますが、同時にいくつかの重要なデメリットも存在します。これらのデメリットを理解し、慎重に検討することが、適切な意思決定につながります。主な3つのデメリットについて、詳しく解説します。
休業中であっても、会社は法人として存続するため、一定の税務上の義務が継続します。
• 法人税:休業中は所得が発生しないため、法人税の負担は基本的にありませんが、申告義務は続きます。
• 法人住民税の均等割:所得の有無にかかわらず、納税が求められます。ただし、都道府県税事務所・市区町村役場
に異動届出書を提出することで、免除される場合があります(自治体により異なるため要確認)。
• 固定資産税:会社が固定資産を保有している場合、休業中も納税義務が継続します。
これらの税務申告義務を怠ると、法的なペナルティを受ける可能性があるため、注意が必要です。
休業中も会社が存続している以上、役員に関する法的義務は継続します。
• 役員任期の管理:特に株式会社の場合、役員の任期は最長で10年と定められています。
• 変更登記の必要性:役員の任期満了や変更があった場合、休業中であっても2週間以内に変更登記を行う必要があ
ります。
• ペナルティのリスク:期限内に手続を行わない場合、会社法により過料が課される可能性があります。
この義務を適切に果たすためには、役員の任期や変更に関する情報を常に把握し、必要な手続を適時に行う必要があります。
特に株式会社の場合、長期間の休業は「みなし解散」というリスクをもたらします。
• 12年ルール:株式会社において、最終登記から12年以上経過すると、事業活動がないものとして「みなし解散」
の対象となる可能性があります。
• 再開の困難さ:みなし解散状態になると、企業活動の再開に向けて複雑な手続が必要になります。
• 法務局の整理作業:法務局は定期的に休眠会社の整理を行い、対象企業には官報公告の通知が届くことがありま
す。
みなし解散を避けるためには、以下の対応が必要です:
1. 通知受領後2ヶ月以内に登記申請を行う。
2. または「廃業していない」旨の届け出を行う。
なお、みなし解散後でも、解散後3年以内であれば、株主総会などの特別決議を経て会社を継続させることは可能です。
会社を休業状態にする際には、適切な手続を踏むことが重要です。ここでは、休業に関する一連の流れと具体的な方法について詳しく解説します。
休業への第一歩は、事業の停止です。これは単なる営業活動の中断ではなく、会社としての収支がゼロになる状態を指します。
1. 事業停止の定義:
• 収入も支出もない状態を指します。
ただし、電話応対や郵便物の取り扱いがある場合、事業停止とみなされない可能性があるので注意が必要です。
2. 事業停止の検討ポイント:
• 財務状況の精査:現在の資産と負債の状況を把握します。
• 従業員への対応:休業に伴う雇用問題を整理します。
• 取引先との調整:ongoing の契約や取引の扱いを決定します。
3. 事業停止の実施:
• 計画的な事業縮小:段階的に事業活動を縮小していきます。
• 資産の整理:不要な資産の処分や保管を行います。
• 債権・債務の整理:未回収の債権や未払いの債務を清算します。
事業停止後、各関係機関に休業届を提出する必要があります。この手続は休業を正式に認めてもらうために不可欠です。
1. 税務署への提出:
• 異動届出書の作成:所定の用紙(税務署備え付けまたは国税庁ホームページからダウンロード)に必要事項を
記入します。
• 記載内容:「異動事項等」欄に「休業」、「異動年月日」欄に休業開始日を記入します。
2. 都道府県税事務所・市区町村役場への提出:
• 異動届出書の作成:自治体ごとに様式が異なるため、事前に確認が必要です。
• 記載内容:休業する旨と休業開始日を明記します。
3. その他の提出先と提出書類:
• 労働基準監督署:労働保険確定保険料申告書
• ハローワーク:雇用保険適用事業所廃止届、資格喪失届
• 年金事務所:健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届、資格喪失届
4. 提出時の注意点:
• 期限の遵守:各機関が定める提出期限を厳守します。
• 添付書類の確認:必要に応じて添付書類を用意します。
• 控えの保管:後日の確認のため、提出書類の控えを保管します。
休業届が受理されたら、会社は正式に休業状態となります。しかし、これで全ての手続が終わるわけではありません。
1. 会社の状態:
• 登記簿上は存続:会社は法的に存続しているため、登記簿上は変更がありません。
• 事業活動の停止:実質的な事業活動は行われない状態となります。
2. 継続的な義務:
• 役員変更登記:役員の任期満了や変更があった場合、2週間以内に変更登記を行う必要があります。
• 税務申告:所得がなくても、確定申告は毎年行う必要があります。
3. みなし解散への注意:
• 12年ルール:最終登記から12年以上手続を行わないと、解散したとみなされる可能性があります。
• 対応策:定期的に何らかの登記を行うか、「廃業していない」旨の届け出を行います。
4. 再開に向けた準備:
• 市場動向の把握:事業再開のタイミングを見極めるため、市場の状況を継続的に観察します。
• 再開計画の策定:具体的な再開時期や方法について、計画を立てておきます。
会社を休業状態にする際には、一定の費用が発生します。ここでは、休業に関連する費用について詳しく解説し、経営者の皆様が適切な財務計画を立てる際の参考としていただければと思います。
1. 休業手続に関する費用:
• 自己で手続を行う場合: 基本的に、各機関への書類作成や提出を自分で行う場合、手続にかかる直接的な費用
は発生しません。
• 専門家に依頼する場合: 休業届の作成や提出、役員変更登記などを専門家(税理士や司法書士など)に依頼す
る場合は、相談料や手続代行費用が発生します。費用は専門家によって異なりますので、事前に確認すること
をおすすめします。
2. 継続的に発生する費用:
• 法人住民税の均等割: 休業中も法人格が存続する限り、原則として納税義務があります。ただし、自治体によ
っては免除される場合もあるので、確認が必要です。
• 固定資産税: 会社が固定資産を保有している場合、休業中も課税対象となります。
3. 従業員に関する費用:
• 休業手当: 会社都合で休業する場合、従業員に対して休業手当を支払う必要があります。これは平均賃金の
60%以上と定められています。
• 社会保険料: 従業員を休職扱いにする場合、社会保険料の事業主負担分は継続して発生します。
4. 事務所や設備の維持費:
• 賃貸物件の家賃: 事務所を借りている場合、休業中も賃貸契約が継続していれば家賃は発生します。
• 光熱費・通信費: 最小限に抑えられますが、完全にゼロにはならない可能性があります。
5. 再開に向けた準備費用:
• 市場調査費用: 事業再開のタイミングを見極めるための調査費用が必要になる場合があります。
• 設備メンテナンス費: 長期休業後の再開に備え、設備のメンテナンスが必要になることがあります。
6. 予期せぬ費用への備え:
• 法的対応の費用: 休業中に発生する可能性のある法的問題に対応するための費用を考慮しておくことも重要で
す。
休業に伴う費用は、会社の規模や状況によって大きく異なります。そのため、休業を検討する際には、これらの費用を詳細に試算し、十分な資金的余裕を持って休業に入ることが重要です。
また、休業中の費用を最小限に抑えるための工夫も必要です。例えば、不要な契約の解除や、固定費の見直しなどを行うことで、休業期間中の財務負担を軽減することができます。
さらに、休業期間中の資金繰りについても事前に計画を立てておくことが大切です。場合によっては、金融機関との交渉や資金調達の検討も必要になるかもしれません。
会社の休業・休眠は、事業活動を一時的に停止しつつ法人格を維持する選択肢です。この選択には、事業再開の柔軟性や許認可の維持などのメリットがある一方で、継続的な税務申告義務や役員変更登記の必要性などのデメリットも存在します。休業を検討する際は、手続の流れや発生する費用を十分に理解し、専門家のアドバイスを得ながら慎重に判断することが重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事