株式の無償譲渡のメリット・デメリット!留意点・税金面を解説

親族への株式譲渡では、時折、無償で株式譲渡を行うケースも見られます。この記事では、事業承継手法のひとつである株式の無償譲渡を検討している方に向け、そのメリット・デメリットや注意点について詳しく解説いたします。税金や手続きの流れにも触れるので、無償譲渡を検討中の方はぜひ参考にしてください。

目次

  1. 株式の無償譲渡とは
  2. 無償譲渡のメリット
  3. 無償譲渡の行うデメリット
  4. 無償譲渡の留意点
  5. 無償譲渡で発生する税金
  6. 事業承継税制が適用できる
  7. 株式の無償譲渡の手続
  8. 株式の無償譲渡まとめ

株式の無償譲渡とは

株式譲渡には、「有償」と「無償」の2種類が存在します。「有償」譲渡とは、対価を受け取りながら株式を譲渡するタイプであり、M&A手法として一般的に行われています。多くの場合、現金による対価が支払われることが特徴です。

一方、「無償」譲渡とは、対価を受け取らずに株式を譲渡するタイプで、子どもや親族などへの事業承継で利用されることが多いです。対価が発生しないため、買い手が金銭的な負担を抱えることなくM&Aを進められます。有償譲渡と無償譲渡の最大の違いは、税金面での負担の違いです。

無償譲渡のメリット

無償で株式譲渡を行う場合のメリットを2つご紹介します。

手続きが簡素

無償で株式譲渡を行う場合、手続きが簡素であることがメリットのひとつです。株式譲渡はもともと、会社の資産・負債について個別の手続きが不要であるため、スムーズに譲渡が進められます。特に無償譲渡の場合、有償譲渡よりも手続きがさらに簡略化されるため、時間や手間がかからずに済みます。

事業を存続しながら手続が可能

無償で株式譲渡を行うもうひとつのメリットは、事業が存続しながら手続きが進められることです。株式譲渡は、株式が売り手から買い手へ移動するだけの手続きのため、従業員や取引先から個別に承諾を得る必要がありません。

さらに、事業譲渡などと違い、組織内での再編が発生しないため、通常の事業運営を続けながら手続きを進めることが可能です。

無償譲渡のデメリット

無償で株式譲渡を行う場合、売り手は本来得られる利益を放棄することになり、この点が最も直接的なデメリットと言えます。また、無償譲渡では金銭面でのマイナスはないと考えられがちですが、手続きを進める上で企業価値の算出が必要になり、その費用が発生します。この点もデメリットのひとつです。

さらに、買い手は資産だけでなく負債も引き継ぐリスクがあります。譲渡を受ける側としては、相手方がどのような負債を抱えているのかを入念に調査しておくことが重要です。

無償譲渡の留意点

この記事では、無償で株式を譲渡する際に注意すべきポイントを詳しく説明いたします。

株式譲渡契約書を絶対に作成する

無償株式譲渡の際には、株式譲渡契約書を作成し交わすことが重要です。たしかに、契約書がなくても株式の譲渡は可能ですが、親族間を含むトラブルが生じることが十分に考えられます。そのため、後のトラブルを避けるために必ず契約書を作成し、締結することが望ましいです。

株式譲渡契約書の内容

株式譲渡契約書には、以下の情報を明確に記載しておくことが好ましいです。

• 株式が無償で譲渡されること

• 承認が得られるまで譲渡者が譲受者以外に株式を譲渡しないこと

• 株式無償譲渡の後に株主名簿を書き換えること

契約締結日、双方の住所・氏名、無償で譲渡する株式の数を記載することも必要です。これらの内容を含む通常A4サイズ1枚程度の書類が株式譲渡契約書となります。

税金が発生する

無償株式譲渡の注意点として、手続き自体に費用はかかりませんが、税金が発生することを認識しておくことが重要です。「無償だから税金はかからない」と誤解する方もいらっしゃるでしょうが、実際には税金は発生することがあります。どのような税金がかかるかは、売り手・譲渡先が個人であるか法人であるかによって異なります。無償で株式譲渡を行う際に発生する税金の詳細に関しては後ほどご説明いたします。

契約内容を慎重にチェック

無償株式譲渡の際には、契約内容を徹底的に精査することが大切です。有償株式譲渡と同様に、公的な手続きや届出が必要でないため、すべては自己責任となります。自分たちだけで進めるのが不安な場合には、専門家の支援を利用すると安心です。M&Aの専門家に依頼すれば、手続きを進める際の漏れや抜けを防ぎつつスムーズに手続きが進められるでしょう。

無償譲渡で発生する税金

売り手・譲渡先がそれぞれ個人であるか法人であるかによって課税される税金が異なります。それぞれの課税状況は次のようになります。

• 個人から個人:売り手は課税なし、買い手は贈与税

• 個人から法人:売り手はみなし譲渡所得税、買い手は法人税

• 法人から個人:売り手は法人税、買い手は所得税

• 法人から法人:売り手は法人税、買い手は法人税

以下のセクションでは、それぞれのケースについて詳細に解説していきます。

個人から個人への無償譲渡

個人同士で無償の株式譲渡を行う場合、次のような税金がかかります。

• 売り手:利益が発生していないため、税金は課されません。

• 買い手:贈与税が発生します。譲渡された株式の価格から、贈与税の基礎控除額110万円を引いた額に課税されます。

買い手の贈与税は累進課税制度を採用しているため、株式の時価が高いほど税負担が大きくなります。専門家に相談して贈与税対策を立てることがおすすめです。

個人から法人への無償譲渡

個人から法人へ無償で株式を譲渡する場合、次のような税金がかかります。

• 売り手:みなし譲渡所得税が発生します。譲渡した株式は時価で売却したと見なされ、譲渡所得税20.315%が課税されます。

• 買い手:株式の「時価取得」として受贈益が認められ、法人税が発生します。

法人から個人への無償譲渡

法人から個人へ無償で株式を譲渡する場合、次のような税金がかかります。

• 売り手:法人税が発生します。売り手と買い手に雇用関係がある場合は賞与として、そうでない場合は寄付金として扱われます。

• 買い手:所得税が発生します。雇用関係がある場合は給与所得、ない場合は一時所得として扱われます。

法人から法人への無償譲渡

法人から法人へ無償で株式を譲渡する場合、次のような税金がかかります。

• 売り手には法人税が発生します。

• 買い手には個人から法人への譲渡と同様に、株式を時価で取得したとして受贈益が認められ、法人税が発生します。

事業承継税制が適用できる

事業承継に伴う無償の株式譲渡に適用される「事業承継税制」という贈与税の特例制度があります。2018年の税制改正以降、この制度によって自社株の引き継ぎ時の税負担を実質ゼロにすることが可能です。適用を受けるためには、2024年3月31日までに都道府県知事に特例承継計画を提出し、認定を受ける必要があります。

特例承継計画の作成には経営革新等支援機関のアドバイスを受ける必要があるため、専門家のサポートが欠かせません。

参考:事業承継税制特集|国税庁

株式の無償譲渡の手続

無償で株式を譲渡する際に必要な手続きや方法について詳しく説明いたします。

株式譲渡承認の請求

無償で株式を譲渡する際の最初のステップとして、株式譲渡承認の請求を行います。請求は、株式譲渡承認請求書を会社に提出することで手続きが進みます。上場企業の株式は自由に売買が可能ですが、非上場企業では会社の承認が必要となるため、この点を事前に把握しておきましょう。

株主総会や取締役会で譲渡を承認

株式譲渡承認の請求が行われた後、株主総会または取締役会で譲渡に関する審議が行われます。取締役会設置企業では取締役会において、取締役会非設置企業では臨時株主総会において、株式譲渡の承認決議を行います。臨時株主総会を開催する場合には、全ての株主に対して開催通知書を送付する必要があります。

株主総会や取締役会において、承認が口頭で行われることがないよう、必ず議事録を作成しましょう。全ての手続きにおいて、トラブルを防止するためにも、厳密に手続きを進めることが求められます。

決議内容を譲渡を希望する株主に通知

株主総会や取締役会で株式譲渡の承認がなされた後、譲渡を希望する株主に対して決議内容を通知します。請求があった日から2週間以内に通知を行うことが求められています。

株式譲渡契約書を締結

決議内容の通知が行われた後、無償株式譲渡契約書を作成し、譲渡者と譲受者双方が署名・捺印を行います。署名捺印の際には、契約書の内容に不備がないか注意深く確認しましょう。特に、無償で株式譲渡を行うことや、株主名簿の名義書き換え請求を行う旨が明記されているかどうかをチェックしてください。

株主名簿の書換

無償株式譲渡契約書が交わされた後、株主名簿の名義書き換えを行います。会社に対し、株主名簿の名義書き換え請求を行いましょう。株主名簿の書き換えが完了することで、株式譲渡の効力が発生します。もし会社がまだ株主名簿を作成していない場合には、この機会に作成することをお勧めします。

株式の無償譲渡まとめ

無償で株式を譲渡する際には、手続きや方法について十分な理解が必要です。もし、どのように進めるべきか迷った場合には、専門家に相談することも一つの方法となります。手続きの流れや注意点をしっかりと理解し、無事に株式の無償譲渡を達成しましょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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