株式の無償譲渡のメリット・デメリット!留意点を解説

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株式無償譲渡の税金と手続|事業承継で失敗しない判断軸

株式の無償譲渡は、後継者に買い取り資金がなくても経営権を移せる一方、時価を基準に贈与税、所得税、法人税が生じる場合があります。当事者の組み合わせ別の税務、非上場株式の評価、会社法上の手続、事業承継税制、第三者承継との比較まで経営者向けに解説します。

目次

  1. 株式無償譲渡を選ぶ前に整理する3つの前提
  2. 対価ゼロでも税金が発生する仕組み
  3. 当事者の組み合わせで変わる4つの課税関係
  4. 株式無償譲渡が向く場面と失いやすい利益
  5. 親族への無償譲渡で相続トラブルを防ぐ視点
  6. 事業承継税制は猶予後の管理まで見て判断する
  7. 株式無償譲渡を実行する5つの手順
  8. 第三者承継と比較して承継方法を決める
  9. まとめ

株式無償譲渡の注意点と税務リスク対策を解説

株式無償譲渡を選ぶ前に整理する3つの前提

株式無償譲渡とは、株主が対価を受け取らずに、保有する株式を他の個人や法人へ移すことです。親から子への贈与だけでなく、従業員への承継、関係会社への移転、経営不振会社を第三者へ引き継ぐ場面でも検討されます。

ただし、判断の出発点は「無料で渡せるか」ではありません。誰から誰へ渡すのか、株式の時価はいくらか、何のために移すのか。この3点を先に整理する必要があります。

譲渡する側と受け取る側が個人か法人か

税金は当事者の組み合わせによって変わります。

個人間なら、受け取る側の贈与税が中心です。法人が関わると、譲渡所得税、法人税、給与所得などが同時に問題になることもあります。相手が親族だから、同族会社だからという理由だけでは、税務上の結論を出せません。

黒字・赤字だけで株価を判断しない

赤字だから株価はゼロだろう。そう考えて無償譲渡を進めるのは危険です。

過去の利益の蓄積、不動産や有価証券の含み益、会社規模、取得する人の議決権割合などによって、税務上の評価額が残ることがあります。反対に、債務超過でも、取引先、人材、技術、許認可などに事業価値があれば、第三者承継の候補になり得ます。

親族承継・従業員承継・会社整理で目的が異なる

親族内承継では、後継者の納税資金と相続人間の公平が課題になります。従業員承継では、株式を受け取ることによる税負担に加え、経営責任や個人保証まで引き受けられるかを確認しなければなりません。

会社整理を目的とする第三者への無償譲渡では、借入金や簿外債務を含め、何を引き継ぐかが重要です。目的が違えば、必要な調査や契約内容も変わります。

対価ゼロでも税金が発生する仕組み

無償譲渡で多い誤解が、「お金が動かないので税金もかからない」というものです。

税務では、株式という財産が移ったこと自体に経済的な利益があると考えます。そのため、実際の支払額がゼロでも、原則として時価を基準に課税関係を判定します。

非上場株式には市場価格がない

中小企業の株式は証券市場で売買されていないため、上場株式のような明確な価格がありません。贈与税の計算では、会社規模や株主の立場に応じ、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などを使います。

類似業種比準方式は、同業の上場会社と利益や純資産などを比べる方法です。純資産価額方式は、会社の資産と負債を時価に置き換えて株価を求めます。

同じ株式でも、贈与税の評価と法人への譲渡における所得税上の時価が、必ず同額になるとは限りません。税目、資産構成、譲渡前後の議決権割合などを踏まえて算定する必要があります。

低額譲渡にも無償譲渡と同じ注意が要る

形式上は売買でも、時価より著しく低い価額で譲ると、時価との差額が贈与や受贈益と扱われる場合があります。

特に個人から法人へ譲る場合、対価が時価の2分の1未満であれば、原則として時価で譲渡したものとみなされます。これを、みなし譲渡課税といいます。

先に譲渡価額を決め、後から株価を計算すると、想定外の税金が発生することも。株価算定と税額試算を行ってから契約条件を決めるのが安全です。

当事者の組み合わせで変わる4つの課税関係

誰が税金を負担するのかは、譲渡する側と受け取る側が個人か法人かで大きく変わります。

以下は一般的な整理です。同族会社間や完全支配関係のある法人間では、別の規定が適用されることがあります。

個人から個人へ渡す場合

譲渡する個人は対価を得ないため、通常は譲渡所得への課税がありません。一方、受け取る個人には、株式の税務上の評価額を基に贈与税がかかります。

暦年課税では年間110万円の基礎控除があります。課税対象となる金額が大きいほど税率が上がり、最高税率は55%です。

「後継者に買い取り資金がないから無償で渡す」という目的でも、贈与税の納税資金は別に必要になります。ここで承継計画が止まることは珍しくありません。

個人から法人へ渡す場合

個人が法人へ株式を無償で渡すと、譲渡した個人は、原則として株式を時価で売ったものとみなされます。時価と取得費との差額には、株式の譲渡所得課税が生じます。

一般株式等の譲渡益にかかる所得税、復興特別所得税、住民税の合計税率は、通常20.315%です。

受け取る法人は、株式の時価相当額を受贈益として法人税の計算に含めます。受贈益とは、対価を支払わずに受け取った経済的な利益です。

譲受側が同族会社の場合、株式の受入れによって既存株主の株式価値が増えると、その増加分について既存株主へのみなし贈与が問題になることもあります。譲渡した個人にも受け取った法人にも現金収入がないまま、税金だけが生じる可能性があります。

法人から個人へ渡す場合

法人が保有する株式を個人へ無償で渡すと、法人は原則として、株式を時価で譲渡したものとして譲渡益を計上します。

受け取る個人が役員や従業員であり、その地位や職務に基づいて株式を取得した場合は、一般に給与所得となります。退職しなければ受け取れなかったなど、退職に基づいて支給された場合は、退職所得になることがあります。

これらに当てはまらない一時的な贈与は、原則として一時所得です。ただし、受取人の事業との関係によっては、事業所得や雑所得になることもあります。

役員への支給が賞与と判断された場合は、法人側で費用として認められない可能性があるため注意が必要です。

法人から法人へ渡す場合

法人同士で株式を無償移転する場合、譲渡する法人は時価譲渡として譲渡益を計上し、無償で与えた部分を寄附金として処理するのが一般的です。

寄附金は、全額を法人税の計算上の費用にできるとは限りません。受け取る法人は、時価相当額を受贈益として法人税の計算に含めます。

ただし、完全支配関係のある法人間では、寄附金や受贈益の取扱いが変わる場合があります。グループ内の取引でも、資本関係を確認せずに進めるべきではありません。

株式無償譲渡が向く場面と失いやすい利益

無償譲渡には、後継者の資金不足を解消し、事業を止めずに経営権を移せる利点があります。

その一方で、譲渡する経営者は対価を得られません。手続の簡単さだけで選ぶと、引退後の生活や家族の資産形成に影響します。

後継者が買い取り資金を用意できない場合

親族や従業員に経営能力があっても、自社株を買い取る資金がないケースは珍しくありません。無償譲渡なら、後継者が借入れや資金調達をせずに株式を取得できます。

株式譲渡では会社自体が存続するため、一般に、事業譲渡のように資産、負債、契約、従業員を個別に移す必要もありません。通常の営業を続けながら経営権を移しやすい方法です。

廃業回避のため第三者へ無償で引き継ぐ場合

業績不振や債務超過の会社でも、取引先、人材、設備、許認可などに価値があれば、第三者が株式を無償で引き取ることがあります。雇用や取引関係を残せる可能性がある点はメリットです。

ただし、買い手は借入金だけでなく、未払残業代、税務リスク、訴訟、債務保証なども会社ごと引き継ぎます。無償だから会社の調査を省けるわけではありません。

経営者が譲渡対価を受け取れない

無償譲渡では、会社を育てた経営者に株式の譲渡対価が入りません。老後資金、家族へ残す財産、借入金の返済資金は、別の方法で確保する必要があります。

退職金を支給する方法もありますが、会社の資金繰りや税務上の適正額を確認しなければなりません。有償譲渡や第三者への会社売却のほうが、経営者と家族にとって適することもあります。

個人保証は株式と同時に消えない

経営者保証は、株式を後継者へ渡しただけでは自動的に解除されません。

金融機関の承諾が得られなければ、経営から退いた後も保証責任だけが残るおそれがあります。後継者への保証変更や現経営者の保証解除は、譲渡前から金融機関と調整する必要があります。

親族への無償譲渡で相続トラブルを防ぐ視点

税金を抑えられても、相続人同士で争いが起きれば、円滑な事業承継とはいえません。特定の子に自社株を集中させる場合は、他の相続人の取り分や説明方法まで設計する必要があります。

遺留分を侵害する可能性がある

遺留分とは、配偶者や子など一定の相続人に保障された、最低限の相続分です。

後継者だけに高額な自社株を贈与すると、相続開始後に他の相続人から遺留分侵害額請求を受けることがあります。後継者が多額の金銭を支払う必要に迫られ、株式や会社資産の処分を検討せざるを得なくなる場合もあります。

遺言、生命保険、後継者以外へ渡す財産の配分、経営承継円滑化法の民法特例などを組み合わせ、家族全体で納得できる形を検討します。

生前贈与が将来の相続税に影響する

暦年課税による贈与について、相続税の計算へ加算される期間は、2024年以後の贈与から段階的に3年から7年へ延長されています。

相続開始前の一定期間に行った贈与は、贈与時に贈与税を納めていても、相続税の課税価格へ加算されることがあります。延長された4年分については、贈与財産の合計額から100万円を控除する仕組みがあります。

早く贈与すれば必ず相続税を減らせるとは限りません。贈与税、相続税、事業承継税制を一体で試算することが重要です。

事業承継税制は猶予後の管理まで見て判断する

親族内承継などで一定の要件を満たす場合、法人版事業承継税制の特例措置により、後継者が取得した非上場株式にかかる贈与税の全額について、納税猶予を受けられる可能性があります。

納税猶予とは、税金の支払期限を先送りする制度です。後継者が多額の納税資金を用意できない場合には、有力な選択肢になります。

特例承継計画の期限を確認する

特例措置を利用するには、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けた特例承継計画を、2027年9月30日までに都道府県へ提出する必要があります。

対象となる贈与・相続の期限は、2027年12月31日です。

計画を提出しただけで、納税猶予の適用が確定するわけではありません。実際の贈与時には、都道府県の認定申請や税務申告など、別の手続も必要です。

納税猶予は最初から免除される制度ではない

事業承継税制は、最初から税金がなくなる制度ではありません。原則は納税の猶予です。

後継者が株式を譲渡したり、会社が一定の要件を満たさなくなったりすると、猶予されていた税額と利子税を納める場合があります。その後の相続や次の後継者への承継など、一定の事由が生じた場合に免除される仕組みです。

特例措置では、承継後5年間の平均雇用が8割を下回っただけで、直ちに猶予が打ち切られるわけではありません。ただし、下回った理由の報告などが必要になります。

入口の税負担だけでなく、長期にわたる届出や株式保有の条件まで確認して利用を判断します。

株式無償譲渡を実行する5つの手順

中小企業の株式には譲渡制限が付いていることが多く、当事者間で合意しただけでは手続が完了しません。

定款、株主名簿、株券発行の有無を確認し、順序を守って進めます。

1.株主・株式・承継条件を確認する

最初に、実際の株主、持株数、名義株の有無、定款の譲渡制限、株券発行会社かどうかを確認します。

株主名簿と法人税申告書の別表二が一致していない会社もあります。株主が確定しないまま契約すると、譲渡の有効性や議決権を巡る争いになりかねません。

2.株価算定と税額試算を行う

贈与日を基準に株価を算定し、譲渡する側と受け取る側の税額、申告期限、納税資金を確認します。

株価対策だけを目的に不自然な配当や資産移転を行うと、税務上問題になるおそれがあります。承継の目的に沿った範囲で、早めに準備することが大切です。

3.譲渡承認を請求し社内決議を取る

譲渡制限株式では、会社へ譲渡承認を請求し、定款で定めた承認機関の決議を受けます。

一般に、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会が承認機関になります。ただし、定款に別の定めがある場合は、その内容に従います。

会社が請求を受けてから原則2週間以内に承認または不承認を通知しない場合、譲渡を承認したものとみなされることがあります。決議日、出席者、決議内容は議事録に残します。

4.無償譲渡契約を締結する

贈与は口頭でも成立することがあります。それでも、親族間を含め、契約書は作成すべきです。

契約書には、株数、譲渡日、無償であること、名義書換への協力、税金の負担者、契約を解除できる条件などを記載します。親族間ほど「話は通じている」と書面を省きがちです。意外と多い落とし穴です。

株券発行会社では、原則として株券の交付が株式譲渡の効力に関わります。株券を発行しているか、株券を紛失していないかも確認してください。

5.株主名簿を書き換え申告・届出を行う

株券不発行会社では、株主名簿の書換をしなければ、原則として会社や第三者に株式を取得したことを主張できません。

株券発行会社では、株主名簿の書換は会社に対して株主であることを主張するために必要です。株式譲渡の効力を生じさせるには、原則として株券の交付も必要になります。

名義書換後は、贈与税や所得税の確定申告、法人税申告への反映、事業承継税制の認定や継続届出などを行います。株式譲渡そのものに一律の行政届出があるわけではありませんが、税務や制度利用に必要な手続は別に発生します。

第三者承継と比較して承継方法を決める

親族や従業員への無償譲渡が、唯一の答えとは限りません。

後継者の適性、税負担、経営者の手取り、従業員の雇用、取引先との関係、個人保証を並べ、M&A(合併・買収)による第三者承継とも比較します。

株価が高い会社ほど無償譲渡の税負担は重い

収益力や純資産が大きい会社は、贈与税の負担が高くなりやすい一方、第三者承継では高い譲渡価格を期待できる可能性があります。

無償譲渡では経営者に資金が残りません。会社売却では株式の譲渡対価を受け取れます。この違いは、引退後の生活設計や家族へ残せる財産に直結します。

債務超過会社でも無償なら引き継げるとは限らない

買い手は、株式とともに会社の借入金や潜在債務を引き継ぎます。譲渡価格がゼロでも、実質的な負担が大きければ引受けには応じません。

財務、税務、法務、労務の調査を行い、経営者保証の解除、役員借入金の処理、不採算事業の整理などを検討します。

専門家へ伝えるべき3つの情報

相談時には、譲渡する側と受け取る側が個人か法人か、会社が黒字・赤字・債務超過のどれに近いか、無償譲渡の目的は何かを伝えます。

準備しておく資料

直近3期の決算書、法人税申告書、株主名簿、定款、借入金一覧を準備すると、検討が進みやすくなります。

税理士には株価算定と税額試算、弁護士には契約と遺留分、司法書士には会社法上の手続を確認します。第三者承継も選択肢に入るなら、無償譲渡と会社売却を同じ前提で比較することが重要です。

まとめ

株式無償譲渡は、後継者の買い取り資金がなくても経営権を移せる一方、時価を基準に贈与税、所得税、法人税が生じる場合があります。株価算定、相続人への配慮、会社法上の手続、納税資金を先に確認し、事業承継税制や第三者承継とも比較したうえで、自社と家族に合う方法を選ぶことが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人