法務デューデリジェンスとは?目的・調査項目・手順を詳しく解説


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法務デューデリジェンスとは?会社売却で分かるリスクと対策

法務デューデリジェンスは、M&Aで対象会社の契約、株式、労務、許認可、知的財産、紛争などを確認する調査です。目的や進め方、費用を左右する要因、譲渡価格・最終契約・PMIへの影響、売り手が事前に整える資料を分かりやすく解説します。

目次

  1. 法務デューデリジェンスは会社売却の条件を決める調査
  2. 買い手が確認する主な法的リスク
  3. 法務デューデリジェンスの進め方
  4. 調査結果が譲渡価格と契約条件に与える影響
  5. 売り手が調査前に整えておきたい資料
  6. 調査費用と期間を管理するポイント
  7. 業種によって変わる重点調査項目
  8. まとめ

法務デューデリジェンスの目的と調査手順をわかりやすく解説

法務デューデリジェンスは会社売却の条件を決める調査

法務デューデリジェンスとは、M&A(合併・買収)や組織再編を行う前に、対象会社の法的な問題や将来のリスクを調査する手続です。一般に「法務DD」と呼ばれ、買い手が弁護士などの専門家とともに実施します。

決算書の数字が良好でも、重要な取引契約を継続できない、株式の権利関係が不明確、事業に必要な許認可に不備があるといった問題があれば、会社の価値や買収後の事業運営に影響します。

法務DDは、単に法律違反を探すための調査ではありません。M&Aを進めるか、譲渡価格や契約条件を見直すか、買収後にどの問題を改善するかを判断するために行われます。

売り手にとっても重要です。資料不足や説明の食い違いが続くと、実際の問題以上に買い手の不安が大きくなり、価格交渉が厳しくなることがあります。会社売却を円滑に進めるには、買い手が何を確認し、その結果をどのように使うのかを理解しておく必要があります。

法務DDが果たす4つの役割

法務DDには、主に4つの役割があります。


1つ目は、訴訟、契約違反、未払残業代、無許可営業などの法的リスクを発見することです。現在は表面化していなくても、将来トラブルにつながる可能性がある問題も確認します。


2つ目は、発見したリスクを譲渡価格や企業価値の検討に反映することです。将来の支出や事業停止の可能性があれば、その影響を考慮して条件を見直します。


3つ目は、最終契約書に対応策を組み込むことです。売り手が一定の事実を約束する表明保証、取引実行前に問題を解消する前提条件、損害が生じた場合の補償などが検討されます。


4つ目は、PMI(M&A後の統合プロセス)の準備です。社内規程の改定、契約の更新、許認可への対応、管理体制の整備などを、M&A後の計画につなげます。

買い手が確認する主な法的リスク

法務DDの調査範囲は、会社の規模、業種、M&Aの目的、採用する譲渡手法によって変わります。ただし、中小企業の会社売却では、次の分野が主な調査対象になります。

会社組織・株式・ガバナンス

商業登記簿、定款、株主名簿、株主総会議事録、取締役会議事録などを確認し、会社の意思決定や株式の発行・譲渡が適切に行われてきたかを調べます。

中小企業では、実際の出資者と株主名簿上の名義が違う、過去の株式譲渡の承認記録が残っていないといったケースも珍しくありません。株式の所有者が確定できなければ、予定していた株式譲渡を進められない可能性があります。

役員の選任手続、重要な取引の承認、利益相反取引などについても、会社法や定款に沿って処理されているかを確認します。

主要契約と取引継続の条件

売上先、仕入先、金融機関、賃貸人、代理店、ライセンサーなどとの重要契約を調査します。主要な契約がM&A後も続くかどうかは、買収後の売上や事業運営に直結するためです。

COC条項の有無

特に重要なのが、チェンジ・オブ・コントロール条項です。これは、会社の支配権が変わる場合に、契約相手への通知や事前承諾を求める条項をいいます。

この条項があると、M&Aを理由に契約を解除されたり、取引条件の変更を求められたりする可能性があります。主要取引先との契約に含まれている場合は、売上の継続性や譲渡価格にも影響します。

契約書がない取引

契約書がない継続取引も、調査対象から外れるわけではありません。

注文書やメールから実態を確認

注文書、請求書、見積書、メール、実際の取引慣行などから、価格、契約期間、解約条件を整理します。長年の口頭合意に頼っている取引は、M&A後も同じ条件で続けられるかを慎重に確認する必要があります。

資産・知的財産・情報管理

不動産、機械設備、車両などの所有権や担保の有無を確認します。賃借している工場や店舗については、賃貸借契約の期間、更新条件、譲渡や転貸の制限も調査対象です。

特許権、商標権、著作権、ソフトウェア、設計図、営業秘密などの知的財産については、会社が適切な権利を持っているか、第三者の権利を侵害していないかを確認します。

顧客や従業員の個人情報については、取得時の利用目的、保管方法、アクセス権限、委託先の管理、漏えい事故の履歴なども確認されます。

人事・労務

雇用契約書、就業規則、賃金台帳、勤怠記録、退職金制度、社会保険の加入状況などを確認します。

未払残業代、長時間労働、ハラスメント、解雇をめぐる問題、労働組合や従業員との紛争は、金銭負担だけでなく人材流出にもつながります。買い手は、問題の金額や人数だけでなく、M&A後に職場運営を続けられるかも確認します。

許認可・コンプライアンス

事業に必要な許可、認可、登録、届出がそろっているか、有効期限が切れていないかを調べます。M&Aの手法によっては、許認可をそのまま引き継げず、再取得や変更手続が必要になることもあります。

業法違反、個人情報保護、下請取引、反社会的勢力との関係、行政指導、事故、リコールなどの履歴も確認対象です。

紛争・訴訟・環境問題

現在進行中の訴訟だけではなく、取引先や従業員から重大な苦情を受けているなど、将来紛争になる可能性も確認します。

工場や土地を保有する会社では、土壌汚染、水質汚濁、廃棄物処理、環境法令への対応も重要です。汚染の除去費用や行政対応が必要になると、買収後に大きな負担が生じることがあります。

法務デューデリジェンスの進め方

法務DDは買い手が主導しますが、実際の進行は売り手の資料開示と回答の速さに大きく左右されます。一般には、次のような流れで進みます。

秘密保持契約を締結する

法務DDでは、取引先、従業員、技術、契約条件などの重要な情報を開示します。そのため、通常は事前に秘密保持契約(NDA)を締結し、情報を利用できる目的や関係者の範囲を定めます。

M&Aの情報が外部に漏れると、従業員の動揺、取引先との関係悪化、交渉の中止につながることがあります。資料へのアクセス権限も必要最小限にすることが大切です。

調査範囲を決める

対象会社の規模、業種、M&Aの手法、想定スケジュールなどを踏まえて、調査範囲を決めます。

すべての書類を同じ深さで調べるとは限りません。譲渡価格への影響、問題が起きる可能性、問題が起きた場合の重大性を考慮し、重要な分野から優先して調査します。

資料リクエストに対応する

買い手側から、開示してほしい資料の一覧が送られます。売り手は、定款、株主名簿、契約書、議事録、社内規程、許認可資料、労務資料などを準備します。

資料は、VDRと呼ばれるアクセス制限付きのオンライン保管場所で共有するのが一般的です。資料名や保存場所が統一されていないと、同じ書類を何度も探すことになります。

提出済み、未提出、該当なし、追加確認中を分け、誰がいつ回答したかを記録すると進行が安定します。

資料の確認とQ&Aを行う

買い手側の弁護士などが資料を確認し、疑問点や不足資料について追加質問を行います。売り手は、社内の担当者や顧問専門家に確認しながら回答します。

分からない事項を推測で答えることは避けます。確認が必要な場合は、その旨を伝え、事実関係を調べてから回答することが重要です。

経営陣へのインタビューと現地確認

資料だけでは分からない事項について、経営者や担当者へのインタビューが行われます。必要に応じて、工場、店舗、事務所などを訪問し、設備や管理状況を確認することもあります。

書類の内容と口頭説明が食い違うと、問題そのものよりも会社の説明に対する信頼が損なわれることがあります。回答窓口を決め、社内の説明をそろえておくことが大切です。

報告書を作成する

調査を担当した専門家は、確認した事実、リスクの重大性、事業や譲渡価格への影響、必要な対応を報告書にまとめます。

買い手はその内容を基に、M&Aを実行するか、条件を変更するか、取引を中止するかを判断します。調査結果は、最終契約書やPMIの計画にも反映されます。

調査結果が譲渡価格と契約条件に与える影響

問題が見つかったからといって、直ちにM&Aが中止されるわけではありません。

重要なのは、問題を解消できるか、金額で見積もれるか、買い手が引き受けられるかを整理することです。

譲渡価格を見直す

未払残業代、損害賠償、設備の撤去、環境対策など、将来の支出が見込まれる場合は、その金額を譲渡価格に反映することがあります。

将来の損失額を正確に見積もりにくい場合は、代金の一部を後払いにする、一定額の支払いを留保するなど、支払方法を調整することもあります。

クロージング前に問題を解消する

許認可の不備、未締結の重要契約、株式関係の記録不足などは、取引を実行する前に対応する場合があります。

最終契約書では、問題の解消をクロージングの前提条件として定めたり、売り手が期限までに対応することを約束したりします。

表明保証や補償条項を定める

表明保証とは、契約、税務、労務、訴訟などについて、一定の事実が正しいと売り手が約束する条項です。

法務DDで確認し切れなかった事項や、調査で発見された問題については、補償の対象、責任の上限、請求できる期間などを交渉します。

売り手は、開示済みの問題についてまで広い責任を負わないよう、買い手に説明した事実を最終契約書の例外事項として整理することが重要です。

M&Aの手法を変更する

株式譲渡では、対象会社そのものの株主が変わるため、資産、負債、契約、労務問題、訴訟などは基本的に対象会社内に残ります。そのため、会社全体を広く調査する必要があります。

事業譲渡では、引き継ぐ資産、契約、従業員などを個別に決めます。特定のリスクを引き継がない設計ができる場合がある一方で、契約相手の同意や、許認可の再取得が必要になることがあります。

法務DDで重大な問題が見つかった場合は、譲渡対象を限定するなど、M&Aの手法を見直すこともあります。

PMIの改善計画へつなげる

取引を中止するほどではない問題は、M&A後に改善することになります。

就業規則の改定、契約書の再締結、許認可の更新、情報管理体制の整備、取締役会運営の見直しなどを、PMIの計画に組み込みます。調査結果を実際の改善につなげなければ、同じ問題が買収後も残ってしまいます。

売り手が調査前に整えておきたい資料

法務DDへの備えは、書類を並べるだけではありません。事実関係を確認し、不足があれば早めに補う作業です。

売却を決めてから短期間で整えようとすると、通常業務と重なり、経営者や担当者の負担が急に大きくなります。会社売却を検討し始めた段階から、少しずつ準備することが大切です。

会社・株式関係の資料

定款、最新の商業登記簿、株主名簿、過去の株式異動資料、株主総会議事録、取締役会議事録を時系列でそろえます。

名義株、所在不明株主、株券、種類株式、新株予約権などがある場合は、早めに専門家へ相談する必要があります。

契約と許認可の一覧

売上先、仕入先、金融機関、賃貸人、リース会社、ライセンサーなどとの重要契約を一覧にします。

契約期間、更新時期、解除条件、M&A時の通知・承諾条項を確認します。許認可については、種類、名義、有効期限、更新時期、M&A後の取扱いを整理します。

労務関係の資料

就業規則、雇用契約書、賃金台帳、勤怠記録、労使協定、退職金規程、社会保険関係の資料を準備します。

未払残業代やハラスメントなどの問題がある場合は、事実関係、対象者、想定される金額、現在の対応状況を整理します。

紛争・苦情・事故の記録

裁判になっている案件だけでなく、内容証明、重大なクレーム、行政指導、従業員との対立、情報漏えい、製品事故なども整理します。

不利な情報を隠して後から発見されると、買い手の不信が強くなります。問題を早めに説明し、対応策を示す方が、交渉への影響を抑えやすくなります。

知的財産と情報管理の資料

特許、商標、著作物、ソフトウェアなどについて、登録名義や契約関係を確認します。従業員や外部委託先が作成した成果物について、権利が会社へ移っているかも重要です。

顧客データや営業秘密については、アクセス権限、持ち出し管理、委託先との契約、事故履歴を説明できる状態にします。

ITシステムの管理状況は、法務DDとITデューデリジェンスの双方で確認されることがあります。

調査費用と期間を管理するポイント

法務DDの費用には、公的な一律の相場や料金基準はありません。弁護士の時間単価に作業時間を掛ける方式や、調査範囲を決めて固定額とする方式などがあります。

費用は、対象会社の規模、拠点や子会社の数、契約書の件数、海外取引の有無、資料の整備状況、調査期間によって大きく変わります。

見積もりを確認するときは、金額だけで判断しないことが大切です。どの分野をどこまで調べるのか、報告書や報告会が含まれるか、追加質問や調査範囲の拡大で追加料金が発生するかを確認します。

重要度に応じて調査の深さを変える

すべての法的リスクを完全になくすことは現実的ではありません。

譲渡価格への影響、問題が起きる可能性、発生した場合の損失を考慮し、重要な分野を優先します。ただし、費用を抑えるために、事業継続に関わる重要項目まで調査対象から外すことは避けるべきです。

資料整理で調査期間を短縮する

資料が整理されていないと、調査担当者が必要な書類を探したり、同じ質問を繰り返したりすることになります。

売り手側で資料一覧を作成し、回答窓口を一本化することで、調査期間や専門家の作業時間を抑えやすくなります。

業種によって変わる重点調査項目

調査項目を一律に並べるだけでは、事業の中核にあるリスクを見落とす可能性があります。

業種ごとに、止まると売上が立たないもの、第三者から借りている権利、事故が起きた場合の影響が大きいものを優先して確認します。

IT・ソフトウェア業

ソースコードや著作権が会社に帰属しているか、外部エンジニアとの契約が整っているかを確認します。

オープンソースソフトウェアの利用条件、個人情報の管理、サイバー事故、クラウドサービスへの依存、主要ライセンスの継続可能性も重要です。

特定の従業員だけがシステムの内容を把握している場合は、その人が退職したときに事業を続けられるかも確認します。

製造業

工場用地や設備の権利、保守契約、製造物責任、品質保証、リコール、環境規制、廃棄物処理などを調査します。

図面、製造ノウハウ、共同開発した技術の権利帰属、主要取引先の認定や変更承認も事業継続に直結します。

許認可が必要な業種

建設、運送、介護、医療、廃棄物処理などの事業では、許認可の有無や更新状況を重点的に確認します。

株式譲渡では許認可を維持できる場合でも、役員や株主の変更について届出が必要になることがあります。事業譲渡では、許認可によっては買い手が新たに取得しなければなりません。

許認可を取得できるまで事業を開始できない場合があるため、申請期間をM&Aのスケジュールに織り込む必要があります。

店舗型事業

飲食、小売、サービス業などでは、店舗の賃貸借契約、営業許可、フランチャイズ契約、原状回復義務、近隣や顧客との紛争を確認します。

店舗ごとに契約条件や許認可が異なることも多いため、本社の資料だけでなく、各店舗の実態まで把握することが重要です。

まとめ

法務デューデリジェンスは、対象会社の問題を探すだけでなく、譲渡価格、最終契約、M&Aの手法、PMIを決めるための調査です。売り手は、株式、契約、労務、許認可、知的財産、紛争の資料を早めに整理し、不備があれば対応方針を準備する必要があります。問題を正しく説明し、契約や条件に反映できれば、法的リスクがあっても会社売却を進められる可能性は高まります。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

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