法務デューデリジェンスの目的と調査手順をわかりやすく解説

法務デューデリジェンスとは、M&Aにおいて対象企業の法律リスクを確認する重要な調査です。本記事では、目的、調査項目、実施手順、費用、注意点まで詳しく解説します。

目次

  1. 法務デューデリジェンスとは
  2. 法務デューデリジェンスを実施する目的
  3. 法務デューデリジェンスの主な調査項目
  4. 法務デューデリジェンスの実施手順
  5. 法務デューデリジェンスにかかる費用相場
  6. 法務デューデリジェンス実施時の注意点
  7. まとめ

法務デューデリジェンスの定義と概要

法務デューデリジェンスとは、M&Aにおいて買収側の企業が、対象企業に法律的なリスクがないかを細かく調べる手続です。正式には「法務デューデリジェンス(法務DD)」と呼ばれます。

M&Aを進めるうえで、対象企業が表向きは順調に見えても、実際には法律違反が潜んでいるケースも少なくありません。もし買収後にこれらの問題が発覚すると、買収企業は大きな損失を被るリスクがあります。

そこで、事前に専門家である弁護士を中心に調査を行い、法令違反や将来リスクを把握しておくのが、法務デューデリジェンスの役割です。適切な調査を行うことで、M&Aの成否に直結するリスク管理ができるようになります。

また、法務デューデリジェンスは、財務やビジネスのデューデリジェンスと並行して実施されるのが一般的で、M&A全体のリスクを総合的に把握するために欠かせない重要なプロセスとなっています。

法務デューデリジェンスを実施する目的

法務デューデリジェンスを実施する目的は、対象企業の法的リスクを事前に洗い出し、適切な対応を取ることにあります。具体的な目的は以下の通りです。

法的リスクの特定と評価

対象企業に潜在している法律違反や契約トラブル、労務問題などのリスクを明らかにし、それがどの程度重大なものかを評価します。

M&A実行可否の判断

調査の結果、重大な法的リスクが発覚した場合には、M&Aそのものを中止する選択肢も視野に入れるための判断材料となります。

取引条件の交渉材料

発見されたリスクをもとに、買収価格の見直しや契約条件の変更を交渉する材料とします。これにより、リスクを適切に価格に反映させることができます。

事後対応の計画

M&A後に対応が必要な問題について、事前に具体的な対応策を立てることが可能になります。これにより、M&A後のトラブル発生を最小限に抑えることができます。

表明保証条項の裏付け

M&A契約では、売主に対して「表明保証」を求めることが一般的です。法務デューデリジェンスの結果は、その裏付け資料としても機能します。

法務デューデリジェンスをしっかり実施することで、M&A後に想定外の問題が起こるリスクを大幅に減らし、スムーズな事業承継や企業成長につなげることができます。

法務デューデリジェンスの主な調査項目

法務デューデリジェンスでは、対象企業の法務や労務に関するさまざまな側面を幅広く調査します。主な調査項目は次の通りです。

設立と存続の有効性確認

まず、対象企業が適法に設立され、現在も有効に存続しているかを確認します。設立関係書類や登記簿謄本などをチェックし、設立無効や解散事由がないかを調べます。

会社機関の運営状況

会社の意思決定機関である取締役会や株主総会が、法令や定款に沿って正しく運営されているかを調査します。開催手続や議事録の記載内容にも注意を払います。

株式と株主構成の確認

株式発行の手続きが適切に行われたか、譲渡制限株式に関する承認手続きが完了しているかを確認します。株主構成についても、支配関係や反社会的勢力との関係を調べることが重要です。

契約内容の精査

対象企業が締結している各種契約書を確認し、取引関係の実態を把握します。重要な取引先との契約の継続可能性や、解除条項の有無などをチェックします。

訴訟や紛争リスクの確認

現在進行中の訴訟や潜在的な訴訟リスクについて調査します。訴額だけでなく、社会的影響や将来のリスクも評価します。

人事・労務に関する調査

労働基準法や社会保険関連法令の遵守状況、未払い残業代の有無、ハラスメント問題、長時間労働の実態などを確認します。従業員に関するリスクは、M&A後に大きな問題になることもあります。

資産状況の把握

所有している不動産や動産、金融資産について、権利関係や担保設定の有無を調査します。不動産の場合は、登記簿謄本などで確認します。

知的財産権の調査

特許権、著作権、商標権などの知的財産権が適切に保護されているかを確認します。ライセンス契約の有無や第三者との係争リスクも調べます。

法令遵守状況のチェック

対象企業が事業活動に必要な許認可を適正に取得しているか、各種法令(会社法、税法、労働法など)に違反していないかを調査します。

環境リスクの調査

工場や土地に環境汚染がないか、大気汚染防止法や土壌汚染対策法などの環境法令に違反していないかを確認します。環境問題が発覚すると、莫大な修繕費用や損害賠償が発生する可能性があります。


法務デューデリジェンスの実施手順

法務デューデリジェンスは、次のような手順で進められます。

調査範囲と体制の決定

まず、どの分野を重点的に調査するかを決めます。併せて、社内担当者や外部の弁護士・専門家など、調査チームの体制を整えます。対象企業の事業内容やM&Aの規模に応じて、調査範囲を適切に絞り込むことがポイントです。

必要資料の開示請求

対象企業に対して、調査に必要な資料をリストアップし、開示を依頼します。資料の管理には細心の注意を払い、データルーム(物理またはバーチャル)を設けて情報漏洩を防ぎます。

資料内容の詳細確認

開示された資料を弁護士や専門家が精査します。契約書、登記簿、社内規則など、幅広い書類を確認し、必要に応じて追加資料の提出を求めます。

経営陣へのインタビューと現地調査

対象企業の経営者や幹部へのインタビューを行い、書面だけでは把握できない情報を収集します。また、必要に応じて現地調査を実施し、実態を直接確認します。

法的リスクの分析と検討

集めた情報を基に、法的リスクを整理・分析します。リスクの内容や重大性を評価し、M&Aに与える影響を検討します。

調査結果の報告書作成と最終報告

最後に、調査結果をまとめた報告書を作成します。この報告書は、買収の可否判断や条件交渉に重要な役割を果たします。報告会では、経営陣に対して口頭で詳細な説明も行います。

これらの手順を丁寧に進めることで、M&Aにおける予期せぬリスクを大幅に減らすことができます。

法務デューデリジェンスにかかる費用相場

法務デューデリジェンスには、一般的に弁護士への報酬が中心となる費用が発生します。

費用相場

通常、100万円〜500万円程度が相場とされています。ただし、実際の費用は対象企業の規模や事業の複雑さ、調査の深度によって大きく変動します。

費用の変動要因

  • M&Aの規模が大きいほど、調査範囲が広がり費用が増加します。
  • 事業内容が複雑な場合、専門的な調査が必要となり費用が上がります。
  • 調査を短期間で完了させる場合、追加人員の投入が必要になり、コストが増すことがあります。

費用を抑えるポイント

  • リスクの高い領域に絞った調査を行うことで、効率的に費用を抑えることができます。
  • 自社で対応可能な部分と、専門家に任せる部分を明確に分けることも大切です。

費用は単なるコストではなく、M&Aリスクを回避するための「投資」と捉え、適切な支出を心掛けることが重要です。

法務デューデリジェンス実施時の注意点

法務デューデリジェンスを成功させるためには、以下の点に注意が必要です。

情報管理の徹底

対象企業から得た情報は厳格に管理します。情報漏洩は、M&A破談や損害賠償に発展するリスクがあるため、秘密保持契約(NDA)の締結やアクセス制限を必ず実施します。

多角的な情報収集

開示資料だけに頼らず、経営者インタビューや現地調査など複数の情報源から客観的にデータを集めます。対象企業が不利な情報を隠す可能性も考慮しなければなりません。

総合的な判断

法務デューデリジェンスだけでなく、財務、ビジネス、人事労務など他のデューデリジェンス結果も踏まえて、総合的にM&Aの可否を判断します。

専門家の適切な活用

法律や業界特有の規制に精通した弁護士や専門家を活用し、リスク評価の精度を高めます。

時間と範囲のバランス設定

すべてを深く調査するのではなく、リスクの大きさに応じてメリハリをつけた調査を行います。無駄な時間や費用をかけず、重要なリスクに集中することが大切です。

将来リスクも考慮する

現在の問題だけでなく、法改正や市場環境の変化による将来のリスクについても予測しながら調査を進めます。

コミュニケーションの重視

対象企業との良好な関係を維持しつつ、率直な対話を通じて必要な情報を得ることが重要です。問題点があれば適切に共有し、解決策を協議します。

調査結果の活用

調査で発見されたリスクは、M&A契約の交渉や、事後の統合計画(PMI)にも反映させるべきです。必要に応じて、M&Aの中止という判断も選択肢に含めます。

これらの注意点を守ることで、法務デューデリジェンスの効果を最大限に引き出し、M&Aを成功に導くことができます。

まとめ

法務デューデリジェンスは、M&Aにおいて対象企業の法的リスクを事前に把握するための重要なプロセスです。専門家の協力を得て、適切な費用と時間をかけることで、M&A後の問題を未然に防ぎ、スムーズな事業統合と企業価値向上を実現することができます。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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