M&Aにおけるタームシートの役割と必要性、メリット・デメリット、作成のポイントなどを詳しく解説します。交渉を円滑に進め、M&A取引を実現するためのタームシートの活用方法をご紹介します。
目次
▶目次ページ:M&Aの流れ(最終契約/クロージング)
タームシートは、M&A(合併・買収)取引において重要な役割を果たす文書です。これは、売り手と買い手の間で合意された主要な条件を簡潔にまとめたものです。具体的には、交渉過程で合意に至った事項を箇条書きでリスト化し、後の基本合意契約書や最終契約書(株式譲渡契約書など)を作成する際の基礎となる資料として活用されます。
タームシートの特徴として、以下の点が挙げられます:
1. 法的拘束力がない:タームシートは契約書ではないため、作成は必須ではありません。
2. 交渉の円滑化:多岐にわたる交渉条件を整理し、両者の認識の齟齬を防ぎます。
3. 柔軟性:交渉の進展に応じて内容を更新できます。
4. 簡潔性:複雑な条件を箇条書きや表形式でまとめ、理解しやすくします。
M&A取引におけるタームシートは、売り手と買い手の間で交わされる重要な文書です。その主な目的は、両者が合意した条件を明確に記録し、今後の交渉や契約締結をスムーズに進めることにあります。
タームシートに記載される典型的な項目には以下のようなものがあります:
1. 取引の概要(対象企業、取引形態など)
2. 取引価格の概算
3. 支払条件
4. デューデリジェンスの範囲と期間
5. 独占交渉権の有無
6. 秘密保持義務
7. スケジュール
これらの項目を明確にすることで、M&A取引の全体像を把握し、今後の交渉や調査の方向性を定めることができます。
タームシートは、M&A以外のファイナンス分野でも活用されています。
例えば、以下のような場面で利用されることがあります:
1. プロジェクト・ファイナンス
2. エクイティ・ファイナンス
3. 不動産等の証券化
これらの分野でも、タームシートは契約対象、契約方式、契約期間、前提条件などを簡潔に記述し、条件交渉の基礎資料として重要な役割を果たします。ファイナンス取引においても、複雑な条件を整理し、関係者間の共通理解を促進する上でタームシートは有効なツールとなっています。
M&A取引においてタームシートは、法的拘束力はないものの、交渉を円滑に進める上で重要な役割を果たします。その主な重要性と必要性は以下の点にあります:
1. 交渉の円滑化: タームシートに沿って合意形成を進めることで、交渉の道筋が明確になり、効率的に進めることが
できます。
2. 優先事項の整理: 重要な条件項目から順に取り組むことができ、効率的な交渉が可能となります。
3. 記録の整理: 合意した事項をタームシートに随時記載することで、過去の交渉内容を容易に確認することができま
す。
4. 進捗の確認: タームシートをもとに、交渉状況の進捗を把握し、今後の課題を明確にすることができます。
5. 認識の齟齬防止: 売り手と買い手が合意した条件内容の齟齬を防ぎ、漏れがないようにすることができます。
6. 長期交渉への対応: M&A交渉が長期に及ぶ場合でも、これまでの合意事項を明確に記録し、参照することができま
す。
タームシートは、M&A交渉を進める上で非常に有益なツールと言えます。特に、複雑な条件や多岐にわたる項目を含むM&A取引では、タームシートを活用することで、交渉の効率化と透明性の向上を図ることができます。
タームシートの活用には、様々なメリットとデメリットがあります。M&A取引を進める際は、これらを十分に理解した上で、効果的に活用することが重要です。
1. 条件の要点把握が容易: タームシートは、最終契約書における項目ごとに条件の要点を箇条書きや表形式でまとめ
るため、契約のポイントが理解しやすくなります。
2. 最終契約での決裂リスク低減: タームシート形式で条件項目の意図を明確に提示することで、交渉相手との意思疎
通がスムーズになり、早期に主要な条件について合意に達することができます。
3. 社内や関係者との情報共有が容易: タームシートを活用することで、正確かつスピーディーに社内や関係者と情報
を共有し、検討を進めることができます。
4. 最終契約書等の作成費用削減: タームシート形式で主要な条件の協議内容を弁護士に伝達することで、最終契約書
作成時の負担が軽減され、費用削減が期待できます。
1. 記載事項の誤解: タームシートに記載のある各規定が必須項目であると誤解される可能性があります。実際には、
各規定は交渉を通じて調整されるべきものであり、削除も選択肢として存在することを認識して
おく必要があります。
2. 法的拘束力の欠如: タームシートは交渉過程のメモ的存在であり、法的拘束力を有しません。そのため、法的拘束
力の必要な条件は、基本合意書や最終契約書で確実に記載する必要があります。
3. 過度の依存: タームシートへの過度の依存は、柔軟な交渉を阻害する可能性があります。状況の変化に応じて、タ
ームシートの内容を適宜見直し、更新する姿勢が重要です。
4. 機密情報漏洩のリスク: タームシートには機密性の高い情報が含まれる場合があるため、適切な情報管理が必要で
す。不適切な取り扱いは、情報漏洩のリスクを高める可能性があります。
これらのメリットとデメリットを十分に理解した上で、M&A取引の各段階に応じてタームシートを効果的に活用することが、成功的な取引につながります。
M&A取引の基本的な流れの中で、タームシートは重要な役割を果たします。以下に、M&A取引の一般的なプロセスとタームシートの位置づけを説明します。
1. 譲渡対象企業のノンネームシートでの検討
2. 秘密保持契約書の締結
3. 企業概要書(IM)・情報提供書類の検討
4. 売り手・買い手の初期的な質疑応答(対面含む)
5. タームシートの作成
6. 基本合意書の締結
7. デューデリジェンス実施
8. 最終条件の交渉
9. 最終契約書の締結
10. 譲渡手続の実行
11. PMI(買収後統合)の実施
タームシートは、通常、基本合意書の締結前に作成されます。これまでの交渉内容を売り手または買い手が相手方に提示し、お互いに確認しながら微調整を加えていきます。その後、タームシートの内容を基に基本合意書を作成します。
基本合意書締結後も交渉は続くため、最終契約書を締結するまでタームシートを随時更新していくことが一般的です。タームシートは売り手・買い手のどちらが作成しても構いませんが、M&A仲介会社が交渉窓口になっている場合は、M&A仲介会社が作成し両社に確認を取るケースも多くあります。
タームシートの作成と更新は、M&A取引の進捗に応じて柔軟に行われます。これにより、交渉の各段階で合意事項を明確にし、両者の認識を一致させることができます。また、タームシートを基に最終契約書の作成を効率的に進めることができ、M&A取引全体のスムーズな進行に貢献します。
タームシートには、M&A取引の基本となる重要事項が記載されます。
一般的に含まれる主要な記載事項は以下の通りです:
1. 売り手と買い手の情報(会社名、住所など)
2. M&Aの対象となる会社・事業・資産・負債の特定
3. M&Aの実施スキーム(株式譲渡、事業譲渡など)
4. 取引価格(現段階での想定金額)
これらの基本情報は、M&A取引の概要を明確にし、両者の合意の基礎となります。取引価格については、この段階では暫定的な金額となり、その後の交渉や調査で変更される可能性があります。
タームシートには、以下のような主要なマイルストーンのスケジュールが記載されます:
1. 基本合意書の締結
2. デューデリジェンスの実施期間
3. 最終契約書の締結
4. クロージング(資金決済)
このスケジュールを明確にすることで、売り手・買い手が足並みを揃えて交渉を進めることができます。
デューデリジェンス(買収監査)は、M&A取引の重要なプロセスです。
タームシートには以下のような事項が記載されます:
1. デューデリジェンスの範囲
2. 実施期間
3. 売り手の協力義務の内容
売り手の積極的な協力は、円滑なデューデリジェンスの実施と、その後の交渉の進展に重要な役割を果たします。
独占交渉権は、売り手が買い手に対して独占的に交渉を行う権利を付与するものです。
タームシートには以下の点が記載されます:
1. 独占交渉権の有無
2. 独占交渉期間
3. 違反時の措置(違約金や損害賠償など)
独占交渉権の設定により、買い手は安心して交渉やデューデリジェンスを進めることができます。
M&A交渉では機密情報の取り扱いが重要になります。
タームシートには以下のような秘密保持に関する事項が記載されます:
1. 秘密情報の定義
2. 秘密保持義務の内容
3. 秘密保持期間
4. 情報漏洩時の対応(損害賠償等)
これらの規定により、両者の機密情報を適切に保護し、安全な交渉環境を確保することができます。
タームシートには、記載された合意事項の有効期限が設定されることがあります。
これには以下のような意義があります:
1. 交渉の長期化防止
2. 独占交渉権や秘密保持義務などの期限明確化
3. 市場環境の変化への対応
有効期限を設けることで、M&A交渉を適切なペースで進め、不必要な遅延を避けることができます。
タームシートを効果的に活用するためには、以下のポイントに注意して作成することが重要です:
1. わかりやすさを重視: 社内報告用にも活用できるよう、誰が見ても理解しやすい表現と構成を心がけます。専門用
語を使用する場合は、必要に応じて説明を加えます。
2. 網羅性の確保: 基本合意書作成の効率化のため、基本合意書に記載する事項を漏れなく記載します。重要な条件や
懸案事項は特に注意して記載します。
3. 明確な表現の使用: 交渉当事者間で齟齬や誤解が生じないよう、曖昧な表現を避け、具体的かつ明確な文章で記載
します。必要に応じて、数値や期限を明記します。
4. 柔軟性の確保: 交渉の進展に応じて内容を更新できるよう、柔軟な構成を心がけます。追加や修正が容易な形式で
作成します。
5. 法的影響の考慮: タームシートは法的拘束力を持たないことを前提としつつ、独占交渉権や秘密保持義務など、法
的拘束力を持たせたい項目については、その旨を明記します。
6. スケジュールの明確化: 交渉のマイルストーンとなる重要な日程を明確に記載し、両者で共有します。
7. 定期的な更新: 交渉の進展に応じて、タームシートを定期的に更新します。更新の際は、変更点を明確にし、両者
で確認します。
8. 専門家の助言の活用: 必要に応じて、M&A仲介会社や弁護士などの専門家の助言を得ながら作成します。
特に、複雑な条件や法的な影響が大きい項目については、専門家のチェックを受けることが
望ましいでしょう。
これらのポイントを意識してタームシートを作成することで、M&A交渉をより円滑に進め、両者にとって有益な合意形成を促進することができます。
タームシートは、M&A取引において重要な役割を果たす文書です。交渉の円滑化、認識の齟齬防止、効率的な情報共有など、多くのメリットがあります。一方で、法的拘束力がないことや誤解のリスクなど、留意点もあります。効果的なタームシート作成と活用により、M&A交渉をスムーズに進め、成功的な取引につなげることができます。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画