特定目的会社TMKの活用で資産流動化と財務改善方法を解説
特定目的会社TMKとは何か。不動産や債権を証券化して資産をオフバランス化し、自己資本比率を守りながら倒産リスクを抑える仕組みと手続を、専門家目線でやさしく解説します。
目次
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特定目的会社TMKは英語表記で“Tokutei Mokuteki Kaisha”の略とされ、日本語では特定目的会社と呼ばれます。資産の流動化法に則り、個別の不動産や債権といった〈動かしにくい資産〉を一つの法人へ切り出し、その法人が発行する証券を投資家に販売することで資金を得る仕組みです。親会社は資産を売却して現金化すると同時に、該当資産と紐づく負債やリスクも帳簿から外すことができます。こうした「資産の証券化」はオフバランス化とも呼ばれ、財務体質を短期間で改善できる手法として注目されています。
TMKの設立根拠となる資産流動化法は、不動産市場の活性化と投資家保護の両立を目的に2000年に施行されました。同法では、計画期間や資金調達方法を定めた「資産流動化計画(Asset Liquidation Plan)」を財務局へ届け出ること、計画通りに業務を行うことが義務付けられています。したがって、TMKのスキームは法的枠組みに裏付けられた高い透明性を有します。
仕組みを図にすると、①資産譲渡、②証券発行、③投資家購入、④キャッシュフロー分配という4段階で構成されています。流れの中でTMKは資産の保有・管理のみを行い、営業行為や従業員雇用は行いません。運営はアセットマネージャーなど専門家へ外部委託することで、法人自体は「資産の受け皿」として機能します。
特定目的会社TMKはSPCの一類型ですが、証券化対象や法規制の点で明確な違いがあります。SPC(Special Purpose Company)は会社法など一般法に基づき、動産・債権・知的財産など多様な資産を扱える汎用的な枠組みです。これに対しTMKは資産流動化法を適用し、主に不動産を対象とするため運用範囲が限定されます。
もう一つの差は資金調達方法です。TMKは特定社債や優先出資証券など、法律に定められた資産対応証券のみを用います。一方、SPCは社債・株式・匿名組合出資など柔軟に選択できます。制度的信頼性を重視する大規模不動産開発ではTMKを、小回りとコストを重視する中小規模案件では合同会社を使うGK-TKスキームなどSPC系手法を採用するケースが多いのが実務の傾向です。
TMKは株式会社と同様「株式会社形態」で登記されますが、設立根拠法・目的・運営ルールは大きく異なります。以下、3つの視点で比較します。
こうした違いから、TMKは「目的を限定した一時的なプロジェクト法人」として設計される一方、株式会社や合同会社は長期的な事業運営を担う器として機能します。
資産を切り離して財務を改善できるTMKには、多くの企業が注目するだけの明確な利点があります。ここでは代表的な四つを取り上げます。
不動産取得に伴う多額の負債をTMKに移転すれば、親会社のバランスシートには負債が計上されません。その結果、自己資本比率を保ち、金融機関からの評価を下げずに済みます。
加えて、TMKを介せば第三者割当増資を行わずに自己資本比率を確保できるため、既存株主の持株比率を希薄化させずに済む点も実務上大きな魅力です。銀行格付けの改善や社債発行時の利率低減など、副次的な効果も期待できます。
資産をTMKに移しておけば、親会社が万一倒産しても対象資産は独立した法人に残り、債権者の影響を受けにくくなります。投資家にとっても回収可能性が高まるため、資金が集まりやすいという副次効果があります。
倒産隔離は、プロジェクトファイナンスやレバレッジド・バイアウト(LBO)の現場で重要視される概念です。高額な不動産を担保とする場合でも、TMKの保有口座に入る賃料などキャッシュフローが直接返済原資となるため、スポンサー企業の信用度に左右されにくい構造を作れます。
TMK設立によって資産と負債をバランスシートから外すと総資産が縮小します。同じ利益額でも分母が小さくなるため、自己資本利益率(ROE)が向上し、資本効率が改善します。これにより追加融資や投資の可否判断において有利に働く場合があります。
数字面の改善はIR活動にも直結します。ROEが高い企業は「資本を効率的に使っている」と評価され、株価のディスカウント要因が減少します。これにより経営者は中長期的な企業価値向上を図りやすくなります。
TMKは優先出資証券や特定社債など複数の資金調達手段を組み合わせられます。証券化により資産自体の信用力で資金を集められるため、スポンサー企業の信用度に依存しない柔軟なスキーム設計が可能です。
特定社債は1口1億円以上50口未満であれば社債管理者を置かずに発行できるため、機関投資家向けのプライベート・プレイスメントによく利用されます。一方、リスクとリターンのバランスを柔軟に設定できる優先出資証券は、インフラファンドや不動産再開発ファンドなどと相性が良く、案件ごとに条件を作り込めます。
反面、TMKスキームにはコストや手続の面で留意点も存在します。メリットだけで判断せず、以下の点を踏まえて検討を進めることが重要です。
TMKは資本金10万円以上が必須であるほか、登録免許税3万円、定款印紙4万円、登記事項証明書の取得費用など設立時点で現金流出が発生します。さらに、弁護士・司法書士・公認会計士等専門家への依頼費用も加わるため、初期費用は数十万円から案件規模によっては100万円超になる場合も珍しくありません。
TMKの設立には、資産流動化計画の策定・財務局への届出・定款作成・登記申請など多段階の手続が必要です。特に資産流動化計画は投資家保護の観点で詳細な記載が求められ、法令違反があると届出が受理されません。スポンサー企業は案件スケジュールに十分な余裕を持ち、専門家と連携しながら書類作成を進める必要があります。
各種届出や金融機関との融資交渉、デューデリジェンスを経てから初めて資産を取得できるため、案件着手から資金調達完了まで1〜3カ月程度を要するのが一般的です。市場環境が急変する局面では、取得機会を逃すリスクがある点への備えが欠かせません。
TMKは特殊法人であるため、企業グループ間で損益を通算できるグループ通算制度の適用外です。親会社で発生した赤字とTMKの黒字を相殺することはできないため、税負担が思ったほど軽減されないケースがあります。別途、配当損金算入など導管性要件を活用して税務効率を確保することがポイントになります。
過去には、親会社が実質支配するSPCを連結外と偽り、負債を隠蔽する不正会計が社会問題となりました。現在は連結基準が厳格化されていますが、TMKを利用する以上、ディスクロージャーの透明性を確保し、投資家・金融機関との信頼関係を保つ体制が欠かせません。監査役や会計監査人の設置、定期的な情報開示を通じて、ガバナンスを強化する姿勢が求められます。
以上のように、TMKは資産のオフバランス化と倒産隔離を同時に実現できる強力なツールである一方、設立・維持のコストや手続の負荷、税務面での注意点を慎重に見極めなければ期待通りの効果は得られません。次章では、こうした留意点を踏まえつつTMKに設けられた税制優遇措置を詳しく見ていきます。
なお、TMKに特有の税制優遇措置としては、配当金の損金算入と不動産取得時の登録免許税・不動産取得税の軽減が挙げられます。これらは導管性要件や期間制限があるため、制度趣旨を理解し正確に適用することが大切です。
たとえば、資本金100万円、優先出資5億円、特定社債20億円でホテル再開発を行う場合、設立時の専門家報酬や会計監査人報酬を含む初期費用は概算で200万円前後、毎期の監査費用が100万円程度発生するイメージとなります。案件規模が大きくなるほど会計監査人の設置義務が生じる点も忘れてはなりません。
自己資本比率やROEの向上は企業の信用力や株価に直結しますが、その数字が「一時的な見せかけ」にならないよう、資産の実態価値やキャッシュフローの安定性を丁寧に検証し、過度なレバレッジに依存しない計画を立てることが成功の鍵となります。
特定目的会社には、一般法人にはない2つの大きな税制メリットがあります。ひとつめは配当金の損金算入です。租税特別措置法第67条の14に定める導管性要件をクリアすれば、投資家へ支払う配当金を損金にでき、法人段階での課税を実質的に回避できます。導管性要件は、①名簿登載、②会計期間1年以内、③配当可能利益の90%超を分配、④同族会社に該当しない、など複数の条件から成り、計画段階での設計が不可欠です。
ふたつめは不動産取得時の税負担軽減です。特定目的会社が特定資産の75%以上を不動産で構成し、資産対応証券の発行を明示した資産流動化計画を届出していれば、登録免許税は通常2.0%から1.3%へ、不動産取得税は評価額の5分の3が控除されます。現行制度は令和9年3月31日までの時限措置のため、適用期限を見越したスケジュール管理が重要です。
資金調達手段は4つの柱で構成されます。
特定出資は発起人やスポンサーが拠出する自己資本部分です。特定資本は10万円以上で、有限責任社員となる出資者は出資額を限度に責任を負います。倒産隔離を徹底するため、一般社団法人やオフショア法人を中立的な出資者として組み込む例が多く見られます。
優先出資証券は議決権がなく、利益配分と清算時の残余財産分配で特定出資に優先します。配当条件や譲渡制限を柔軟に設定できるため、期待利回りの異なる投資家へ細やかな商品設計が可能です。
特定社債は原則として社債管理者の設置が必要ですが、発行総額1億円以上50口未満などの要件を満たせば省略できます。固定利回りを好む年金基金や保険会社にとっては魅力的な投資対象となります。
金融機関からの借り入れは基本的にノンリコースで組成され、返済原資を対象資産のキャッシュフローに限定します。スポンサー保証が不要なため、親会社のリスクを限定できる一方、融資条件は資産価値と収益安定性への厳格な審査を経て決定されます。
TMKの設立プロセスは6段階で整理すると理解しやすくなります。
弁護士・公認会計士・司法書士に早期相談し、資産流動化計画の骨子を固めます。資産内容、資金調達構成、出口戦略を並行検討することが成功の鍵です。
発起人の印鑑証明、役員の同意書、資産流動化計画案などを準備し、目的・存続期間・特定資本金額を盛り込んだ定款を作成します。株式会社のような公証人認証は不要ですが、紙定款に4万円の印紙税が課税される点に注意しましょう。
指定金融機関へ資本金を払い込み、払込証明書類を添付して法務局へ登記申請します。申請日が設立日となり、取締役1名と監査役1名の登記事項が公開されます。
登記完了後、資産流動化計画を添付して財務局へ業務開始届出を行います。計画には運用期間、資金調達方法、特定資産の取得時期・管理方法を詳細に記載し、承認を得て初めて資産取得や証券発行が可能となります。
特定社債発行額が200億円以上、または優先出資を発行する場合には公認会計士または監査法人の設置が義務となります。監査報酬は数百万円規模に達することもあるため、案件規模と費用対効果を勘案してスキームを検討してください。
森ビルは約2,700億円のプロジェクト費用のうち約1,700億円をTMKが調達し、親会社のリスクを限定しながら大型再開発を実現しました。
松竹は老朽化した劇場の建て替え資金をTMK経由で約430億円調達し、完成後は賃料収入を得る事業モデルを確立しました。
ホテルオークラは高層棟のオフィス部分を信託化し、共同設立したSPC(特別目的会社)へ譲渡するハイブリッド型スキームを活用しました。9割を短期借り入れで賄い、オフバランス効果と資産活用の両立を実現しています。
できます。
不動産収益物件を保有し、自己資本比率を維持しつつ新規融資枠を確保したい企業がTMKを活用するケースがあります。ただし設立・維持コストが大きいため、事業規模とのバランスを事前に検討することが欠かせません。
資産流動化計画が完了すれば株主総会で解散決議を行い、清算人が債権・債務整理を実施します。株式会社の清算手続に準じますが、監査役や会計監査人を置く場合は清算過程でも監査が必要となります。
法定の上限はありませんが、資産の運用計画に合わせ3〜10年程度で設定することが多いです。定款に存続期間または解散事由を必ず記載する点が、一般法人と大きく異なります。
法律上の制限はありませんが、安定的なキャッシュフローと所有権の確実性が求められます。借地権物件や用途変更予定の物件は、将来キャッシュフローが変動するためデューデリジェンスで慎重に検証されます。
TMKが組成するノンリコースローンは資産のキャッシュフローのみで返済され、スポンサー企業に遡及しません。これにより投資家リスクを限定しつつ、多額の外部資金を引き入れることが可能です。一方で貸し手は資産価値の評価を厳格に行うため、案件の透明性とガバナンスが必須となります。
特定目的会社TMKは、資産のオフバランス化と倒産隔離を同時に実現し、自己資本比率を守りながら大規模資金を調達できる強力なツールです。配当損金算入や不動産取得税の軽減など税制優遇も魅力ですが、設立コストと手続負荷は小さくありません。専門家と連携し、資産流動化計画を精緻に設計することで、財務改善とリスク分散を両立させた最適なスキームを構築できます。
著者|竹川 満 マネージャー/M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事