M&Aとは何か?事業承継と成長戦略成功のポイントを解説

M&Aとは何でしょうか?中小企業経営者が抱える後継者不在問題や更なる成長への悩みを解決する選択肢として注目されるM&Aの意味、手法、流れ、費用、成功の秘訣を実例と共にやさしく解説します。この記事を読めば不安が解消します。

目次

1.M&Aとは後継者不在を解決する事業承継の選択肢

2.M&A件数が増加する背景は経営者高齢化と市場環境の変化

3.M&Aの目的は事業承継と成長—メリットは多方面に及ぶ

4.M&Aに潜む課題は価格調整・人と取引のケア・情報管理

5.M&Aの進め方は検討からクロージングまで平均半年から一年

6.よく使われるM&A手法は株式譲渡と事業譲渡の二本柱

7.企業価値の評価は資産・収益・市場の三つの視点で算定

8.M&Aに必要な費用と税金を理解し総コストを把握する

9.成功の鍵は目的明確化・関係者配慮・専門家活用の三本柱

10.支援機関は公的機関から仲介会社まで特長を比較して選ぶ

11.中小企業M&Aの実例に学ぶ成功の要因

12.M&A知識を深める書籍3選―学びを行動につなげよう

13.M&A失敗例から学ぶ6つの留意点

14.M&A準備段階で使えるチェックリスト

15.PMIを成功させる具体的ステップ

16.クロスボーダーM&Aで押さえる追加ポイント

17.まとめ

M&Aとは後継者不在を解決する事業承継の選択肢

M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、合併や買収を通じて会社の経営権を他者に引き継ぐ取引を指します。中小企業では後継者がいないまま廃業の危機に直面するケースが増えており、M&Aは会社も従業員も守りながら事業を未来へつなぐ有力な方法として注目されています。中小企業基本法で定義される製造業資本金3億円以下・従業員300人以下といった規模の企業でも幅広く活用されている点が特徴です。

M&A件数が増加する背景は経営者高齢化と市場環境の変化

中小企業経営者の平均年齢は年々上昇しており、帝国データバンクの調査では2022年の休廃業が5万3千件を超え、半数以上が黒字のまま事業を閉じています。後継者不在という単純な理由で、利益が出ている企業まで消える現実が浮き彫りになりました。一方、中小企業基盤整備機構の統計では同年度のM&A相談件数と成約件数が過去最多を記録しています。高齢化と都市集中が進むなかで「第三者への承継=M&A」が一般的な解決策として浸透してきたと言えるでしょう。

参考:帝国データバンク

M&Aの目的は事業承継と成長―メリットは多方面に及ぶ

後継者不在の解消

M&Aを行う主な目的は大きく二つに整理できます。一つ目は後継者問題の解決です。親族や社員に後継者がいない場合でも譲受企業に経営を託すことで事業を継続できます。二つ目は成長戦略です。買い手側と組むことで新規市場への参入や事業再編を図り、企業価値を高められます。具体的なメリットを以下にまとめます。

従業員の雇用維持

会社が存続するため雇用が守られ、福利厚生やキャリア機会の向上も見込めます。

創業者利益の確保

株式譲渡などで譲渡対価を得られるため、引退後の生活資金に充てられます。

連帯保証の解除

経営者個人の保証債務を交渉で外せる可能性が高まり、リスクが軽減します。

企業の再編・拡大

買い手の資源と売り手の強みを組み合わせ、シナジー効果で売上や利益を伸ばせます。

M&Aに潜む課題は価格調整・人のケア・情報管理

メリットが多い一方で、希望通りの条件でまとまらないリスクも存在します。たとえば希望価格より低い提示しか得られない場合や、買い手企業から派遣された管理職と既存従業員の摩擦など、人の問題が起こりやすい点は注意が必要です。また長年培った取引先との関係も経営体制の変化で不安定になり得ます。こうした課題を減らすためには、複数の買い手候補を比較し、丁寧な説明と引継ぎを行いながら情報漏えいを防ぐガバナンス体制を整えることがポイントです。

M&Aの進め方は検討からクロージングまで平均半年から一年

中小企業がM&Aを実施する場合、一般的な流れは次の通りです。


検討開始

目的とゴールを整理し専門家へ初期相談を行います。


手法選定

株式譲渡か事業譲渡かなど適切なスキームを絞り込みます。


買い手候補選定

仲介会社などのネットワークを活用し候補をリスト化します。


トップ面談・交渉

経営者同士が面談して相性やシナジーを確認します。


基本合意書締結

独占交渉期間や大枠条件を定めます。


デューデリジェンス

財務・法務・人事など多角的な調査を行います。


最終契約書締結

価格・表明保証など詳細条件を確定します。


クロージング

譲渡代金の決済と株式移転を実行し、手続は完了です。


このプロセス全体で平均6か月から12か月を要するため、十分な準備期間と専門家の伴走が成功の鍵となります。

よく使われるM&A手法は株式譲渡と事業譲渡の二本柱

株式譲渡

経営者が保有する株式を買い手に譲り渡す最もシンプルな方法です。資産・負債・契約を丸ごと承継でき、従業員や取引先への影響が小さい点が魅力です。

事業譲渡

会社の一部または全部の事業を個別の資産負債ごとに移転する方法です。不要な資産を除外できる反面、契約の再締結や許認可の承継など手続が煩雑になる場合があります。

手法の選択は税務・費用・承継範囲など多面的に検討し、最終的には買い手と売り手双方が納得できる形を探ることが重要です。

企業価値の評価は資産・収益・市場の三つの視点で算定

  1. コストアプローチ(時価純資産法)
  2. インカムアプローチ(DCF法など)
  3. マーケットアプローチ(類似会社・取引比較法)


複数手法を組合せて価格レンジを設定し、公平感を担保したうえで交渉を進めます。

M&Aに必要な費用と税金を理解し総コストを把握する

仲介・アドバイザー手数料
成功報酬は取引額の約5%が目安。


税金

個人株主の株式譲渡益は約20.315%、法人株主は約30%。事業譲渡では消費税や不動産取得税も考慮。


専門家費用

財務・法務デューデリジェンスやバリュエーション費用が発生。

成功の鍵は目的明確化・関係者配慮・専門家活用の三本柱

  1. 目的を明確にする
  2. 関係者への配慮を怠らない
  3. 専門家を活用する

支援機関は公的機関から仲介会社まで特長を比較して選ぶ

支援機関                         特徴                         向いている場面

公的機関                         中立・低コスト         初期情報収集

金融機関                         取引関係を活用         関係の深い買い手探索

商工団体・士業                 身近だが経験差あり 小規模・地域案件

仲介会社・アドバイザー 実績豊富で主流         相手探しから交渉まで一括支援


なお、買い手側もDX加速や新市場参入を背景にM&A需要が高まっており、現在は「売り手市場」と言われます。準備を早めに始めることで好条件を引き出せる可能性がぐっと高まります。


ここまででM&Aの定義から流れ、費用までの概要を整理しました。後半では実例紹介や学習に役立つ書籍情報、記事全体のまとめをお届けします。実例に触れることで、数字だけでは見えないリアルな成功のポイントがより具体的に理解できます。

中小企業M&Aの実例に学ぶ成功の要因

ここからは実際に第三者承継を実行した中小企業の事例を五つ取り上げ、どのように課題を乗り越えて成功につなげたのかを見ていきます。業種や規模は異なりますが、共通して「譲受企業との相性」「シナジー創出の計画」「従業員や取引先への配慮」を丁寧に行った点が成果につながっています。

伝統の味を残す石豆腐店―地域企業への承継でブランドを継続

高齢化で廃業を検討していた豆腐店は、地元食品企業へ株式譲渡を実施しました。譲受企業はクラウドファンディングを活用して店舗を刷新し、昔ながらの製法を守りつつ新商品の開発も推進。地域密着ブランドを維持しながら売上基盤を拡大しました。

老舗餃子店が不動産会社と組み売上2.5倍を実現

1955年創業の餃子店は、同エリアの不動産会社とM&Aを実行。不動産会社は自社ビルの空き区画を活用して新店舗を展開し、EC販売を強化。味を守りつつ販路を広げ、売上は2.5倍に伸長しました。

設計会社とプラント企業の連携で大型案件を獲得

後継者不在の設計会社は火力プラント設計に強みを持つ企業へ事業譲渡。両社の技術を統合することで提案力が向上し、大型発電所の改修プロジェクトを受注。技術者のスキルアップにもつながりました。

包装資材会社が印刷会社とタッグを組み首都圏展開に成功

地方の包装資材卸は、首都圏に販路を持つ印刷会社へ株式譲渡。共有取引先へのクロスセルと物流統合を行い、短期間で新規顧客を開拓しました。

試験装置メーカーが受託企業を譲受しサービスラインを拡充

設備試験メーカーは関連分野の受託企業を買収。PMI段階で人材の相互研修を行い、技術交流を促進。提供サービスが広がり受注額も増加しました。


これらの事例から学べる共通ポイントは次の三点です。

  • シナジーを具体的に数値化し、早期に着手すること
  • 従業員や地域社会への配慮を行い、ブランド価値を守ること
  • PMIを計画段階から議論し、文化醸成に時間をかけること

M&A知識を深める書籍3選―学びを行動につなげよう

『M&Aで創業の志をつなぐ』―オーナー経営者のリアルな体験談

豊富な成約事例をもとに、売り手がどのように志を引き継いだのかを解説。感情面と実務面を具体的にイメージできます。

『事業承継のツボとコツがゼッタイにわかる本』―税務・法務の要点を整理

税制や会社法のポイントをイラスト付きで説明。株式譲渡契約の条項や退職金の適正額など基礎知識を身に付けられます。

『ストーリーでわかる初めてのM&A』―物語形式で全体像を俯瞰

架空企業のM&Aプロジェクトを追体験しながら、手法選定からPMIまでの流れを理解できます。

M&A失敗例から学ぶ6つの留意点

相乗効果が出ない会社を買わない・売らないことが大前提

無理なバラ色計画は危険。過大評価は買い手の負担を増やす

PMI準備はデューデリジェンス段階から開始する

情報管理とスピード感の両立が成否を分ける

適切なアドバイザー選定が交渉力を左右する

価格と条件はあくまで総合パッケージで考える

M&A準備段階で使えるチェックリスト

基礎情報の整理で自社を客観視する

決算書3期分と最新月次試算表を用意

株主構成と持株比率を一覧化

主力事業ごとの売上・利益を把握

リスク要因の棚卸しで交渉材料を強化する

連帯保証や担保設定の有無を確認

潜在コスト(未払い残業代等)を洗い出し

キーマン退職リスクを把握

シナジー訴求ポイントの整理で買い手に魅力を示す

技術・ブランド・人材など無形資産の強みを列挙

市場シェアや地域独占など差別化要因を数値化

顧客基盤の移転可能性を検討

PMIを成功させる具体的ステップ

Day1プランで不安を最小化する

90日アクションでシナジーを可視化する

カルチャーワークショップで相互理解を促進する

KPIモニタリングで成果を定量評価する

クロスボーダーM&Aで押さえる追加ポイント

  • 為替リスク管理
  • 法規制と許認可の確認
  • 文化と人材マネジメントの調整
  • コミュニケーション言語の統一


海外案件は複雑ですが、専門家が現地ネットワークを活用するとスムーズに進行できます。

まとめ

中小企業のM&Aは後継者不在の解決策であると同時に、事業規模と技術を飛躍させる成長投資の加速装置になります。目的を明確にし、従業員と取引先への配慮を徹底し、税務・法務に強い専門家の伴走を得ることで、企業と社員の未来を守りながら企業価値を最大化し、地域経済にも貢献する承継を実現できます。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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