M&Aによる従業員待遇への影響と注意点をわかりやすく解説

M&Aで従業員の待遇は変わるのか?その不安に対し、株式譲渡・事業譲渡の違いや具体的な影響、注意点をわかりやすくご紹介します。

目次

  1. M&Aにおける従業員待遇の重要性
  2. M&A手法による待遇の違い
  3. M&Aが従業員に与える具体的な影響
  4. 従業員が感じやすいM&Aへの不安
  5. M&Aによる待遇変化のメリット
  6. 待遇維持のために必要なポイント
  7. 従業員対応で注意すべき点
  8. まとめ

M&Aにおける従業員待遇の重要性

M&Aを行う際に、従業員の待遇について配慮することは非常に大切です。会社の価値の多くは従業員の働きによって生まれています。そのため、従業員が安心して働き続けられる環境を整えることが、M&Aを成功させるための鍵になります。

M&Aの実施後、従業員の労働条件や職場の環境が変わる可能性があります。待遇の悪化は、従業員のモチベーションを低下させ、退職につながるリスクもあります。円滑なM&Aを進めるには、従業員の不安を和らげるために、待遇についてしっかりと配慮する必要があります。

M&A手法による待遇の違い

M&Aにはさまざまな手法がありますが、代表的なのは「株式譲渡」と「事業譲渡」です。この2つの手法では、従業員の雇用契約や待遇に対する影響が大きく異なります。

株式譲渡の場合

株式譲渡とは、売却企業の株式を譲受企業に引き渡すことによって経営権を移転するM&Aの方法です。この手法では、法人格が変わらないため、従業員との雇用契約や労働条件がそのまま維持されるのが一般的です。


  • 雇用契約の変更は不要
  • 給与や福利厚生の変更は基本的にない
  • 法人としての会社は変わらず、株主だけが変わる

従業員にとって大きな変化がなく、精神的な負担も比較的少ないM&A手法といえます。

事業譲渡の場合

事業譲渡は、売却企業の一部または全部の事業を譲受企業に譲り渡す方法です。会社としては存続しますが、譲渡される事業に関わる従業員は新しい雇用契約を結ぶ必要があり、待遇が変わる可能性があります。


  • 雇用契約は自動的に引き継がれない
  • 従業員個別に新たな契約締結が必要
  • 待遇の変更や再交渉が発生する可能性がある

特に事業譲渡では、譲受企業と新しい条件で合意できなければ、従業員が移籍を拒否することもあります。そのため、事業譲渡では従業員への丁寧な説明と交渉が求められます。

M&Aが従業員に与える具体的な影響

M&Aは従業員の待遇にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。主な影響には、雇用契約、給与、勤務地、福利厚生、退職金の5つがあります。

雇用契約への影響

株式譲渡では会社が変わらないため、雇用契約はそのまま継続されます。一方で、事業譲渡では新たに契約を締結し直す必要があります。買収企業と従業員が双方で合意しなければ雇用継続はできないため、慎重な対応が必要です。

給与と勤務地の変更可能性

M&A後も給与は基本的に維持されますが、譲受企業の方針次第で次のような変更が起きる場合があります。


  • 別事業部門への異動
  • 別支店や拠点への転勤
  • 新契約時に条件の変更がある

従業員が安心して働けるよう、待遇変更の有無は事前にしっかり説明すべきです。

福利厚生制度の変化

福利厚生は企業によって異なるため、M&Aによって変更が起こることがあります。例えば、以前の会社で受けられていた制度がなくなったり、逆に新しい制度が加わったりする可能性があります。事前に変更点を明確にすることで、従業員の不安を和らげることができます。

退職金制度への影響

退職金制度もM&Aの手法によって取り扱いが異なります。株式譲渡では基本的に制度が継続されますが、事業譲渡では一度精算されたり、譲受企業で新たな制度に変更されることもあります。勤続年数の通算などが適用されるかどうかも重要なポイントとなります。

従業員が感じやすいM&Aへの不安

M&Aの実施は、従業員にとってさまざまな不安をもたらします。特に待遇や将来の職場環境に関する懸念が大きく、対応を誤るとモチベーションの低下や人材流出につながる恐れがあります。

待遇の悪化に対する懸念

最も多い不安は、待遇の悪化です。給与が下がるのではないか、勤務地が変わるのではないかといった疑念は、従業員の精神的負担になります。このような不安を取り除くためには、事前に丁寧な説明を行い、必要に応じて個別の相談機会を設けることが重要です。

モチベーションの低下

職場環境や上司・同僚との人間関係が変わることによって、仕事への意欲が下がる可能性があります。特に買収企業の社風や働き方に違和感を覚えると、適応が難しくなることがあります。

従業員間の軋轢

売却企業と買収企業で企業文化が異なると、価値観の違いが原因でトラブルになることもあります。現場での混乱を防ぐためには、企業文化の違いを事前に共有し、互いの理解を深める取り組みが求められます。

M&Aによる待遇変化のメリット

M&Aは不安だけでなく、従業員にとってプラスとなる面も数多く存在します。ここでは主なメリットを4つご紹介します。

雇用継続の可能性が高い

M&Aは企業を存続させるための手段でもあるため、雇用が継続される可能性は高いです。後継者不在であれば廃業せざるを得ない状況でも、M&Aによって雇用の場が守られることになります。

労働条件の改善

買収企業が大企業である場合、労働環境や給与体系が改善される可能性があります。福利厚生が充実していたり、キャリアアップ制度が整備されているケースもあり、従業員にとっては魅力的な転換点となることもあります。

キャリアの広がり

異業種間のM&Aであれば、新しい業務や職種にチャレンジできる環境が整うことがあります。これにより、これまで以上に幅広い経験やスキルを身につけることができます。

大企業の一員として働ける

買収企業が上場企業や大手グループ企業である場合、その一員として働けるという社会的信頼性の向上もメリットの一つです。従業員自身の将来性やキャリアの安定にもつながります。

待遇維持のために必要なポイント

M&Aにおいて、従業員の待遇を守るためには次の2つのポイントが非常に重要です。

雇用継続と待遇維持の交渉

M&Aの実行にあたり、売却企業と買収企業との間で従業員の待遇に関する協議を行うことが求められます。できる限り、従来と同じ条件で雇用契約が継続されるよう交渉することで、従業員の離職リスクを最小限に抑えることができます。

従業員との信頼関係の構築

M&Aの全体像や影響を正しく伝えることで、従業員との信頼関係を築くことができます。一方的な情報提供ではなく、双方向のコミュニケーションを通じて、従業員の不安に寄り添う姿勢が必要です。

従業員対応で注意すべき点

M&Aを成功させるためには、従業員への対応においていくつかの注意点を守る必要があります。

情報開示のタイミング

従業員にM&Aの事実を伝える時期は非常に重要です。情報が早すぎると混乱や不安を招く可能性があり、逆に遅すぎると不信感を持たれる可能性があります。重要な役職にある従業員には早期に伝え、それ以外の従業員には契約締結後に伝えるなど、役職に応じた段階的な対応が望まれます。

M&A反対者への対応

M&Aに反対する従業員に対しては、対話を重ねて理解を得る努力が必要です。強制的な転籍や解雇はトラブルのもとになるため、場合によっては自社内での配置転換や、買収企業への出向などの代替案を提示することも検討すべきです。

まとめ

M&Aにおいて従業員の待遇は非常に重要なポイントです。手法によって影響の大きさが異なるため、事前の準備と丁寧な説明が不可欠です。待遇を維持・改善し、従業員の理解と協力を得ることで、M&Aの成功に繋がります。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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