M&Aは相手がいないと進めようがありません。その相手をどうやって探すか、本記事では、M&Aの実情や事業者の見つけ方、注意点、成功に至るためのポイントについて解説いたします。
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中小企業庁によれば、M&Aの件数は年々増加しており、M&Aを行う企業が増えていることが分かります。高齢化により後継者問題が深刻化していることが、M&A増加の一因とされています。後継者が見つからない場合、事業承継の選択肢としてM&Aが注目を集めているのです。
▶目次ページ:事業承継とは(第三者への承継)
M&Aを希望する会社の探し方については、主に7つの方法が存在します。以下では、それぞれの方法について解説していきます。
取引先や知り合いに依頼するという方法が挙げられます。身近な人間関係から生じるM&Aは、親和性が高く相乗効果も生まれやすいと言われています。また、M&Aに伴う費用を抑制することができる点もメリットとなります。ただし、取引先や知り合いであっても、事業精査については専門家の意見を聞くべきでしょう。
M&A仲介会社に依頼する方法があります。これはM&A案件の探し方として最も一般的な手法となっています。税理士事務所や経営コンサルティング会社などにも依頼できることがあります。M&A仲介会社は独自のネットワークを持っており、一般には出回っていない案件情報を把握していることが多いです。
M&Aマッチングサイトを利用して自ら事業者を探すことができます。登録が無料で、仲介料がかからないサイトも存在しています。そのため、自社でM&A案件を探したい、なるべく費用を抑えて探したいという方に適しています。M&Aマッチングサイトを利用すると、売り手・買い手の双方の条件に合致した会社を見つけることが容易になります。
取引している銀行や証券会社に依頼して、M&A案件を見つける方法も一つの選択肢です。金融機関を通した案件は、事前に金融機関が精査した案件であるため、買い手も安心して取り組めるでしょう。なお、金融機関からM&A仲介会社に再委託し(または斡旋)し、結局はM&A会社が対応するケースも多いです。
事業承継が目的でM&Aを考えている場合、事業引継ぎ支援センターやその他の公的機関に相談するのも良い方法です。事業引継ぎ支援センターとは、中小企業や個人事業主の事業承継をサポートするために設立された公的機関であり、相談が無料で受け付けられることが多いです。事業と従業員の保護を目的にM&Aを検討している場合には、非常に適した選択肢と言えるでしょう。
税理士や公認会計士、弁護士などの士業へ依頼して、M&A案件を探すことも可視の方法です。多くの顧問先を持つ士業に相談することで、その中に適切な企業があれば優先的に紹介を受けることが可能となります。さらに、士業が顧問先の財務情報などを把握しているため、M&Aの手続きがスムーズに進められるのが特徴です。
ベンチャーキャピタルは、将来性があるスタートアップ企業に投資を行い、IPOやM&Aによる利益を目指す会社です。ベンチャーキャピタルは、自社が出資した企業の企業価値向上につながる可能性がある場合、その企業にM&A案件を紹介することがあります。優先的に案件紹介を受けたい場合は、日頃からコミュニケーションを大切にしておくことが重要です。
売り手と買い手それぞれの観点で、M&A案件を探す際に注意しなければならない点があります。以下では、それぞれの視点から注意点を説明します。
会社を譲渡する場合、自社と同業種・同規模の案件の取扱経験が豊富なM&A会社を利用することが重要です。自社の売上規模が小さい場合、大手企業をターゲットにしたM&A仲介会社では、相談に応じてくれないことや、案件が見つかっても成功報酬が割高になるというデメリットが生じることがあります。
複数のM&Aサービスに問い合わせを行い、料金体系やサポート体制を比較検討することがおすすめです。また、担当者との信頼関係も重要なポイントですので、しっかりとコミュニケーションを取ることが大切です。
M&Aサービスを活用する上で、最初にM&A戦略を明確にしておくことが重要です。目的や焦点となる要素が明確でなければ、依頼先に適した案件を紹介してもらうことが難しくなります。したがって、M&A戦略をきちんと策定することが肝心です。
さらに、組織間の役割分担や企業文化も慎重に検討する必要があります。M&Aはあくまで手段であり、目的そのものではないことを認識することが重要です。
ノンネームシートは、対象会社を特定できない情報だけが記載された資料です。買い手がM&Aの初期段階で検討するために、売り手の事業内容や譲渡条件、概算業績など基本的な情報が含まれています。情報漏洩リスクを最小限に抑えるため、詳細な情報は掲載されていません。
ロングリストは、M&Aにおける潜在的なパートナー企業の一覧です。売り手から見ると買い手の企業、買い手から見ると売り手の企業がリストアップされています。企業名、代表者名、本社所在地、主要商品や売上高などの情報がリスト化されています。通常は、20~100社程度のリストが作成されることが一般的です。
ショートリストは、ロングリストからさらに絞り込んだ候補企業のリストです。通常、5~10社程度に絞り込まれることが多いです。ショートリストには、ロングリストに掲載されている情報の他にも、従業員数、役員構成、株主構成、事業の強みや弱み、M&A実施時のメリットやデメリットなど、より詳細な情報が記載されています。
企業概要書とは、M&A(合併・買収)において、売り手の企業の詳細な情報をまとめた重要な資料であり、買い手がM&Aの実現可能性を具体的に検討するために役立ちます。企業概要書には、財務状況、組織図、事業計画などの様々な情報が含まれており、ノンネームシートで関心を示した企業と秘密保持契約を締結した上で、企業概要書が提示されることが一般的となっています。
自社の強みや独自性を明確に把握しましょう。譲渡先を探す上で、強みや独自性がはっきりしている企業は有利であり、赤字企業であっても、明確な強みや魅力があれば譲渡が実現可能となります。自己分析を行い、自社の強みを理解した上で、買い手に魅力的にアピールしましょう。
M&Aの目的を明確にすることが重要です。M&Aは単なる手段であり、目的自体ではありません。売り手であれば、事業承継の円滑化や譲渡益の獲得を目的にすることが一般的ですし、買い手であれば、新規事業への参入や事業の拡大を目指すことが考えられます。目的が明確でないと、成約すること自体が目指すべき目標となってしまい、本来の意味を見失うこともあるので注意しましょう。
M&Aを進めるにあたっては、専門的な知識や技術を持つ専門家に依頼することが賢明です。M&Aは経営者にとって時間や労力がかかるものであり、精神的負担も少なくありません。早期に専門家や専門会社に相談することで、円滑に進めることができ、負担も軽減されます。
M&Aの探し方には、M&A仲介会社を利用したり、取引先や金融機関から情報提供を受ける方法、またM&Aマッチングサイトを活用する方法などが存在します。M&Aを実現するためには、自社の強みや独自性を整理し、目的を明確にし、適切な専門家への早期依頼が大切です。これらのポイントを押さえることで、より成功に近づくでしょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画