配当還元方式とは?相続対策と株価計算方法を税理士が解説

配当還元方式は、非上場株式の相続税評価で、特に同族株主以外が取得する少数株主の評価に有利な手法です。本記事では、不動産税理士が、配当金から株価を算出する計算式や特例評価方式を中心に、相続・贈与での具体的な活用法と注意点をわかりやすく解説します。さらに、従業員持株会や役員持株会といった具体例も踏まえて、相続対策への応用も紹介します。

目次

  1. 配当還元方式とは
  2. 配当還元方式が利用できる要件
  3. 配当還元方式の計算方法
  4. 他の企業評価手法
  5. 配当還元方式のメリット・デメリット
  6. 配当還元方式を活用した相続・承継対策
  7. 配当還元方式適用時の留意点
  8. まとめ

配当還元方式とは

配当還元方式は、非上場会社の株式を評価する方法の一つで、特に少数株主が保有する株式の評価に適しています。大きな特徴として、株式が生み出す配当金に注目して価値を算出するため、会社の利益水準や純資産よりも配当金額が重視される点が挙げられます。

非上場会社の株式は、上場株式とは違い市場価格が存在しないため、相続や贈与などで株式を取得した際にその適正な価値を評価しなければなりません。特に少数株主は経営に参加できる立場が限られ、配当金の受取が主な保有メリットになります。そのため、少数株主に該当するケースでは、配当金をベースとする配当還元方式が採用されやすいのです。

また、実際の相続税や贈与税額にも大きく影響することがあるため、事業承継や相続税対策を考えるうえでも非常に重要な評価手法です。

ポイント

  • 相続や贈与などで取得する非上場株式の評価で用いられる
  • 同族株主以外の少数株主が取得した場合に選択されやすい
  • 配当金に基づいて株価を算出するため、通常は他の手法に比べて低めの評価となりやすい

配当還元方式が利用できる要件

配当還元方式を適用するためには、税法上の一定条件を満たす必要があります。主な判断基準は、取得した株主が「同族株主等以外の者」であるかどうかにかかってきます。ここでいう「同族株主」とは、特定の株主グループで議決権の一定割合以上(30%など)を保有している場合を指します。

同族株主の有無に応じた判定

同族株主がいる会社

  • 同族株主本人の議決権割合が5%以上であれば、通常は原則的評価方式を用います。
  • 5%未満でも、「中心的な同族株主」が存在しない場合は同族株主等に該当し、原則的評価を使う場合があります。
  • 反対に、同族株主以外として認められるときは、配当還元方式が選択されます。

同族株主がいない会社

  • 取得者の議決権割合合計が15%未満であれば、配当還元方式を適用します。
  • 15%以上のグループに属している場合でも、取得後の議決権が5%未満かつ「中心的な株主」ではないなど、細かな判定があります。


「中心的な同族株主」や「中心的な株主」という概念は、一定以上の議決権を保有し、かつ役員就任の見込みなどがあるかどうかで区別されます。これらの定義を正確に理解することが、配当還元方式を合法的に適用する際に不可欠です。

税理士の見解

「配当還元方式は、難しい計算式そのものよりも、適用してよい株主かどうかを判断する過程が重要です。専門家のサポートがあると、配当還元方式が本当に当てはまるのかを早期に確認できるでしょう。」

配当還元方式の計算方法

配当還元方式の計算式は、基本的に「1株当たりの年間配当金額を基準年利率(10%)で割る」という考え方です。具体的には、以下のシンプルな計算例が国税庁の資料などで示されています。


1株当たりの評価額 = 年間配当金額 ÷ 10%


たとえば、1株当たりの年間配当金が5円の場合は、株価が50円(=5÷0.1)となります。

しかし、「#参考」に記載されている別の式では、より詳細に次のように表す場合もあります。


配当還元方式の計算式

(1株あたりの年配当金額 ÷ 10%) × (1株あたりの資本金等の額 ÷ 50円) = 1株あたりの株価

  • ここで、「1株あたりの資本金等の額」 とは、資本金と剰余金の合計額を株式数で割って算出します。
  • 計算式における**「÷50円」**は、国税の評価規定上、「1株50円を基準に補正」するための係数をかけるイメージです。
  • 配当が無配または1株あたり2.5円未満のときは、2.5円とみなして計算する特例があります。

具体的な計算例

年間配当金額が1株あたり5円の場合

  • 単純方式: 5円 ÷ 10% = 50円
  • 資本金等の額補正方式(例): (5円 ÷ 10%) × (資本金等の額÷50円)


年間配当金額が1株あたり2円の場合

  • 2.5円(下限) ÷ 10% = 25円


このように、配当金の額がどのくらいかで株価が上下し、配当が少額であっても最低限2.5円を基準に計算します。

注意:特別配当や記念配当など、通常の定期配当として継続的に払われていない配当金は、計算から除外されるのが原則です。

他の企業評価手法

配当還元方式は、特例評価方式の一種と位置づけられますが、それ以外にも非上場株式の評価には複数の手法があります。主なものとして、**原則的評価方式(純資産価額方式・類似業種比準方式)**が挙げられます。

純資産価額方式

  • 会社の資産と負債を相続税評価額で洗い替えし、純資産額を求め、その金額を発行済株式数で割って1株当たりの評価額を算出します。
  • 多くの資産を保有し含み益が大きい企業は、この方式だと株価が高くなりがちです。

類似業種比準方式

  • 同業種の上場企業の株価を参照して、利益や配当、純資産などの指標を比較・比準しながら評価します。
  • 市場環境によって評価額が変動しやすい一方、実際の取引価格を参考にするため客観性が高いともいわれています。

特例評価方式(配当還元方式)

  • 少数株主向けに適用されることが多く、他の手法と比べて評価が低く出やすい側面があります。
  • 配当還元方式そのものはシンプルですが、株主区分の判定が複雑な点が注意事項です。

配当還元方式のメリット・デメリット

メリット

評価額が低くなりやすい

原則的評価方式と比べると、株主の配当収益にのみ着目する手法のため、相続税や贈与税の節税につながる可能性があります。


計算が比較的簡単

純資産価額方式や類似業種比準方式では、時価評価や類似企業データとの比較などが必要ですが、配当還元方式は配当金額の把握を中心に行います。


特例でさらに下限を設定

2.5円未満の場合でも2.5円とみなして計算するため、無配会社でも株価がゼロにならないよう考慮されています。

デメリット

適用対象株主が限られる

同族株主など大きな議決権を持つケースでは適用されにくく、中心的な同族株主に該当すれば原則的評価方式が優先されます。


配当額が多いと株価が高くなる

配当金が多い会社は、かえって原則的評価方式の方が株価が低くなる場合もあります。


取得者ごとの評価

同じ会社の株式でも、取得者の立場や議決権割合で評価方式が変わるため、家族内の取得でも人によって評価が変わる場合があります。

税理士の見解

「配当還元方式が絶対に有利とは限りません。配当政策や株式の保有状況によっては、原則的評価方式の方が結果的に株価が低くなる可能性もあるため、常に両方試算して判断するとよいでしょう。」

配当還元方式を活用した相続・承継対策

相続税負担を軽減したり、事業承継の進め方を工夫したい場合に、配当還元方式を戦略的に活用する手段が考えられます。ここでは、同族株主に該当しない形で株式を分散する方法として、従業員持株会や役員持株会の利用例を解説します。

同族株主以外の活用と注意点

  • 同族株主以外が少数株を取得するように生前に株式を譲渡・贈与すると、配当還元方式の適用要件を満たせる可能性があります。
  • ただし、一度外部の株主に株式を渡した場合、後から会社や当事者が買い戻す際の評価は、一般に原則的評価方式(高い株価)になる恐れがあります。

従業員持株会の活用

  • 少数株主となる従業員に株式を取得してもらうことで、配当還元方式が選びやすくなるケースがあります。
  • 従業員が自社株を保有することは、財産形成の機会にもなり、会社へのモチベーション向上が期待できます。
  • しかし、退職者が一度に増え、持株会が大量の株式を買い戻す必要があると資金繰りが大変になるリスクがあります。

役員持株会の活用

  • 血縁関係のない役員が後継者候補となる場合、役員持株会を作って配当還元方式による株式取得を進めることも一手です。
  • 役員が株式を持つことで経営参加意識が高まり、事業承継を円滑に行いやすくなるメリットがあります。
  • 反面、役員持株会が大きな議決権を持つと経営権分散のリスクがあるため、譲渡割合を注意深く設計する必要があります。

不動産オーナーへの影響

  • 不動産投資を法人で行っている方は、非上場株式を保有する可能性が高く、相続の際は原則的評価方式か配当還元方式かを慎重に判定しなければなりません。
  • 不動産オーナー専門の知見をもつ税理士法人では、不動産と相続にまつわる問題解決に強みをもつケースが多く、同族株主かどうかや議決権割合の判定からサポートしてもらえます。

配当還元方式適用時の留意点

1年未満の事業年度の場合

  • 過去2年の配当金額を合計して平均を出す際、事業年度が6か月や9か月など1年未満設定の場合は、合計期間が増えたりズレたりするので、配当計算期間に注意が必要です。
  • 例:6か月を1事業年度と定める会社なら、2年で4期分の配当金額を合計して平均する必要があります。

複数の配当がある場合

  • 年に2回支払われる中間配当や、臨時の特別配当・記念配当の扱いがポイントです。
  • 定期的に支払われる配当は合算しますが、継続的でない特別配当は、年配当金額の計算に含めないのが原則です。

原則的評価方式が有利になるケース

  • 会社が高配当を出している場合、配当還元方式で算出すると株価が割高になる可能性があります。
  • このとき、原則的評価方式の方が株価が低いと判明すれば、そちらを選ぶことが可能です。
  • 結果的に、株主が取得する形態や会社の配当方針を踏まえて、どちらの方式が有利かを選択できるため、定期的な比較検討が欠かせません。

税理士法人グループへの無料相談と不動産税理士のサポート

事業承継や会社売却に関する相談はもちろん、不動産を絡めた相続対策を総合的に行いたい場合には、不動産に強い税理士法人への相談が有効です。

また、税理士法人グループへの相談サービスを活用すれば、会社売却(M&A)に関するアドバイスや、株式の譲渡・評価にまつわる業務を無料相談で聞くことも可能です。

不動産税理士のコメント

「配当還元方式そのものの仕組みは比較的シンプルですが、自分が配当還元方式を選択できる株主かどうかの判定は専門的な知識が必要です。さらに、株式評価は税務調査でも重要視される部分ですので、早めに税理士へ相談することをおすすめします。」

まとめ

配当還元方式は、配当金を重視して非上場株式を評価するため、少数株主が取得した株式の相続・贈与時に有効な手法です。ただし、同族株主か否かの判定や、配当額が多い場合の評価上昇など注意点も多く、最適な評価方法を選ぶには専門家のサポートが欠かせません。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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