配当還元方式は、非上場会社の株式評価において重要な手法の一つです。この方法は、主に少数株主が保有する株式の評価に用いられ、相続税や贈与税の計算に大きな影響を与えます。本記事では、配当還元方式の概要、適用要件、計算方法、他の評価方法との比較、活用例、そして注意点について詳しく解説しています。
目次
配当還元方式は、非上場会社の株式評価において用いられる手法の一つです。主に株式の相続や贈与の際に、その価値を算定するために使用されます。
この方式は、株式から得られる配当金に着目して株価を算出します。特に、少数株主が保有する株式の評価に適しています。
配当還元方式が適用される背景には、非上場会社の株式特有の事情があります。具体的には以下の点が挙げられます:
• 取引市場が存在しないため、換金が困難
• 少数株主は経営への参画機会が限られている
• 配当受取りが株式保有の主なメリットとなる
このような状況を考慮し、少数株主から相続によって取得する非上場株式の評価には、配当金を基準とする配当還元方式が採用されることがあります。
注目すべき点として、配当還元方式による評価額は、通常、他の評価方法と比較して低くなる傾向があります。これは、相続税や贈与税の節税対策として活用される可能性があることを示唆しています
▶目次ページ:親族内承継(自社株の評価)
配当還元方式を適用するには、特定の条件を満たす必要があります。主な適用条件は、株式の取得者が「同族株主等以外の者」であることです。
同族株主等以外に該当するかどうかを判断するには、「同族株主」「中心的同族株主」「中心的な株主」という3つの概念を理解する必要があります。これらの定義について、順に説明していきます。
評価会社 |
評価する株式を取得した株主の区分 |
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評価方法 |
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同族株主がいる会社 |
同族株主 |
株式取得後の議決権割合が5%以上 |
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株式取得後の議決権割合が5%未満 |
中心的な同族株主がいない時 |
同族株主等 |
原則的 評価方式 |
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中心的な同族株主がいる時 |
中心的な同族株主 |
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役員・役員となる株主 |
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上記以外の株主 |
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同族株主以外の株主 |
同族株主等以外 |
配当還元方式 |
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同族株主がいない会社 |
議決権割合の合計が15%以上のグループに属している株主 |
株式取得後の議決権割合が5%以上 |
同族株主等 |
原則的 評価方式 |
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中心的な株主がいない時 |
同族株主以外 |
配当還元方式 |
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株式取得後の議決権割合が5%未満 |
中心的な株主がいる時 |
役員・役員となる株主 |
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上記以外の株主 |
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議決権割合の合計が15%未満のグループに属している株主 |
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同族株主とは、以下の条件を満たす株主およびその同族関係者を指します:
1. 課税時期(相続の場合は相続開始時)において
2. 評価会社の株主のうち、1人の株主とその同族関係者が保有する議決権の合計数が
3. 評価会社全体の議決権総数の30%以上(または特定の条件下で50%超)である場合
同族関係者には、以下のような人々が含まれます:
• 株主の親族(配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族)
• 株主と内縁関係にある人
• 株主の使用人
• 株主からの金銭その他の資産により生計を立てている人
• 上記の人々と共に生計を立てている親族
中心的同族株主は、同族株主のうち、以下の条件を満たす株主を指します:
1. 課税時期において
2. その株主および特定の関係者の有する議決権の合計数が
3. その会社の議決権総数の25%以上である場合
特定の関係者には以下が含まれます:
• 配偶者
• 直系血族(親、祖父母、子、孫など)
• 兄弟姉妹
• 一親等の姻族
• 上記の者の同族関係者が保有する議決権の合計が議決権総数の25%以上の会社
中心的な株主は、以下の両方の条件を満たす株主を指します:
1. 株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計議決権割合が15%以上
2. 1人で10%以上の議決権を所有している
これらの定義を理解することで、配当還元方式の適用可否を正確に判断することができます。
配当還元方式による非上場株式の評価は、以下の計算式を用いて行われます
上記の計算式ですと、配当が無い場合は評価が0円となってしまいます。そこで、配当金が無配または2.5円未満の場合、「年配当金額」を2.5円として、配当還元価額を算出します。
1株当たりの評価額 = 年間配当金額 ÷ 10%
この計算式では、年間配当金額を10%で割ることで、株式の評価額を算出します。10%という数値は、国税庁が定めた基準年利率です。
ただし、配当金が無配または1株当たり2.5円未満の場合は特別な取り扱いがあります。この場合、「年間配当金額」を2.5円として計算します。これは、配当金が少ないまたは無い場合でも、株式に一定の価値を認めるための措置です。
計算例:
1. 年間配当金額が1株当たり5円の場合 評価額 = 5円 ÷ 10% = 50円
2. 年間配当金額が1株当たり2円の場合 評価額 = 2.5円 ÷ 10% = 25円
この計算方法により、配当金を基準とした株式の評価額を算出することができます。
配当還元方式以外にも、非上場株式の評価には様々な手法があります。それぞれの特徴を理解することで、適切な評価方法を選択することができます。
いわゆる原則的評価方式は、「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の総称です。これらの方式は、配当還元方式とは異なる観点から株式価値を評価します。
純資産価額方式は、企業の1株当たりの純資産額に基づいて株式価値を判断する方法です。この方式は以下の2つのステップで行われます:
1. 純資産の算定
• 会社の資産と負債を相続税評価額に洗い替え
• 評価後の資産と負債の差額から純資産を算出
• 含み益に対する法人税相当額を差し引く
2. 1株当たりの純資産の算定
• 算定された純資産を発行済株式数で割る
この方式の特徴は以下の通りです:
• 自社の財務諸表を基に計算されるため、市場の影響を受けにくい
• 時価評価できる資産を多く保有している場合、評価額が高くなる可能性がある
類似業種比準方式は、同業種の上場企業の株価を参考にして非上場企業の株価を算定する方法です。この方式の特徴は以下の通りです:
• 上場企業の株価に影響を受けやすい
• 利益を上げている企業ほど評価額が高くなる傾向がある
• 大企業の株式評価でよく用いられる
• 現実の取引価格を参考にしているため信憑性が高い
• M&A(合併・買収)などでも活用される
特例評価方式には、本記事で詳しく解説している配当還元方式が該当します。配当還元方式は、主に少数株主が保有する株式の評価に用いられ、通常、他の評価方法よりも低い評価額となる傾向があります。
これらの評価方法を比較すると、それぞれに特徴や適用場面が異なることがわかります。企業の状況や評価の目的に応じて、適切な方法を選択することが重要です。
配当還元方式は、適切に活用することで相続対策に役立てることができます。この方式の特徴を理解し、戦略的に運用することが重要です。
配当還元方式を相続対策に活用するポイントは以下の通りです:
1. 同族株主以外の少数株主の活用
• 同族株主以外の少数株主が株式を取得する場合、配当還元方式が適用可能
• 少数株主の株式は、一般に低く評価される
2. 同族株主の相続税評価額の低減
• 少数株主に低い株価で自社株を持ってもらうことで、同族株主の保有する自社株の相続税評価額を
下げることができる
3. 長期的視点での検討
• 一度少数株主に譲渡または贈与した自社株を後で取り戻すことは難しい
• 取り戻す際の税務上の株価は原則的評価額(より高い株価)となる可能性がある
4. 専門家の助言を得る
• 税務専門家を交えて長期的な視点で検討することが重要
この方法を活用する際は、以下の点に注意が必要です:
• 相続税の節税効果がある一方で、経営権の分散リスクがある
• 将来の事業承継や企業価値向上の観点から慎重に検討する必要がある
配当還元方式を活用した相続対策は、適切に計画し実行することで、相続税の負担軽減に繋がる可能性があります。ただし、複雑な税制や長期的な影響を考慮する必要があるため、専門家のアドバイスを受けながら進めることをお勧めします。
配当還元方式を効果的に活用するには、具体的な方法を理解することが重要です。ここでは、従業員持株会と役員持株会を利用した活用例を詳しく説明します。
従業員持株会は、配当還元方式を活用する上で有効な手段の一つです。
以下にその特徴と利点を示します:
1. 配当還元方式の適用
• 従業員持株会の社員株主への譲渡は、同族株主以外への譲渡となるため、配当還元方式の選択が可
能です。
2. 従業員のメリット
• 自社の株式を取得でき、財産形成につながります。
• 株式保有を通じて、会社への帰属意識が高まる可能性があります。
3. 経営者のメリット
• 福利厚生の一環として、従業員に対するアピールポイントとなります。
• 従業員の退職時に株式を買い戻すことで、自社株の社外流出を防ぐことができます。
4. 相続税対策
• 従業員持株会の存在により、相続税を抑える効果が期待できます。
ただし、以下の点には注意が必要です:
• 従業員持株会に譲渡する株式数が多すぎると、経営者の支配権が脅かされる可能性があります。
• 退会する従業員が一時期に集中すると、株式の買い戻しに多額の資金が必要となる場合があります。
役員持株会も、配当還元方式を活用する有効な手段です。特に、血族関係のない役員を後継者として指定する場合に有用です。
1. 配当還元方式の適用条件
• 役員として任命された従業員が経営者との血縁関係がなく、大株主でもない場合、役員持株会を設
立し配当還元方式を活用した株式譲渡が可能です。
2. 事業承継への活用
• 将来の後継者候補に段階的に株式を譲渡する手段として利用できます。
3. 経営参画意識の向上
• 役員が自社株を保有することで、経営への参画意識が高まる可能性があります。
4. 相続税対策
• 役員持株会を通じて株式を分散することで、相続税の負担軽減につながる可能性があります。
注意点:
• 役員の選定や株式譲渡の割合は、将来の経営体制を見据えて慎重に決定する必要があります。
• 税務上の取り扱いについて、専門家に相談することをお勧めします。
これらの活用例は、企業の状況や目的に応じて適切に選択し、実施することが重要です。配当還元方式を活用することで、事業承継や相続対策を効果的に進めることができますが、長期的な視点と専門家のアドバイスを踏まえて計画を立てることが成功の鍵となります。
配当還元方式を適用する際には、いくつかの重要な留意点があります。これらを正しく理解し、適切に対応することで、評価の精度を高めることができます。
配当還元方式で使用する「年間配当金額」は、通常、過去2年間の配当金額を基に算出します。しかし、事業年度が1年でない場合には、以下の点に注意が必要です:
1. 会社法の規定
• 会社法では事業年度を1年以内の期間と規定しています。
• 6か月や9か月を1事業年度とすることも可能です。
2. 配当金額の算出方法
• 事業年度が1年未満の場合、2年間分の配当金額を正確に計算する必要があります。
• 例:事業年度が6か月の場合、2年間(=4事業年度)の配当金額の合計を用います。
3. 注意点
• 1事業年度≠1年間となる場合があるため、配当金額の集計期間に注意が必要です。
• 正確な期間の配当金額を把握することが重要です。
企業によっては、年に複数回の配当を実施することがあります。このような場合、配当還元方式の適用には以下の点に注意が必要です:
1. 中間配当の取り扱い
• 中間配当がある場合、期末配当と合算して1年間の配当金額とします。
2. 特別配当・記念配当の取り扱い
• 臨時に支払われる「特別配当」や「記念配当」は、1年間の配当金額には含めません。
3. 注意点
• 通常の定期的な配当と、臨時的な配当を正確に区別することが重要です。
• 配当の性質を正しく判断し、適切に計算に反映させる必要があります。
通常、配当還元方式は原則的評価方式よりも評価額が低くなることが多いですが、例外的に原則的評価方式の方が低くなる場合があります。
1. 高額配当の影響
• 業績に比べて高額な配当を実施している場合、配当還元方式の評価額が高くなる可能性がありま
す。
2. 評価方式の選択
• 配当還元方式の評価額が原則的評価方式よりも高くなる場合、原則的評価方式を採用することが可
能です。
3. 注意点
• 配当政策と株式評価の関係を常に意識する必要があります。
• 定期的に両方の評価方式で計算し、比較検討することをお勧めします。
これらの留意点を踏まえ、適切に配当還元方式を適用することで、より正確で有利な株式評価を行うことができます。ただし、評価方法の選択や具体的な計算方法については、税務の専門家に相談することをお勧めします。
配当還元方式は、非上場会社の株式評価において、特に少数株主が保有する株式の評価に有効な手法です。この方式は、株式から得られる配当金に基づいて株価を算出するため、通常、他の評価方法よりも低い評価額となります。適用には同族株主等以外の者という条件がありますが、適切に活用することで相続対策や事業承継に役立てることができます。ただし、複雑な税制や長期的な影響を考慮する必要があるため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に計画を立てることが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画