株式譲渡における対価の支払調書について、提出義務者や対象範囲、作成方法、提出先や期限などを詳しく解説します。適切な手続を行うためのポイントや専門家サポートの活用法も紹介します。
目次
株式譲渡を行う際、支払調書の提出が法律で義務付けられています。この支払調書は、株式等の譲渡の対価の支払いを証明するための重要な書類です。税務署が納税者の支払いを正確に把握するために必要不可欠な法定調書の一つとなっています。
支払調書の提出義務は、所得税法および租税特別措置法によって規定されています。具体的には、年間5万円以上の報酬を個人に対して支払った場合に、提出が必要となります。
株式譲渡を行う際には、税金の観点からも注意が必要です。売り手には住民税・所得税・復興特別所得税が、買い手には場合によって贈与税が課税されることがあります。支払調書は、これらの税金の確定申告の内容が正確であるかを確認するための重要な資料となります。
支払調書の提出義務者は、株式等の譲渡の対価の支払いをする法人、証券会社、または銀行です。これは、売り手が上場・非上場に関わらず適用されます。
M&A(合併・買収)の場合、通常は買い手の会社が提出義務者となります。つまり、株式を買い取る側の企業が支払調書を作成し、提出する責任を負うことになります。
支払調書の対象となる「株式等」には、以下のようなものが含まれます。
1. 株式(株主または投資主となる権利、株式の割当を受ける権利、新株予約権および新株予約権の割当を受ける権利
を含む)
2. 特別の法律により設立された法人の出資者の持分、合名会社、合資会社または合同会社の社員の持分、協同組合等
の組合員または会員の持分、その他法人の出資者の持分(出資者、社員、組合員または会員となる権利および出資
の割当を受ける権利を含む)
3. 協同組織金融機関の優先出資に関する法律に規定する優先出資および資産の流動化に関する法律に規定する優先出
資
4. 投資信託の受益権
5. 特定受益証券発行信託の受益権
6. 社債的受益権
7. 公社債
▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)
株式等の譲渡の対価の支払調書は、納税地等を所轄する税務署に提出する必要があります。提出期限は、支払いを行った年の翌年1月31日までとなっています。
納税地を所轄する税務署がわからない場合は、国税庁のホームページにある「組織(国税局・税務署・税務大学校等)」のページで確認することができます。自身の住所や会社の所在地から、管轄の税務署を簡単に調べることが可能です。
支払調書の提出は、法人税や所得税の申告とは異なり、提出期限を過ぎても延滞税や加算税は発生しません。しかし、これは期限後の提出を推奨するものではありません。
実際、提出期限を過ぎた場合、所得税法第242条に基づき、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が課される可能性があります。このような罰則を避けるためにも、支払調書の提出は計画的に行うことが重要です。
期限内に提出できない特別な事情がある場合は、事前に所轄の税務署に相談することをおすすめします。状況によっては、柔軟な対応が可能な場合もあります。
株式譲渡に関する支払調書の手続には、「株式等の譲渡の対価等の支払調書」と「株式等の譲渡における対価等の支払調書合計表」の2種類の書類を提出する必要があります。これらの書類の様式と記載要領は、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。また、直接税務署で用紙を受け取ることも可能です。
株式等の譲渡の対価等の支払調書を作成する際は、以下の項目を正確に記載する必要があります。
1. 支払、交付を受ける者の住所および所在地
2. 支払、交付を受ける者の氏名または名称
3. 個人番号および法人番号
4. 支払者または交付者の名称および法人番号
5. 交付の取扱者の所在地および法人番号
6. 区分
7. 番号
8. 名称または銘柄
9. 支払、交付確定年月日
10. 事由
11. 株数または額面金額
12. 支払、交付金額
13. 源泉徴収税額
特に、平成28年以降は個人番号や法人番号の記載が必要となっています。売り手が個人の場合、売り手の経営者の個人番号が必要ですが、不明または提供されない場合は空欄のままで提出することができます。
なお、支払先に対する控えとして渡す場合は、個人番号を記載しないよう注意が必要です。
株式等の譲渡の対価等の支払調書合計表には、以下の項目を記載します。
1. 提出者の所在地
2. 提出者の氏名または名称および法人番号
3. 代表者の氏名および代表印
4. 合計表作成の担当者氏名
5. 区分
6. 支払金額
7. 支払件数
8. 源泉徴収額
支払調書合計表は、支払調書の種類ごとに添付することが義務付けられています。正確な記入を心がけましょう。
支払調書と支払調書合計表の作成が完了したら、所轄の税務署に提出します。提出方法は以下の3つがあります。
1. e-Taxソフトを利用したインターネット提出
2. 税務署への直接持参
3. 郵送による提出
e-Taxソフトを利用したインターネット提出が最も便利で効率的です。ただし、初めて利用する場合は事前の準備や設定が必要となりますので、余裕を持って準備を進めることをおすすめします。
直接持参や郵送の場合は、提出期限に十分注意し、遅れることのないよう計画的に行動しましょう。
株式譲渡に関する各種書類の作成や手続は、専門的な知識が必要となる複雑なプロセスです。そのため、専門家によるサポートを受けることが、スムーズな手続と将来的なトラブル回避につながります。
株式譲渡支援サービスでは、以下のようなサポートを受けることができます。
1. 支払調書の提出対象となるかどうかの判断
2. 各種書類の作成支援
3. 税務上の助言
4. M&Aプロセス全体のコンサルティング
5. 法的リスクの確認と対策
これらのサービスを利用することで、専門家の知見を活かした適切な対応が可能となり、手続の正確性と効率性が向上します。
株式譲渡支援サービスの具体的な成果例として、以下のようなケースが挙げられます。
1. 関東エリアでのITソフトウェア企業と人材派遣企業間の株式譲渡
o 売り手:事業発展を目的とした株式譲渡
o 買い手:受託開発強化を目的とした株式取得
o 結果:両社の目的を達成し、スムーズな事業統合を実現
2. 製造業における後継者不在企業の株式譲渡
o 売り手:事業承継問題の解決
o 買い手:新規事業領域への進出
o 結果:売り手の従業員の雇用維持と、買い手の事業拡大を同時に達成
株式譲渡における対価の支払調書は、法律で定められた重要な手続です。提出期限や記載内容に注意し、正確な書類作成が求められます。複雑な手続を適切に行うためには、専門家のサポートを受けることも有効な選択肢となります。株式譲渡を検討する際は、これらの点に留意し、計画的に進めることが成功への近道となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事