急拡大するM&A市場の現状課題と将来展望を解説

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M&A市場の最新動向と会社売却前に見る視点

M&A市場は過去最高水準の活況が続いています。中小企業オーナー向けに、最新動向、事業承継、事業再編、金利上昇、市場健全化を踏まえた会社売却前の判断軸を解説します。

目次

  1. M&A市場は活況でも読み方が重要
  2. 市場拡大を生む3つの構造変化
  3. 取引形態別に見る現在地と注意点
  4. 中小企業オーナーが市場活況を活かす視点
  5. 拡大局面で増えるリスクと健全化の動き
  6. これから備えるべき売却準備
  7. まとめ

急拡大するM&A市場の現状課題と将来展望を解説

M&A市場は活況でも読み方が重要

M&A(合併・買収)市場が伸びていると聞くと、「今なら自社も高く売れるのではないか」と感じる経営者は少なくありません。ただし、市場全体の件数や金額が増えていることと、自社に合う買い手が見つかることは同じではありません。

レコフデータの集計を紹介した帝国データバンクの公表情報によると、2025年度の日本企業が関わるM&A件数は5,228件、取引金額は43兆334億円で、件数・金額とも過去最高を更新しました。前年度比では件数が10.9%増、金額が88.0%増です。これは国内企業同士の取引だけでなく、日本企業による海外企業買収や、海外企業による日本企業買収も活発だったことを示しています。

一方で、中小企業の会社売却では、大型案件のニュースよりも「自社の業種で買い手がいるか」「決算書の内容をどう見られるか」「従業員や取引先を引き継げるか」が重要になります。市場が大きくなっても、準備不足の会社は候補先から慎重に見られます。ここが落とし穴です。

件数増加よりも目的の多様化を見る

現在のM&A市場は、単に会社を買う・売る市場ではありません。後継者不在の解決、成長分野への参入、海外市場の獲得、非中核事業の整理、上場企業の非公開化など、目的が広がっています。

経営者が見るべきなのは「市場が伸びているか」だけではなく、「どの目的を持つ買い手が増えているか」です。たとえば、同業の買い手は人材や顧客基盤を重視しやすく、異業種の買い手は技術、許認可、地域シェア、営業網に注目することがあります。投資ファンドは、収益改善の余地や次の成長ストーリーを重視する傾向があります。

つまり、同じ会社でも、買い手の目的によって評価されるポイントは変わります。

2026年に入っても足元は高水準

M&A市場の勢いは、2025年度で止まっているわけではありません。レコフデータのマーケット情報では、2026年1〜6月期のM&A件数が2,647件で同期最多、金額は18兆2,381億円とされています。

ただし、金額は大型案件の有無で大きく動きます。中小企業オーナーが市場を見る際は、全体金額よりも、地域、業種、買い手候補の数、買収後の統合方針を確認する方が実務的です。市場データは追い風を知る材料であって、譲渡価格をそのまま保証するものではありません。

市場拡大を生む3つの構造変化

M&A市場が拡大している背景には、一時的な景気の良し悪しだけでは説明しにくい変化があります。経営者の高齢化、大企業の事業再編、海外成長投資の3つです。

後継者不在が第三者承継を押し上げる

中小企業にとって最も身近な要因は、後継者問題です。親族内承継や従業員承継が難しい場合、第三者承継としてM&Aを検討する流れが定着してきました。

後継者不在率は調査機関によって数値が異なります。帝国データバンクの2025年調査では全国の後継者不在率は50.1%、東京商工リサーチの2025年調査では62.60%とされています。いずれにしても、後継者が決まっていない企業が多いことに変わりはありません。

特に中小企業では、社長が元気なうちは問題が表面化しにくいものです。しかし、金融機関対応、従業員の採用、設備投資、主要取引先との契約更新などは、後継者の見通しがないと判断が止まることがあります。M&A実務では、この「判断の先送り」が企業価値を下げる原因になりやすいです。

黒字でも廃業する会社がある

売上も利益もあるのに、後継者がいないために廃業を考える会社は珍しくありません。この場合、M&Aは単なる出口ではなく、従業員、取引先、技術、地域での信用を残す選択肢になります。

ただし、買い手は「引き継げる利益」を見ます。社長個人の営業力に依存している、主要取引先が1社に偏っている、従業員の年齢構成が高い、といった点は慎重に確認されます。早めに準備すれば、買い手が不安に感じる部分を補う時間を持てます。

選択と集中で事業再編が増える

上場企業や中堅企業では、成長分野へ経営資源を集中するため、非中核事業を売却する動きが強まっています。東京証券取引所は2023年3月、プライム市場・スタンダード市場の全上場会社に対して「資本コストや株価を意識した経営」の実現に向けた対応を要請しました。2026年4月には、経営資源の適切な配分を中心にアップデートも公表しています。

この流れは中小企業にも間接的に影響します。大企業が事業ポートフォリオを見直すと、周辺業務、地域子会社、取引先網、製造委託先などの再編が起きやすくなります。その受け皿として、同業中堅企業や地域企業がM&Aを活用することもあります。

カーブアウトは買い手候補を広げる

カーブアウトとは、企業グループの一部事業を切り出して売却する手法です。中小企業の会社売却と直接同じではありませんが、買い手側が「必要な事業だけを取得する」考え方を強める点では参考になります。

中小企業が売却を考える場合も、会社全体の譲渡だけでなく、一部事業、店舗、取引先、設備、許認可をどう整理するかが論点になります。事業譲渡を選ぶと、契約や許認可の移転が個別に必要になることもあります。株式譲渡より柔軟ですが、手続は複雑になりがちです。

海外成長投資と大型案件が金額を押し上げる

2025年度のM&A金額が大きく伸びた背景には、海外企業の買収や大型案件があります。国内市場が成熟するなか、海外の顧客基盤、技術、人材を一気に取り込むために、IN-OUT型のM&Aを選ぶ企業が増えています。

中小企業にとっても無関係ではありません。海外に直接進出しなくても、海外展開を狙う買い手から見ると、国内で安定した製造機能や専門サービスを持つ会社は、グループ全体の供給網を支える存在になり得ます。小さな会社でも、技術や顧客の位置づけによっては評価されることがあります。

取引形態別に見る現在地と注意点

M&A市場は、国内企業同士の取引、日本企業による海外企業の買収、海外企業による日本企業の買収に分けて見ると理解しやすくなります。分類を知る目的は、用語を覚えることではありません。自社に関係する買い手の動きを読むためです。

IN-IN型は中小企業に最も関係しやすい

IN-IN型は、日本企業同士のM&Aです。事業承継、同業再編、人材確保、地域シェアの拡大、営業エリアの補完などを目的に行われます。中小企業の会社売却で最も関係しやすい形です。

買い手は、売上規模だけでなく、従業員の定着、取引先の継続可能性、社長退任後の管理体制を見ます。社長がいなくなった瞬間に売上が落ちる会社なのか、組織として回る会社なのか。この差は価格交渉に直結します。

同業買収は相性がよいが比較も厳しい

同業の買い手は、事業内容を理解しやすく、統合後のシナジーも描きやすいです。一方で、業界の利益率、設備の古さ、人員配置、取引条件を細かく比較されます。よく分かる相手だからこそ、弱点も見抜かれやすいということです。

IN-OUT型は大型化しやすいが管理が難しい

IN-OUT型は、日本企業が海外企業を買収するM&Aです。海外市場への参入、現地人材の確保、ブランドや販路の獲得を目的に行われます。1件あたりの金額が大きくなりやすく、市場全体の取引金額を押し上げることがあります。

中小企業が海外企業を買収するケースは限られますが、海外展開を進める買い手の一部として国内企業を譲り受けることはあります。たとえば、国内の製造技術や品質管理ノウハウを海外展開に使いたい買い手にとって、長年の現場力を持つ中小企業は魅力的です。

OUT-IN型は外資ファンドや海外企業の動きに注意する

OUT-IN型は、海外企業や海外ファンドが日本企業を買収する取引です。日本市場への参入、技術・ブランドの取得、安定した顧客基盤の確保などが目的になります。

中小企業では、いきなり海外企業と直接交渉するよりも、国内の投資会社や中堅企業を通じて再編に組み込まれるケースの方が現実的です。外資が関わる場合は、意思決定のスピード、資料の粒度、法務・会計面の確認水準が上がることがあります。英語資料、管理会計、契約書の整備が不十分だと、交渉の途中で時間がかかります。

MBOや非公開化は上場企業だけの話ではない

近年は、上場企業の非公開化やMBOも注目されています。MBOとは、経営陣が自社の株式や事業を買い取る手法です。上場企業ではTOBと組み合わせて実施されることがあります。

中小企業でも、役員や従業員が事業を引き継ぐ形はあります。ただし、資金調達、個人保証、株式の買い取り資金、退任するオーナーの手取り額が壁になりやすいです。社内承継だけで進めるか、外部の買い手も並行して探すかは、早い段階で比較する必要があります。

中小企業オーナーが市場活況を活かす視点

市場が活況な時期は、売却を検討する経営者にとって悪い環境ではありません。買い手候補が増え、複数候補を比較できる可能性があるからです。ただし、活況だからこそ、買い手も多くの案件を見ています。比較される前提で準備することが重要です。

価格だけでなく条件を見比べる

会社売却では、譲渡価格に目が向きます。もちろん価格は大切です。しかし、最終的な満足度は、従業員の処遇、社長の引退時期、個人保証の解除、取引先への説明、社名や屋号の扱いなどにも左右されます。

高い価格を提示されても、退任後に長く拘束される、主要従業員の処遇が不明確、保証解除の時期があいまい、といった条件なら慎重に見るべきです。反対に、価格は少し低くても、従業員を大切にし、取引先との関係を維持し、社長の引退設計に配慮する買い手が合う場合もあります。

手取り額は税金と費用を差し引いて考える

譲渡価格と手取り額は違います。株式譲渡なら、個人株主に譲渡所得税などがかかります。事業譲渡なら、会社側に法人税や消費税の論点が生じることがあります。どちらが有利かは、株主構成、資産内容、負債、許認可、従業員契約によって変わります。

M&A実務では、「価格は納得したが、税金や残る債務を見たら想定より手取りが少なかった」ということがあります。早い段階で、税引後の手取りと退任後の資金計画を並べて見ることが大切です。

買い手の広がりは相手選びの難しさも生む

市場が拡大すると、買い手の種類も増えます。同業会社、異業種企業、地域企業、投資会社、小規模な買い手など、候補は多様です。選択肢が増えるのは良いことですが、買い手の資金力、経営方針、統合能力を見極める必要も高まります。

特に、買収後の運営計画が弱い買い手には注意が必要です。成約時点では良い条件に見えても、PMI(M&A後の統合プロセス)が不十分だと、従業員の離職や取引先の不安につながります。売却はゴールではなく、事業を引き継ぐ入口でもあります。

上場支援会社の株価は市場の温度計にすぎない

M&A市場の拡大に伴い、上場しているM&A支援会社の株価動向が話題になることがあります。株価は、市場成長への期待、案件数、手数料水準、規制強化、支援品質への評価などを反映します。

ただし、株価が上がっているから会社売却が成功しやすい、下がっているから市場が悪い、とは単純に言えません。経営者が重視すべきなのは、担当者が自社の事業を理解し、買い手候補を適切に見極め、税務・会計・法務の論点を整理できるかです。市場の温度感は参考にしつつ、自社の準備に目を向けるべきです。

拡大局面で増えるリスクと健全化の動き

M&A市場が大きくなると、参加者が増えます。これは市場の厚みにつながる一方、経験の浅い買い手や支援者が増えるという面もあります。案件数が増える時期ほど、契約、手数料、保証、情報開示の確認が重要になります。

中小M&Aガイドラインは実務の確認軸になる

中小企業庁は、中小M&Aガイドラインを公表し、2024年8月に第3版へ改訂しました。第3版では、手数料や支援内容の説明、仲介者・FAの利益相反、最終契約後の不履行、経営者保証の扱い、不適切な譲り受け側への対応などが整理されています。

これは、M&Aを検討する経営者にとって重要な確認軸です。契約前に、着手金、月額報酬、中間金、成功報酬、最低手数料、報酬計算の基準額を確認してください。レーマン方式という報酬計算方法を使う場合でも、「何を基準に計算するか」で金額が変わることがあります。

個人保証の解除は早めに条件化する

中小企業の会社売却で特に注意したいのが、経営者保証です。株式を売却しても、金融機関の保証が自動的に外れるとは限りません。買い手が保証を引き継ぐ予定だったのに、実際には解除が進まないというトラブルもあります。

そのため、基本合意や最終契約の段階で、保証解除の手順、期限、金融機関との協議方法を明確にしておく必要があります。社長の引退後も保証だけ残る状態は、避けなければなりません。

同意なき買収が増える時代の見方

上場企業では、経営陣の同意を得ない買収提案が注目される場面も増えています。経済産業省は2023年に「企業買収における行動指針」を策定し、公正なM&A市場の健全な発展、予見可能性の向上、ベストプラクティスの提示を目的として公表しました。

中小企業の会社売却では、いわゆる敵対的買収が直接問題になることは多くありません。ただし、買い手の提案が本当に事業価値を高めるものか、株主や従業員にとって合理的かを冷静に見る姿勢は共通します。

金利上昇で買い手の目線は厳しくなる

低金利の時代は、借入を使った買収が進めやすい環境でした。しかし、金利が上がる局面では、買収資金の調達コストが高くなります。LBOローンのように、買収対象会社の将来キャッシュフローを返済原資として使う手法では、返済計画の確実性がより重視されます。

この変化は中小企業の売却にも影響します。買い手は、売上成長の夢だけでなく、利益の安定性、運転資金、設備投資、借入返済、PMI後のコストを厳しく見ます。赤字でも成長性があればよい、という見方は一部の分野に限られます。

シナジーを説明できる会社が選ばれやすい

シナジーとは、M&Aによって単独では得にくい効果が出ることです。販路拡大、仕入条件の改善、人材補完、設備稼働率の向上、技術共有などが代表例です。

売り手側も、自社の強みを「長年やってきたから」ではなく、買い手にとってどのような効果を生むかに言い換える必要があります。たとえば、地域での信用、熟練人材、特定工程のノウハウ、安定顧客、許認可などは、買い手から見ると取得価値になります。

これから備えるべき売却準備

M&A市場が活況なうちに動きたいと考える場合でも、いきなり候補先探しから始めるのは危険です。準備の順番を間違えると、価格交渉で不利になったり、途中で社内に不安が広がったりします。

決算書の見え方を整える

買い手は最初に決算書を見ます。売上、粗利、営業利益、役員報酬、借入金、在庫、売掛金、固定資産、役員貸付金、未払残業代の可能性などを確認します。

中小企業では、節税を意識して利益を抑えている会社もあります。しかし、売却時には「本来の収益力」を説明する必要があります。役員報酬、保険料、交際費、家族給与、不動産賃料など、オーナー経営特有の費用は、買い手に分かる形で整理しておくと評価がしやすくなります。

正常収益力を説明できるか

正常収益力とは、一時的な要因を除いた会社本来の稼ぐ力です。たとえば、臨時の大型案件、補助金、一時的な修繕費、社長個人に紐づく売上は、買い手から調整を求められることがあります。

数字をきれいに見せるのではなく、変動理由を説明できる状態にすることが大切です。説明できない数字は、買い手にとってリスクになります。

従業員と取引先の引き継ぎ方を考える

経営者が最も心配するのは、従業員と取引先です。買い手も同じ点を見ています。特に、キーマン従業員が退職すると事業が回らない会社では、譲渡後の体制が大きな論点になります。

従業員への説明時期は慎重に決める必要があります。早すぎると不安が広がり、遅すぎると不信感につながります。取引先も同様です。主要取引先が「社長が変わるなら取引を見直す」と考える可能性がある場合は、買い手と説明方針を詰めるべきです。

歴史や事例は判断材料として使う

日本のM&Aは、バブル期の海外大型買収、金融再編、IT企業の買収、リーマンショック後の事業承継型M&A、近年のDXや事業ポートフォリオ再編へと変化してきました。歴史を見ると、M&Aの目的は時代によって変わることが分かります。

中小企業の経営者にとって重要なのは、過去の大型事例をそのまま真似ることではありません。自社の業界で、どのような買い手が何を求めているかを読み解くことです。市場全体の流行語より、自社の顧客、技術、人材、利益構造の方が大切です。

学びながら専門家に確認する

M&Aは、経営、税務、会計、法務、労務、金融機関対応が重なる取引です。書籍や記事で全体像を学ぶことは有効ですが、実行段階では自社の事情に応じた確認が欠かせません。

特に、株主が複数いる会社、親族株主がいる会社、役員貸付金や会社貸付金がある会社、不動産を保有する会社、許認可が必要な会社は、早めに論点を洗い出してください。会社売却は、買い手探しより前の準備で結果が変わります。

まとめ

M&A市場は過去最高水準の活況にありますが、中小企業の会社売却では市場全体の勢いだけでなく、自社の収益力、後継者問題、買い手との相性、保証解除、税引後の手取りを具体的に見ることが重要です。早めに決算書や契約関係を整え、複数の選択肢を比較できる状態をつくることが、納得できる承継につながります。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人