ベンチャー企業のM&Aについて、そのメリットや成功のポイント、実施時の注意点、さらに具体的な事例を詳しく解説します。M&Aを検討中のベンチャー企業の方々に役立つ情報が満載です。
目次
▶目次ページ:第三者承継とは(小規模会社のM&A)
ベンチャー企業にとって、M&A(合併・買収)は非常に重要な戦略の一つとなっています。M&Aは単なる企業の売買だけでなく、成長や利益確保を進める上で欠かせない手法として注目されています。本章では、ベンチャー企業におけるM&Aの重要性について、具体的な側面から解説します。
M&Aは、ベンチャー企業にとって重要な出口戦略(イグジット)の一つとして定着しつつあります。創業者や投資家が投資資金を回収し、次の事業展開や投資に向けた資金を得る手段として活用されています。以下がM&Aを出口戦略として選択するメリットです。
・短期間での資金回収が可能
・事業の継続性を確保しつつ、経営から離れることができる
・企業価値を最大化して売却できる可能性がある
ベンチャー企業の将来を決定づける重要な選択肢として、M&Aの重要性は今後さらに高まると予想されます。
M&Aは、ベンチャー企業が急速に成長するための有効な手段にもなります。他社の事業を統合することで、自社に不足している要素を補完し、より強固な事業基盤を構築できます。M&Aを成長戦略として活用する利点には、以下のようなものがあります。
・経営資源(人材、技術、顧客基盤など)の迅速な獲得
・新規事業分野への迅速な参入
・競合他社の買収による市場シェアの拡大
・ブランド力や知名度の向上
さらに、M&Aによって企業の注目度が高まり、ベンチャー企業の認知度向上にもつながる可能性があります。
世界的に見ると、ベンチャー企業のM&A件数は増加傾向にあります。特にアメリカでは、多様な企業がM&Aを積極的に活用しています。一方、日本のM&A件数は他国と比較すると少ない傾向にありますが、今後の増加が期待されています。
グローバルなM&A動向からは、以下のような特徴が見られます。
・テクノロジー分野でのM&Aが活発
・クロスボーダーM&Aの増加
・大手企業によるベンチャー企業の買収が増加
日本のベンチャー企業も、このようなグローバルトレンドを意識しながら、M&Aを戦略的に活用していくことが重要です。
以上、ベンチャー企業のM&Aにおける重要性について解説しました。M&Aは出口戦略としてだけでなく、成長戦略としても有効な手段であり、グローバルな動向も踏まえつつ、積極的に検討する価値があるといえます。
ベンチャー企業がM&Aを実施する際には、様々なメリットがあります。ここでは、特に重要な2つのメリットについて詳しく解説します。
M&Aを通じて、従業員の雇用を確保できることは大きなメリットです。特に以下のような利点があります。
・買収側企業にとっては、即戦力となる人材の獲得が可能
・売却側の従業員にとっては、雇用の継続性が保たれる
・専門性の高い人材や経験豊富な従業員の流出を防ぐことができる
買収側企業が自社で新規分野の人材を採用・育成しようとすると、多くの時間と労力が必要になります。M&Aを通じて従業員をそのまま引き継ぐことで、即座に必要な人材を確保できるのです。
ベンチャー企業にとっても、M&Aは事業承継問題の解決につながる可能性があります。以下のような場合にM&Aが有効です。
・創業者が引退を考えているが、適切な後継者が見つからない
・事業は継続させたいが、経営から手を引きたい
・次の事業に取り組むための資金が必要
M&Aを通じて、自社の技術や経験値の高い人材を含めて事業を譲渡することで、創業者の意思を尊重しつつ事業を存続させることができます。また、M&A後に自社が成功を収めれば、創業者の実績としてもアピールできるでしょう。
ベンチャー企業がM&Aを成功させるには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、3つの主要なポイントについて解説します。
M&Aは、ベンチャー企業の価値が高まっているタイミングで実施することが重要です。以下の理由から、このタイミングが重要となります。
・企業価値が上昇中は、より高い価格での売却が可能
・将来性が評価され、プレミアムが付く可能性がある
・買収側企業の関心を引きやすい
逆に、企業が成熟期を迎え、将来性が見出しにくくなった段階では、魅力的な条件でのM&Aが難しくなる可能性があります。
M&Aを成功させるには、買収側企業のニーズを正確に理解し、それに応える準備をすることが重要です。以下のような点に注意しましょう。
・買収側企業が求める経営資源(技術、人材、顧客基盤など)を明確にする
・自社の強みが買収側企業のニーズとマッチしていることをアピールする
・M&A後のシナジー効果を具体的に提示する
買収側企業のニーズに合致した提案ができれば、交渉をスムーズに進めやすくなります。
ベンチャー企業の場合、無形資産が企業価値の大きな部分を占めることがあります。以下のような無形資産を適切にアピールすることが、M&A成功の鍵となります。
・独自の技術やノウハウ
・優秀な人材や組織文化
・ブランド力や顧客基盤
・特許や知的財産権
これらの無形資産の価値を定量的に示し、買収側企業に対して具体的な数値や実績を提示することが重要です。
ベンチャー企業がM&Aを実施する際には、いくつかの重要な留意点があります。ここでは、3つの主要な留意点について解説します。
M&Aにおいて、必ずしも希望する価格で譲渡できるとは限りません。以下の点に注意が必要です。
・市場環境や経済状況によって企業価値評価が変動する
・買収側企業との交渉によって最終的な譲渡価格が決まる
・無形資産の評価が難しく、価格交渉の焦点になりやすい
現実的な価格設定と、ある程度の妥協の余地を持つことが、円滑なM&A成立につながります。
ベンチャー企業のM&A件数は増加傾向にありますが、適切な交渉相手を見つけることは容易ではありません。以下のような対策が有効です。
・M&Aマッチングサービスの活用
・M&A仲介会社の利用
・業界内のネットワークの活用
・自社の魅力を積極的にアピールする活動の実施
特にM&A仲介会社は、M&Aプロセス全体をサポートしてくれるため、成約に至る可能性を高められます。
M&Aを実施する際には、従業員の理解と協力を得ることが非常に重要です。以下のような点に注意しましょう。
・M&Aの必要性や目的を明確に説明する
・従業員の処遇や今後のキャリアパスについて丁寧に説明する
・質問や懸念に対して誠実に対応する
・可能な限り早い段階から情報共有を行う
従業員の理解を得られないと、M&A後の事業統合がスムーズに進まない可能性があります。
ここでは、実際にM&Aを成功させたベンチャー企業の事例を5つ紹介します。これらの事例から、M&Aの多様な形態と効果を学ぶことができます。
ITフリーランス人材の仕事紹介サービスを展開していたパラフト株式会社は、ランサーズ株式会社にグループ化されました。
・パラフト社のフリーランス向けマッチングサービス「PROsheet」のデータベースを統合
・両社のサービスを連携させ、フリーランス市場での競争力を強化
学生向けオンライン学習コンテンツを提供していた株式会社CLEARは、コクヨ株式会社に買収されました。
・コクヨの文具における高いシェアとCLEARの教育サービスを融合
・中高生向け学習サービス「Clear」の成長を加速
製薬ベンチャーの株式会社UMNファーマは、塩野義製薬の完全子会社となりました。
・コロナワクチン事業でのシナジー効果を期待
・社会情勢の変化がM&Aの契機となった事例
ブランドバッグのサブスクリプション型レンタルサービスを展開していたラクサス・テクノロジーズ株式会社は、株式会社ワールドに買収されました。
・アパレル大手のワールドがITを基軸としたビジネスを強化
・既存システムを活用し、ビジネスの規模を拡大
フリマアプリ「フリル」を運営していた株式会社Fablicは、楽天株式会社の完全子会社となりました。
・楽天の既存サービス「ラクマ」と統合
・ユーザー数と利用者層の拡大を実現
ベンチャー企業にとってM&Aは、事業成長や将来の展開に大きな影響を与える重要な選択肢です。適切な準備と戦略的なアプローチにより、M&Aを成功させる可能性は高まります。ベンチャー企業の独自性や強みを活かしつつ、市場環境や相手企業のニーズを見極めることが、M&A成功の鍵となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事