自己株式の取得と消却の会計税務の実務のポイントを解説

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自己株式の消却・処分をどう使い分ける?会計と会社売却実務

自己株式の消却と処分は、発行済株式総数が減るか、保有株式が再び社外へ出るかで効果が異なります。手続、株価・財務指標への影響、会計処理、M&A(合併・買収)や事業承継での使い分けを、中小企業の経営者向けに解説。会社売却前に確認したい株主構成や税務上の注意点も整理します。

目次

  1. 発行済株式総数が減るかどうかが最大の分岐点
  2. 消却は将来の再利用を断ち株式を完全に消す手続
  3. 処分は自己株式を資金・M&A・報酬に再活用する手続
  4. 株価と財務指標への影響は取得時と分けて考える
  5. 会計処理は利益ではなく株主資本の増減として捉える
  6. M&A・事業承継では株主構成と手取りから選ぶ
  7. まとめ

自己株式の取得と消却の会計税務の実務のポイントを解説

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(増資)

発行済株式総数が減るかどうかが最大の分岐点

自己株式とは、会社がいったん発行した自社の株式を取得し、保有している状態です。金庫株とも呼ばれます。自己株式には議決権がなく、会社が保有している間は、株主総会での議決権割合を計算する対象から外れます。


消却と処分は、どちらも自己株式の保有を終わらせる方法です。ただし、結果は正反対。消却では株式そのものが消え、処分では株式が第三者の手に渡って再び議決権を持ちます。

消却では発行済株式総数が減る

自己株式の消却は、会社が保有する自己株式を消滅させる手続です。消却した株式は再利用できません。発行済株式総数は減少しますが、消却の直前まで自己株式には議決権がないため、通常、消却しただけで既存株主間の議決権割合が変わるわけではありません。

「株式数を整理し、今後も社外へ出さない」と決めた場合に向く方法です。将来の処分によって議決権割合が変わる可能性をなくしたい場面でも選択されます。

処分では発行済株式総数は変わらない

自己株式の処分は、保有する自己株式を第三者へ売却または交付する手続です。発行済株式総数は変わりません。会社の手元にあった株式が社外へ戻るため、議決権を行使できる株式数は増えます。

その結果、既存株主の議決権割合などが低下することがあります。新株発行と似た希薄化が生じるため、誰に、何株を、いくらで渡すかが重要です。

違いを判断する5つの視点

消却と処分を比べるときは、次の点を確認します。


・株式の行方 
 消却は消滅、処分は第三者へ移転

・発行済株式総数 
 消却は減少、処分は変化なし

・議決権を持つ株式数 
 消却では原則変化せず、処分では増加

・主な目的 
 消却は株式数の整理、処分は資金調達や株式の活用

・将来の選択肢 
 消却後は再利用できず、処分では経営目的に合わせて交付先を選べる

消却は将来の再利用を断ち株式を完全に消す手続

「消却すれば企業価値が上がる」と考え、手続を急ぐ経営者もいます。しかし、消却は会社の価値を直接増やす取引ではありません。自己株式を再び使わないという、資本政策上の意思を明確にする手段です。

消却を選びやすい3つの場面

1つ目は、株主構成を分かりやすくしたい場合です。自己株式を残したまま会社売却を進めると、将来処分される可能性や、譲渡対象となる株式数の説明が複雑になることがあります。

2つ目は、処分による希薄化の可能性をなくしたい場合です。上場会社では、将来の株式放出がないことを示す材料になる場合があります。未上場会社でも、後継者や買い手企業が将来の議決権割合を見通しやすくなります。

3つ目は、発行済株式総数を登記簿や株主名簿と整合させ、管理を簡素化したい場合です。古い会社では、株式分割や相続を重ねた結果、株式数が細かくなっていることも。意外と多い管理上の悩みです。

消却の決議と変更登記

取締役会設置会社では、消却する自己株式の種類と数を取締役会で決めます。取締役会を置かない会社では、会社の機関設計や定款を確認したうえで決定します。

消却により発行済株式総数が変わるため、効力発生日後、原則として2週間以内に変更登記が必要です。登記簿、株主名簿、会計帳簿の株式数が一致しているかも確認します。

会社売却の調査では、こうした不一致が小さく見えても説明を求められやすい部分です。登記を済ませただけで安心せず、社内資料も同時に更新します。

消却前の自己株式取得には別の規制がある

消却できるのは、会社がすでに保有している自己株式だけです。株主から株式を買い戻して消却する場合は、前段階の自己株式取得について、決議手続や分配可能額の確認が必要になります。分配可能額とは、会社財産を株主へ払い戻せる限度額です。


消却そのものに新たな現金支出はありません。財源規制で特に問題となるのは、株主へ対価を支払う取得時です。取得と消却を一つの手続として扱わないことが大切です。

取得五つの手続方法と流れ

方法                                      主体                                       決議機関                            手続のポイント
市場取引                             上場企業                               取締役会                            簡便・迅速だが数量制限あり
公開買付け                             上場・未上場                               取締役会→公告                    価格・期間を公告、3分の1超で義務
全株主取得                             上場・未上場                               株主総会普通決議                    株主平等原則を担保
特定株主取得                     上場・未上場                               株主総会特別決議                    売主追加請求権対応が必須
子会社取得                              親会社                                       取締役会                            子会社保有株を取得。相対取引も可

処分は自己株式を資金・M&A・報酬に再活用する手続

自己株式を処分すると、会社は保有株式を経営資源として使えます。消却より柔軟ですが、議決権割合や株主構成が変わるため、既存株主への説明と価格の妥当性が欠かせません。

資金調達として第三者へ売却する

自己株式を第三者へ有償で処分すれば、会社は現金を受け取れます。新株を発行しなくても資金調達が可能です。ただし、会社の外に出て議決権を持つ株式が増えるため、既存株主の議決権割合は低下します。

特定の取引先や金融支援者へ処分する場合は、資金面だけでなく、相手方が株主になることの影響も確認します。将来の会社売却を予定しているなら、買い手企業がその株主構成を受け入れるかまで考える必要があります。

M&Aや組織再編の対価として利用する

買収や組織再編では、現金の代わりに自社株式を相手方へ交付することがあります。自己株式を使えば、新株を発行せずに株式対価を用意できるため、現金流出を抑えられます。

一方、相手方が自社の株主になる点は見落とせません。経営権、議決権割合、将来の株式売却方針まで含めて設計します。M&Aの対価として便利でも、処分後の株主関係が不安定になれば、取引後の経営に影響するためです。

役員・従業員への株式報酬に使う

自己株式は、役員や従業員への株式報酬、従業員持株会への交付などにも利用できます。会社の成長と報酬を連動させやすい点が利点です。

ただし、交付条件、譲渡制限、退職時の扱いなどを曖昧にすると、後から株主が分散します。会社売却を見据える場合は、退職者が少数株主として残り続けない制度設計が必要です。

処分は募集株式と同様の手続で進める

自己株式の処分では、原則として募集株式の発行と同様に、処分する株式数、払込金額、払込期日などの募集事項を決めます。非公開会社では原則として株主総会の特別決議、公開会社では原則として取締役会決議となりますが、定款や処分価格、株主割当か第三者割当かによって手続が変わります。

特に、時価より著しく低い価格で特定の相手へ処分する場合は、有利発行に当たる可能性があります。価格算定の根拠、議事録、株主への説明を残しておくことが重要です。

株価と財務指標への影響は取得時と分けて考える

株価への影響を「消却は上がる、処分は下がる」と決めつけるのは危険です。市場の評価は、目的、規模、価格、処分で得た資金の使い道などによって変わります。

消却の効果の多くは取得時に生じている

自己株式を取得した時点で、会社の現金と株主資本は減り、自己株式は株主資本の控除として表示されます。また、1株当たり利益や1株当たり純資産を計算する際は、通常、自己株式を除いた株式数を使います。

そのため、取得済みの自己株式を後から消却しても、1株当たり指標がさらに機械的に改善するとは限りません。消却の主な効果は、発行済株式総数を減らし、将来処分される可能性をなくす点にあります。

上場会社の株価反応は保証されない

上場会社では、自己株式の消却が株主還元姿勢の表れとして好意的に受け止められることがあります。反対に、自己株式の処分は株式需給の悪化や議決権割合の希薄化を心配され、株価にマイナスとなる場合もあります。

ただし、処分で得た資金を高収益事業へ投資するなら、中長期では企業価値の向上につながる可能性があります。短期的な株価反応だけで良し悪しを判断しないことです。

未上場会社では株価より議決権割合を見る

未上場会社には日々の市場株価がありません。消却や処分を検討するときは、株価が上がるかよりも、誰の議決権割合が増減するか、会社売却時の譲渡対象株式をどう整理するかを見るべきです。

自己株式の消却だけで事業価値や利益が増えるわけではありません。一方、処分によって後継者や安定株主へ議決権を移せば、経営の安定に役立つことがあります。

会計処理は利益ではなく株主資本の増減として捉える

自己株式の取得、消却、処分は、通常の商品の売買とは性質が違います。会計では、会社と株主の間の資本取引として扱います。

取得時は自己株式を株主資本から控除する

自己株式を1,000万円で取得した場合は、借方に自己株式1,000万円、貸方に現金預金1,000万円を計上します。自己株式は資産ではなく、貸借対照表の純資産の部で株主資本から差し引いて表示します。

取得に伴う手数料などの付随費用は、原則として営業外費用です。

消却時はその他資本剰余金から減額する

帳簿価額1,000万円の自己株式を消却する場合は、自己株式1,000万円を減らし、同額を原則としてその他資本剰余金から減額します。消却損を損益計算書の費用として計上する取引ではありません。

また、自己株式取得時にすでに株主資本が減っているため、消却だけで純資産がさらに1,000万円減るわけでもありません。

その他資本剰余金が不足する場合

消却によってその他資本剰余金がマイナスとなった場合は、会計期間末にその他資本剰余金をゼロとし、不足額を繰越利益剰余金から減額します。

会社が自由にその他資本剰余金と繰越利益剰余金のどちらを減らすか選ぶわけではありません。決算時には残高を確認し、適切に振り替える必要があります。

処分差額はその他資本剰余金で調整する

帳簿価額1,000万円の自己株式を1,200万円で処分した場合、差額200万円は自己株式処分差益として、その他資本剰余金に加算します。反対に800万円で処分した場合、差額200万円は自己株式処分差損として、その他資本剰余金から減額します。

処分差損によってその他資本剰余金がマイナスとなった場合も、原則として会計期間末に不足額を繰越利益剰余金から減額します。処分差益や処分差損は、会社の営業利益や経常利益には含めません。

税務は前段階の取得まで含めて確認する

発行会社にとって自己株式の取得や処分は、原則として資本等取引です。ただし、個人株主から自己株式を取得する場面では、株主側にみなし配当が生じることがあります。消却・処分だけを見ていると、実際の手取り額を誤りやすい部分です。

会社売却や事業承継の前に自己株式を買い戻す場合は、取得価格、株主の属性、源泉徴収、分配可能額を一体で試算します。

M&A・事業承継では株主構成と手取りから選ぶ

消却と処分の選択は、会計仕訳だけでは決められません。誰に経営権を集めるのか、会社に資金が必要か、会社売却の時期はいつかを先に整理します。

会社売却前は自己株式を残す理由を説明できるか確認する

株式譲渡による会社売却では、買い手企業は株主名簿、発行済株式総数、自己株式数、議決権数を確認します。自己株式が残っていても直ちに問題になるわけではありませんが、将来誰に処分できるのかが不明確だと、買収後の議決権割合に不安が残ります。

再利用する予定がなければ、売却前の消却で株式数を整理する選択肢があります。ただし、消却したから譲渡価格が同額だけ上がるわけではありません。価格交渉では、事業の収益力、資産・負債、余剰現金などを別に評価します。

事業承継では議決権移転と税負担を同時に見る

後継者へ自己株式を処分すれば、後継者の保有株式数と議決権割合を高められます。一方、処分価格が不適切であれば、税務や他の株主との公平性が問題になることもあります。

少数株主から会社が株式を取得し、その後消却する方法は、株式を集約する手段になります。ただし、会社の資金が流出し、売却株主にみなし配当が生じる可能性があります。議決権だけでなく、会社の資金繰りと株主の手取りまで確認することが欠かせません。

決定前に確認する4項目

・目的 
 株式数の整理、資金調達、M&A対価、後継者への移転のどれか

・株主構成 
 処分後に誰が何%の議決権を持つか

・財務 
 取得時の現金流出、処分時の資金流入、金融機関との契約への影響

・手続と税務
 決議機関、登記、価格算定、みなし配当の有無


資金調達が目的なら、自己株式の処分だけでなく、新株発行による第三者割当増資や既存株主への株主割当増資も比較します。どの方法が有利かは、経営権を維持したいのか、新しい株主を迎えたいのかで変わります。

まとめ

自己株式の消却は株式を完全に消して発行済株式総数を減らし、処分は株式を第三者へ移して資金調達やM&A、株式報酬に再活用する手続です。消却だけで企業価値が上がるとは限らず、処分では議決権割合の希薄化に注意が必要です。目的、株主構成、会計・税務、会社売却や承継の時期を整理し、取得から登記まで一体で判断しましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人