M&Aの法務|会社法・税法・金商法などの法律、実施プロセスを解説

M&Aを実行する際には、法律の知識や確認は欠かせません。当記事では、M&Aの法務に関して疑問を抱える経営者に向けて、M&Aにおける法務の必要性や、その法務手続の流れを解説いたします。この解説を参考に、効果的にM&Aを進めてください。

目次

  1. M&Aにおける法務の重要性
  2. M&Aにおける主な法律
  3. M&Aでの法務関連手続の実施プロセス
  4. まとめ

M&Aにおける法務の重要性

M&Aの適法な実行が重要であり、そのためには法律の知識が絶対に必要です。M&Aは、商法や民法、会社法、労働基準法など多岐にわたる法令を遵守し、適切な手続が求められます。

法令上の手続に問題があると、営業許可の失効や取引先の口座の喪失など、M&Aの目的が達成できなくなる可能性があります。これから述べるような広範で専門的な法律の知識が、M&Aにおいて非常に重要です。

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(のれん、法務)

M&Aにおける主な法律

この章では、M&Aに関連する代表的な5つの法律を解説します。

会社法

会社法は、2005年制定、2006年施行の会社に関する法律で、会社の設立・組織・運営・管理を規律します。会社法は、会社に関連する幅広いルールがまとめられており、M&Aを実施する際には、会社法上の手続が必ず適用されます。

税法

M&Aにおいては、法人税法をはじめとする様々な税法が適用されることになります。その中で特に重要視される税法が、税制適格組織再編という制度です。

税制適格組織再編とは、一定の要件を満たす組織再編について、資産や負債の簿価での引き継ぎが認められ、課税が発生しない形での組織再編を指します。一方で、要件を満たさない組織再編では、評価損益が実現し、法人税などが適用される取引となります。

金融商品取引法

金融商品取引法は、金融商品取引業を行うものに関して、必要な事項を定めた法律です。金融商品等の取引及び有価証券の発行等を公正にし、流通を円滑にすること等を目的としています。

M&Aにおいては、主に上場企業を対象とした法令であり、市場買付けや公開買付け(TOB)に関する規制を設けています。市場買付とは、株式市場から株式を買い付けることであり、公開買付は、上場会社の株券を、あらかじめ買付価格や買付予定数、買付期間などの条件を公告し、条件に同意した株主から市場外で買い集める方法です。

労働契約承継法

労働契約承継法は、会社分割における労働者の保護を図るための法律です。会社分割とは、会社が営む事業の一部または全ての事業を他の企業に継承するM&Aの手法の1つです。しかし、会社を分割した際に労働者に不利益が生じる可能性があるため、労働契約承継法によって規制が設けられています。

会社分割によって、労働者の待遇が悪化することが無いように、労働契約承継法は定められており、M&A時に遵守すべき法律の1つであります。

以上のような法律を把握し、適切に遵守することが、M&Aを成功させるためには非常に重要です。それぞれの法律に詳細に目を通し、適切な手続を行ってください。

独占禁止法

独占禁止法は、正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」と呼ばれ、企業が遵守すべきルールが定められており、公正で自由な競争を阻害する行為を排除することを目的としています。企業がM&Aを行う際には、譲受企業の規模が拡大し、市場における占有率が上昇する結果を招くことがあります。

例として、市場占有率48%の企業Aが市場占有率32%の企業Bと合併し、新たに設立される合併会社が80%の市場占有率を持つ場合、同市場においてかなりの影響力を持つことになります。この結果として、他の事業者間での自由な競争が阻害され、商品やサービスの価格が上昇してしまい、消費者にとって不利益が生じる可能性があります。

このような問題が生じる恐れがある一定規模以上のM&Aが行われる場合には、独占禁止法に基づく事前の手続が求められます。


M&Aでの法務関連手続の実施プロセス

本節では、M&Aにおける法務手続の流れを説明します。

秘密保持契約の締結

譲受候補企業へ情報を提供する際には、秘密情報の提供も伴うため、秘密保持契約書を作成し締結する必要があります。秘密保持契約書には、秘密情報の定義や内容、開示が認められる範囲、秘密情報の返還・廃棄、有効期限、準拠法および管轄等について、詳細に記述されています。

秘密保持契約書の作成と締結において注意すべき点として以下が挙げられます。

• 秘密情報の対象となる情報が確実に保護されているか

• 開示する側が開示できない情報を開示しないように注意すること

• 秘密情報の返還や廃棄に関する規定が存在するか

• 秘密保持契約終了後の秘密保持期間が適切であるか

基本合意の締結

基本合意書は、譲渡スキーム等の譲渡者と譲受者双方の了解事項を明確化するための文書であり、M&A取引を実行する法的義務に関しては拘束力を持ちません。しかし、以下の点について法的拘束力が認められることに注意が必要です。

• 秘密保持義務

• 費用負担

• 独占交渉権

• 独占交渉期間

• 合意管轄

基本合意書には通常、「スケジュール」、「契約条件」、「費用負担」、「秘密保持」、「デューデリジェンスへの協力義務」、「独占交渉権」、「有効期間」、「準拠法・合意管轄」などの条項が含まれます。

法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスは、買収監査とも呼ばれる企業調査です。調査対象会社の法的リスクを検討する調査であり、この調査によって明らかになるリスクに対する対策が一般的に取られます。リスクに関しては以下の方法で対処します。

• 金額に換算可能なリスク:譲受価格に反映

• 金額に換算不可能なリスク:譲受者の表明保証による担保

重大な法務リスクが判明した場合には、M&A取引そのものを中止することもあります。

最終契約の締結

最終契約書は、M&Aの正式な契約書であり、株式譲渡の場合は「株式譲渡契約書」、事業譲渡の場合は「事業譲渡契約書」となります。この契約書は法的拘束力があるため、譲渡者と譲受者は、一定の条件下でM&Aを実行する法的義務を負います。この法的義務は、M&A取引がクロージング(取引実行)時点で発生し、最終契約書の締結後、クロージングの前提条件が満たされたときに初めてクロージングが実行されることに注意が必要です。

対象会社の既存の契約の引継ぎ

M&A取引のスキームに応じた契約引継ぎに関する手続は以下の通りです。

• 株式譲渡:基本的に各種契約に影響はないが、例外もあるため確認が必要

• 事業譲渡:個別に債権債務の譲渡および引受手続が必要で、雇用契約や取引先との基本契約も全て再締結が必要

• 会社分割:雇用契約の再締結は不要だが、一部またはすべての債権者に対して公告および催告が必要

• 合併:すべての債権者に対して債券保護手続を行う必要がある

まとめ

この記事では、M&Aにおける法務の重要性や手続の流れなどについて説明してきました。M&Aにおける法務を適切に理解し、自社に最適な専門家を選択することが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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