ソーシングとは?M&A・買収での位置付け、手順、注意点などを解説

M&Aにおけるソーシングとは、取引相手を探すことから交渉に至るまでの一連のプロセスであり、成功的なM&Aを実現するために非常に重要な役割を担っています。本記事では、M&Aの鍵となる要素であるソーシングについて、プロセスや重要性、ステップなどを詳細に解説していきます。

目次

  1. M&Aの3つの主要なプロセス
  2. M&Aソーシングの位置付け
  3. M&Aソーシングの主要な2タイプ
  4. M&Aソーシングの6ステップ
  5. M&A会社にソーシングを委託する際の注意点
  6. M&Aにおけるソーシングまとめ

M&Aの3つの主要なプロセス

ここでは、M&Aを3つの主要なプロセスに分け、それぞれについて簡単に説明します。

ソーシング

M&Aのプロセスの中で、交渉準備段階において、希望条件を明確にし、候補企業の情報収集や選定、交渉開始までの一連のプロセスを指します。M&Aのプロセス全体の前半部分に該当し、主にM&A仲介会社が中心となって進めることが一般的です。

オリジネーション

M&Aの中で、案件を探し出し、提案し、交渉を行うことを意味します。具体的には、買い手と売り手のマッチングを図り、M&A戦略を設計・提案することです。ソーシングと共に、M&Aの前半部分に該当します。

エグゼキューション

M&Aの後半部分を指し、基本合意書の締結からデューデリジェンス、最終契約書に至るまでの一連の事務手続や詳細な条件調整を行います。この段階では、弁護士や公認会計士などの専門家と連携して進めることが多く、専門家の支援を受けることで最終的な部分まで円滑に進めることが可能となります。

M&Aソーシングの位置付け

M&Aの目的は、買い手にとっては新規事業の創出や事業規模・販路の拡大などの効果を獲得することであり、売り手にとっては企業の存続や創業者利益の確保、従業員の雇用維持などが挙げられます。このような、売り手と買い手双方の目的を達成するためには、ソーシングによってニーズが一致する取引相手を見つけ出すことが必要不可欠です。また、自社の適正評価や適切なスキームを検討するにもソーシングは極めて重要なプロセスであると言えるでしょう。

M&Aソーシングの主要な2タイプ

このセクションでは、M&Aソーシングにおける2つの主要なタイプについて説明いたします。

プル型

プル型ソーシングは、自社から積極的に候補企業にアプローチするのではなく、自社に案件を引き寄せて進める方法であります。具体的な手法としては、仲介会社に自社が買い手か売り手で候補を紹介してもらうよう依頼することからスタートします。

• 買い手であれば、自社の概要やM&Aの目的、候補企業に対するイメージ、買収予定価額などの情報を伝えます。

• 売り手であれば、自社の概要や希望する条件などの情報を伝え、ノンネームシートを作成し、仲介会社が候補企業に

   アプローチを進めていきます。

プル型ソーシングのメリットは、M&Aの専門家である仲介会社によるサポートが受けられるため、成立の可能性が高まることです。ただし、仲介会社によっては成否に関わらず費用が発生する場合があるため、注意が必要です。

プッシュ型

プッシュ型ソーシングは、自社が積極的に候補企業にアプローチする方法です。仲介会社を介さず、自社の持つネットワークや営業力を活用して、候補企業を見つけ、交渉を進めていきます。

この方法のメリットは、仲介会社を使用しないために費用が削減できることと、譲渡先と譲受先が直接交渉するため、話が早く進むことがあることです。しかし、最適な候補企業の探索が難しい場合や、M&Aの専門知識が不足している場合、相手企業のペースに合わせざるを得ず、不利な条件で交渉が進む場合もあります。

M&Aソーシングの6ステップ

M&Aソーシングの6つのステップについて解説いたします。

自社の目的や条件を明確化する

M&Aを希望する企業は全国に多く存在しています。ただし、リストだけを見ても候補を絞り込むことは難しいです。買い手でも売り手でも、成功を収めるためには、自社がM&Aを実施する目的や条件を明確に定めることが重要です。

候補企業の情報収集

M&A仲介会社からのアドバイスや提案を受け入れながら、候補先企業に対する理想的なイメージや具体的なビジョンを形作る段階です。例として、M&Aの最大の目標が従業員の雇用確保であれば、人材を獲得することを目指す買い手企業を候補に挙げるべきです。また、企業の発展と成長が目的であれば、自社よりも規模が大きく資本力がある買い手企業を候補として検討することが重要です。このようにして、条件や優先順位を明確にし、候補企業の選定基準を決定する作業に取り組みます。

ロングリストの作成

仲介会社が保有している大量の情報から、一定の条件に従って作成される候補企業の大まかなリストがロングリストです。通常、ロングリストには詳細な情報が記載されていませんが、ロングリストに含まれない企業は後の交渉相手にはなりません。

ロングリストでは、概ね数十社から百社程度の企業がリストアップされます。

ショートリストの作成

ロングリストを基に、より条件に適した候補企業を絞り込み、ショートリストを作成します。

ターゲット企業の選定

ショートリストの絞り込みが完了すると、最終的な候補企業を選定します。多くの企業があると、検討や調査が困難になるため、数社から十社程度まで絞り込み、その中から実際にアプローチを行う企業を選びます。

ターゲット企業との交渉

選定が終わったら、最終的な候補企業と交渉に入ります。M&Aの交渉情報が漏れると、取引先との関係に影響を及ぼしたり、従業員の離職が発生する可能性があるため、交渉開始時には「ノンネームシート」と呼ばれる正確な住所や事業内容などが伏せられた資料が使用されることが一般的です。

候補企業がノンネームシートに興味を示した場合、秘密保持契約を結んだ後に具体的な情報を開示し、交渉を進めていきます。

M&A会社にソーシングを委託する際の注意点

本章では、M&A仲介会社にソーシングを依頼する際に注意すべきポイントについて説明します。

適切な業種・規模の専門知識を持つM&A仲介会社に依頼する

M&A仲介会社には大小様々な規模のものが存在します。それらは、上場企業から小規模な企業まで幅広い規模のものや、特定の業種に特化したものなど様々です。規模だけでなく業種によっても求められる専門知識が異なるため、自社の業種・規模に適切な専門知識を持つ仲介会社を選ぶことが重要となります。

秘密保持契約を締結する

秘密保持契約とは、秘密情報を保持する範囲や期間、ペナルティなどを定めた書面での契約です。M&Aにおいて扱う情報は、非常に機密性が高く、情報が漏れることで交渉が中断したり、企業に大きな影響が出ることがあります。そのため、情報管理の一環として、情報開示時には必ず秘密保持契約を締結することが求められます。

自社の正確な情報を示す資料を整備する

M&Aの成立には、相手企業が自社の正確な情報を把握することが必要です。仲介会社を通じて情報が伝わる場合も、正確な情報提供が不可欠です。事前に財務資料や契約書、許認可証などの資料を整備し、随時開示できる状態にしておくことが重要です。

M&Aにおけるソーシングまとめ

M&Aソーシングとは、候補先企業との交渉開始までの重要なプロセスであり、自社のM&A戦略に合った候補先とのマッチングが成否を左右する要素です。このプロセスにおいても、専門知識と経験豊富なM&A仲介会社を活用するメリットは大きく、本記事でその意義や有効性をご理解いただけたことと思います。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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