M&Aソーシングが成功を左右する理由と手順を解説
「M&Aソーシングとは何か」。その答えは、譲渡企業と譲受企業のニーズを一致させ、交渉開始までを滑らかに導く前半工程にあります。本記事ではプロセス全体をやさしく整理し、成功させるコツを詳しく紹介します。
目次
▶目次ページ:企業買収(ソーシング)
M&Aは大まかに「ソーシング」「オリジネーション」「エグゼキューション」の三つの段階に整理できます。最初のソーシングは、希望条件の明確化から候補企業の情報収集、交渉開始までを担い、譲渡企業と譲受企業が理想的な出会いを果たす土台です。オリジネーションでは買い手と売り手を結び付け、基本合意書締結へ向けた提案と調整を進めます。最後のエグゼキューションでは、デューデリジェンスから最終契約書締結までの実務を専門家と共に行い、取引を完結させます。初動であるソーシングが滞れば後工程での軌道修正は難しく、三段階の歯車が噛み合うかどうかは、第一段階の質にかかっています。
ソーシングでは、譲渡企業は雇用維持や創業者利益の確保といった目的を整理し、譲受企業は新規事業創出や販路拡大などの目標を設定します。そのうえで、候補企業のロングリストを作成し、条件に沿ってショートリストへ絞込み、ターゲット企業を数社選定します。ターゲットとの接触はノンネームシートから始め、秘密保持契約締結後に詳細情報を開示する流れが一般的です。この一連の動きをスムーズに進めるほど、交渉フェーズでの信頼構築が容易になり、M&A全体の成功率が高まります。
適切な相手と適切な条件で出会えなければ、シナジーは生まれません。譲渡企業側は後継者不在の解決や従業員の雇用維持を望みますが、譲受企業側が求めるのは事業拡大や既存事業の強化です。双方のニーズがずれていれば、交渉途中で亀裂が入りかねません。そこでソーシングでは、幅広い情報網を持つM&A仲介会社のサポートが大きな役割を果たします。仲介会社は業種や規模に応じたデータを駆使し、両社の目的が重なるポイントを探り出します。専門家の提案力と交渉力が噛み合うことで、早期に理想的な候補企業を選定でき、エグゼキューションへとストレスなく進むことが可能になります。
譲渡企業が人材確保を最重視する場合、譲受企業は従業員を活かす計画を持つ必要があります。逆に譲受企業が新規市場参入を狙うなら、その市場で実績を持つ譲渡企業が望ましい相手です。ソーシングの段階で双方の目的が重なれば、以後の条件調整は小さなギャップを埋める作業に留まり、交渉が短期間でまとまりやすくなります。早期に動き出し十分な時間を確保することも、好条件で締結するうえで欠かせません。
希望に合う企業を見つけるには時間がかかります。譲渡企業が経営体力を失う前に相談を開始すれば、選択肢が広がり、譲受企業の出資余力があるタイミングで交渉が行えます。一方、買い手にとっても市場が伸びている局面での買収は投資効果が高くなります。タイミングを逃さないためには、市場動向を注視しながらソーシングを進めることが重要です。
ソーシングのアプローチは「プル型」と「プッシュ型」に大別されます。どちらを選ぶかは、自社のネットワーク、専門知識、コスト許容度によって異なります。
プル型では、仲介会社へ自社情報と希望条件を共有し、譲受企業や譲渡企業の候補を紹介してもらいます。
専門家支援で成立可能性が高まるが費用に注意
仲介会社が間に立つため情報収集や提案書作成の手間が大幅に削減され、成立の可能性も上がります。ただし仲介会社によっては、成否にかかわらずコストが発生する契約形態もあります。依頼前に手数料体系を比較し、契約内容を明確化しておきましょう。
プッシュ型では自社のネットワークや営業力を活用し、候補企業に直接アプローチします。
コスト削減とスピードが魅力だが知識不足に要警戒
仲介会社を介さないため手数料を抑えられ、当事者同士の対話で意思決定が速まる利点があります。しかしM&Aの専門知識が乏しい場合、交渉で不利な条件を受け入れてしまう恐れがあります。また自社のネットワーク外に有望な候補がいても接触できない点がデメリットです。
譲受企業が市場成長期に合わせて買収を行えば、投資効果は高まります。逆に停滞期に買収を行うと回収が長引くリスクがあります。譲渡企業側も体力が十分なうちに動くことで、希望条件を通しやすくなります。ソーシング準備を始めたら、まず仲介会社と秘密保持契約とアドバイザリー契約を結び、自社の目的を具体的に伝えることが円滑な進行につながります。
ソーシングの流れを六つの段階に分けると、自社の軸を定め候補企業を絞り込み、最終的な交渉に入るまでを体系的に理解できます。順番に見ていきましょう。
集めた情報を基に数十~百社規模で企業を羅列したロングリストを作成します。ここでは詳細に踏み込まず、最低限の財務指標やエリア、事業概要を記載し、「選択肢を落とさない」ことを重視します。
交渉は、ノンネームシートで興味喚起→秘密保持契約締結→詳細情報開示という順序で進むのが一般的です。初期段階では社名非公開でシナジーや市場動向を語り合い、双方にメリットがあると判断できれば具体的な条件協議へ移行します。情報漏えいが社員や取引先の混乱を招くため、秘密保持契約の厳格運用が不可欠です。
専門家に依頼すれば成功率は上がりますが、選び方を誤るとコスト超過や情報流出のリスクが高まります。ここでは四つの視点から留意点を整理します。
仲介会社は大手から特化型まで多様です。自社と類似する規模・業種での成約件数をヒアリングし、担当アドバイザーの経験も確かめましょう。実績が多いほど提案力と交渉力が期待できます。
相談料・着手金・中間金・成功報酬の内訳を具体的に提示してもらい、総資産ベースか取引価格ベースかも把握します。安さだけを追うと成約率が下がるケースもあるため、費用対効果で判断しましょう。
M&A情報は機密性が高く、漏えいすれば社員流出や取引停止の恐れがあります。仲介会社と交わす秘密保持契約で、情報範囲や期間、違約金を明確にし、データ共有も限定的に行う仕組みを整えます。
ソーシング期間は連絡頻度が高くなります。報告書や資料を分かりやすく提供できるか、打合せのレスポンスが早いかを面談で確認し、自社の価値観と合う担当者を選定しましょう。信頼関係が築ければ細かな条件調整もスムーズに進みます。
自社のみでプッシュ型ソーシングに挑むと、法務・財務の専門知識不足や情報網の限界に直面します。経験豊富な仲介会社をパートナーにすれば、企業価値評価や提案書作成、交渉スケジュール管理まで一貫支援が受けられ、交渉を優位に進められます。コストは発生しますが、失敗リスクの低減や成約条件の最適化によるリターンを考えれば、費用以上の価値を得やすいと言えるでしょう。
M&Aソーシングは候補企業探索から交渉開始までを担う最重要工程です。目的を明確にし、専門家と連携して六つのステップを丁寧に進めれば、譲渡企業と譲受企業双方が満足するマッチングが実現します。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事