事業承継で負債を引き継ぐ前に知りたい!

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事業承継の負債対策  借入・個人保証と承継手法別の注意点

事業承継で負債や借入、個人保証がどう引き継がれるかを、株式譲渡・事業譲渡・会社分割別に解説します。債務超過の確認、保証解除、金融機関との調整、M&A判断まで、経営者が押さえるべき要点を整理します。

目次

  1. 事業承継で負債が問題になる場面
  2. 承継手法で変わる負債の引き継ぎ
  3. 個人保証を後継者に残さない準備
  4. 負債が多い会社で先に確認する数字
  5. 過剰債務でも事業を残す選択肢
  6. 負債整理を進める実務の順番
  7. まとめ

事業承継で負債を引き継ぐ前に知りたい!

事業承継で負債が問題になる場面

事業承継では、株式や事業用資産だけでなく、借入金、買掛金、未払金、リース債務、経営者保証まで確認する必要があります。後継者が見つかっても、「借金まで引き継ぐなら難しい」と話が止まることも珍しくありません。

負債とは、会社が将来支払う義務です。仕入先への買掛金、設備投資のための長期借入金、社会保険料や税金の未払分などが含まれます。計画的な借入は成長資金になりますが、返済原資が弱い借入は、承継後の資金繰りを圧迫します。

赤字と債務超過は分けて見る

赤字は、1年間の売上より費用が多く、損益がマイナスになった状態です。一方、債務超過は、ある時点で負債が資産を上回り、純資産がマイナスになった状態をいいます。見る書類も違います。赤字は損益計算書、債務超過は貸借対照表で確認します。

黒字でも過去の赤字が積み上がって債務超過になっている会社はあります。反対に、赤字でも資産に余力がある会社もあります。M&A(合併・買収)や親族内承継を検討する場合は、直近の利益だけでなく、実際に返済できる力と純資産の状態を並べて見ることが大切です。



負債の種類で対応が変わる

金融機関借入は、返済条件と担保、保証人を確認します。買掛金や未払金は、取引先との信用に直結します。税金や社会保険料の滞納は、買い手や金融機関の評価を大きく下げやすい項目です。意外と多い落とし穴です。

事業承継では、負債の総額だけを見ても判断できません。返済期限、金利、担保設定、保証人、資金使途、滞納の有無まで見て、後継者や買い手が引き受けられる負担かを整理します。

承継手法で変わる負債の引き継ぎ

同じ「事業承継」でも、選ぶ手法によって負債の移り方は大きく変わります。ここを誤ると、切り離したい負債が後継者へ移ったり、移すつもりだった借入が元の会社に残ったりします。

株式譲渡・合併は負債も原則そのまま移る

株式譲渡では、会社そのものは同じ法人として続きます。株主が変わるだけなので、会社の借入金、買掛金、未払金、契約上の義務は原則として会社に残ります。手続は比較的シンプルですが、後継者や買い手から見ると、簿外債務を含めて会社全体を引き受けるリスクがあります。

合併も包括承継です。包括承継とは、権利や義務をまとめて引き継ぐことです。負債も自動的に承継されるため、税金の未納、未払残業代、保証予約、訴訟リスクなどがないかを事前に調べます。

事業譲渡は引き継ぐ負債を選びやすい

事業譲渡は、会社の一部または全部の事業を個別に移す方法です。引き継ぐ資産、契約、従業員、負債を選びやすく、不要な負債を元の会社に残す設計も可能です。

ただし、債務を移すには債権者の同意が問題になります。たとえば借入金を後継会社や買い手企業へ移す場合、金融機関との債務引受契約が必要です。免責的債務引受なら、通常は旧会社が返済義務から外れます。重畳的債務引受なら、旧会社も新しい引受人も返済責任を負います。どちらを選ぶかで、先代経営者のリスクは大きく変わります。

会社分割は指定した負債を包括承継できる

会社分割は、特定の事業に関する資産や負債を、別会社へまとめて承継させる方法です。事業譲渡と異なり、対象にした権利義務を包括的に移せるため、多数の契約を一つずつ移す負担を減らせる場合があります。

一方で、会社分割には債権者保護手続が必要です。債権者保護手続とは、分割によって不利益を受けるおそれがある債権者に、異議を述べる機会を与える手続です。個別同意が原則不要となる場面でも、債権者への公告や催告を軽く見てはいけません。

株式分割とは別の制度

旧記事では「株式分割」と「会社分割」が混同されやすい表現になっていました。株式分割は、1株を複数株に分ける資本政策上の手続です。事業や負債を移す制度ではありません。負債対策で使うのは、通常「会社分割」です。

個人保証を後継者に残さない準備

中小企業の承継で最も重い心理的負担になりやすいのが、経営者保証です。会社を継ぐ覚悟はあっても、自宅や個人資産まで危険にさらす保証は避けたい。そう考える後継者は少なくありません。

経営者保証とは、会社の借入について経営者個人が連帯保証人になることです。代表者を交代しても、先代経営者の保証が自動で消えるわけではありません。金融機関の同意が必要です。

ガイドラインで交渉できる3つの条件

経営者保証に関するガイドラインでは、保証を外す方向で検討しやすい会社の考え方が示されています。大きくは、法人と個人の資産を明確に分けること、会社だけで返済できる財務基盤を整えること、試算表や決算書を適時に開示することです。

社長個人の車、保険、貸付金、未収入金が会社の決算書に混ざっていると、法人と個人の分離が弱いと見られます。承継前に役員貸付金や役員借入金を整理し、月次試算表を出せる状態にしておくと、金融機関との会話が進めやすくなります。

事業承継特別保証制度も検討する

後継者に個人保証を負わせないため、事業承継特別保証制度を使える場合があります。これは、一定の要件を満たす中小企業が、経営者保証を不要とする保証付き融資を受けるための制度です。保証料率の軽減措置が設けられる場合もあります。

ただし、制度を使えるかは、財務内容、返済能力、保証協会や金融機関の審査によって変わります。「制度があるから必ず保証が外れる」と考えず、承継予定日の前から金融機関へ相談することが重要です。

二重徴求を避ける視点

事業承継では、先代と後継者の双方から保証を取られる二重徴求が問題になります。金融機関との交渉では、先代保証の解除、後継者保証の要否、借換えの可否を同時に確認します。ここで判断が止まることがあります。

負債が多い会社で先に確認する数字

借入が多い会社ほど、承継の話を始める前に数字を整える必要があります。表面上の決算書だけで判断すると、買い手や後継者が後から想定外の負担に気づくことも。

実態バランスシートを作る

まず行うべきは、実態バランスシートの作成です。実態バランスシートとは、貸借対照表を実際の価値に近づけて作り直したものです。売れない在庫、不良債権、回収不能な役員貸付金、含み損のある不動産、簿外債務を洗い出します。

M&Aでは、デューデリジェンスという調査が行われます。デューデリジェンスは、買い手が財務、税務、法務、労務などを調べる手続です。ここで未払残業代や保証債務、税務リスクが見つかると、価格の引下げや契約条件の変更につながります。

返済できる借入と返済が難しい借入を分ける

借入金は、金額の大きさだけでなく、返済原資の有無で分けます。本業の利益から返せる借入、資産売却で減らせる借入、事業継続では返済が難しい借入を区分します。

改善策として、資金繰り表の作成、遊休資産の売却、不採算事業の縮小、リスケジュールの相談があります。DES(デット・エクイティ・スワップ)は借入を資本に振り替える方法、DDS(デット・デット・スワップ)は借入条件を劣後ローンのような形に変える方法です。いずれも金融機関との合意が前提になります。

過剰債務でも事業を残す選択肢

債務超過だから承継できない、とは限りません。会社全体では厳しくても、顧客、技術、人材、許認可、商圏に価値がある場合、事業を残す選択肢があります。

採算事業を切り出す第二会社方式

第二会社方式は、採算の取れる事業を新会社へ移し、旧会社に残った負債を整理する手法です。事業譲渡や会社分割を使って、優良事業を守る目的で検討されます。

ただし、債権者を害する目的で資産だけを移すと問題になります。金融機関、取引先、従業員への説明、譲渡価格の妥当性、旧会社の清算・再生手続まで含めて設計する必要があります。安易に「良い部分だけ移す」と考えると、後から紛争になりやすいところです。

廃業とM&Aを同時に比較する

負債が重い会社では、廃業を考える経営者もいます。しかし、廃業では従業員の雇用、取引先との関係、設備の処分、借入返済、個人保証の履行が一度に問題になります。

M&Aで第三者承継ができれば、事業の全部または一部を残し、従業員や取引先への影響を抑えられる場合があります。買い手が見つからない場合でも、何を残せるかを先に整理しておくと、金融機関との協議にも使えます。

負債整理を進める実務の順番

負債対策は、最後にまとめて行うものではありません。承継候補者が現れる前、またはM&Aの打診を始める前から、順番を決めて進める必要があります。

借入・保証・担保を棚卸しする

最初に、金融機関ごとの借入残高、返済予定、金利、担保、保証人を一覧にします。保証人が先代だけなのか、配偶者や親族も入っているのかで、承継リスクは変わります。

次に、債権譲渡や担保設定の有無を確認します。売掛金に譲渡担保が付いている場合や、不動産に複数の抵当権がある場合、事業譲渡や会社分割の進め方に影響します。

相談先を早めに分ける

金融機関には返済条件と保証の相談をします。事業承継・引継ぎ支援センターには、後継者不在や第三者承継の相談ができます。税理士や公認会計士には、実態バランスシート、税務リスク、手取り額の試算を依頼します。

承継計画書を作る場合も、負債の返済計画と保証解除の予定を入れておくと、後継者の判断材料になります。計画書がきれいでも、借入と保証の出口が空欄では、承継は前に進みにくいです。

譲渡を選ぶ場合は手取りも見る

M&Aで株式譲渡を選ぶ場合、個人株主に譲渡益が出れば、原則として申告分離課税の対象になります。税金、借入返済、保証解除に必要な資金を引いた後、実際に手元に残る金額を見ます。

譲渡価格だけを見て判断すると、保証が残る、手取りが想定より少ない、旧会社に負債だけが残るといった問題が起きます。価格、税金、返済、保証解除を一体で試算すること。ここが実務上の分かれ目です。

承継前に確認したい3つの問い

負債対策を始める際は、現在の負債総額と債務超過の有無、承継相手が親族・従業員・第三者のどれか、金融機関の個人保証が誰に付いているかを確認します。この3点が分かると、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、借換え、第二会社方式のどれを優先するかが見えやすくなります。

まとめ

事業承継の負債対策は、借入を減らすだけでなく、承継手法、個人保証、担保、税金、金融機関対応を一体で考えることが大切です。早めに実態バランスシートを作り、後継者や買い手が引き受けられる負担を見える化すれば、親族承継・従業員承継・M&Aの判断がしやすくなります。負債と保証の棚卸しから始めると、次の選択肢が見えてきます。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人